2020.10.08

LINEによる効率的な医薬情報提供で、On the goな顧客体験を目指す

製薬会社ブリストル・マイヤーズ スクイブが医療従事者への情報提供にBOT BOOSTaR™を活用

グローバルなバイオファーマ企業ブリストル・マイヤーズ スクイブの在日法人であるブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社(以下、BMS)は、2020年6月、医療従事者へのスムーズな情報提供を目的とし、医療従事者向け情報サイト「BMS HEALTHCARE」[1]会員専用のLINE公式アカウントを開設しました。

公式アカウントには電通デジタルのLINEチャットボットメーカーBOT BOOSTaR™を採用、立ち上げのワークショップの段階から共同で開発を行いました。本稿では、BMSの宮本繁人氏、坂本直彦氏、寺田智之氏、電通デジタルでBOT BOOSTaR™を担当する星野大吾、種村博善に、その導入目的と開発経緯を伺いました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
デジタルマーケティング部

宮本 繁人

ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
オンコロジー事業部門マーケティング部

寺田 智之

ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
オンコロジー事業部門マーケティング部

坂本 直彦

株式会社電通デジタル
デジタルコマース事業部

星野 大吾

株式会社電通デジタル
デジタルコマース事業部

種村 博善

多忙な医療従事者への情報提供をデジタル化でより効率的に

――LINE公式アカウントを開設した目的は何だったのでしょうか?

宮本繁人(以下、宮本) 当社の顧客である医療従事者に対して、自社製品の適正使用を促進する観点から考えた場合、情報提供の手段はどのチャネル・メディアが一番良いのだろうか、というのが出発地点でした。

本企画は新型コロナウイルス感染症が広まり始めた時期より前にディスカバリーを始めたのですが、プロトタイプを進めるにあたって今のCOVID-19状況になり、さらに開発スピードをアジャイル[注1]に進めたという経緯があります。

これまで製薬会社から医療従事者への情報提供は、MR(Medical Representatives:医薬情報担当者)によってFace to Faceで行われてきました。そうした中で、弊社では並行してWebサイトによる情報提供も実施してきました。ただ、常態的に忙しい医療従事者の方々にとって、毎回PCの前に座って、(必要なら)WebサイトでIDとパスワードを入力して、必要な情報を探して見てもらうのは大変な作業になります。

われわれは製薬会社として、「深刻な病気を抱える患者さんを助けるための革新的な医薬品を開発し、提供する」ことを使命としています[2]。この使命を達成するためには、医療従事者へ向けて必要な情報をより効率的に提供する必要があります。こうした思想を背景に、できるだけ医療従事者の負担にならない形での情報提供の手段を模索していました。

寺田智之(以下、寺田) 医療従事者が必要とする医療情報は、ネット上のいろいろな場所に分散しています。厚生労働省をはじめとする公的機関のWebサイトのほか、論文、臨床試験データなど、それぞれに専門のWebサイトや情報検索サイトがあります。その他、製薬会社も各社がWebサイトで自社品に関連する情報を中心に提供しています。

忙しい医療従事者にとって、それらを巡回し情報収集の時間を確保することは難しいと思います。だからこそこの業界では、包括的な情報提供をMRがFace to Faceで行ってきましたが、近年、情報提供のあり方が大きく見直されると共に、2019年4月の「医療用医薬品の販売情報提供活動ガイドライン」[3]施行を受け、より厳格に運用されるようになりました。

また、現在のコロナ禍でFace to Faceの情報提供が困難になる中、ニューノーマルに即したコミュニケーションチャネルの確立も急務と考えられます。


LINE公式アカウントが選ばれた理由

――LINE公式アカウントを活用しようと思った理由は何でしょうか?

宮本 BMSは、中国ではすでにWeChatを使った情報提供を実施しており、今回のLINE公式アカウント導入に際して、その経験とラーニングを参考にしています。

またアメリカでは、LinkedIn、Twitter、Facebook、ドクター専用のSNSなどを活用して情報提供を行っていますし、Twitterではハッシュタグを活用したドクター同士の情報交換も盛んです。ただ、日本でのFacebook、Twitter運用は多くの企業は広報目的が主であり、アメリカと同じような運用は難しい。中国でのWeChat活用事例を見ても、日本ではクローズドSNS的なコミュニケーションのほうがフィットするだろう、ということが仮説検証を行う中で浮かび上がってきました。

――プロジェクトは課題解決から始めたのですね?

宮本 初めからLINEありきというわけでなく、まずは、CX(Customer Experience:顧客体験)起点でカスタマージャーニーを作って、デザイン思考に基づいたワークショップを実施しました。ワークショップは、メディカル情報部など複数部署のメンバーも含めた、クロスファンクショナルチーム[注2]で行い、この段階から電通デジタルにも入ってもらっています。顧客のカスタマージャーニーに向かい合った結果、自然な帰結として、LINE公式アカウントを活用することになりました。

坂本直彦(以下、坂本)アジャイル開発を始めることを決める前に、実は1年ほど本企画は検討しました。その間、自社開発のアプリも検討しましたが、コスト面の問題のほか、顧客の利便性を考えても、最終的にLINEしかないという感じでした。やはり、60%以上の日本人が使ったことがあり[4]、利用者のうち85%が日常的な連絡用途として使用するアプリである[5]のは、大きな決め手でした。

左から、坂本直彦氏、寺田智之氏、宮本繁人氏(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)

現場ヒアリングからの仮説検証、新たな手法での開発

――どのような流れでプロジェクトを進めていったのでしょうか?

宮本 ワークショップで出たアイデアをもとに、LINE DevelopersでLINEのモックアップ(試作品)を作成しました。そのモックアップに対して、いくつかの病院の医療従事者の皆さまにヒアリングを実施し、仮説検証とモックアップの修正を繰り返しました。仮説検証のスプリントは4ヵ月ぐらいです。このようにしてリデザインされたモックアップをベースにしてプロトタイプを作成し、開発はアジャイルで行いました。

またさまざまな医療従事者の皆さまにご協力いただいて、バリデーション(実証、検証)を実施。これによって完成したβ版をもとにUAT(User Acceptance Test:受け入れテスト)[注3]を行ってローンチに至った、というのが大まかな流れです。

――この一連のプロジェクトの中で難しかった点は何でしょうか?

宮本 特にUIデザインが大変でした。実は、UIデザインに関しては、当初は違う会社にお願いする予定でしたが、LINEはクリエーティブ上の制約がいくつかあるので、難しいという会社も当時は何社かいました。いろいろ考えたのですが、開発のアイディエーションから僕らと一緒にCXを考えてきた電通デジタルが一番UI/UXもわかっているという結論に至りました。デザインスプリント[注4]とバリデーションのイテレーション(反復、繰り返し)を数回行いましたので、電通デジタルのデザイン担当である種村さんには汗をかいていただきました。

種村博善(以下、種村) われわれも、LINEの事例でデザインスプリントを導入してアジャイルを回すというのはほとんどやったことがありませんでした。しっかりと情報設計した上で、これだけのコンテンツをLINE公式アカウントに載せていくことができたのは、大きな前進だったと思います。

今回のプロジェクトのように、どれだけ顧客にとって使いやすいUIを設計しきれるかは、これからのニーズの主流になってきます。われわれとしても大きなチャレンジでしたし、今後、特に力を入れていきたいところです。

宮本 CX起点で始めているので、UI/UXはもっとも重要なポイントでした。UATの実施時に、デザインが良かったというレポートをいただいたので、ひとつ手応えを得ました。

左から、種村博善、星野大吾(電通デジタル)

課題解決の徹底、UI/UXにこだわったリッチメニュー

――UI/UXに関して、特に力を入れたのはどのポイントでしょうか?

宮本 とにかく、どうすれば、顧客がスムーズに欲しい情報だけを得ることができるのか、ということに腐心しました。

星野大吾(以下、星野) たとえばLINE公式アカウントへの登録時、医療従事者の専門領域や興味関心の幅を考慮して「固形がん」「血液がん」「リウマチ」「循環器」という4つの選択肢を表示し、その選択に応じてメッセージやリッチメニュー[注5]など提供する情報を変えていくデザインになります(現在公開しているのは「固形がん」のみ。その他はこれから追加リリースしていく予定)。条件分岐も多くなり、それに比例してグラフィックやプログラムの量はもちろん、企画・要件定義やテスト項目も増えていくので、なかなか大変でした。

宮本 領域ごとの医療従事者の興味やビヘイビア(行動、操作)に合わせて4つの領域を設定して、デザインもカラーもそれぞれ全部変えます。1つの公式アカウントの中に、4つのアカウントが入っているようなイメージです。

寺田 提供する情報をどのように大別し、どのように分岐させるかは、大いに議論になったトピックでした。というのも、がん領域と循環器は異なる領域です。一方で、固形がんと血液がんは少なからず共通している概念もあります。また、固形がんでも、さまざまな臓器のがんがあります。たとえば、われわれのチームが携わる、頭頸部がん、メラノーマ(主に皮膚に発生するがんの一種)を専門とする先生でも、肺がん、消化器がんの情報にも興味があったり、その逆もしかりです。また、別のがんで得られた知見や先行した経験から学べる場合があります。

さらに、最近では、臓器を超えて遺伝子ベースで治療を行う治療戦略が始まり、これまでのように臓器別に細分化するのではなく一気通貫の情報を出すほうが有用性は高いかもしれない。いずれにしろ、医療従事者の専門領域や興味関心に合わせた情報の出し方には、これからも工夫の余地があると感じます。

――今回のサービスにおいて、BOT BOOSTaR™を使って実装した機能はどういったものでしょうか?

宮本 BOT BOOSTaR™は、課題解決のためにLINE公式アカウントをカスタマイズするにあたり、BOT BOOSTaR™以外ではできないことが多かったので導入したという経緯があります。

BOT BOOSTaR™を使って実装した機能の中で一番大きかったのは、LINE Link Tokenを利用したID連携です。弊社は「BMS HEALTHCARE」という医療従事者への情報提供を目的とした会員制Webサイトを運営しています。その会員IDと紐づけることで、LINE公式アカウントも医療従事者しかログインできないクローズドな仕様にすることができました。

BMS HEALTHCARE
Zoom

それ以外では、LINE公式アカウント上のコンテンツは、すべて弊社公式サイトから自動取得する仕様にしています。これによって、わざわざLINE用にコンテンツ運用する必要がなくなり、社内でのコンテンツ公開承認等の手間が省けます。また、友だち登録時のアンケート回答による提供コンテンツの出し分け、顧客から副作用が報告された際の監視とリアルタイム通知機能などが挙げられます。

――実際に使った方からの反応はいかがですか?

宮本まだソフトローンチ(対象を限定した試験的公開)したばかりなので、これから徐々に反応が集まってくると思います。ただ、これはゴールではなくて、出発点。まずは、「固形がん」領域のうち、頭頸部がん、メラノーマに関する情報提供から始めています。

われわれはこのサービスを、いきなり大々的に広めていくつもりはないんです。第一の目的は顧客の問題解決、これに尽きる。だから、まずは小さいところから始めて、それをまたバリデーションしてということを繰り返しながら、アジャイルで開発していきます。今後はアジャイル開発プラス、アジャイルマーケティングで展開していくことになると思います。


アジャイルを回しながらこれからのニューノーマルを探る

――今後さらに、追加していきたい機能などは何かありますか?

宮本 われわれが何かをしたいというよりは、顧客の実際のリアルな声をこれから聞いて、それで、追加する機能を決めていくという感じですね。それに合わせてカスタマージャーニーを再定義していくことになると思います。

――電通デジタルとしては、今後BOT BOOSTaR™を使った開発において、顧客満足度を高めるために、どのようなサポートを考えていますか?

種村 今メインで取り組んでいるのは、プッシュ通知です。これによって、よりタイムリーに医療従事者が欲しい情報を送ることができるようになると思います。あとは、何ができるのかをきちんと説明するLP(ランディングページ)の制作です。そういったオンボーディング(利用者の定着化)を、仕組みとして取り込むということを、確立していく段階だと思っています。

宮本 当然、オンボーディングの後に、アクティブユーザー化を目指していますので、そのためにも、現在も電通デジタルと週1回、CX会議を開催しています。このプロジェクトを通して、これからの情報提供におけるニューノーマルとは何かを、探っていきたいと思っています。

――今後、どういった形に展開していきたいと考えていますか?

宮本 将来的には、さまざまなデバイスを横断した継続的なCXである「On the go」を目指しています。たとえば、Webセミナーを医局のPCで見ていたけど、10分ほどで外出しなきゃいけなくなってしまった。その続きは、移動中や出先で時間ができたときに、スマホでパッと見られる。マルチデバイスに基づいたスムーズな情報提供を実現するのが理想ですね。

寺田 現在のコロナ禍によってWebセミナーの配信機会もますます増えてきています。Webセミナーは、ドクター to ドクターの情報を得るのに非常に有用です。LINEを介して、それが簡便に、どこにいても視聴しやすくなるというのは、メリットがあると思います。

坂本 MRによる情報提供とは別の、医療従事者がいつでも必要な情報にアクセスするためのインディペンデントなチャネルも必要になってきているのは事実です。今回のプロジェクトの経過次第では、LINE公式アカウントをMRのサポート的なチャネルとして考えてもいいかもしれないと思っています。


クローズドなLINE公式アカウントという可能性

――本サービスの企画から導入、アフターサポートまで通して、電通デジタルの対応はいかがでしたか?

宮本 顧客の問題解決とCXを考えるという点においては、「顧客対われわれ」という図式で、ワンチームで一緒に取り組んだという印象です。電通デジタルには、問題解決に対するアジリティ(組織的敏捷性)と、LINEに関する豊富な経験値を大いに発揮していただきました。

――電通デジタルとしては、今回の案件で得た知見をどのように活かせそうですか?

星野 今回特徴的だったのは、LINE公式アカウントで提供する情報量は豊富な一方、LINE運用の手間が最小限になるようWebサイトから情報を自動で同期させる機能があることです。またWebサイト側で「BMS HEALTHCARE」の認証を通らないと中身がまったく見えないアカウントになっている点もユニークです。

LINE公式アカウントは本来オープンなプラットフォームなのですが、そこを徹底的にクローズにかつ自動的に情報を取捨選択して送るようにすることは、前例のない案件でした。このように対象ユーザーを限定し、パーソナライズされた情報でコミュニケーションするニーズは潜在的に大きいと思っており、コロナ禍を経てさらに加速すると思っています。B2B企業の全般に当てはまりますし、D2Cでも大いに活用できるはずで、今後の可能性を大きく感じています。


脚注

注釈

1. ^ 流動的なユーザー要件に対して、短い期間でスピーディに、部分的で小さなシステムを作り、そして、改善をしながら完成度を高めていく開発方法
2. ^ Cross Functional Team(CFT)。全社的な課題を解決するために、内外を問わず、必要な知識・経験を持った人材を部門横断的に集めて構成されたチームのこと。
3. ^ 納品されたシステムが目的通りに稼働するかどうか、発注側が行う受け入れテストのこと。
4. ^ Google が開発した、デザイン上の問題解決を行うためのフレームワーク。5日間で高速にプロトタイピングとイテレーションを実施する。
5. ^ LINE公式アカウントの機能のひとつ。トーク画面の下部(キーボードエリア)に表示されるタイル状のメニューを指す。分割された画像ごとに表示内容を設定でき、任意のWebページや、各種サービス画面へ誘導することができる。

出典

1. ^ "BMS HEALTHCARE:医療関係者向け情報サイト".2020年7月8日閲覧。
2. ^ "ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社について". スペシャリティ・バイオファーマ「ブリストル・マイヤーズ スクイブ」. 2020年7月8日閲覧。
3. ^ "医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン".日本ジェネリック製薬協会. 2020年7月8日閲覧。
4. ^ "ソーシャルメディアの利用状況". 総務省 平成30年版情報通信白書.(2018年7月4日)2020年7月8日閲覧。
5. ^ "主要SNSアクティブユーザーの推移(2011-2018)とユーザー特性を分析". リスキーブランド.(2018年10月24日)2020年7月8日閲覧。

この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから

RELATED CONTENTS

関連記事

EVENT & SEMINAR

イベント&セミナー

ご案内

FOR MORE INFO

資料ダウンロード

電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

メールマガジン登録

電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

お問い合わせ

電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ