2025年は「AIエージェント元年」とも呼ばれ、AIエージェントがビジネスに与える影響が一層注目を集めています。電通デジタルは、AIの初期段階からマーケティング分野におけるAI活用に取り組み、クライアント企業の成長や業務効率化を支援してきました。「 AI Hacked Marketing、その進化の最前線」シリーズ第2回では、「∞AI」をはじめ、AIエージェントがマーケティングの現場にもたらす変化や進化について、電通デジタルのAI分野におけるスペシャリスト3人が現場の最前線から解説します。
電通ジャパンの新戦略「AI for Growth 2.0」とは
山本覚:2025年3月、電通ジャパンは「AI For Growth 2.0」という新戦略を発表しました。その根底にあるのは、「AIの活用を単なる業務効率化としてではなく、成長の源泉や新たな付加価値の創出へつなげる」という考え方です。「AI For Growth 2.0」では主に3つの取り組みを柱としています。
1つ目は、「AIモデルの進化」です。これは、電通グループのマーケティング力を生かした独自AIモデルの開発・強化を意味します。2つ目は、「AIマーケティングの進化」であり、AIを活用することでこれまでにない新しいマーケティング戦略や顧客体験を生み出すことを目指しています。AIによる業務変革いわゆる「AIトランスフォーメーションの推進」で、こちらについては別の記事で弊社の副社長執行役員の小林大介が解説していますので、私からは、「AIモデルの進化」と「マーケティングの進化」に焦点をあてます。
AIモデルの進化
私たちは現在、「People Model」と「Creating Thinking Model」という2つのアプローチからAIモデル開発を行っています。
「People Model」は、日本人全体の生活者をAIでシミュレートすることを目指すモデルです。電通グループが15万人規模の大規模調査データを基に独自LLM(大規模言語モデル)を構築。「15万人分だけ?」と思われがちですが、多様な条件を組み合わせることで、サンプル外も含めた1億人規模の日本人をシミュレートできる拡張性を備えています。
従来は人による調査・分析には時間とコストがかかりましたが、このモデルではリアルタイムで調査的なシミュレーションが可能です。
「Creating Thinking Model」は、エージェンシーのクリエイターがどのように思考するのかをAIに学ばせ、広告表現やアイデア創出を支援するものです。第1弾としてコピーライターの思考法を学習し、心を動かすコピーを生成。第2弾では画像生成へも拡張しています。
このように、生活者理解(People Model)と表現の高度化(Creating Thinking Model)の両輪で、実践的かつ高精度なAI活用の推進を図っています。
AIマーケティングの進化
「マーケティングが進化する」とはどういうことでしょうか?
日々のルーチン業務はAIに任せ、マーケターは「人の心を動かす」「社会にインパクトを与える」といった本来の創造的業務に集中できるようにする——これがAI時代のマーケティングの本質的進化だと、私たちは考えています。
その軸となるのが、先述のAIモデルを活用した各種プロダクトの開発です。電通グループはマーケティング業務全体を7つのカテゴリー(プランニング、リサーチ、クリエイティブ、ジャーニー&メディアプランニング、エグゼキューション、エクスペリエンス、メジャメント&オプティマイゼーション)で体系化し、各カテゴリーに対応するプロダクトを開発・実装しています。
これらのプロダクトは会話ベースで操作できるAIエージェントの組み合わせにも取り組んでおり、統合的な活用が可能です。
AIエージェントデモ動画
今後は、電通グループが保有するアセットだけでなく、各企業の独自データを活用し、「∞AI Customer Twin」として高精度な生活者シミュレーションを実現していきます。それをもとに、さらにジャーニーやメディアプランニングをきめ細かく設計し、より実務的かつ効果的なソリューションとして提供していく方針です。
マーケティング業務の高度化・効率化を叶える「∞AI Marketing Hub」
小浪宏信:日々のマーケティング業務では、リサーチやデータ活用、人財リソース、意思決定の精度など、さまざまな課題が存在します。私たちは、これらの課題をAIエージェントの活用によって解決できると考えています。
たとえば、リサーチ業務にAIエージェントを導入すれば、調査や分析にかかる時間を大幅に短縮でき、その分のリソースを施策の実行や改善に充てることが可能になります。また、分散したデータをAIに学習させ、AIペルソナやエージェントに組み込むことで、蓄積されたノウハウを生かしたデータドリブンなマーケティングの推進が期待できます。
さらに、人財面ではAIエージェントの導入によって属人性を排除し、業務の標準化・平準化を促進。AIペルソナやエージェントによる効果予測を通じて、施策の成功確度を高めたり、より的確な意思決定につなげたりすることができます。
こうした多様なマーケティング課題を包括的に支援するのが、電通デジタルの「∞AI Marketing Hub」です。このソリューションは大きく3つのコンポーネントで構成されています。
中心に位置するのが、クライアント企業固有のデータを基に生成するデータ駆動型AIペルソナ「∞AI Customer Twin」です。このAIペルソナを軸として、デジタル分野のメディアプランニングや実行・効果検証を担う「∞AI MC Planning」、リサーチやカスタマージャーニー設計、CX企画全般を担当する「∞AI CX Planning」が連携します。
これらのプロダクトを組み合わせることで、データに裏付けられた顧客理解に基づき、プランニング業務の高度化と効率化を実現する世界観を描いています。「∞AI Customer Twin」を基点に、「∞AI MC Planning」「∞AI CX Planning」が連携して業務を進めることで、従来のマーケティング業務が抱えていた多くの課題を解消し、より戦略的かつ効率的な業務運営を目指せると考えています。
リサーチからCX設計全般を担う「∞AI CX Planning」
小浪:「∞AI CX Planning」は、大きく2つのエージェントで構成されています。1つはリサーチエージェント、もう1つはジャーニーエージェントです。
リサーチエージェントは、デプスインタビューやグループインタビュー、施策の受容性調査など、従来手作業で行っていた定性・定量調査を効率的に実行できます。一方、ジャーニーエージェントは「∞AI Customer Twin」と連携し、リサーチ結果をもとにジャーニー設計を半自動で行う機能を持っています。
業務プロセス全体は、「ディスカバー(発見)」「リファイン(精緻化)」「ディベロップ(開発)」「デリバリー(実装)」という“ダブルダイヤモンド”のフレームワークに沿って進行します。最終的には、施策案の受容性を検証し、必要に応じてジャーニーを改善するというフィードバックサイクルが組み込まれています。
「∞AI CX Planning」には3つの大きな特長があります。第1に、電通グループの15万人規模の生活者データやSNSデータを活用し、企業の保有データと組み合わせることで、より実在感のある高精度なAIペルソナを生成でき、顧客理解の“解像度”を飛躍的に高めます。第2に、これまで培ってきたCX/UXプランニングの実践知をAIエージェントに集約することで、属人性に依存せずに高品質な業務遂行が可能です。第3に、AIペルソナを活用した調査により、従来の調査リソースの制約を超え、高頻度・高速なフィードバックが得られます。
将来的には、CXプランニングエージェントが指示の窓口となり、リサーチエージェントやジャーニーエージェントと連携することで、あらゆる業務を自律的に遂行できるマルチエージェント環境の実現を目指しています。「∞AI Customer Twin」を軸に、リサーチからジャーニー設計までをワンストップで自動実行できる新しい業務基盤の構築に向け、今後も開発を進めてまいります。
メディアプランニングに革新をもたらす「∞AI MC Planning」
杉本晃一:「∞AI MC Planning」は、AI技術を活用し、デジタルメディアプランニング業務の高度化と効率化を実現するためのソリューションです。
このソリューションは、一般的なデジタルメディアプランニングの全工程、「リサーチ」「STP分析」「プランニング」「エグゼキューション」「分析・PDCA」をカバーし、ストラテジックプランニング、メディアプランニング、エグゼキューションという3つのAIエージェントを組み合わせて、全体最適なマーケティングプロセスを支援します。
まず戦略策定フェーズでは、ストラテジックプランニングエージェントが、電通グループの豊富な知見を生かして戦略設計をサポート。続いて、メディアプランニングエージェントが、予算配分やターゲット設計、入稿指示書の作成から媒体への自動入稿、配信までを一貫して支援します。さらに、エグゼキューションエージェントは、グループ提供のダッシュボード「MIERO」と連携し、配信結果データにもとづいたアクションプランの提案やグラフ生成、最適なアロケーションの実現を担います。
これら3つのエージェントを統合した「∞AI MC Planning」は、今後も2つの進化を目指しています。1つは、機能面での進化です。ターゲティングやレコメンド対象媒体の拡充、シミュレーション精度の向上、資料出力機能強化などを予定しています。もう1つは、自律的進化の側面。マーケティング環境の変化に応じて新たな業務が発生した際にもエージェントを自在に設計・構築できる「エージェントビルダー」の開発を進めています。
AI共創型の業務プロセスを実現するためには、現状の業務を見直しつつ、段階的な導入・検証が重要です。また、導入後の現場定着には、目標の明確化、体制整備、人財育成を一体で推進することが欠かせません。
私たちは、伴走型の支援を通じて、クライアント企業とともに新しい業務進化を実現していきたいと考えています。
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