2020年07月16日
エクスペリエンス
コラム
※所属・役職は記事公開当時のものです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下"コロナ"と呼称)に関する分析をお届けする本連載。Part 1、Part 2では、ユーザーの需要や行動がコロナによって以下のように変化していることを解説しました。
心理の変化
コロナは「健康」だけの問題ではない
「からだ」「こころ」「さいふ」の不安が発生
需要・行動の変化
「在宅時間の増加」と「不安の増加」によって、需要も変化
(1)増加した需要・行動
在宅での仕事・学習・娯楽・生活に関わるもの
非接触サービス(「デリバリー」「テイクアウト」「オンライン〇〇」)
医療・健康に関わるもの
生活必需品
教育
(2)減少した需要・行動
「外出」が必要なもの
「接触」が必要なもの
「コミュニケーション不全」の発生
発信した情報が、届くべき人に正確に届かない可能性が増加
インフォデミック(情報過多)
営業情報の伝達不備
こうした状況下で商品・サービス・情報などを提供し、発信するためには、これらの変化に応じて「転換」すべき発想や手法と、変化後にも「維持」すべき本質的な価値の見極めが必要です。本稿では、そのためのアプローチを、以下の点から解説します。
目次
3.1「不可逆の変化」を見分け、顧客とのコミュニケーションを維持する(最終更新日:
コロナは、人々の心理・需要・行動に大きな影響をもたらしています。その中での打ち手を考えるときには、その変化が短期的なものか、長期的なものかを考える必要があります。
例えば、2020年4月現在では「旅行」「外食」に関する需要は大幅に減少しています。しかし、こうした傾向は永久に続くのでしょうか? 私は、決してそうではない、と考えています。
人間の「美味しいものを食べたい」「旅先で新鮮な体験をしたい」「友人と楽しい時間を過ごしたい」などの希望は、決して消えないものです。こうした状況下でも「デリバリー」「テイクアウト」「オンライン飲み会」などの需要が伸びているのは、そうした心理の表れでしょう。
現在は「コロナをうつす・うつされる不安」が、こうした希望を抑制しています。コロナがコントロール可能な状態になれば、こうした根源的な需要は復活するでしょう。
一方で、人々の行動や、それを支えるシステムには多くの「長期的な変化」が起きると考えます。コロナによる行動の変化は「実は不要だったこと」や「実は非効率的だったこと」をあぶりだします。
ビジネス・学業・コミュニケーションがオンラインで実施されることで、「対面での会議・商談・授業・サービス提供・交流会」や「通勤・通学」、ひいては「中心地へのオフィス集中」などの存在意義が問い直されています。
また、衛生意識の強化は「現金を対面で手渡しする、従来の小売り」から「接触せずに決済できるペイメント」「不特定多数との接触を避けられるEコマース」への移行を促進すると見られます。特に後者は、「2003年(SARS流行時)のAlibabaの躍進」[1]という前例もあります。
こうした「オンラインファースト」化と、それに伴う行動・システムの変化は不可逆のものとなるでしょう。整理すると、以下の通りです。
「維持」すべきもの:ブランドとして伝えたい、本質的な価値。顧客・読者などとの信頼関係
「転換」すべきもの:価値の提供手法
それでは、これらの変化にはどのような向き合い方があるのでしょうか。
まずは、コロナによる悩みの中心である健康・精神・経済の悩みに対して、直接的に支援を行うという方法です。以下のような事例があげられます。
自社リソースを転用した、 物品・サービスの提供 |
酒造業 → 消毒用アルコール[2] 水族館 → 消毒液[3] 衣料品 → マスク[4] 観光バス → 無料通勤バス[5] |
---|---|
無償・低価格での 自社サービス提供 |
自社サービス提供 法的問題の無償相談(日弁連)[6] 医療問題の無償相談[7] 電子書籍・教材の無償開放[8] 電子印鑑の無償開放[9] |
CSR(企業の社会的責任)を示し、ブランドの信念を強く示す、信頼関係の維持・構築を主眼とした向き合い方です。
ビジネスの維持には、キャッシュフローの維持も欠かせません。そのためには、「提供するコアバリュー」を変えず、その提供方法を変えることで、需給関係を維持する手法です。例えば、このような変わり方があります。
上記の例はいずれもBtoCのものですが、こうした変化は、BtoBの領域でも同じです。当社のコンサルティング・クライアント折衝においても「高品質な提案・サービス」というコアバリューを維持しつつ、対面・往訪を原則禁止し「オンラインでのサービス提供」の充実に取り組んでいます。
コロナは、ビジネスのあり方を大きく変化させます。これまでに述べた「悩みへの直接対処」「サービス・提供方法の変化」のようにサービスの形を変えるものもあります。また、一時休業・営業時間変更などの「臨時対応」も、国・自治体の規制方針に従ってたびたび発生するでしょう。
これらの変化を顧客に正しく届けるには、「顧客のいる場所(チャネル)に、正しい情報を届ける」ことが必要です。以下の表に、オンラインで対処すべき主なチャネルと、注意点をまとめました。
種別 | 主なチャネル | 対象ビジネス | 注意点 |
---|---|---|---|
検索 | ・Google 検索 ・Yahoo!検索 |
Webサイトを持つビジネス全般 | 公式サイト・オウンドメディアでのSEO。営業情報などをプル型で配信。 情報の正確性に注意。出典・参考文献などは明記し、リンクする。 臨時休業・営業時間変更などがある場合、他のチャネルにも注意する。 |
営業情報 | ・Googleマイビジネス ・Facebookビジネス ・業界別情報サイト |
小売店・レストランなどのBtoCサービス | NAPO(名前・住所・連絡先・営業時間)を正確に反映する。 臨時情報の更新に注意。GoogleマイビジネスやFacebookには臨時情報の掲載が可能。投稿機能で、詳細の補足もできる[12]。 |
SNS | ・Twitter |
アカウントを持つビジネス全般 | 既存顧客との接点維持や、各種打ち手のプッシュ発信に有効。 フェイク・ヘイト等の拡散に寄与しないように注意。 |
動画 | ・YouTube | アカウントを持つビジネス全般 | コロナ関連では、特に「健康法」「レシピ」などのノウハウ系需要が増加している。 そうしたコンテンツを出す場合、Webサイトと動画の連携施策を推奨。 |
また、発信するメッセージの内容にも注意が必要です。以下のグラフは、2020年6月現在の、コロナの感染者増加率です。2020年4月時点の水準と比べると、5月末以降に再度増加に転じつつあるとはいえ、安定しつつあります。都道府県別のトラジェクトリー解析[13]結果でも、大半の都道府県が減少傾向にあることがわかります。
【都道府県別】人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移[14]
しかし、人心はまだ落ち着いたとは言い切れません。コロナへの不安や生活スタイルの変化は、今でも多くの人々に不満・不安をもたらしています。
コロナ初期(2020年3月ごろ)の不満・不安については「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する分析 -心理・需要の変化-」でお伝えした通り。コロナ感染者数が減少に転じた2020年6月の当社調査でも、依然としてどの世代でも9割以上が「コロナ下の暮らしに不満を抱えている」と回答しています。
Withコロナ社会における、不満意識調査[15]
このように人々の不満が高まり、インフォデミックも蔓延する状況では、普段なら許容できるメッセージが許容されず、炎上やコミュニケーションの途絶を招くことがあります。発信者に悪気はなくても、特定グループ(民族・性別・信条・年齢層など)に身を置いて受け止めると不快なメッセージであることは多々あります。
そうしたことを避けるためには、発信する前に「他人チェック」をすることが大事です。さまざまな属性の「自分以外の受信者」(民族・性別・信条・年齢層など)の立場を想像し、身近にいれば相談し、「誰かが不快にならないか」を再確認することで、より適切なメッセージを発することができます。