マーケターの皆さんが収集したデータを活用する上で気になる点の一つは、「データの精度」ではないでしょうか。
データ精度に大きく関わるトピックとしては、AppleのITP(Intelligent Tracking Prevention)があります。簡単に言えば、個人情報の保護を目的として、SafariブラウザのCookieを規制し、Webサイトのトラッキングを防止する機能です。
この機能により、収集したデータについて精緻な「ユーザー識別」ができず、ユーザーのLTVが把握しづらい状況となっています。
この課題を解決するためにアドビ社が新たな方式として開発したのが、「First Party Device ID(以下FPID)」です。FPIDは、Adobe Analyticsを含むAdobe Experience Cloudの製品上で使えます。FPIDがこれからのデータマネジメントにいかに重要であるか、その仕組みや導入方法について、電通デジタル テクノロジートランスフォーメーション第2部門 データアクティベーション第1事業部の立井理加が解説します。
ITPとデータマネジメント
ブラウザのCookieに保存された情報をキーに個人識別に活用しているアナリティクスツールやWeb広告ツールは、大なり小なりITPの影響を受けています。Googleからは2024年7月、2025年に予定していたサードパーティCookie廃止を断念するという発表がありましたが、私見としてはデータ規制に少しだけ猶予ができたという見解です。企業におけるデータマネジメント整備が必要かつ重要なことに変わりはないと考えます[1]。
皆さんに常に気にしていただきたいのは、収集しているデータは、どんな条件、タイミングで取得されているのかという「定義」と、そのデータの「精度」は維持されているのかということです。
データの「定義」は、サイトのKPIを設計した段階で把握していると思いますが、正しい「精度」が維持されているかが重要です。たとえば、サイトリニューアルや新規コンテンツ公開時などにデータ定義が変更されていないか、チェックが必要です。
特にアナリティクスツールで自動取得されているデータは、ツール自体のアップデートなども影響することがあるので、注意が必要です。不明な場合は、アナリティクスツールのサポート担当者に確認しましょう。
今回のFPIDには、「ユーザー」に関するデータの定義が関わっています。Cookieを使った技術では、「ユーザー」を「ブラウザ」単位で把握しています。たとえばITP以前は、同じブラウザからアクセスしたのであれば、1年に1回の訪問であっても同じユーザーのアクセスとして追跡し、データを保存することができていましたが、ITP実装後は「別人の新規訪問」として捉えられるようになりました。これはデータ精度上の大きな問題ですが、FPIDはこの「精度」の問題を解決するためのすばらしい手法です。
AdobeアナリティクスのFirst Party Device ID(FPID)とは?
「FPID」はアドビ社の新しいID方式です。Adobe Analyticsでは、アドビ社が個人の識別に使っている「ECID(Experience Cloud ID:ECID)」機能があります[2]。ECIDで管理している「ユーザー」は、Adobe Analyticsのほか、AdobeTargetなどのAdobe Experience Cloudの製品内で共有できます。とても便利ですが、このECIDはCookieを活用した機能なので、ITPの影響は否めません。そこでFPID方式を並行して利用することで、Cookieの有効期限を気にすることなく、ユーザーを追跡することができます。
FPIDは、自社で準備したサーバーを使ってIDを発行し、そのIDをアドビ社のサーバーに送信してECIDと紐づけ、ECIDの値をブラウザに戻すことで常に同じECIDを維持し、ユーザー識別を継続させる仕組みです。FPIDは実装上の条件はありますが、Adobe Analyticsを契約しているすべての企業が無償で利用することができます。
FPID導入への準備
FPID方式を導入するにあたっての必要な準備は下記になります。
①Adobe Experience Platform Web SDK(以下Web SDK)の利用
前述の「実装上の条件」として一番ハードルが高いのがこちらかもしれません。Adobe AnalyticsはAdobe Experience PlatformでのAppMeasurementライブラリベースの「Adobe Analytics拡張機能」を使った実装が現在は主流ですが、FPIDを導入するには、2024年10月時点で最新の方式であるWeb SDKを使った計測方法へ変更が必要です。
マーケティングツールが新しい方式になるということは、今までできなかったことが機能として追加されるような「進化」が伴います。常に最新のバージョンを維持することもマーケティングの必要コストとして考え、計画していただくことをお勧めします。電通デジタルはもちろんWeb SDK実装への計測方法の移管も対応しておりますので、ご相談ください。
②Adobe Experience Cloud ID Service(ECID)の利用
FPID方式はECIDを利用した機能ですので、ECIDの利用は必須です。
③アドビ社へのAdobe Experience Platform Edge Network(Edge Network)の利用申請
Edge Networkは、アドビ社が提供するデータ収集用のネットワークです。Web SDKを利用することでユーザーのアクションデータはいったんEdge Networkへ送信され、その後Adobe Analyticsへ転送されます。WebSDK利用開始時にアドビ社のカスタマーサポートへ利用申請をしましょう。
④アドビ社へのCNAME利用申請
ドメインの「CNAME」設定を利用して、アドビ社サーバーによってファーストパーティCookieが設定されるための申請をします。こちらもアドビ社のカスタマーサポートへ利用申請をしましょう。
また、クロスドメインサイトでもFPID方式を利用することは可能です。その場合はサイトを構成するドメインをすべて申請しましょう。
ただし、クロスドメインを設定する場合は、サイトのユーザー遷移などの設計内容によってはFPIDの精度が落ちてしまう可能性があるので、サイト全体を一意のドメインで統一して利用することを推奨します。
⑤FPID発行用の自社環境を用意する
ユーザーのブラウザ情報をもとにFPIDを発行するための自社サーバーを用意します。サイトの構築や運用にAdobe Experience Manager(以下AEM)を利用されている場合は、AEMをWebホストとして利用してFPIDを生成し保持する方法も可能です[3]。
⑥サーバーエンジニア、フロントエンジニアのアサインと予算の確保
FPIDに対応するにあたって、人材と予算の確保も大事な準備です。予算は、イニシャルの導入費用とランニング費用(サーバー維持費や運用費用)などです。サーバー関連作業を行う人材は自社内でアサインする方法のほか、一部を外部にアウトソーシングする方法なども含めご検討ください。
まとめ
FPIDは、「個人をIDで管理し、識別する」という考え方に基づいたデータガバナンスの歴史が長く、経験値が豊富なアドビ社だからこそ実現できた方式です。データの精度を上げるということは、パーソナライズ施策などの精度が上がるということにつながります。
将来的に、AIや機械学習のために取得したデータの活用を考えるのであれば、高精度のデータが必要不可欠です。自社サイトで取得したデータの精度を見直して、成果につながる「データ活用」を実現できるデータマネジメント環境をぜひ構築してください。
電通デジタルが支援できること
電通デジタルはアドビ社のプラチナパートナーであり、社内にはアドビ社製品の認定資格を保有する専門家が多く存在します。これまでにアドビ社製品を軸としたデータ活用支援や施策支援などを、多数実施しております。
- Adobe Analyticsの新規導入、既存導入サイトのWeb SDKへの移管、難易度の高いカスタムデータ取得(PDF計測、動画計測など)、分析支援
- Adobe Targetの施策支援(実装、施策策定支援など)
- Adobe Experience Platformに関連した対応(FPID導入など)や、データガバナンスの策定、整備支援など。
また、事例の少ないFPID方式について、他社に先駆けて豊富な導入実績があります。電通デジタルであれば、FPIDの導入とWebSDKの同時対応が可能です。
具体的な導入・運用支援サービスに関する資料が、以下よりダウンロード可能ですので、ぜひご覧ください。ご相談をお待ちしております。
「Adobe Analytics & Adobe Target 導入・運用支援サービスのご紹介」資料ダウンロード
脚注
1. “A new path for Privacy Sandbox on the web”. The Privacy Sandbox.(2024年7月22日)2024年10月29日閲覧。
2. “ECID の概要”. Experience League.(2024年1月25日)2024年10月29日閲覧。
3. “AEM Sites を使用した Experience Platform FPID の生成”. Experience League.(2024年5月15日)2024年10月29日閲覧。
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