2025.10.08

生成AIが変えるCX。Shopify×電通デジタルが描く日本企業のコマース変革

急速に進化するAIは、コマースの顧客体験(CX)を大きく変えつつあります。EC(電子商取引)基盤の刷新やグローバル展開を推進する日本の大企業にとって、AIをいかに活用し、次世代のコマース戦略を描くかは喫緊の課題です。本記事では、Shopify Japan カントリーマネージャーの馬場道生氏と、電通デジタル 執行役員の岡田祐輔が、AI時代のCXの変化、日本の大企業の変革に必要な戦略、そして両社が共同で提供する価値について語ります。

AIがコマースにもたらす3つの大きな変化

――AIの進化は、コマースにどのような影響を与えているとお考えですか?

馬場:コマースに根本的な変化をもたらしており、大きく3点で影響があると考えています。

1つ目は、事業者側の業務効率化です。AIの活用により生産性が大幅に向上し、担当者はより付加価値の高い戦略業務に集中できるようになります。

2つ目は、生活者側のハイパーパーソナライゼーションの進展です。個々のニーズに合わせた体験が、より高い精度で実現していくでしょう。

3つ目は、ChatGPTなどの生成AIの登場による購買行動の変化です。従来の「検索する」という行動がAIとの対話に置き換わりつつあり、その場で購買につながるケースも生まれています。

馬場 道生氏(Shopify Japan カントリーマネージャー)

岡田:私も同じ認識です。事業者の業務効率化によって、コンバージョンを最大化させるための高品質なコンテンツを大量に生み出すことが可能になります。これにより本来的な意味でのパーソナライゼーションが実現し、生活者に最適なコンテンツを届けることを実現する。AIはこの両輪を加速させ、生活者にこれまで以上に快適で、フリクションのない体験を提供するはずです。

ただし、その実現には課題もあります。AIがいくら進化し、フロントエンドの体験が高度にデザインできるようになってもバックエンドシステムとの連携に不具合や遅延があると適切な商品を提供することができず、結果として顧客体験は損なわれてしまいます。そして、顧客体験こそがブランドの価値を左右する時代にもなってきており、こうした課題にいかに迅速に対応するかが、非常に重要です。


AI×コマースで実現する新しい顧客体験

――両社はそれぞれ、AIを活用してどのような新しいコマース体験を実現しようとしていますか?

馬場:Shopifyは「AIネイティブ・コマース」の実現を目指し、3つの機能を柱に新しい体験を創出しています。

まず、対話型AIコマースアシスタント「Sidekick(相棒)」です。プラットフォーム上に常駐し、ストアの管理画面でいつでも相談できるアシスタントとして、日々の運用を大幅に効率化します。例えば売上レポートの作成、商品説明文の生成、顧客セグメント分析などを行うことができます。Sidekickを上手く活用することで究極のカスタマイゼーションを実現します。たとえば「お客様のLTVに基づいた段階的な割引システムを作って」と自然言語で依頼すれば、Sidekickがその開発・実装の手助けをしてくれます。エンジニアリソースが不足していても、理想のコマース環境を低コストに構築しやすくなります。

次に、開発者向けには「Shopify MCP(Model Context Protocol)」を提供しており、これによりAIアシスタントが、リアルタイムでShopifyストアの商品カタログや顧客データ、注文情報にアクセスできるようになります。開発者は複雑な API 連携を意識することなく、AIを活用したカスタムショッピング体験を素早く構築できるのです。

最後に、「Shopify Catalog」による新しい商品発見体験です。世界中の数百万のマーチャントの商品データをAIプラットフォームから発見可能にし、ChatGPTやPerplexity経由で瞬時に商品を見つけて、そのまま購入フローへ誘導できます。米国では先行展開が進んでいます。

岡田:電通グループは2024年8月から独自のAI戦略「AI For Growth」を推進し、2025年5月には「AI For Growth 2.0」へと進化させました。1億人規模の仮想ペルソナを再現する「People Model」など、疑似調査やプランニングへのAI活用も進みつつあります。コマース支援においても、AIの活用によって、コンテンツのキュレーション、チャットボットなどの顧客接点で、適切な体験提供を創出する時代が訪れつつあります。

さらに、これまでデータサイエンティストが担っていた複雑な分析も生成AIに任せることで、高度かつスピーディに行えるようになりました。私たちの強みであるクリエイティブ領域でも生成AIを導入し、単なる自動生成にとどまらず、クリエイターの感性を反映した表現を可能にしています。実務経験者が学習させたAIを活用することで、コマースにおける顧客体験の向上やマーケティングの高度化に取り組んでいるところです。

岡田 祐輔(電通デジタル 執行役員)

進化し続けるAI。コマース領域での注目トピック

――今後さらに進化が見込まれるAIの機能や可能性について、注目している点はありますか?

馬場:今、最も注目しているのは「アンビエント・インテリジェンス(環境知能)」の実現です。AIが常にバックグラウンドで稼働し、マーチャントが意識せずとも最適化が進む環境を指します。Shopifyでもその構築を目指しており、これが普及すればエージェント型ショッピングが一層広がるでしょう。

次に注目しているのが「自己修正するコマースOS」への進化です。市場データや顧客行動、競合の動向をAIが常時分析し、それに基づいてストアのレイアウト、価格設定、在庫配置などを自動で最適化する――まるで生きているようなOSの実現を目指しています。

さらに「Bring Your Own LLM」への対応も大きなテーマです。大企業では、自社独自のLLMを強化するために多額の投資を行うケースが増えています。そうした業界特化型モデルや企業独自のデータをShopifyに統合し、柔軟に活用できるようにすることで、Shopifyは単なるECプラットフォームにとどまらず、企業のAI活用を支えるパートナーとして、未来のコマースを共創していきたいと考えています。

岡田:「Bring Your Own LLM」は、非常に有用なアプローチだと私たちも考えています。クライアントの中には業務革新を目的に独自のLLMを開発している企業があり、それをさまざまなチャネルに統合していく必要があります。技術革新に伴い、モノリス側の大規模なプラットフォームだけを前提としたアーキテクチャのみでなく、迅速性を持って、様々なテクノロジーを組み合わせる「コンポーザブル」な設計思想も広がってくると予見します。それにあたり、独自のLLMを適切にシステムに組み入れられる構造は、事業者・企業の競争力の創出にも通じると思います。

そして、大量のコンテンツ生成を担う生成AIと、パーソナライゼーションを実現するAIアナリティクスは、マーケティング実務を大きく変えていくと見ています。今後も継続的に注目していきたいトピックです。


大企業が抱えるコマース推進の課題と、変化へのヒント

――AIを活用したコマース推進において、日本の大企業が直面する課題は何だとお考えですか?

馬場:日本の大企業が抱える課題は、大きく4つに整理できると考えています。

1つ目は、レガシーシステムとの統合の複雑さです。

2つ目は、縦割り組織による意思決定の遅さです。特に「変化のリスク」を「現状維持のリスク」よりも大きく見積もってしまい、AIの急速な進化に対応しきれないケースが少なくありません。

3つ目は、データ品質とガバナンスの問題です。長年蓄積されたデータが部門ごとに分散し、統一フォーマットが整備されていない企業が多く見られます。さらに、個人情報保護やコンプライアンスへの懸念から、AIにどこまでデータ活用を許容するかの指針を定められない企業も目立ちます。

4つ目は、AI人材の不足と育成の難しさです。AI技術を理解し、ビジネスに活かせる人材が圧倒的に不足しています。

岡田:馬場さんが挙げられた4点は、多くの大企業がまさに直面している課題だと思います。そのうえで、電通デジタルが大企業のコマース改革を支援する際に発揮できる強みは、大きく3つあります。

まずは、確実なプロジェクト推進力です。ゴールを明確に定め、スモールスタートで実行することでリスクを抑えつつ、着実に成果を出します。その際に不可欠なのが、プラットフォームを深く理解した専門人材の存在です。専門人材がプラットフォーム側と緊密に連携し、構想を具体化していきます。これが私たちの強みです。

2つ目は、一気通貫の支援体制です。コマースシステムの開発・構築にとどまらず、周辺のCRM、マーケティングオートメーション、データ基盤といったマーケティングテクノロジーの構築も対応可能であり、一体的な構築の支援が可能です。さらに、成長戦略策定支援、顧客分析、そしてメディアを活用したアクティベーションまで幅広くカバーしています。この体制により、スピード感を持ってコマース体験を提供できる点は大きな価値だと考えています。

3つ目は、電通グループ全体のグローバルネットワークです。当社グループのコマースの能力は、外部の調査機関からも高い評価を得ています。そして、そのネットワークの中には、Shopifyをはじめとした各種テクノロジープラットフォームと強固な関係を築いており、多くの専門家をその中に抱えています。国内に盤石な基盤を持ちながら、海外の知見やネットワークも活用できることは、当社グループを唯一無二のパートナーとする要素だと考えています。

馬場:Shopifyでは、段階的移行と統合支援の両面から、こうした課題を解決するアプローチを提供しています。私たちのシステムはアジャイル開発と非常に相性が良く、段階的な導入を推奨しています。

たとえば、まずはフロントエンドやカート機能といった顧客接点から導入し、既存の基幹システムは残したままAPI連携でデータを同期させます。こうすることでリスクを最小化しながら、短期間で最新技術の恩恵を受けられます。

さらに、日本市場は現在、グローバルでも特に注力しているリージョンです。日本のニーズに合わせた投資を積極的に進めています。


Shopify × 電通デジタルによる価値創出

――電通デジタルは2019年よりShopifyを活用したEC支援サービスを開始し、21年にはShopify Plus パートナーに認定されています。今後、両社で取り組んでいきたいプロジェクトや、注力したい戦略的なテーマがあればお聞かせください。

馬場:Shopifyと電通デジタルは、日本の大企業が真のデジタル変革(DX)を成し遂げるための戦略的パートナーシップだと考えています。具体的には、3つの大きな価値を提供できると見ています。

1つ目は、日本企業特有の複雑性への対応力です。複雑な承認プロセスや多層的なステークホルダー構造、既存システムとの高度な連携要件に加え、「失敗が許されない」という文化的背景も大きな障壁となります。こうした課題を私たちだけで解決するのは難しいですが、電通デジタルは大企業のDXを段階的に推進してきた豊富な実績があります。その強みと組み合わせることで、最先端のソリューションを日本企業の文化や運用に適合させ、最適な形で導入できるでしょう。

2つ目は、包括的なDX戦略の立案と実行です。多くの企業はECサイト刷新を部分最適として捉えがちですが、真の価値創造には全体最適の視点が欠かせません。電通デジタルはマーケティング戦略、ブランド戦略、顧客体験設計、データ活用、組織変革まで幅広くカバーしています。私たちのコマース機能と掛け合わせることで、顧客接点全体の最適化、データドリブンな意思決定基盤の構築、AIによる業務効率化まで一気通貫で実現できると考えています。

3つ目は、継続的な成長と最適化を支える運用・サポート体制です。プラットフォーム導入はゴールではなくスタートです。市場や顧客の変化、新技術の登場に対応し続けるには、常に改善が必要です。Shopifyは高頻度でプロダクトアップデートを行っていますが、それをビジネス成果に変換するには深い業界理解と実装力が欠かせません。電通デジタルとの協働によって、技術進化を確実に成果へ結びつける伴走支援が可能になると考えています。

両社には豊富な成功事例とベストプラクティスがあり、クライアントの皆さまは先進事例から学び、リスクを抑えながら挑戦できる点も大きな価値だと思います。

岡田:今お話しいただいた3点は、私たちへのご期待も含めたものと受け止めています。電通デジタルおよび電通グループは、クライアントの事業成長に寄り添うことを価値の根幹に据え、「Integrated Growth Partner(IGP)」を掲げています。単なるツール導入にとどまらず、戦略策定から実行・運用まで包括的に支援し、俊敏な企業変革の実現を後押しします。そのためには、Shopifyのような強力かつ革新的なプレイヤーとの協働が不可欠だと、改めて強く感じています。

Zoom

「今日始める」「小さく始める」「段階的に拡張する」

――最後に、さまざまな課題を抱えながらコマース変革に挑もうとしている日本企業の経営者や担当者に向けて、メッセージをお願いします。

馬場:日本企業の皆さまには、完璧を目指すよりも、まず「始める勇気」を持っていただきたいと思います。Shopifyは、試行錯誤を重ねながら成長していくことを前提に設計されたプラットフォームです。最初は小さな範囲で導入し、成果を確かめながら段階的に拡張していく——そんなアプローチでご活用いただければと考えています。

大切なのは「いつ始めるか」ではなく「今日始めること」です。電通デジタルのような信頼できるパートナーとともに、リスクを抑えつつ確実に成果を積み上げていくことで、多くの日本企業が成功されることを願っています。皆さまとともに、日本のコマースの未来をつくり上げていけることを楽しみにしています。

岡田:「今日始める」という決断は本当に重要です。スピード感を持って意思決定し、適切に市場へ出していくことこそが、企業の成長を支える鍵だと改めて感じています。

Shopifyは革新的なプラットフォームであり、変化を前向きに受け入れる企業文化を体現しています。今回の業務提携を、私たち自身が新たな挑戦へ踏み出すきっかけにもしていきたいですし、多くの企業のコマース変革のために、これからともに歩んでいけることを楽しみにしています。


電通デジタルでは、これまでShopifyを活用し、様々なクライアントのECビジネスの成長に貢献してきました。我々は、コマースとそれに関わるテクノロジーを駆使し、戦略設計・実装・伴走支援を行うことで、企業の皆様に「Experience Transformation」を提供することができると考えます。Shopifyサービスに関する資料を以下から無料でご覧いただけます。ご興味ある方はぜひお問い合わせください。

「電通デジタル×Shopifyサービス」資料ダウンロード

Shopifyサービスに関するお問い合わせはこちらから

PROFILE

プロフィール

    EVENT & SEMINAR

    イベント&セミナー

    ご案内

    FOR MORE INFO

    資料ダウンロード

    電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

    メールマガジン登録

    電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

    お問い合わせ

    電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ