LINEヤフーと電通、電通デジタルは、マーケティングにおけるデータ活用をめぐる共同分析プロジェクト「SynWA project(シンワプロジェクト)」を発足させた。「LINE」と「Yahoo! JAPAN」という国内最大級のプラットフォームデータと、電通グループが保有・連携するデータと、培ってきたマーケティング知見が融合することで、何が生まれるのか。断片的なデータでは見えなかった「人」を捉え直し、潜在層アプローチからLTV向上までを実現する、その壮大な構想と共創モデルの意義について、プロジェクトを牽引するLINEヤフーの村田剛氏、遠藤博之氏、電通の新川祥史氏、電通デジタルの大下酬人氏に話を聞いた。
データ活用の未来を描く、両社の戦略
――まずは、データ活用におけるLINEヤフーの戦略についてお聞かせください。
村田: 合併してLINEヤフーになってから我々は「Connect One」構想を掲げています。これは、消費者がサービスと出会い、つながり、長期的な関係を築くまでのあらゆるプロセスを、LINEヤフーのソリューションで統合的に支援するという考え方です。データ活用もこの構想に沿っており、単に広告効果を高めるだけでなく、データを横断的に使いやすくすることで、消費者の姿を「どういう人か」が想像できるくらいにより鮮明に描き出し、次にどうすればよいかを計画できるようなものを目指しています。
また、その価値を最大化する鍵のひとつがAIにあります。私たちの目標は、専門的なスキルを持つ一部の人だけでなく、あらゆるマーケターがデータから「次の一手」を導き出せる世界を実現することです。分析はどうしても専門人材に依存しがちですが、今後は分析基盤に生成AIを組み込み、自然言語で問いかけるだけで示唆が得られるような“AIエージェント”を育てていきたい。AIが分析プロセスを担うことで、人はより戦略的、創造的な思考に集中できるようになるはずです。
データ分析のAI活用は次の注力テーマ
――電通グループとして、AI活用とそのデータ接続についてはどうお考えですか。
新川: 電通グループでもAI戦略「AI For Growth」を掲げており、AIへの取り組みを積極的に推進しています。調査データからペルソナの再現、マーケティングノウハウの集合知としての活用などに取り組んでいます。AIの性能はインプットされるデータの質と量に大きく左右されます。AIであっても企業1社のデータでのアウトプットには限界があるため、企業間でユーザープライバシーを保護したセキュアな環境下でデータを連携する仕組みやそのための協業、そしてLINEヤフーのような膨大なデータが重要です。将来的には、協業の先に両社のノウハウを学習したAIエージェント同士が対話し、新たなインサイトを生み出したり、クライアントのAIエージェントやユーザーそれぞれが持つAIエージェントと対話しながら活用していく世界も描いています。
大下:「AI For Growth」の取り組みのひとつとして「∞AI」というAIソリューション群を開発しており、最近では1stパーティデータの分析・利活用、ビッグテックとの連携や幅広いテーマにわたる調査結果の取り込みにより、顧客一人ひとりの心理や行動をリアルに再現する「∞AI Customer Twin」(仮想顧客AI)、それをベースとして、広告配信におけるメディアプランニング、配信分析をAIエージェントが伴走する「∞AI MC Planning」、新規事業のアイデア創出や既存事業の改善AIエージェントとの対話形式で行う「∞AI CX Planning」など、マーケティング活動におけるAIエージェントを開発しています。
業務の7〜8割をAIが担い、人間はより創造的な部分に集中して10割までつくり上げていく。LINEヤフーのAIエージェントと我々のAIエージェント、さらにクライアントやユーザーのAIエージェントと対話できれば、提供できる価値は飛躍的に高まるはずです。この対談をきっかけに、ぜひ実現に向けて進めていきたいですね。
両社の戦略が交差する点に生まれた「SynWA project」
――それぞれの戦略がある中で、「SynWA project」という共創の形はどうやって生まれたのでしょうか。発足の背景と、その意義についてお聞かせください。
新川: LINEヤフーと電通、電通デジタルは、これまでも「HAKONIWA」(Yahoo! Japanのデータを活用)や「LINE DATA SOLUTION」(LINEのデータを活用)で、「次の一手」につながるデータ活用を進めてきました。「SynWA project」はこれらをさらに進化させる取り組みです。両社が合併されたまさにその日に「新しい取り組みをご一緒しましょう」と私たちから相談を持ちかけたのが始まりでした。
単なる分析に留まらず、お互いのデータ、プロダクト、そして人材やノウハウといったすべてのアセットを掛け合わせ、企業の課題解決やさらにはデータ提供元のユーザーにベネフィットを生む未来のソリューション開発につなげていく。それが私たちのミッションだと考えています。
遠藤: 2023年のLINEとヤフーの合併後の「SynWA project」発足は、これまでの取り組みをアップデートする自然な流れでした。このプロジェクトでは常に「進化」を共通テーマとしてきましたが、合併で得られた新しいアセットを基に、新たな価値を提供していく絶好の機会だと捉えています。
LINEヤフーの広告メニューもLINEとの相互接続や、TVerなどのインストリーム面への配信など進化していますが、その拡大している膨大なデータをただ保有するだけでなく、企業の課題を深く理解した上で活用につなげるパートナーの存在が不可欠です。その知見を持つ電通グループと私たちのデータを掛け合わせることで、初めて真の価値が生まれると考えています。
村田: データ活用において一企業のデータや知見のみで価値をつくっていくことは限界があり、このような共創は今後必須になってくる取り組みだと思っています。ただ、データの活用は企業ごとにポリシーやガイドラインがあるため、意外に共同で何かをやっていくのは難しい。このプロジェクトを通じて、理想の協業の形をつくっていきたいと思っています。
例えば、マーケターがずっと求め続けてきた「消費者理解」。この協業の中で、私たちが持つユーザーがサービスを利用した結果としての「行動データ」を組み合わせることで、これまで以上に解像度を高めることができると考えています。また、今後はこの「SynWA project」の分析基盤に生成AIを組み込み、電通のマーケティングノウハウを持ったAIも接続することでより「次の一手」につながる“AIエージェント”を育てていけるとよいと考えています。
企業のさまざまな課題に応える「座組み」へ
――この統合分析環境は、企業にとって具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
大下: 企業の課題は千差万別ですが、それぞれの課題にどう応えられるか、成長にどう寄与できるかが重要です。「SynWA project」は、それぞれの課題に応えるための大きな「座組み」だと考えています。最終目標は事業成長だと思いますが、「顧客像を可視化できていない」「今のKPI設定は本当に正しいのか」といった具体的な悩みから、「世の中の意識変化を捉えたい」「データを掛け合わせて新しい取り組みをしたい」という抽象度の高い問いかけまで。これらの漠然とした課題に対し、正解がないことであってもLINEヤフーと電通グループのアセットを駆使して考え抜く。その意思こそが「SynWA project」の本質ではないかと考えています。
遠藤: これまで、「HAKONIWA」や「LINE DATA SOLUTION」でそれぞれ行ってきた活動を、「SynWA project」ではさらにアップデートしています。特に、LINE公式アカウントと一口にいっても、友だち(ユーザー)のサービスやブランド体験に濃淡がありますが、その濃淡をYahoo! Japanのデータも加えた解釈が行えることで、より深いユーザー理解が可能となり、施策にも幅が出せるようになりました。
また、昨年からLINEヤフーのインストリーム広告枠を拡充したことによって認知施策の幅も広がりましたが、認知の効果をLINE公式アカウントの行動によって評価したり、アクションにつなげたりすることもできます。認知からCRM領域まで、一気通貫したPDCAプランをクライアントとともに描くことが可能になります。
データ活用に挑む、すべてのマーケターへ
――最後に、データ活用に悩む広告主に向けて、メッセージをお願いします。
新川: 「SynWA project」の名称にある「輪(WA)」には、LINEヤフー、電通、電通デジタルに加えて、クライアントも含めた「輪」として新しい活用を考えていきたいという意思を込めております。さらに、データの提供元であるユーザーとの「輪」の意味も込めており、ユーザーにとってより良い顧客体験を創出し、社会全体の進歩に貢献していく。そんな未来を、パートナーの皆様と共に創り上げていきたいと考えています。
遠藤: 実際に分析をしてみて、初めから必ずしも思い描いた結果や新しい示唆が出るとは限らないですが、それもまた発見だと思っています。重要なのはそれを持って次に何をするのかです。そのためにも、「SynWA project」の名称に込められた思いの通り、我々とクライアントがひとつのテーブルで議論を深めながらデータ活用をご一緒していきたいです。
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