ブランド価値を高め、顧客との関係を深めるうえで、コンテンツの重要性はさらに高まっています。しかし、カスタマージャーニーの複雑化やコンテンツ量の増加に伴い、制作や管理の効率化は企業にとって大きな課題となっています。本記事では、アドビと電通デジタルの知見をもとに、コンテンツサプライチェーン最適化の最新トレンドや、生成AIを活用した業務改革の事例を紹介します。
急増するコンテンツニーズとサプライチェーン最適化の必然性
岡田祐輔(電通デジタル):企業のマーケティング活動において、顧客体験はますます重要になっています。製品・サービス自体が平均的であっても、優れた顧客体験によって成功するブランドも現れています。顧客体験こそがブランドの評価や成長に直結する時代になりつつあります。
この顧客体験を支えるのが「コンテンツ」です。最適なタイミングと文脈で届けられるコンテンツは、生活者の関心を引きつけ続けるカギとなります。
企業を取り巻く環境は、製品やチャネル、ターゲット、地域などの組み合わせが増えたことで、必要なコンテンツの量と種類が大幅に増加しています。さらに、生成AIの活用が進行する中で、求められるコンテンツの量はさらに拡大し、「膨大なコンテンツ」の効率的かつ高品質な提供が課題となっています。
これらに対応するため、統合的なコンテンツサプライチェーンの構築が注目されています。
コンテンツサプライチェーンを構築する際には、「人・プロセス・プラットフォーム」のあらゆる側面での変革が必要です。多くの企業はテクノロジーの導入に注力する一方、人財と運用にまで検討が及ばず、思うような成果を得られない例が見られます。経営層の明確なコミットメントや全社的な連携体制の変革が不可欠です。
また、自社の現在地と理想像を把握し、AI活用時には安全性と信頼性を確保し、カスタマイズ可能な生成AIを選定することが求められます。AIは業務効率化を、人は創造的判断を担う「共創」の形が理想です。
さらに、CoE(Center of Excellence)の設置や業務プロセスの再設計、共通の目標設定など、組織変革が必要となります。アナリティクスの観点では、メタデータ整備やKPI設計を行うことで初めてデータドリブンな運用が実現します。
最終的には、生成・承認・改善のループ運用によって持続的な成長を目指すことが重要です。
コンテンツサプライチェーンの導入に際して特に重要な点は、以下の4つです。
- スピードと精度を両立したパーソナライズコンテンツの制作
- 保存・検索性向上による再利用性の向上
- 成果分析によるリソースの最適化
- プロセスの標準化とAI活用による業務自動化
これらを踏まえ、自社に最適な導入方法を選ぶことが成功の鍵です。
電通グループはアドビと連携し、コンテンツサプライチェーンの構築・運用を包括的に支援しています。ブランド競争力を高める戦略的基盤として、今こそ取り組みを開始することが重要です。私たちは、クライアントの皆様にとって信頼できるパートナーとして、共に第一歩を踏み出したいと考えています。
AI時代におけるコンテンツサプライチェーン構築事例
寺尾健登(アドビ):企業が直面している課題の一つが、「生活者に適切なコンテンツを、いかに迅速に届けるか」という点です。タイミングを逃さず施策を打つためにスピードが求められる一方、大量のコンテンツを準備・展開する必要も出てきます。
この“スピード”と“量”の両方を実現するために不可欠なのが、コンテンツサプライチェーンです。サプライチェーン全体を効率的に循環させることが、マーケティング成果に直結する時代になっています。
コンテンツサプライチェーンを最適化する5つの領域
卓越した顧客体験の提供に求められる連携性
アドビでは、「制作」「配信」「分析」という各工程を、マーケターが自ら操作できるかたちでつなぐ生成AIファーストのソリューション「Adobe GenStudio for Performance Marketing」を提供しています。
テンプレートやアセットをもとに、プロンプトを入力するだけで、ブランドに即したパーソナライズコンテンツを大量に・素早く生成可能。また、FacebookやInstagramなど複数チャネルとの連携によって、配信・運用の効率化も実現します。
実際の事例として、ドイツの光学機器メーカーZEISSでは「一人ひとりに寄り添う」という理念を、多言語・マルチチャネル環境でも維持するため、アドビの技術を活用したコンテンツサプライチェーンの最適化に取り組みました。
当初はキャンペーンのパーソナライズで成果を上げたものの、多様な事業部や言語・チャネルに対応するなかで、制作現場の負担やツールの煩雑さ、アセットの管理難から、現場での活用が進まない課題が生じていました。
そこで、「現場自らがコンテンツを生成・運用できる仕組み」として、アドビの技術をベースにした「マーケティングハブ」を構築。グローバルでコンテンツを一元管理し、各国チームが自分たちで編集・生成できる環境を整えたのです。
マーケターはキャンペーン名や言語を入力するだけで、メールが自動生成。画像選定や翻訳も自動化され、承認後はAdobe Marketo Engageを通じて配信まで完了します。この仕組みにより、ZEISSは代理店コストを78%削減、業務効率も56%向上。生成AIへの投資も5年以内に回収可能な見通しを得ました。
この事例が示すのは、生成AIの導入に加え、制作から運用までの仕組み全体を最適化し、現場が使いこなせる環境を整えることが成功の鍵であるという点です。
マーケティングハブの導入により、生成・管理・配信・分析のサイクルを確立し、スピード・スケール・クオリティのすべてを高める環境が整いました。ZEISSはブランドの一貫性を維持しつつ、AI時代に即したマーケティング運用の好例となっています。
今後のマーケティングにおいて、コンテンツサプライチェーンの最適化は「最優先課題」と言えるでしょう。その実現には2つの要素が必要です。1つは確かなテクノロジー、もう1つは戦略策定から現場展開までを共に推進するパートナーの存在です。
アドビがテクノロジーを、電通デジタルが伴走型のパートナーを担い、両社が一体となってサプライチェーンの構想から導入、運用まで一気通貫で支援いたします。
次世代コンテンツサプライチェーンの実現に向けて
潮田健一郎(電通デジタル):dentsu Japanが掲げる「AI For Growth 2.0」は、AIと人が互いに高め合いながら進化していくというビジョンを掲げています。この方向性は、クリエイターに自由な表現の場を提供するというアドビの理念とも深く共鳴しています。
その中核には、dentsu Japanが保有する独自データを活用した2つのAIモデルがあります。一つは、日本の1億人規模の生活者をシミュレート可能な「People Model」。もう一つは、コピーライターやアートディレクターなど、創造的思考を学習した「Creative Thinking Model」です。
これらのモデルを生かし、dentsu JapanではAIアプリケーションの開発や、統合マーケティングAIエージェント導入支援など、マーケティングプロセス自体の変革に向けたプログラム展開を進める予定です。
次世代のコンテンツサプライチェーンは、生成AIの力を最大限に生かし、大量かつ高品質なコンテンツをスピーディーに届け続けるためのプロセスの革新です。
Adobe GenStudioを中心としたコンテンツ制作プロセスを自動化・効率化する各種ソリューションと、dentsu Japanが提供するコミュニケーションやコンテンツの企画・開発を高速化するAIソリューションが組み合わさることで、強力な次世代コンテンツサプライチェーンを構築することができると考えています。
具体的な連携事例として、電通デジタル提供のAIソリューション「∞AI Ads」があります。今後リリース予定のバージョンでは、これまでの訴求軸の設定や生成、効果予測、改善提案に加え、Adobe FireflyやPhotoshopのAPIを活用してバナー生成も自動化できるようになります。これはまだ部分的な連携となりますが、今後はコンテンツサプライチェーンを横断したソリューション連携を構想しています。
また、生成AIによるコンテンツ量産が進む中、今後はクリエイターがAIをディレクションし、トレーニングする能力の重要性がさらに高まるでしょう。AIを使いこなせるクリエイターが数多く存在することも、dentsu Japanの大きな強みになってくると考えています。
2024年末より、電通グループとアドビの「Global Scaled Creative & Content Agency」としてパートナーシップを締結しました。その一環として、現在はアドビ自身が最初の導入企業となるかたちで、コンテンツサプライチェーン構築を共に推進しています。
WorkfrontやAEMなど基盤ツールの導入から着手し、GenStudioのパフォーマンス機能なども試験適用。段階的にトライアルを重ねることで確かな手ごたえを得た部分から順次実運用に移行する、という形で取り組みを進めています。そこで得られたノウハウや知見を今後クライアントへの導入に生かしていきます。
私たちはいま、マーケティングの大きな変革期に直面しています。そのカギを握るのが、まさに次世代コンテンツサプライチェーンの構築です。皆様にもぜひ、この変化の波にどう向き合うか、今こそ議論を始めていただきたいと考えています。
すべてを一度に実現するのは容易ではありません。「どこからどう始めていくべきか」といった初期段階から、クライアントと一体となって進めていきたいと思います。
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お問合せ詳細欄に「コンテンツサプライチェーン革命に関して」と記載してください。
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