デジタル起点のブランドクリエイティブに強みを持つ電通デジタル、ゲーミフィケーション分野で実績を重ねるセガ エックスディー(以下セガXD)、そして顧客エンゲージメント基盤を提供するBraze。異なる分野で高い専門性を誇る3社が結集。本記事では、顧客コミュニケーションを取り巻く環境の変化や、「データ×クリエイティビティ」に関する最新の海外トレンドを多角的に解説しながら、3社の知見を集約した共同オファリングメニューをご紹介します。
コモディティ化の波により、ブランドの差別化がより困難に
――ブランドやサービスのコモディティ化が進む現在、企業がブランドの差別化を図るうえで、どのような課題が見られますか?
佐藤洋介氏(Braze):現代において、変化のスピードが非常に早く、どこかの企業が少しユニークな取り組みを始めても、すぐに他社が類似した展開をしてきます。その結果、ブランドやサービスの違いがどんどん曖昧になっていきます。こうした中で重要になるのが、「なぜ生活者はこのブランドを選ぶのか?」という問いです。選ばれるには必ず理由があり、その理由を正しく理解し、そこに真摯に向き合ってブランドやサービスを作っていく姿勢が、いま企業に求められていると感じます。
伊藤真人氏(セガ エックスディー):テクノロジーが進化し、情報社会が加速するなかで、機能的な価値はどんどん同質化していきます。利便性や価格といった軸では、最終的にどのサービスも差がつきにくい。そのため、今後は人間の本質に立ち返った価値観が重要になるでしょう。端的に言えば、「好きか嫌いか」といった感情が、選択の決め手となる時代に向かっていると思います。とはいえ、多くの企業はそうした感情に訴えるための“How”、つまり具体的な手段を持ち合わせていません。ここに大きな課題があると感じています。
潮田健一郎(電通デジタル):商品のコモディティ化にとどまらないコミュニケーションのコモディティ化の波が、ブランドの差別化をますます困難にしています。テクノロジーの進化は、間違いなくこれまでマーケティングの有効なドライバーでしたが、多くの企業がその可能性に注力しすぎて、ブランド固有の独自性や、顧客のインサイト、感情をどう動かしエンゲージメントを生むかといった“本質的な部分”よりも、PDCAサイクルを短期目線で回すことにばかり目が向いてしまう――。これは現在のマーケティングに共通する潜在的な課題だと思います。AIエージェントの活用が今後広がると、この領域はAIが一気に加速し、コミュニケーションのコモディティ化の課題は顕在化するとも考えています。
――こうした現状を、データドリブンなアプローチで打開することは可能でしょうか?
佐藤洋介氏(Braze):重要なのは、単なるデータドリブンではなく、顧客インサイトドリブンの視点でコミュニケーションのあるべき姿を描くことです。そのうえでテクノロジーを「どう活用するか」というHowの部分を後から重ねていく。そのプロセスを、よりカジュアルに、スピーディに進めていくことが今求められていると考えています。
潮田:1stパーティデータはその企業・ブランドならではのユニークな体験を顧客に提供するための源泉となるものだと考えています。ただし、そのデータを効果的に豊かな体験へと昇華して顧客にお返しするためにはクリエイティビティが必要になります。
私たちはこれまで、インタビューや調査はもとより、SNSや広告効果のデータを通じて顧客インサイトを掘り起こし、クリエイターやマーケター、プランナーの発想力と掛け合わせながら新しい体験を生み出してきました。そうした知見や経験をもとに、現在もこの新たな領域で試行錯誤を重ねています。
――1stパーティデータを活用するうえで、ゲーミフィケーションはどのような役割を果たすのでしょうか?
伊藤:データからどのようにユニークな体験を創出し、「好き」という感情を育てていくのか。これこそがゲーミフィケーションの本質的な価値だと考えています。人間の欲求や感情には、定量データだけでは浮かび上がらない部分が多くあります。そうした分野を丁寧に設計してきたのが、ゲームやエンタテインメントの世界です。
生活必需品ではないゲームは、ユーザーに選ばれ続けるため、様々な工夫と試行錯誤を重ねてきました。そのノウハウを持つ私たちが、1stパーティデータという強みを生かすことで、「好き」をより科学的かつ戦略的に育んでいける。それが、私たちの大きな強みだと感じています。
「選ばれる理由」を創造、3社が挑む次世代エンゲージメントのデザイン
――Engage Guild & Brazeについて、その発足の背景を教えてください。
潮田:もともと電通デジタルとセガXDは、「クリエイティビティ×ゲーミフィケーション」という新しい価値を顧客エンゲージメント領域で生み出したいという想いから、2025年4月に業務提携を結び、企業の顧客エンゲージメント課題に取り組むクリエイティブチーム「Engage Guild」を発足しました。
その取り組みを進める中で、顧客エンゲージメントプラットフォームを提供するBrazeが目指している世界観とEngage Guildが描いてきた方向性が合致したことが協業の決め手となり、「一緒に1stパーティデータとクリエイティビティの波をつくろう!」と、3社体制での新たな挑戦がはじまりました。
伊藤:セガXDとしては、人を動かす“衝動”のデザインについて、長年の経験と知見を積み重ね、その体系化も進めてきました。Engage Guild & Brazeという新しい枠組みでは、これまで一過性で終わりがちだった“衝動”をロングテールで持続させ、CRMやデータ活用に関してもユーザーを夢中にさせる体験を実現できるのでは――とワクワクしています。
佐藤:Brazeがグローバルで発信するメッセージの一つに、“Don't let great ideas die in a deck.” 即ち、「素晴らしいアイデアを、企画書の中で眠らせたままにしないで」という考え方があります。これは、クリエイターやマーケターの“やりたい”を本当に実現できてこそ価値があるという考え方であり、Brazeはハイパフォーマンスなテクノロジー基盤の提供を通じ、その実現を支援してきました。Engage Guildからお声がけを受けた際、その構想に深く共鳴するとともに、心強いパートナーになってくれることを確信しました。
――この3社でつくったオファリングメニューの概要について教えてください。
潮田:エンゲージメント分野でクリエイティビティやゲーミフィケーションを掛け合わせる発想は、まだ多くのクライアント、特にCRM担当者には十分浸透していません。また、1stパーティデータを活用したその企業やブランドならではのユニークな体験づくりの可能性への意識も高いとは言えない現状です。まずはクリエイティビティの可能性を丁寧に伝え、クライアントの皆さんに提案してゆくフェーズだと捉えています。
CRMの強みは、小さく始めてスケールさせやすい点にあります。Brazeの機能を生かした実践提案や、ワークショップ形式での導入支援など、こちらから積極的にクライアントへ提案し共創の動きを広げています。さらに、セガXDが提供する「ゲーミフィケーションカード」などユニークなツールを活用したワークショップの企画も進行中です。
こうした取り組みを、今後は一つの“型”として確立させていきたいと考えています。実践を通して手応えを感じていただくことで、クライアントと共にエンゲージメントの概念や手法を進化させ、より大きなインパクトを生み出せると期待しています。
佐藤:3社には、それぞれに緩やかな役割分担が存在しています。電通デジタルはブランド体験のアイデア開発やエンゲージメント基盤の設計を担い、セガXDはゲーミフィケーションを活用した行動変容のアイデア開発に強みを発揮しています。そして私たちBrazeは、テクノロジー基盤の提供に加え、グローバルで蓄積したトレンドや成功事例といった情報提供も担当しています。こうして各社の強みを掛け合わせることで、幅広い業界や企業規模に対応できるユニークなオファリングとなっています。
伊藤:このオファリングメニューは、特に社会インフラや歴史のある企業との相性がとても良いと考えています。例えば、電気やガスなどのライフライン事業者、交通インフラ企業、保険会社、銀行などがその一例です。こうした企業は、従来ユーザーと「必要だからつながっている」という関係性が中心でしたが、“好き”という感情を育てるアプローチにより、「その企業が好きだからつながり続けたい」という動機へと転換していくことが求められます。
このような取り組みが単なるビジネスの枠を超え、社会全体の価値観や、企業と生活者の間にある関係性そのものを少しずつ変えるきっかけになると信じています。
ブランドを好きになってもらうために、マーケターが今やるべきこと
――ブランド体験を生活者の印象に残し、ブランドを好きになってもらう施策を行うために、マーケティング担当者が心がけておくべきことは何ですか?
佐藤:まず大切なのは、良質なインプットを得ることです。Brazeはグローバル発の最新情報を数多く持っており、そうした知見も惜しみなく共有していますので、ぜひ活用していただきたいと思います。
また、社内外に“味方”をつくることも重要です。社内に仲間を増やせば推進力が生まれますし、外部パートナーを巻き込むことで視野も広がります。一人で戦おうとせず、組織の枠を超えてチームとして動くことが、変化を現実にする大きな原動力になるはずです。
潮田:担当者として求められるのは、組織の枠組みにとらわれずユーザー視点で物事を見ることです。たとえば、オンラインとオフライン、広告とマーケティングなど、企業組織内では部署ごとに分かれていても、ユーザーにとっては一連の体験としてつながっています。だからこそ、組織の垣根を越えて、リアルなユーザー視点に立った顧客体験を再設計していく必要があります。私たちも、その再設計の支援をしていきたいと考えています。
伊藤:私からはポイントを3つ挙げたいと思います。1つ目は、「データの先にいる人を想像する」こと。データの背景にある暮らしや感情まで思いを巡らせる姿勢が、より豊かなコミュニケーションや体験設計につながります。
2つ目は、「自社のブランドやサービスを本気で好きになる」こと。自分自身が心から好きだと思えるものだからこそ、深く理解でき、自信を持ってその魅力を伝えられます。その熱量は確実にユーザーに伝わり、共感や信頼につながっていきます。
3つ目は、「事例を鵜呑みにしない」こと。事例はあくまで参考の一つであり、大切なのは自社の顧客と真正面から向き合い、自分たちなりの最適なストーリーを構築することです。言い換えれば、マーケティングの原点に立ち返ることが求められているのだと思います。
――3社の協業体制を通じて、どのような未来を描いていますか?
潮田:最終的には企業・ブランドと顧客の間にデータを起点としたユニークな体験を通じた豊かなつながりの重要性が広がって、多様な企業がその領域で切磋琢磨しあう。そんな未来が実現されると世の中がもっと楽しくなっているのではないかと思います。
伊藤:究極のエンゲージメントは、企業と顧客が一緒に課題を解決する“仲間”のような関係になることだと思います。一方的に価値を押し付けるのではなく、顧客と共に考え、共に動く。そんな未来を私たちは目指しています。
佐藤:マーケティングは本来、楽しくて創造的な仕事です。もっと自由に、時には失敗も許容しつつ、多くのトライができる文化を育てていきたいですね。そんなカルチャー変革も含めて、3社で一緒にチャレンジしていきたいと思っています。
Engage GuildとBrazeのデータ×クリエイティビティに着目した企画支援メニューはこちら
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