JR九州駅ビルホールディングスは、中期営業戦略策定に向けて、「電通未来曼荼羅」とグラフィックレコーディングを組み合わせた独自の手法を導入しました。このアプローチにより、未来の課題やニーズを視覚的に「見える化」し、戦略策定に新たな価値をもたらしています。今回は、導入の経緯や活用方法について、同社代表取締役社長執行役員 森亨弘氏、取締役専務執行役員 三好大輔氏、そして電通デジタルの担当者2名に伺いました。
なぜ「電通未来曼荼羅」とグラフィックレコーディングが選ばれたのか
――JR九州駅ビルホールディングスで、電通未来曼荼羅とグラフィックレコーディングを組み合わせたワークショップを実施することになったきっかけは何だったのでしょうか?
吉田圭(電通デジタル):きっかけは、JR九州駅ビルホールディングスの森亨弘社長から電通九州を通じてご相談いただいたことです。森社長は4~5年前に、「電通未来曼荼羅」を活用したワークショップについて紹介されたことがあり、その際、幅広いインプットを効率よく得られる点に魅力を感じたと伺っています。そういった経緯から、今回の導入を検討ただきました。
森亨弘氏(JR九州駅ビルホールディングス):電通未来曼荼羅を使ったワークショップセミナーの案内のメルマガを受け取ったのが直接的なきっかけです。ちょうどその頃、中期営業戦略の策定に取り組んでいたので、これを活用すれば新たな視点が得られるのではと考え、電通九州を通じて電通デジタルに相談しました。
――なぜ電通未来曼荼羅が中期営業戦略の策定に役立つと考えたのですか?
森:理由は2つあります。1つ目は、視野を広げる必要があったことです。駅ビル中心の発想に陥らず、街全体を見据えたアイデアを生み出すためには、さまざまな分野からのインプットが不可欠でした。未来曼荼羅は、幅広い視点を効率的に取り入れるツールとして最適でした。
2つ目は、部長クラスだけでなく、現場に詳しい課長クラスの社員も巻き込む必要があったことです。多様な立場の人々との議論の土台として、電通未来曼荼羅は非常に有効だと考えました。
新発想が次々と生まれる、“ビジュアル共創”の現場
――取り組みの概要について教えてください。
吉田:参加者は、営業担当の部課長クラス約20名でした。参加者は5名ずつ4グループに分かれ、各グループにファシリテーターとアシスタントを1名配置しました。
今回は、「グラフィックレコーディング」によるビジュアル化を担当するグラフィッカー2名も加わり、全体の進行は私(吉田)が担当しました。また、JR九州駅ビルホールディングスからは、森社長と三好専務にもオブザーバーとしてご参加いただきました。
ワークショップは終日かけて実施し、以下のようなプログラムで進行しました。
- アイスブレイク:ビジョンの言語化を通じて参加者同士の距離を縮める
- ワーク1:未来の社会課題やニーズを発見
- 振り返り:前半の気づきや発見を共有
- ワーク2:自由に体験アイデアを発散
- ワーク3:アイデアを整理し、テーマごとにまとめる
- クロージング:最後に「振り返りシート」を記入して終了
また、事前準備として「事前ホームワークシート」を配布し、予備課題に取り組んでいただきました。加えて、ワークショップ後には「振り返りミーティング」を実施し、グループごとに感想や学びを共有する場も設けました。
――今回、グラフィックレコーディングという手法にも力を入れています。これを加えた理由は何ですか?
吉田:九州各地の主要な駅ビルビジネスの営業現場を担う方々も参加されていたので、ワークショップの中で生まれたアイデアを社内に持ち帰り、共有・浸透させるにはビジュアルで伝える方法が効果的だと判断しました。
通常のビジネス文書では、議論の雰囲気やプロセス、どんな悩みやアイデアが生まれたのかといった臨場感は伝わりづらいものです。グラフィックレコーディングを活用することで、空気感やプロセスも一目で感じ取れるため、非常に有効な手段だと考えました。
――得られたアウトプットは、中期営業戦略の策定にどのように反映されたのでしょうか?
三好大輔氏(JR九州駅ビルホールディングス):ワークショップを通じて、参加者全員が「社会の大きな変化を広い視点で捉える」共通認識を得ることができ、それが営業戦略の具体化に大きく貢献しました。
特に、今まであまり意識してこなかった「シニアマーケット」についての議論を経て、「中期営業戦略にシニア層を意識した施策を盛り込む」という方針が打ち出されました。また、戦略は経営層だけでなく、現場スタッフにも浸透させる必要があり、ひと目で伝わるビジュアルの力が改めて重要であると再認識しました。
クリエイティブの力で「見える化」するグラフィックレコーディング
――グラフィッカーはどのように関わったのでしょうか?
小島瑞生(電通デジタル):今回は2名体制で参加しました。グループには入らず、全体発表を聞きながらグラフィックレコーディングやライブペインティングを担当しました。もう1名は、出てきたアイデアをイラストで可視化し、私はそれらを「九州の未来都市図」としてまとめあげました。
――小島さんが描いた未来都市図が大好評となり、予定外の動画制作にもつながりました。その反響について、どう感じていますか?
小島:このようにご好評をいただけたのは、「見える化」の価値が高く評価されたからだと思っています。自分の考えやアイデアがビジュアルという形で表現され、多くの方に見てもらえるのは嬉しいですし、参加者のモチベーションにもつながると思っています。
また、こうしたビジュアル表現はAIでは代替しにくい「人ならではのクリエイティブな力」だと感じています。その点に価値を見出していただけたのは光栄です。
――グラフィックレコーディングとはどんな手法で、どういった長所があるのでしょうか?
小島:グラフィックレコーディングには、大きく分けて2つのタイプがあると考えています。
一つは、「その場の記録」としてのグラフィックレコーディング。会議や実践現場の内容をリアルタイムで描き、後から振り返るとき「どんな話が出たのか」が一目で分かります。
もう一つは、まだ形になっていない議論や自由なアイデアを視覚化する手法です。議論の言葉や断片を拾い上げイメージ化することで、思考の整理や話し合いの進行をサポートします。私たち電通デジタルでは、これを「グラフィックシンキング」と呼び、記録型のグラフィックレコーディングと使い分けています。今回のワークショップでは、この2つを組み合わせ、リアルタイムでビジュアル化を実施しました。
さらに、ワーク後には「グラフィックレポーティング」という手法も活用しました。これは終了後に内容を整理・精緻化し、1枚の見やすいグラフィック資料として再構成するもの。振り返りや社内共有、上層部への報告などにも活用でき、今回も後日この資料を作成・納品いたしました。参加されなかった方にも、取り組みの内容や成果をわかりやすく伝えることができました。
創造性を引き出す“ビジュアル”が経営戦略の強力な武器となる
――電通未来曼荼羅のワークショップとグラフィックレコーディングの組み合わせは初めてでしたが、その手応えはいかがでしたか?
小島:両者を組み合わせてみて、とても相性が良いと感じました。ありがたいことに高い評価をいただきましたが、実際には事前の設計チームとのスケジュール調整やイラストの方向性のすり合わせ、参加者との関わり方など、考えるべきことも多くありました。
その分、まだまだ改善できる点や工夫の余地もあると感じています。今後も、アイデア創出や新規事業開発の分野でさらに連携を深め、こうした手法を進化させていきたいと思います。
――中期営業戦略に生かすうえで感じた、電通未来曼荼羅×グラフィックレコーディングのメリットは何ですか?
吉田:電通未来曼荼羅とグラフィックレコーディングをかけ合わせることで、中期や長期の経営戦略づくりにおいて、より広く深い発想につなげることができます。
電通未来曼荼羅には、社会や技術、文化など未来の変化に関する幅広いテーマが網羅されているため、普段気づきにくい兆しや視点を得られます。これにより、既存事業の延長線ではない、環境変化を踏まえた戦略や新しいアイデアが生まれやすくなります。
さらに、グラフィックレコーディングによる言葉やアイデアのビジュアル化を通じて、抽象的な内容も具体的なイメージとして共有しやすくなり、参加者の納得感や理解も高まります。自分のアイデアが絵になって残る経験はモチベーション向上にもつながり、戦略策定への主体的な関与を促します。
また、後から内容を整理・共有する際にもビジュアル化は大きな力を発揮します。実際に参加していないメンバーにも議論の流れや雰囲気をダイレクトに伝えることができ、当日検討した戦略などの社内浸透にも役立てるでしょう。
電通未来曼荼羅とグラフィックレコーディングは、組織全体で創造的かつ実行性の高い経営戦略を考えるための強力なツールです。もし新しい事業創出やサービス開発に悩んでいる方がいれば、ぜひご相談ください。
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