電通デジタルは、2021年から「AI活用型CRO(コンバージョン率最適化)」であるゴールデンパス分析を提供し、多くの企業のWebサイトで成果を上げてきましたが、生成AIの発展に伴い、ゴールデンパス分析が大きく進化しました。本記事では、電通デジタルCROチームのコンサルタント3人が、進化したゴールデンパス分析とCROコンサルティングの実施事例を紹介します。
CVに寄与するパス分析の質と量がAIで進化
――最初に、CROとゴールデンパス分析について、どういうものなのか教えてください。
福島亮介:CROとはConversion Rate Optimization(コンバージョン率最適化)の略で、WebサイトのCVR(コンバージョン率)を向上させる取り組みです。GA4(Googleアナリティクス4)やヒートマップなど、さまざまなデータをもとに分析を行い、現状の課題から改善のための打ち手を検討、立案、実施していきます。
ゴールデンパス分析とは、電通デジタルが独自に行う行動分析手法の名称です。ユーザーがCVに至るまでのルートは非常に多岐にわたりますが、詳しく行動パスを分析すると、CVに寄与する太い導線、すなわちゴールデンパスが見えてきます。これを見つけることで効率的な改善手法の検討・実施につながります。
ユーザーがCVに至るまでの行動と、CVR、離脱率の相関に注目して、ユーザーの体験を改善することで、CVRを向上させる手法である点が特長です。
――ゴールデンパス分析において、生成AIの活用はどのように進化したのでしょうか?
福島:進化した点は2つあります。1つ目は、分析の質の進化。生成AIで各ページのコンテンツを要約し、内容を加味したデータ分析を行えるようになったことです。
通常のアクセス解析や分析においてはURLやタイトルを使った整理になりますが、ページの内容を含んで読み解くことで「なぜこのページの後にこっちのページに行くのか?実は知りたいことが解決できていないのではないか?」といったユーザー行動の背景にあるニーズの考察は、アナリストが時間をかけていた部分でした。しかし、生成AI活用で大きく効率化できています。
2つ目は、分析の量の進化。膨大な行動データの中から重要な行動・パスの抽出を行い、言語化まで行えるようになったことです。
一般的に、深い分析を行うためにはデータ量が増え、それに伴い作業工数も増えていきます。また、すべてを説明しようとするとアウトプットも膨大になるため、結果を聞くクライアント企業の担当者が疲れてしまいます。100個の事実から100個の考察を考え、重要な示唆に絞り簡潔に整理することは、まさに生成AIが得意とするところだと思います。
いずれも従来は専門的な経験を積んだアナリストが、膨大なデータをもとに行っていましたが、生成AIが一部代替できるようになったことで、トータルの分析時間を短縮でき、分析精度も向上しています。これにより、課題を整理し、打ち手を検討する作業にリソースを集中できるようになりました。
エネルギー企業サイトの分析事例:複数のCVの特徴と横断的な行動を踏まえた分析が効果的な打ち手立案につながった
――進化したゴールデンパス分析を使った事例を教えてください。
安達麻希子:1つ目は、エネルギー業界大手企業のサービスサイトです。提供サービスが多く、そのうえ1つのサービスに複数のCVポイントがある状態で、人力だけによるCROが難しい状況でした。そこでまずは主要4サービスのゴールデンパス分析とCROを行いたいというご依頼を受けました。
生成AIを活用することで分析時間を大幅に短縮し、改善施策の検討に十分なリソースを割くことができたため、さまざまな施策を提案することができました。
――どのような施策を提案したのでしょうか?
安達:1つ目は、サービス間の導線改善です。4サービスはそれぞれ関連していましたが、分析した結果、サービス間の行き来には方向性が見られました。サービスAとBは特に関連性が強く、サービスAからサービスBへの遷移は多く、その逆の遷移はほとんどなかったのです。このことから、サービスAの検討ユーザーは、サービスBも併せて考慮していることが多い一方で、サービスBの検討ユーザーは、サービスBに焦点を当てていることが明らかになりました。
そこで、サービスAのページを長時間見ているユーザーに対して、サービスBを案内する仕組みの導入を提案しました。クライアント企業の担当者からは、「自社分析では出てこなかった視点」ということで、非常に喜んでいただきました。
2つ目は、ネガティブパスに対する施策です。WebサイトのCVは「Webでの申し込み」なので、その導線がゴールデンパスになり、それ以外の導線や離脱はネガティブパスとなります。ただ、サービスAのWebサイトではネガティブパスの中にお急ぎで電話での申し込みを希望するユーザーがいることも分析でわかりました。
そこで、ページ内の目立つ場所に電話番号を記載し、もしユーザーが迷っているようなら電話番号をポップアップで出すことを提案しました。
3つ目は、商品の選び方ページからCVページへの導線改善施策です。商品の選び方ページからダイレクトに申し込みページに誘導すると、離脱予兆が高まることがゴールデンパス分析から明らかになりました。
また、生成AIにて商品詳細ページへの遷移はCV予兆となっている示唆を得ました。ヒートマップで深堀分析したところ、リンクが貼られていない商品画像のクリックが多く発生しており、ページ下部にある各商品ページへのリンクの需要も高いことが分かりました。
そこでじっくりと商品を検討し、納得した上で決断したいユーザーが多いというインサイトをもとに導線改善を提案しました。
これら以外にも多くの施策を提案しており、現在クライアント企業側で整理しているため、順次実装していきます。同時にA/Bテストを実施して、改善施策にどれぐらいの効果があるのか、検証を行う予定です。
英会話スクールの分析事例:ユーザーのニーズ分析が20個もの改善施策を導き出した
板倉朱音:2つ目の事例は、英会話スクールのサービスサイトです。「対面レッスン」「オンラインレッスン」「子ども向けレッスン」があり、すべて「無料体験の申し込み」がCVです。
ページによっては、CVへの貢献度が判別しにくいこともあります。ゴールデンパス分析では、そういったページをすぐに発見できるので、深い分析をする入り口がわかりやすいのは、大きな特長だと思います。
生成AIと人の手のハイブリッド分析によって、通常のアクセス解析よりも多様な角度から課題をあぶり出すことができ、最終的に約20個の改善施策を提案しました。
――改善施策の内容を教えてください。
板倉:「対面レッスン」では、価格訴求やキャンペーンだけでなく、レッスン内容の詳細を知ってもらうことがCVに大きく貢献することがわかりました。そこで、レッスン内容詳細ページへの導線改善や、訴求ボタンのテキスト・デザイン改善など、よりレッスン自体の魅力をアピールする施策を提案しました。
「オンラインレッスン」は、LP(ランディングページ)やトップページから直接申し込みフォーム(CV)に行くゴールデンパスが圧倒的に太いという特徴があります。CVが多いことは喜ばしいことではありますが、一方でクライアント企業としては、申し込みの前にしっかりレッスン内容を理解してほしいという意向がありました。その意向を反映するために、サービス内容を紹介するページへの誘導を強めるなど、回遊性を高める導線に改善する施策を提案しました。
「子ども向けレッスン」は0歳から中学生までが対象です。当然Webサイトはある程度の年齢別に区切って作られていますが、例えば0歳と小学1~2年生の親ではまったく違う点を重視しているなど、ニーズの幅が広いという特徴があります。そこでそれぞれの年齢に応じたニーズを、パスの動きや離脱傾向から予測して仮説を立て、それに応じた導線改善の提案を行いました。またニーズに合うコンテンツがない場合は、追加コンテンツの提案もしています。
この事例に限らず、CROチームから提案するのは、導線を改善してCVRを上げるための施策が多いのですが、長期的な視点に立つと、ブランドや製品・サービスへの深い理解や愛着も売上を向上させる大事な要素です。
Webサイトを分析すると、せっかくいいコンテンツがたくさんあるのに、見てほしい順番で見てもらえていないとか、深い階層に埋もれてしまっていることも多いので、「コンテンツを見てもらえる工夫をしませんか」と最初に提案するようにしています。
こうしたことを客観的なデータを交えて、説得力をもって提案することができるのも、ゴールデンパス分析の強いところだと思います。
「CVRの打ち手をやり尽くした」「LP1ページだから分析は不要」などの場合も有効なアプローチ
――ゴールデンパス分析は、特にどのような課題を抱えているWebサイトに有効でしょうか?
福島:ECサイト、ブランディングサイト、コーポレートサイトなど、Webサイトの種類を問わず、CVを設定しているすべてのWebサイトで実施していただきたいですが、あえて言うならば、「CVRを向上させたいが、考えられる打ち手はやり尽くした」というWebサイトには特に有効です。
CROで成果を上げるには、分析と施策を継続することが大事です。ゴールデンパス分析は、ユーザーニーズをデータから浮き彫りにできるところが大きな強みで、分析結果から出される改善示唆によって、人だけでは思いつかないような打ち手がたくさん可視化されます。
これらを1つずつ実施すれば、必ず成果は出ます。LP改善などの施策は実施していても、導線や文脈で読み解くという手法を採用しているWebサイトはまだそう多くないと思いますので、ぜひ一度お試しいただきたいです。
もちろん、CVR改善の取り組みをやったことがないWebサイトや、広告のLP1ページしかない場合などにおいても有効です。その場合は、グロースの体制や運用フロー構築から伴走することもできますのでお気軽にご相談ください。
――CROグループおよびゴールデンパス分析について、今後の展望と目標を教えてください。
福島:生成AIのカバー範囲と出力精度を高めていきたいですね。今後はWebサイト以外のデータ、たとえば企業がお持ちのファーストパーティデータやSNSデータと組み合わせて分析することができるようになれば、より精度の高いゴールデンパス分析が可能になるはずです。ユーザーの解像度を上げ、深いインサイトを分析し、いまあるページの改善だけでなく、新たなコンテンツ提案にもつなげていきたいと思っています。
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