電通デジタルでは、リアル店舗やデジタルサービスを生活者がどのように利用しているのか、その実態を知るために、2021年から毎年「リテールDX調査」を行っています。3年目となる今回の調査テーマは「日常で発生する様々な手続き」です。調査を担当した田中秀斗、武井悠輔、岡山奈央に調査で明らかになったことについて聞きました。
「銀行」「生命保険」「通信」の3つの業種で調査を実施
田中:「リテールDX調査レポート2023」では、「生活者は日常生活において、店舗・電話・オンライン・郵送など、手続きの手段をどのように使い分けているのか」を知るために、「銀行」「生命保険」「通信」の3つの業種で調査を実施しました。
対象とした手続きは、各業界で5つずつ、計15種類です。それぞれについて「有人の手続き」と「無人の手続き」のどちらを求めるのか、またそれを選ぶ理由について定量調査で明らかにしました。
全体の傾向と、今後、無人手続きを利用してもらうために必要なこと
武井:調査前の時点で、「全体的に無人手続きを利用したい人が多いのではないか」と予想していましたが、そのとおりの結果が出ました。15の手続きのうち、「トラブル時の対応」(通信)を除く14の手続きにおいて、半数以上が「今後はオンラインなどの無人の手続きを利用したい」と答えています。
しかし、実際はまだ「有人の手続き」を利用している割合が高く、「無人の手続きを使いたいが、使えていない」というギャップがあることも分かりました。企業側は、UX改善などを通じてそのギャップを埋め、無人の手続きを使いやすくしていく必要があります。
オンライン手続きなどの無人手続きは、初回の利用体験がカギです。初回に手続きがスムーズに済んだという成功体験がある生活者は、その後もオンライン手続きを利用する傾向が見られます。
初心者向けの体験設計を行う際には、オンボーディングの利用が有効です。オンボーディングとは、初心者に操作方法を習得してもらうための導入プロセスのことです。便利さや使いやすさを実感してもらう工夫をすることで、その後も継続して使ってもらえるようになります。
意外だったのは、AIチャットボットの利用率です。どの業界でも利用率は5%前後と低く、若年層でも低いという結果になりました。ただ、一度でも便利さを実感する体験をすれば、利用率は徐々に上がっていくのではないかと考えています。
銀行業界の特徴
武井:銀行では、次の5つの手続きを対象に調査を実施しました。
- 金融商品の相談・見直し
- 金融商品の契約(購入)
- 新規口座開設
- 住所変更などの諸手続き
- トラブル時の対応
すべての手続きにおいて、「今後は無人手続きを利用したい」という人の割合が半数を超えました。
過去の手続きに利用した手段は、5つのうち4つの手続きで「店舗などの窓口」が一番多かったのですが、「トラブル時の対応」だけは「電話での手続き」を利用した割合が一番高いという結果でした。
「トラブル時の手続き」は、内容が複雑で緊急度が高いという特徴があるため、両方を解決するのに最適な「電話」の利用割合が高いのではないかと推測できます。
生命保険業界の特徴
岡山:生命保険業界では、次の5つの手続きを対象に調査を実施しました。
- 契約の相談・お見積り
- 契約
- 保険金・給付金の請求
- 住所変更などの諸手続き
- トラブル時の対応
保険業界も、すべての手続きで、「今後はオンラインなどの無人の手続きを利用したい」という人の割合が半数を超えました。他の業界と比べても、全体的に「無人の手続き」を求める傾向が強いことも分かりました。
特に「住所変更などの諸手続き」に関しては、過去と今後の間で25ポイント近い差があるため、オンラインなどの「無人の手続き」の需要が大きいと考えられます。
通信業界の特徴
岡山:通信業界では、次の5つの手続きを対象に調査を実施しました。
- 契約の相談やシミュレーション
- 端末の購入
- 新規契約
- 住所変更などの諸手続き
- トラブル時の対応
将来の手続きにおいては、5つのうち4つの手続きにおいて、「今後はオンラインなどの無人の手続きを利用したい」という人の割合が半数を超えましたが、「トラブル時の対応」については、「今後も有人手続きを利用したい」という人の割合が高いという結果が得られました。
また他の業界と比較した通信業界の特徴として、過去の無人手続き経験の有無が、今後の選択に大きな影響を及ぼす傾向が見られました。この傾向は特に端末の購入や新規契約の手続きにおいて顕著で、無人手続きの経験がある人の8割以上が今後も無人手続きを利用したいと考える一方で、経験がない人は3割程度に留まりました。その結果から、通信業界は現在の手段に対する満足度が高く、オンラインをはじめとする無人手続きへと切り替える意向が他業界と比べ少ないと推測されます。
2024年、顧客体験向上のために重要となるポイントは?
田中:ここ数年、コロナ禍の影響もあり、「リアルからオンラインへ」「有人手続きから無人手続きへ」といった動きが推し進められてきました。
お客さまにとっては選択肢が増え、便利になったという見方もできますが、残念ながら顧客体験が良くなったとは一概に言い難い側面もみられます。
それは一部の企業活動において、オンライン化・無人化の対応が「顧客体験の向上」ではなく、「オンライン化やツール導入」「人件費の抑制」ばかりが目的になってしまい、顧客にオンライン利用を強制するような動きも一部で出てきてしまっていることです。
「とにかくオンラインへ誘導する」「とにかく新たなツール(AIチャットなどの顧客応対ツール)を利用してもらう」といった企業側の都合を目的(KPI)にすることで、お客さまからの電話や来店を減らすために、コールセンターや店舗の情報などを意図的に隠したりわかりづらくしたりする、いわゆるダークパターンと言われるUIや施策を提供してしまうケースもあります。
ダークパターンと言われるUIや施策では、短期的に利用率の数値をコントロールすることはできるかもしれません。しかし、中長期的な目線で見ると、顧客の不安や不満を生み、顧客離脱やLTVの低下を招く原因になります。このような施策はUXに携わる立場としては決して推奨できるものではありません。
顧客体験を向上させるために、大切なポイントは、お客さまに手続き選択の主導権を持っていただくことだと考えています。店舗、電話、オンラインなど、提供している様々な選択肢を提示したうえで、顧客がその時に望んでいる方法を安心して選択してもらえるようにすべきです。
もしオンライン手続きの利用率をビジネス上の目標に設定している場合でも、お客さまを強制的にオンラインへ誘導するようなUIや施策ではなく、オンライン手続きがより便利で・安心で・効率的になるようなUXを提供できるUIや施策を検討し続けることが大切です。その結果としてお客さま自らの意思で、満足してオンラインでの手続きを選んでいただけることが理想的な姿と言えます。
今回の記事では様々なお手続きに関する全体的な傾向と各業界の特徴を紹介しましたが、それぞれの手続きについて、生活者のインサイトを知るうえで役に立つ詳細なデータと考察をホワイトペーパーにまとめました。顧客体験を設計する際、非常に参考になる内容ですので、ぜひダウンロードしてみてください。
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