2024.10.29

Adobe Analyticsを使ったPDFファイルのデータ取得とその活用

Adobe Analyticsで効果的なデータを取得するための実装方法や、データの分析活用をご紹介します。

お話しするのは皆さんのサイトに設置される「PDFコンテンツ(以下PDF)」のデータ取得とその活用です。従来のWeb解析において、PDFの閲覧についてはダウンロード数やクリック数しか計測できず、訪問者の行動分析には制限がありました。アドビ社からDocument CloudでのPDFのAPIサービスがリリースされたのは2020年ですが、2024年現在、国内事例についてアドビ社公式以外は情報が少ないため、電通デジタルの対応実績をもとにテクノロジートランスフォーメーション第2部門データアクティベーション第1事業部の立井理加が解説します。

PDFの計測データは「ダウンロード数」「クリック数」のみ?

多くの企業サイトにおいて、「製品の取扱説明書」「操作マニュアル」「関連サイトのキャンペーンの告知、プレスリリース」などは、PDF文書として掲載されています。

一般的なアナリティクスツールでPDFのパフォーマンスを計測する場合、「ダウンロード数」や「イベント(クリック)数」を取得してその数値を評価に使うことも多いですが、せっかくの訪問者アクションを「ダウンロード数」「イベント数」で一括りにして評価するだけで良いのでしょうか。

PDFをダウンロードしたり、閲覧したりすることは、訪問者の「アクション」のほんの一部です。さらに「何をきっかけにダウンロードした」のか、「どの部分に注目していたのか」などの傾向がわかれば、PDFのコンテンツ構成順や内容を改善できます。改善すれば顧客体験の評価が上がりますし、問い合わせ窓口へのアクション数減少も見込め、業務効率化にもつながります。


訪問者はなぜPDFを必要としたのか

どのようにすればより良い「顧客体験」を提供できるのか。マーケターの皆さんは、常にそのことを考えてマーケティング活動を行っていると思います。既存顧客や見込み顧客の意図や目的を理解するために、取得した多くの匿名データから仮説を立て、セグメント化し、ターゲット像を設定し、パーソナライズ施策を実施されていることでしょう。

では「WebサイトにあるPDFコンテンツをきっかけにアクションをした人」をさらに深掘りして、ターゲット像を鮮明にしてみましょう。顧客理解の基本の考え方は、前回のシリーズでもお伝えした「どこから来たか」「何を見たか」「何をしたか」が軸になります。ここから分析フローを考えます。

①どこから来たか    

基本は流入経路で確認します。Adobe Analyticsでは「マーケティングチャネル」を設定するとわかりやすいです。ただし、流入経路のデータだけではセグメント化するには少し範囲が大きいので、流入別の入り口ページなどの情報も確認します。流入経路と入り口ページである程度の仮説を立てて、訪問者をセグメント化します。たとえば「自然検索で流入し、入り口がページAだった人」といったセグメントが考えられます。
②何を見たかAdobe Analyticsの「ページレポート」や「フローレポート」で①で作ったセグメントを見て、このセグメントの回遊状況や、何のコンテンツを見ているのかをデータで確認します。
③何をしたかPDFのダウンロード数や、PDFを閲覧するためにクリックしたイベントなどを「成功イベント指標」として確認します。Adobe Analyticsでは、自動取得されているダウンロードリンク(ディメンション)とダウンロードリンクインスタンス指標でのレポートなどを作成し、①のセグメントを適用してアクション状況を確認します。

PDF計測を実装し、データを深掘りする

ここまでは、Adobe Analyticsで取得されている基本データでできることです。これに加えて、PDF計測を実装すれば、PDF内のアクションデータが得られて、以下のようにデータを深掘りできます。

PDFの中のどの情報に注目していたのか?

PDFのファイル名、PDFの閲覧ページ番号、ページビュー数が取得できます。これにより、「PDFをどこまで読んだのか」「どのページが一番注目されているのか」がわかります。

たとえば、「1ページ目より2ページ目の閲覧が多い」などの状況が確認でき、PDFの中で注目されているページがわかります。逆に1ページ目しか見られていなければ、それ以降の情報が伝わってないという見方もできて、PDFの構成やレイアウトの修正なども検討すべきでしょう。

図1:PDFのどの閲覧ページ(どこが)見られているかをチェック
Zoom

PDFの閲覧目的は何か?

訪問者の閲覧目的をより深く分析するには、「PDF Embed API」を使います(後ほど詳しく説明します)。「PDF Embed API」を導入すると、サイト訪問者は「PDFビューワー」でPDFを閲覧することになり、PDF内の「キーワード検索」ができるようになります。

ページ数の多いPDFでは、訪問者は「キーワード検索」をよく使います。その「検索クエリ」と「検索数」を取得することができ、これを分析すれば、訪問者が何を見たかったのか、どのような目的で閲覧したのかについて、仮説を立てることができます。

図2:検索キーワードのレポートイメージ
Zoom
図3:PDF Embed APIを使ったdemoページの検索UI[1]。demoページにある虫眼鏡マークをクリックすると検索枠が表示され、その枠に入力された検索キーワードが取得される
Zoom

PDFの情報を見て、何かアクションしたのか?

PDFに設定してあるハイパーリンクをクリックして、関連サイトに遷移などのアクションをした場合、そのクリックしたリンクのURLとクリック数が取得できます。

たとえば、PDFがコーポレートサイトに掲載した製品キャンペーンのニュースリリースだった場合、「LinkURLレポート」を見れば、キャンペーンサイトや製品情報サイトへ遷移数などがわかります。

図4:遷移先URLが見られるLinkURLレポート
Zoom

先に①から③で分析して得られた仮説と、PDF計測によって得られたアクションデータを把握することで、「PDFをきっかけにアクションした人」の訪問者像(セグメント)が鮮明化され、マーケティング施策やコンテンツ改善が「より良い成果」につながる確率が高くなります。


PDFから取得できるデータ

Adobe Analyticsで取得できるデータ項目と活用TIPSを、以下の表にまとめました。他にも、PDFのズームレベルを取得できる「PDFの拡大縮小アクション」などのデータがありますが、今回は分析に使いやすいデータ項目に絞り込んで紹介しています。

※以下のカスタムディメンション、カスタム指標については、弊社が実装時に設定した任意の名称(例)です。取得できるデータ定義、TIPSは変わりませんが、名称は使いやすい名称で設定可能です。

(1)カスタムディメンション

ディメンションデータ定義活用TIPS
PDFファイル名ページに埋め込むPDFの「ファイル」の名前PDFのタイトルは取得不可のため、ファイル名をルール化すると、分析の際にわかりやすい
PDF内検索キーワードPDF内にある「検索窓」で検索したキーワード図2を参照。PDFファイル内での検索状況を確認することで、訪問者がどのような情報を求めているのかのヒントを得られる
PDF内リンククリックURLPDF内にあるクリックされたハイパーリンクのURL離脱リンクや、さらに興味を持ったコンテンツ遷移先として評価に使える
PDF閲覧ページ番号PDFのページ番号「何ページ目」に注目して閲覧したかがわかる

(2)カスタム指標

指標名データ定義活用TIPS
PDF閲覧数PDFファイルを開いたときに1がカウントされるPDFページが埋め込まれているHTMLページが表示された時点で計測される
PDF内検索数PDF内にある「検索窓」で検索ボタンがクリックされた数レポートでは「PDF内検索キーワード」ディメンションと一緒に利用
PDF内リンククリック数PDF内にあるハイパーリンクが設定されたURLのクリック数レポートでは「PDF内リンククリックURL」ディメンションと一緒に利用
PDFページビュー数PDFの各ページのページビュー数レポートではPDFの閲覧ページ番号ディメンションと一緒に利用
PDFダウンロード数PDFビューワーで設定されているPDFのダウンロードボタンをクリックしてダウンロードした数PDFビューワーに設置しているダウンロード機能をクリックした場合にカウントされる。PDFビューワーを使っていないPDFのダウンロードは範囲外

データ計測手法とTIPS

今回紹介したPDF計測を実現しているのが、「Adobe PDF Embed API」です。アドビ社が提供しているDocument CloudサービスAPIの1つであるこのAPIは、無償で提供されています(2024年8月現在)[2]。以下は導入準備と計測手順のステップです。

導入準備と計測手順

  1. PDFを掲載するWebサイトと掲載したいPDFコンテンツを決定する。サイトの情報設計を行い、APIが使えるフロントエンジニアをアサインする
  2. 分析目的などを決める分析設計をして、取得したいPDFデータ項目を決める
  3. アドビ社の「Adobe Developer Console」にアクセスして、「Adobe PDF Embed API」を使うためのAPI認証キーを入手する
  4. PDFを掲載するWebページにAPIを埋め込み、PDFファイルを設置する
  5. Webサイト側の準備が終わり、検証環境での稼働が問題なければ、Adobe Analytics側の処理ルールにて取得されたデータを各変数に設定する

計測手順詳細についてはアドビ社の公式ブログに記載があります[3]

データ計測のTIPS

Webサイト構築にAEM(Adobe Experience Manager)を使用していなくても、「Adobe PDF Embed API」を利用できますが、AEMであれば「PDFビューアコンポーネント」[4]が使えるので、比較的容易に導入ができます。

「Adobe PDF Embed API」について、アドビ社公式の記事ではAdobe AnalyticsのAppMeasurement 方式を前提としてサービスを紹介していますが[2]、電通デジタルではWeb SDK方式で「Adobe PDF Embed API」を実装し、PDF計測を実現できます。

APIを埋め込んだWebページに設置されたPDFが計測対象となりますが、直接PDFをサーバーに設置する場合や、ダウンロードされた後のPDFは計測対象外です。1ページに対し複数のPDFページがあるページの場合でも計測可能ですが、APIのカスタム開発が必要です。


まとめ

Adobe Analyticsは「良い顧客体験を提供する」には最適の分析ツールです。サイト訪問者の状況を分析し、コンテンツ改善やパーソナライズ施策を実施するというマーケティング活動を支援するため、アドビ社はソリューションの技術改善を日々行っています。

マーケティング活動において、PDFは重要なコンテンツです。定期的なKPIの見直しのタイミングで、PDFページのデータ活用を検討してみてはいかがでしょうか。昨今では、PDFファイルをそのまま追加するだけでは、「検索エンジンにヒットしにくく、検索結果として関連性を保ちにくい」「ダウンロードに時間がかかり、スマホだと通信料が気になる」「欲しい情報にたどり着くまでに手間がかかる」といった課題が、クライアント企業を支援する中で良く聞かれるようになりました。ですので、Webページに内容を記載したうえで、詳細をPDFファイルとして提供することも、UI/UXの点から多いようです。

電通デジタルでは企業におけるデータ活用について、事業課題解決のコンサルティングからソリューション導入の支援まで、一気通貫で対応を行っています。アドビ社製品の導入や活用に関するご相談やお問い合わせは、本記事下の「お問い合わせ」ボタンからお寄せください。


脚注

1. "Adobe PDF Embed API Demo". Adobe. 2024年9月2日閲覧。
2. "Adobe PDF Embed API". Adobe. 2024年9月2日閲覧。
3. "Adobe Document Cloud | Update – Adobe Analytics上でのPDF分析機能の紹介". Adobe Blog.(2020年12月14日)2024年9月2日閲覧。
4. "Adobe Experience Manager | Update – PDF Viewer機能の紹介". Adobe Blog.(2020年11月24日)2024年9月2日閲覧。

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