2022.07.13

電通デジタルのDX支援とは?(大学寄附講座)

電通デジタルは日本のデジタル人材育成のために、2022年4月より複数の大学で、DXをテーマにした寄附講座を開設しています[1]

電通デジタルが持つ豊富なDX知見、ナレッジ、人脈を生かした全15回からなる講義は、電通デジタルがこれまでに推進してきたプロジェクト事例を基に、最新トレンドや手法を学べる実践的な内容となっています。

未来を担う若者に向けてこのような機会を提供することで、今後ますます求められるDX人材の創造、育成に貢献し、日本社会全体の活性化の一助となることを目的としています。

この記事では、大阪大学経済学部で行われた本講座の第1回である、川上宗一によるDX概論の内容をダイジェストでお届けします。

※所属・役職は記事公開当時のものです

電通デジタル
代表取締役社長執行役員

川上 宗一

マーケティングとは何か?

DXはマーケティングの延長線上にあります。そこでまずは、「そもそもマーケティングとは何か?」から始めたいと思います。

私のこれまでの現場経験から得た答えは、「マーケティングとは課題の解決である」ということです。

マーケティング戦略を考えるときの基本的な考え方(フレームワーク)のひとつに、「課題」「手口」「解決」を考えるというものがあります。

ブランドや商品、サービスには、必ず「課題」があります。課題とは、ブランドや商品、サービスが長年恒常的に抱えている問題点とも言い換えられます。ブランドが掲げる理想と現実の間のギャップも、課題になります。その課題をどう特定してどう解決していくかを具体的に考えていくことが、「手口」であり、手口を実行した結果が「解決」です。

企業の本質的な目的は成長です。成長のためには商品が売れなければなりません。しかし、そこには必ず、その目的を阻害する課題があります。その課題を見つけ出して、それを解いていくことにより、商品が売れ、収益を上げ、企業は成長していくことができます。


マーケティングは売るだけが目的ではない

しかし、マーケティングとは、モノを売ることだけが目的ではありません。ファンを増やしていく営みでもあります。

私は長年、電通で音楽業界のクライアント企業様を担当していて、さまざまなアーティストのプロモーションに関わってきました。音楽で大事なのが、「アーティストを一発屋で終わらせない」ことです。みんな音楽が大好きで、音楽一本で生きていきたいと望んで活動をしています。われわれは、その夢をかなえるために、市場を作り、多くの人に伝えてファンになってもらい、長く支持される方法を考えます。これもマーケティングです。

ファンが増えれば、ヒットが生まれる可能性が高まります。ヒットすれば、次の新曲が出せ、ライブができ、活動範囲が広がり、息の長い活動が可能になっていきます。たくさんの人に長く愛されるという視点も、マーケティングにおいて大事なポイントです。そういう意味で、私は「マーケティングとは究極のラブレターである」と定義しています。

Zoom

過去の理論は現在でも十分通用する

まとめると、マーケティングとは、多くの人に長く愛されることで商品の売上を伸ばし、その売上で新たな事業を興し、企業がさらに多くの生活者を幸せにしていく、その営み全体を支援する活動を指すと、私は考えています。

これは私の完全なオリジナルではありません。過去の優れた理論を参考にし、これまでの経験を加味しながら到達した考えです。

マーケティング論というのは、意外と古い学問で、優れた先人たちがさまざまな理論を提唱し、多くの企業が試行錯誤や創意工夫を繰り返してきました。たとえば、ピーター・ドラッカーの「企業の目的は『顧客の創造』である」(『現代の経営』1954年)や、エドモンド・マッカーシーの「マーケティング・ミックスの4P」、フィリップ・コトラーの「STP」、大前研一氏の「3C」、マイケル・ポーターの「CSV経営」など、昔に作られた理論にもかかわらず、今も使えるものが多くあります。

古い理論は決して「古くさい理論」ではありません。この理論を、現代に生きる自分ならどう応用して活用できるのか、という視点で考えていくことで、多くの示唆が得られるはずです。そして、このような先人たちの積み重ねの先にあるのが、データを用いたやデジタルマーケティングなのです。


マーケティングからデジタルマーケティングへ

歴史的な変遷を経てマーケティングは進化し、現在はデジタルが主戦場の時代です。日本のデジタルマーケティングを語るときにもっとも大事なのは、初代iPhoneの発売(2007年、日本未発売)と、iPhone 3Gの日本発売(2008年)です。ここで大きく社会が変わりました。

それを契機として、YouTube(2007年)、Twitter(2008年 )、Facebook(2008年)、LINE(2011年)、Instagram(2014年)、Netflix(2015年)、Amazon Prime Video(2015年)、TikTok(2017年)と、立て続けにメガサービスが日本でサービスインしました。

2020年には、新型コロナウイルスの発生によって、人と人が会えなくなりました。その状況で5G(5th Generation/第5世代移動通信システム)が出てきて、2020年3月から順次商用化されています。5Gの普及と物理的な接触が制限される状況が広がったことで、メタバースに注目が集まっています。また、仮想空間の中で、アイテムのやりとりをするためにNFTや仮想通貨が普及し、同時にそれらを下支えする技術である、ブロックチェーンも大きく発展しています。

2008年以降、Amazonと楽天を中心として、Eコマースも大きく発展してきました。決済もキャッシュレスになり、PayPay、LINE Pay、楽天PayなどのQRコード決済が電子マネーを超えつつあります。

2008年を境に、マーケティングの世界がデジタル前提になって、2022年の今があるわけです。


デジタルの価値はデータにあり

デジタルの中でもっとも価値のあるものは、データです。

2012年に”Data is the new oil”という言葉が注目を浴び、ビッグデータブームが起きました[2]。その後に起こった人工知能(AI)ブームによって、再びデータの価値が注目されています。

なぜ、データには価値があるのかというと、「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「どのように」買っているか、ということがはっきりと分かるからです。そうした何千万人ものデータを基に行動の未来予測を行うことで、それぞれのユーザーに対して、その時必要だと思われる広告を出すことができます。

例えば、Instagramに出てくる広告は、無作為に表示しているのではありません。機械学習によって、近い将来にその商品を買う確率がもっとも高いと判断されたユーザーに対してだけ、メッセージを表示しているのです。

かつてのマーケティングは、これを勘と経験でやっていました。しかし、データという資源を効果的に活用することで、ユーザーの購買行動やWeb閲覧行動、意識や価値観を踏まえて一人ひとりのユーザー像を解像度高く作り上げることができます。そこに機械学習を組み合わせることで、確度の高い未来予測が可能になります。つまり、これまでは見えていなかった事実を可視化する力があるからこそ、データには価値があるとも言えます。

Zoom

データには、日常の利便性を高めてくれるという価値もあります。いつでも検索できるし、いつでも買い物できるし、遠く離れた人と交流できます。データを武器にそうした利便性を追求することで巨大化してきたのがGAFAです。日本でも、データを活用して新しい豊かさを生み出していくビジネスがどんどん出てきています。ここに対して、日本を含むあらゆる国連加盟国や、企業、金融資本がどんどん資金を流入しており、データエコノミーといわれる巨大経済圏が広がっています。


これまでの歴史の上にDXがある

こうしたマーケティングの歴史の変遷の末に現在があり、DXという概念が生まれました。

DXという言葉を最初に提唱したのは、2004年、当時スウェーデンのウメオ大学に在籍していたエリック・ストルターマンです。DXを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させること」と定義づけています[3]

その後、DXは「企業」を主語に語られるようになり、2018年、経済産業省が以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 [4]

企業の本質的な目的は成長です。顧客から愛されて、支持されて、その事業を拡大して、そして成長していくということにあります。その実現のために必要なのがデジタルの力、データの力です。データが真に力を発揮できるよう、ビジネスの仕組みをデジタルでどんどん新しくしていく必要があります。デジタルを活用して、ビジネスの仕組みを進化させること、それが私の考えるDXの定義です。

Zoom

カスタマージャーニーを日々考える

「顧客に最高の体験をもたらすために、経営戦略・事業戦略・組織・ITを変革していく」というのが、電通デジタルのDXの基本的な考え方です。

顧客とは、クライアントにとってお客さまにあたる存在です。電通デジタルのDXは、その方々に喜んでもらえる事業とは何か?を考えるところから始まります。しかし、その事業を開発して、世の中に発売しただけでは、多くの人の知るところにはなりません。そこで、どのようにして知ってもらうか、どのようにして理解してもらうか、どのようにして興味を持ってもらうか、を考えていきます。つまり、われわれが支援するクライアントの商品やサービスを顧客に選んでもらうには、どうしたらいいかを考えるのです。

顧客が商品を知り、ブランドを知り、購買を重ねることで企業のファンになっていく――この一連の流れを「カスタマージャーニー」といい、DXを進めていく上で重要な手法のひとつです。これまでは実践知による勘や真心といった、個人の力量が重要だったものから、今はデータを使って顧客像の解像度を上げることで、顧客にとって最高の体験とは何か、きめ細かく解析しながら、実施していくことができます。

Zoom

電通デジタルが目指すこと

私たちは、企業の成長をもっともっとドライブさせたい。世界をもっと便利に、もっと豊かにしていきたい。そう思っています。

世の中を元気にするためには、さまざまな企業が活性化していかなくてはいけません。日本の法人は187万社もあり[5]、そのうち上場企業は3,822社です[6]。われわれはクライアントである1,139社と相対していますが、今後もっともっと多くの企業のDXを推進して、世の中をより便利にしていきたいと思っています。人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変えていく、Transformation Companyを目指して、一生懸命働いています。

このたびの講座開設は、電通デジタルが持つ知見やナレッジを活用し、国内のDX人材を創造・育成することで、日本社会全体を活性化することを目的としています。全15回の講義を通し、デジタル登場以後のマーケティング理論の体系化を試み、未来の社会を担うDX人材を創造・育成します。


脚注

1."日本のデジタル人材育成に向け複数の大学にてDX講座をスタート. 電通デジタル.(2022年3月24日)2022年7月6日閲覧。

2.Data is the new oil"は、2006年、ANA Senior marketer’s summit, Kellogg SchoolでClive Humby氏が発言したのが最初とされている。

3.Erik Stolterman, Anna Croon Fors(2004)“Information technology and the good life”, Information Systems Research Relevant Theory and Informed Practice

4."デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0. 経済産業省.(2018年12月)2022年7月6日閲覧。

5. " 平成28年経済センサス-活動調査。総務省統計局.(2018年6月28日)2022年6月16日閲覧。

6.上場企業数は講義実施時点での確認数値。各月末の数値、最新の数値は、以下のWebサイトを参照のこと。"上場会社数・上場株式数". 日本取引所グループ.

この記事に関するご質問・ご相談はこちらから

EVENT & SEMINAR

イベント&セミナー

ご案内

FOR MORE INFO

資料ダウンロード

電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

メールマガジン登録

電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

お問い合わせ

電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ