金融業界は今、大きな変革の時を迎えています。顧客のニーズは多様化し、テクノロジーも急速に進化しています。その中でも、Z世代へのアプローチが急務となっていることは、すでに多くの金融機関が認識している問題です。どうすれば若い世代の心をつかみ、未来の顧客として育てていくことができるのでしょうか? 本記事では、電通デジタルとMILIZEのメンバーが金融業界の現状や課題を明らかにし、Z世代向けの戦略的アプローチと、その解決策を探ります。
「金利のある世界」で浮上するZ世代戦略
――現在、金融業界はどのような課題を抱えていますか?
MILIZE・渡邊素行氏:異業種企業やフィンテック企業の参入で、金融商品やサービスの選択肢が大きく広がっています。NISAやiDeCoといった制度の整備も進み、法人・個人を問わず、顧客にとっての「金融商品の選び方」はますます多様になってきました。つまり、金融機関は「選ばれる立場」になったということです。
これからの金融機関は、単なる金融業ではなく、金融サービス業として進化する必要があります。
では、金融サービス業とは何かというと、顧客の人生のさまざまな場面――たとえば就職、結婚、出産、住宅購入、子育て、老後など――に合わせた金融ニーズに、しっかり応えることができる存在のことです。金融サービス業では、顧客一人ひとりの人生に寄り添い、その都度必要なアドバイスや商品・サービスを、顧客が望む適切な方法でタイミングよく届けることが求められます。
しかし、実際には多くの金融機関が、そうしたビジョンを持ちつつも、まだそのような存在まで達していないのが現状です。「このままではいけない」という危機感は持っていても、デジタルを活用した金融アドバイザリープラットフォーム構築に向けては、顧客体験設計から商品・チャネルの高度化、AI・データの利活用、マーケティング基盤の整備までやるべきことが多くあり、では具体的に何から手をつければいいのか、その一歩を踏み出せていない。それこそが、今の金融業界が直面している大きな課題だと考えています。
――具体的なマーケティング施策として、Z世代を対象としたアプリやサービスの開発、SNS戦略などに取り組む動きが見られます。金融機関が今、Z世代に注目する背景にはどのような理由があるのでしょうか?
渡邊:最近、金融機関がZ世代に注目し始めた背景には、大きく2つの理由があります。
1つ目は、金利が上昇し「金利のある世界」に移行したことです。たしかにZ世代の若年層は、1人あたりの預金額こそ大きくはないかもしれませんが、金利の恩恵を踏まえれば、採算が見込めるようになってきています。
2つ目は、顧客の高齢化に伴って資産の世代間移転が急速に進んでいることです。若年層との接点がなければ、そうした資産は他の金融機関へ流出してしまう可能性が高い。特に地方銀行や信用金庫では、この点に対する危機感が高まっています。
こうした状況を踏まえ、昨年10月に開催された「FIT2024(金融国際情報技術展)」では、電通デジタルと共同で「Z世代攻略〜金融マーケティングの新たな潮流」というテーマでセミナーを実施しました。出席された金融機関の方々から予想以上に多くの反響をいただき、金融機関にとってZ世代との関係づくりが、いかに喫緊の課題として認識されているかをあらためて実感しました。
Z世代の顧客獲得を支援する「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」
――2023年6月に、電通デジタル、MILIZE、みらいスコアの3社は、業務提携をしました。業務提携後、共同で開発した「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」について教えてください。
電通デジタル・中本:「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」は、金融機関の事業成長を支援する次世代ソリューションです。
このパッケージは「Z世代理解」「戦略施策検討」「リリース」という3つのステップで構成されており、ワークショップを通じて得られたインサイトをもとに具体的な施策を検討し、実行までを一気通貫で支援します。すべてのステップで私たちが丁寧にサポートし、最後まで伴走するのが特徴です。
アプリやサービス開発においては、電通デジタルの開発チームだけでなく、MILIZEが提供するフィンテック系アプリの活用も可能であることが、大きな強みとなっています。
電通デジタル・戸田:基本的には、ステップ1から3までを一貫してご支援する形をとっていますが、金融機関ごとに抱える課題が異なることも理解しています。
たとえば、「何が課題かわからない状態」「すでに取り組みを始めているがうまく進んでいない状態」「既存のサービスをさらに成長させたい状態」など、それぞれの状況に応じたピンポイントの支援にも柔軟に対応可能です。こうした個別対応ができる点も、「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」の大きな特長だと考えています。
渡邊:「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」は、Z世代の顧客に関する課題を解決するだけでなく、金融機関で働くZ世代のポテンシャルを引き出すことにもつながると考えています。
本来、こうした課題の最前線に立つべきなのは、まさにZ世代の職員の皆さんです。しかしながら、先行してZ世代ワークショップを開催していただいた山陰合同銀行様ほか一部の金融機関を除き、金融機関特有の組織構造の中で、若手が企画の主たる担い手になる機会は限られているのが現状です。
その点、このパッケージに含まれるワークショップは、所属や役職にとらわれず、多くのZ世代の方々に参加いただける設計になっています。「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」は、彼らの意見やアイデアを引き出し、それをサービスという形で実現できる仕組みでもあるのです。
――「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」における、電通デジタルとMILIZEの強み、それぞれを教えてください。
電通デジタル・水藤:まずは、電通デジタルの強みについてお話しします。
今回のソリューションでは、Z世代に特化した社内チーム「YNGpot.(ヤングポット)」を活用しています。YNGpot.は、Z世代のメンバーだけで構成されたチームで、コンサルティングやクリエイティブといったさまざまな分野の専門家が社内横断で集まっています。現在は約40名が所属しており、月に1回、Z世代のトレンドを分析する分科会を開催しています。
「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」においても、YNGpot.のメンバーが複数参加し、Z世代ならではの視点と、金融の文脈を掛け合わせたさまざまな施策を提案しています。Z世代のリアルな声と、専門的な知見の両方を生かせる点が大きな強みだと考えています。
MILIZE・西山朗央氏:MILIZEの強みは、大きく3つあります。
まず1つ目は、ライフプランシミュレーションや家計診断など、AIや金融工学を駆使した非常に多くの金融シミュレーションツールを保有している点です。これらを活用することで、既存の仕組みをベースにカスタマイズして提供できることが多く、コストやスケジュールを抑えられるというメリットがあります。
2つ目の強みは、金融業界出身のメンバーが多く在籍していることです。単に金融ビジネスの知識があるだけでなく、金融機関ならではの組織文化や意思決定のプロセスに対する理解も深く、それを踏まえた現実的で実行可能な提案ができるのが特長です。
そして3つ目は、AIやDXに関する先進的なソリューションを豊富に持っていることです。これにより、最新技術を活用した提案や、業務の効率化・高度化に向けた支援が可能となっています。
こうした技術力と業界理解の両立が、MILIZEの強みだと考えています。
山陰合同銀行にてワークショップを実施、 Z世代向けの具体的なアイデアを創出
――昨年末に実施した、山陰合同銀行の「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」ワークショップについてお聞かせください。
中本:山陰合同銀行様は、山陰地域で最大の資金量を誇る地方銀行です。
しかし近年、顧客の高齢化や地域全体の人口減少といった課題に直面しており、Z世代に向けた施策の強化に力を入れています。今回実施したワークショップも、そうした取り組みの一環として行われたもので、Z世代のインサイトを深く理解し、新たな金融サービスのアイデアを創出することが目的です。
当日は、電通デジタルから3名(中本、水藤、YNGpot.のメンバー1名)、MILIZEから1名(西山さん)がテーブルファシリテーターとして参加しました。山陰合同銀行様からは、20代から40代まで幅広い年代の職員の方、約20名にご参加いただきました。ワークショップは、次のような流れで行われました。
- 若年層が銀行を選択して、口座を開設し、各種サービスを利用するまでのプロセスにおけるインサイトとペインポイントを整理する
- インサイトとペインポイントから解決すべき課題を特定する
- 解決策を検討し、その実効性を評価する
ワークショップでは、独自の工夫により創造的なアイデアを引き出しました。まず、ファシリテーターを含めてZ世代のメンバーを中心に構成されたグループを設け、彼らの価値観を直接反映させるボトムアップ方式を採用。これにより、Z世代当事者が自らの経験や視点から自由に意見を出し合うことができました。
さらに、YNGpot.のノウハウとして最新事例を提供し、具体的な打ち手の検討材料としまたこともポイントです。このプロセスでは、若年層の購買意欲の源泉や解決したいペインポイントの洗い出しを行い、現実的かつ実効性のある解決策を見出しました。具体的には、人気のキャラクターやアイドルを応援する「推し活」を銀行アプリ機能に組み込むといった案が挙がりました。
西山:参加者の皆さんからは、前向きな感想を多くいただきました。一方で、「Z世代の特徴を理解したうえでインサイトを深く探るのが難しかった」「ペルソナやカスタマージャーニーを考えるのに苦戦した」「斬新なアイデアを出しても、それをどう現実的な形に落とし込むかが難しかった」といった声もありました。
皆様にとって、今回のワークショップは、普段とは異なる視点で思考を深める機会になったのではないかと感じました。
Z世代に向けたサービスを開発するために必要なこと
――「金融機関向けZ世代攻略パッケージ」について、今後の展望をお聞かせください。
電通デジタル・酒井:このパッケージを活用し、Z世代とお金の距離を縮めるような取り組みを進めていきたいと考えています。私自身がZ世代だからこそ感じることですが、資産形成や人生設計と言われると、どうしても少し身構えてしまいます。一方で、将来に対する小さな不安を抱え続けており、「何もしないわけにはいかない」という気持ちもあります。こうしたZ世代ならではのモヤモヤとした気持ちを、クライアント企業の皆様と一緒に解消していきたいと思っています。
戸田:Z世代をターゲットにしたサービスを開発するにあたっては、やるべきことは多岐にわたりますが、その整理から始めることができるのが私たちの強みだと考えています。課題がまだはっきりしていないと相談しづらいかもしれませんが、問題点を認識したうえで、何を課題として取り組むべきかを一緒に明確にしていくお手伝いをさせていただきたいと思っています。
渡邊:金融機関は今、大きな転換期にあります。社会構造や消費者の価値観が多様化し、テクノロジーも進化しています。それに合わせて、金融機関もそのあり方を変えていく必要があります。こうした取り組みは大変な面もありますが、やりがいを感じるすばらしい仕事でもあります。しかし、同時にその難しさやプレッシャーは非常に大きいと感じており、私たちは、そうした困難を少しでも解消するお手伝いをしたいと思っています。
改革を進めるためには、社内外に共通の思想を持った、信頼できるパートナーが必要です。もしそのパートナーとして、電通デジタル・MILIZEチームを選んでいただけるのであれば、嬉しく思います。チームワークが我々の強みです!
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