2022年に複数の大学で開設された、DXをテーマとした電通デジタルの寄附講座[1]を、昨年に続き今年も4月より実施しています。今回は早稲田大学にて行われた、電通デジタル代表取締役社長執行役員である瀧本恒の講義「デジタルを基盤とした事業成長支援」の模様をダイジェストでお届けします。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。
電通デジタルが得意とする5つのデジタル領域
電通デジタルは次の5つを軸に、デジタル領域においてさまざまな事業を展開しています。これは電通グループの事業領域でもあり、電通デジタルはこれを牽引する立場にいます。
- デジタル広告
- デジタルクリエイティブ制作
- 事業成長のためのデジタル戦略立案
- 顧客体験設計
- システム導入
「この領域すべてを包含して『DX』と呼ぶこともあります。ただ、DXの定義は人によっても違い、部署によっても捉え方が違ってくるでしょう」
例えば、ある企業の社長が「全社でDXを推進する」と号令をかけたとします。広告宣伝部であれば、よりデジタル広告を強化しよう、情報システム部は既存システムからクラウドに移行しよう、総務部であれば、紙をなくしていこうと考えるかもしれません。
「DXは『業務効率を向上、改善させるDX』と『新たな事業を創造するDX』の、大きく2つに分けられます。我々電通デジタルは、小手先のDXにならないように意識しています。本質的にDXとは、クライアント業務の一連の流れの中で、事業の変革を目指すものです。なので、企業のトップがコミットし、会社全体としてDXで何を達成するべきかのビジョンを掲げることが大切だと考えています」
こうした一連のDXの流れの中でも、電通デジタルの持つ、最も重要な強みの一つとして挙げられるのが「デジタル広告」の領域です。2022年の日本の広告市場の規模はおよそ7兆円。その中でも、デジタル広告は3兆円を占めるほどまでに成長しています。
「デジタル広告を見るデバイスは、スマートフォンが8割を占めていますが、最近注目を集めているのが『コネクテッドTV』による視聴です。これは、テレビでインターネットコンテンツを観るという視聴形態で、テレビ保有者の3割が利用しているというデータもあり、見過ごせなくなってきています」
運用型広告の効果を最大化するサービスを展開
デジタル広告には無数の媒体やメニューが存在していますが、大きく「予約型広告」と「運用型広告」に分けられます。「予約型広告」とは、媒体社があらかじめ用意している広告掲載枠を買うことで、期間や場所が保証されている出稿形態です。また「運用型広告」は、広告主がカスタマイズして広告を掲載するターゲットを決め、掲載量はこのカスタマイズ次第で決まる出稿形態のことを言います。
「昔はほとんど予約型でしたが、今では、85%ほどが運用型になってきています。運用型では、配信時間や年齢層、配信エリアなど、さまざまな設定が可能です。今後はあらゆるデジタル広告が運用型になっていくでしょう。運用型広告の仕組みやアルゴリズムはかなり複雑なので、広告主は広告の効果を最大化するために、我々のような会社に依頼して運用しているのです」
広告主には、「購買を最大化したい」「認知を最大化したい」「サンプル請求を最大化したい」など、それぞれに達成したいKPIがあります。電通デジタルでは、そうしたKPIに基づいて広告のプランニングをしていきます。
こうした中で、今大きな転換を迎えているのが、サードパーティCookie廃止の流れです。CookieとはWebサイトに訪れたユーザーの情報を、一時的に保存する仕組み。これにより、広告評価の計測や、ユーザーの行動に近しい広告を配信する「リターゲティング広告」が可能でしたが、サードパーティCookieの廃止によって、その信憑性が大きく低下する状況が生まれています。
「これからは許諾が取れた『自社データ(ファーストパーティデータ)』や、出元がはっきりしている『セカンドパーティデータ』の有効活用がカギとなるでしょう。次の一手としては、ビジネスの成果を証明できる『確かな指標』や『メジャメント』の開発が重要になってきます。
電通デジタルでは、その具体的な取り組みとして、「True Lift Model™️」[2]で広告の視覚効果を計測する「メジャメント/KPIの革新」を進めています。
「ほとんどのバナー広告はクリックされないという現実の中で、本当に広告の効果があったのかどうかという因果関係を説明するのは難しいことなのです。ただ、きちんと調査すると、広告を見て来店した人と、広告を見ないでも来店した人の差は、わずかながら広告を見て来店した人が多い。これは、何度調査してもそうした結果になることが分かっています。『True Lift Model』とは、こうしたリフト効果をきちんと計測していこうという取り組みです」
この他にも、一人ひとりの顧客のLTV(ライフタイムバリュー)をAIで予測し、広告のROI(投資収益率)を改善する「自社データ×AIによる広告の自動最適化」や、意思決定の迅速化を実現する「リアルタイムデータ統合によるダッシュボード化」など、電通デジタルでは、積極的に新たな打ち手を開発しています。
クリエイティブとAIを連動させ、高速にPDCAを回す
企業のキャンペーン全体の広告予算のうち、クリエイティブの制作費にかけられている予算がどのくらいかご存じでしょうか。クリエイティブにかける費用は、おおよそ10%と言われています。他の90%分は出稿費として投下されます。
「しかし、キャンペーンの成功に貢献する割合は、クリエイティブの良し悪しによって大きく左右されるのです。皆さんにとっても、覚えているCMと覚えていないCMの違いは大きいのではないでしょうか」
そして今、そのクリエイティブはAIと結びつき始めています。電通デジタルでは、運用型広告において広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新する「∞AI(ムゲンエーアイ)」[3]を開発しました。
「これにより、何百本、何千本というクリエイティブを生成することが可能です。良いクリエイティブはマス広告に展開することもあります。もちろんAI活用に関しては著作権などに配慮したうえで実施しています」
コマースメディアの可能性と、広告の意義
広告は、製品やサービスを広く伝え、送客する「リーチメディア」として重要ですが、これだけでクライアント企業の事業成長に寄与できるわけではないと瀧本は言います。しっかりと説得し、顧客を獲得する「オウンドメディア」、緩やかにつながり、絆を深める「ソーシャルメディア」、ポイントを駆使し、購買を促進する「コマースメディア」の、4つのメディア(クアッドメディア)を統合的に活用し成果の創出を目指すというのです。
「中でも『コマースメディア』が非常に伸びてきています。さまざまなアプリを通してポイントやキャンペーンを提供し、購買データを取得しようとしているのです。こうした販促市場は15兆円の規模があると言われており、広告市場の2倍になります。我々もこの『コマースメディア』に、生活者に適したコンテンツを提供していきたいと考えています」
ここで瀧本は、「広告は必要と思いますか」という質問を学生に投げかけました。思いのほか多くの手が挙がりました。ある学生は、必要だと思う理由を「広告によって自分の興味が広がった体験がある」と答えました。
「メディアが適切な収益を得られないと、良質なコンテンツを作れません。すると、儲け重視の低質なコンテンツが増え、メディアの価値が下がり、良質な広告の出稿が減ってしまうでしょう。つまり良質な広告が良質なコンテンツを生むのです」
「総合デジタルファーム」として企業の期待に応える
今、あらゆる企業の事業全体がデジタル化してきています。「環境分析」「戦略立案」「具体施策」などの、すべての場面においてデジタルデータを活用するのが当たり前になってきているのです。では、電通デジタルが考えるDXとはどのようなものなのでしょうか。
「我々が考えるDXとは『デジタルを活用してお客様の成長を支援する活動』と『デジタルを活用してお客様の業務効率化を支援する活動』と定義しています」と瀧本は語ります。
業務効率化は理解しやすい部分もありますが、デジタルによる事業の成長は、今多くの企業がチャレンジしているところでしょう。そのため電通デジタルには、広告だけでなく、デジタルを起点とした事業構想を生み出すことに、期待が集まっています。瀧本は、今までとこれからの期待の変化について、以下の図のようにまとめています。
「我々は、自身の会社を『総合デジタルファーム』と呼んでいます。今までより、さらにプラスアルファの期待に応えることが、我々の使命であると考えています」と瀧本は電通デジタルの展望を語りました。
脚注
1. ^ "電通デジタルのDX支援とは?(大学寄附講座)". OUR CULTURE.". (2022年7月13日)2023年5月10日閲覧。
2. ^ "デジタル広告の効果をより正確に評価する「True Lift Model™」を提供開始~ブランド広告とレスポンス広告のギャップを埋める統合評価の新指標を開発~". 電通デジタル.(2018年9月12日)2023年5月10日閲覧。
3 ^ "広告クリエイティブを革新する「∞AI(ムゲンエーアイ)」を開発 -効果予測に加えてクリエイティブ発想、生成、改善までAIで包括支援-". 電通デジタル.(2022年12月19日)2023年5月10日閲覧。
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