電通デジタルは、電通データアーティストモンゴル(DDAM)と連携して、モンゴルでのプラットフォーマー各社とのワークショップに取り組んでいます。大草原の中で有意義な議論が展開され、さまざまな成果が生まれています。具体的にどのようなことをしているのか、参加したプラットフォーマーから寄せられている声などについて、山本覚CAIOと荻島裕樹プラットフォーム部門 部門長に聞きました。
翌朝にプロトタイプが完成する驚異のスピード
──プラットフォーマー各社とモンゴルでどのようなワークショップをしているのでしょうか?
荻島:一言でまとめれば、お互いの課題を持ち寄り、AIでどのように解決できるかを探っていく取り組みです。実質2日間で、1日目は課題を出し合い、構想を練り上げます。2日目の朝にはそのプロトタイプが完成しているので、それをもとに具体的な運用まで議論していきます。ワークショップが終わる頃には、運用レベルまで仕上がります。
山本:人数はそのときによっても変わりますが、1チーム10人以下で、電通デジタルおよび電通データアーティストモンゴル(以下、DDAM)のメンバーが入ります。毎回、バックプリントに各プラットフォーマーのオリジナルデザインを施したDDAMTシャツを作って、全員それを着てワークショップに臨みます。今日我々が着ているTシャツもそうです。
──お揃いのTシャツで一体感を高めていくのですね。それにしても、2日目の朝にプロトタイプが完成するというのは凄まじいスピードです。
荻島:私も最初はかなり驚いたのですが、1日目の議論終了後に持ち帰って急いで作るという感じではなく、その場でDDAMのメンバーがどんどん作っていくんです。途中で「ここまで出来上がったんですけど、これでどうですか?」と見せてくれるので、構想の精度も高まります。
山本:モンゴルでワークショップを行う大きな理由でもあるのですが、DDAMは非常に機動力の高いAI開発力を持っています。電通グループでは、日本の人口と同規模である1億人のAIペルソナを仮想的に再現する「People Model」を2025年5月に発表しましたが、この開発はDDAMが行いました。また、ユーザーとの対話を通じて自律的に最適な答えを導く「統合マーケティングAIエージェント」の開発も進めていますが、その技術検証はDDAMが担っています。
荻島:日本語能力の高さもDDAMの大きな特徴です。難解な行間やニュアンスまで汲んでくれるので、コミュニケーションが非常にスムーズです。だからこそ、その場でプロトタイプを作っていけますし、プラットフォーマーからは「海外出張でこんなに英語を使わないで済んだのは初めて」「技術力、スピード感、活力、能力の高さに驚いた。日本でこのレベルの企業は少ないのでは」といった声をいただいています。
DAMのAI技術開発力が高い理由
──なぜDDAMは、そこまでAI技術開発力や日本語能力が高いのでしょうか?
山本:モンゴルが、アジアの中では数少ない若年層の多い国で、国の発展のために数学をはじめとするSTEM教育に力を入れているというのがあります。海外留学も盛んで、JICAとともに取り組んでいる「1000人エンジニアプロジェクト(M-JEED)」を通じ、日本の大学や高等専門学校にも多数が留学しています。DDAMの社員の半数以上がこのプロジェクトの出身者だというのも、日本語能力の高さにつながっています。現在、75%以上の社員が日本語話者で、国際数学オリンピックのメダリストも複数人在籍しています。
90%以上が英語話者であるという事実も、AI技術開発力を支えている一因です。最新の論文はもちろん、AI開発の最前線と直接やりとりをすることで、常時最先端の知識や技術を吸収しています。
そうやってAIの最新動向の情報収集と技術開発を日々行い、たとえば小説などの解釈をするならばこのモデル、数理的な問題を解くならばこのモデルなど具体的な検証を続けています。すでに2年以上にわたって、その結果をまとめたリサーチレポートを隔週ペースでグループ内に報告し続けていますので、いざ何かをやろうというとき、どのモデルを使えばいいかすべて準備ができています。だからこそ、ワークショップで話をしながらその場でプロトタイプが作れるのです。
荻島:課題解決のツールがその場で完成するイメージです。概念だけでなく実物を目にしながら話を進められるので、「こういうデータをもっと学習させればいいのでは?」とか「こういうAPIと連携すればいいんじゃないか」など、日本のオフィスの会議室や、Web会議の場では出てこない対話が非常に多いんです。
「イノベーションは移動距離に比例する」を実感できる
──それは、モンゴルという非日常の場所でワークショップを行う効果でもありますか?
荻島:非常に大きいと思います。1日目はウランバートルにあるDDAMのオフィスにご案内するのですが、2日目のワークショップはテレルジ国立公園の中にあるゲルで行います。車で1時間ほど移動するのですが、ずっと広い草原が広がっているんです。テレルジ国立公園のゲルも、大草原の中にある超巨大なもので、非日常感の強さも相まって普段は見えない顔や本音がたくさん出てきます。開放感の中でリフレッシュされるというのもあるでしょうし、広い草原の中で涙を流す人も少なくありません。
山本:経営論で「知の探索」の重要性が指摘され、「イノベーションは移動距離に比例する」と言われますが、モンゴルのワークショップでは毎回そのことを実感します。日本では目にすることのない大草原の中で脳が活性化し、アイデアを生むだけでなく具現化できますので、本質的なイノベーションを起こす機会になっていると実感します。
──ワークショップによって、具体的にはどのような成果が生まれているのでしょうか?
山本:たとえば、Metaと提携して2025年6月に提供を開始した「IG AI Creative Studio」がそうです。これは、Instagramの縦型動画制作をAI活用で大幅に効率化するワークショップで、最短半日で縦型動画の生成ができるようになるというものです。
動画を広告クリエイティブとして活用する場合、単に生成するだけでは意味がありません。ターゲットユーザーのインサイトを分析してペルソナを設計し、適切なマーケティングメッセージを盛り込む必要があります。そこで、電通デジタルのマーケティングソリューション「∞AI(ムゲンエーアイ)」などを活用し、全工程を効率化することに成功しました。
荻島:動画はまさにそうですが、プラットフォーマーの提供する機能が高度化していることもあり、広告運用は複雑化しています。自ずとクライアントからの質問が増え、プラットフォーマーの負担がさらに重くなっている現状があります。「業務効率化を成長戦略と位置づけている」という声もいただいている中で、モンゴルでのワークショップは課題に即したソリューションを生み出せる場としても機能しています。
山本:業務効率化の観点では、DDAMでBPO事業を展開し、「BPO×AI」の開発に取り組んでいるのも、エージェンシーとしては他にない取り組みだと思っています。実際、プラットフォーマーにも驚かれますし、ビジネス拡大につきまとうリソースの問題を解決できるパートナーとして大きな期待を寄せていただいていると感じます。
荻島:どのプラットフォーマーも、今やプロダクトの中心にAI活用を据えています。一方で、クライアントに対し、提供できるのはプロダクトのみにとどまるというジレンマもお持ちです。いかにクライアントに広く、深く受け入れられるよう実装するか、私たちエージェンシーが果たすべき役割は大きいですし、高いAI技術開発力を持つDDAMとの連携をさらに強化していきたいと思っています。
大自然の中での語り合いがもたらす効能
──非日常空間での取り組みということで、想定外の出来事なども起こりますか?
荻島:特に印象に残っているのが、2社のプラットフォーマーをお招きしたときです。テレルジ国立公園内の草原のゲルで会話をしていたら、お互いの課題をぶつけ合い始めたんです。普段だったらあり得ないことなので、横にいて驚きましたが、話しているうちに不思議なシナジーが両社に生まれていきました。最終的にはそれぞれ発表を聞いて、成果をシェアしていました。
──電通デジタルとDDAMが、プラットフォーマーをつなぐハブとなったのですね。それぞれ未体験のシナジーが生まれたのであれば、利用する広告主や一般ユーザーにとってもメリットがありそうです。
山本:とりわけ2日目のゲルでのワークショップは、そういった社会に対する視座の高い話に発展しやすい傾向にあります。大自然に身を置いて思考を突き詰めていくためか、最初は業務効率化について話し合っていたのに、いつの間にかサステナブルの話題に移ったりするんです。「こういう景色を見ると、やっぱり守らなければならないものがあると感じますよね」といった話が始まるんです。
荻島: DDAMのメンバーに触れる効果も大きいのではないかと思います。国を発展させようという若い人たちのエネルギーがあふれているので、大自然の中でスタートアップの熱気に包まれる体験ができます。そのためか、「人としてどうあるべきか」といった会話にもよく発展します。あと、日本に対するリスペクトが強くて、とてもあたたかく接してくれるのは私自身強く印象に残っています。「ホスピタリティに感動した」というプラットフォーマーも多いですね。
最適化とテクノロジーの先にある「人間讃歌」を描く時間に
──実効性の高いAIソリューションの開発だけでなく、未来を語る場にもなっているのですね。
山本:本当にそうで、AIの進化を見据えると非常に有意義な取り組みだと思っています。というのは、今後AIがさらに進化して、これまでやらなければならなかったことをやらなくて済むようになれば、人として取り組むべきことが何かをよりしっかりと追求する必要が出てくるからです。
STEM教育に力を注ぎ、IT人財を次々に育成しながら、人口の1割以上が遊牧民として大自然の中で暮らしているモンゴルでワークショップに取り組むことは、そうした点でも意味のあることだと思います。いわば、最適化とテクノロジーを突き詰めた先にある人間讃歌をプラットフォーマーやクライアントの皆様とともに描いていくことが、私たち電通デジタルとDDAMの提供できる価値だと思っています。
荻島:未来を描くという点では、ワークショップでの成果をまとめて生成した動画をプラットフォーマーにお渡ししています。それを見れば、モンゴルで描いた今後の戦略がすぐに社内で共有いただける仕掛けです。そうした取り組みについて、プラットフォーマーからは「今後も広告主や社会にとって意味のある『創造』」や「日本を元気にできるAIサービス」を期待する声をいただいています。
──今後の展望をお聞かせください。
荻島:プラットフォーマーからは、日本だけでなく、グローバルのAIに関する課題解決のパートナーとして期待されているとも感じています。ワークショップをはじめとして、モンゴルをその起点とした取り組みを進めていきたいと感じています。
山本:ありがたいことに、あるプラットフォーマーからは、「ここまで深さと速さを兼ね備えたAI開発を実践しているエージェンシーは世界でほかにない」という評価をいただいています。実際、ビジネスと開発を融合させて進めている事例は、AIの世界ではあまり多くないと思います。
電通グループでは、“人間の知”と“AIの知”を掛け合わせて顧客や社会の成長に貢献する独自のAI戦略「AI For Growth」に取り組んでいます。2025年5月には、それを刷新した「AI For Growth 2.0」を発表しました。電通が約30業種約15万人に対して年2回実施している意識調査などの大規模調査データや、社内の専門人財知見など独自のAIアセットと、AI技術を融合させた「AIモデル」を深化させて新たなマーケティングプラットフォームを構築し、それを組み込んだソリューションを迅速に提供していこうというものです。
そのためには、プロトタイプの作成やPoC(概念実証)を高速で実施していかなくてはなりませんので、DDAMをその拠点として連携をさらに強化しているところです。プラットフォーマーやクライアントの皆様には、その開発現場をご覧いただくとともに、ワークショップでAIソリューションを生み出す体験をしていただきたいと思っています。ぜひご期待ください。
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