データクリーンルーム活用を当たり前にする 電通×電通デジタルで取り組む浸透戦略とは

――改めてデータクリーンルームの重要性を教えてください。

電通デジタル・鈴木悠真：デジタル広告が当たり前に活用されるようになった今、広告管理画面上での指標だけではなく、より広告主の事業指標に近い指標（売上・来店・ROIなど）でその成果・貢献度を図りたいというニーズは年々増加しています。そのニーズの増加に合わせて、生活者の個人情報を特定しない形でID単位のデータを分析できるデータクリーンルームの重要性は、ますます大きくなっている状態です。

電通デジタル・仲井翔平：通常の広告管理画面上では、配信量など一般的な広告指標が確認できますが、どんな消費者に広告を見てほしいかは広告主ごとに異なります。例えば、その配信量の中でどれだけその商品を本当に求めているユーザーにアプローチできているかなど明らかにしたいことに対して、柔軟に分析設計できることがデータクリーンルームの特長です。

――そのような重要性が高いデータクリーンルームですが、電通グループでは現在どのような開発が進んでいるのでしょうか？

電通・平川真一郎：電通のDTC（データ・テクノロジーセンター）では、様々なプラットフォーム事業者のデータクリーンルーム提供や外部データの拡張を行っています。2022年には、より横断的な活用を目指したTOBIRAS（トビラス）を開発しました。

これまでは、プラットフォーム事業者単位での分析となっていましたが、TOBIRASは複数のデータクリーンルームの横断分析を実現するマーケティング基盤です。これにより、0次分析、広告配信、その後の効果検証がワンストップで可能になります。また、データの高度活用においては、分析担当者以外でも利用できる環境整備が必要です。そのために、SQLなどの知識がなくてもデータ分析ができる独自の業務システムの開発も現在進めています。

――電通と電通デジタルで、データクリーンルームのグループ内理解浸透とセールス支援を目的としたプロジェクト「KAKERU（カケル）」が発足しました。KAKERUについて、教えてください。

平川：先ほどお伝えしたように、電通グループでは現在積極的にデータクリーンルームに関する「開発」を進めています。また、そのデータクリーンルームを活用して、様々な広告主に対して分析・コンサルティングを行う「提供・サポート」体制も年々強化しています。つまり、データクリーンルームを広告主に対して開発・提供する体制は非常に強固になっているのですが、「広告主」の皆様に当たり前に活用していただくためには、もう１つ大きなポイントがあると思います。それは、電通グループ内でのデータクリーンルームの「浸透」です。

電通グループには、データの専門家以外にも様々な領域におけるプランニング・クリエイティブ・コンサルティング等の専門家が多数います。そういった電通グループのメンバーにも日々進化を続けるデータクリーンルームの最新状況が「キャッチアップ」でき、「当たり前に」日々のプランニング・コンサルティングに活用できるようにするためには、電通グループ内における「環境整備」も重要になってきます。そういった課題感が現場メンバーから出たことで発足したのがこのプロジェクトです。

現場発信のプロジェクトですので、プロジェクトメンバーも会社の垣根をこえて電通と電通デジタルのメンバーが協働しています。データクリーンルームを「電通グループの強み」×（カケル）「もっと当たり前に」活用できるソリューションにすべく、電通グループ横断組織が一致団結してカケあわさっている、という想いがプロジェクト名に反映されています。

鈴木：これまでも電通グループにおける「浸透」はもちろん行っていましたが、各データクリーンルームのソリューション単位で行うことが多かったのが実情です。我々のプロジェクトでは、データクリーンルームソリューションを「横断的」にかつ、「データクリーンルームでできること」をシンプルに発信するのではなく、「現場の課題感や広告市場におけるトレンド（≒マーケットイン）」に合わせた形に言語変換して発信することで、より多くの電通グループメンバーが活用しやすい状況を作りだしていくというのが大きな戦略です。

――KAKERUでは具体的にどのような施策を実施していますか？

仲井：このプロジェクトでは大きくデータクリーンルームにおける「グロース戦略」と「ナレッジ戦略」の2つに分けて推進を行っています。

「グロース戦略」では、より多くの電通グループメンバーに「横断的に・マーケットイン視点で」データクリーンルームを知ってもらうことが大きな目的になっています。 

具体的な実施事例の１つ目は、2024年3月にdentsu Japan全体を対象にした「データクリーンルーム WEEK」というイベントの実施です。ここでは、日々成長する各プラットフォームのデータクリーンルームに関する最新情報をすべて集約しました。データクリーンルームの最新状況を１週間ですべてキャッチアップできるこの企画は非常に反響を呼び、累計1300人以上の集客に成功しました。参加者とは定期的にメルマガなどでコミュニケーションをとる関係性も作れていて、問い合わせをいただく機会が増えました。また、ここで発表された内容は動画コンテンツ化してアーカイブしており、新卒や中途社員向けのコンテンツとして活用されています。このイベントは、今後も年に1回の頻度で続けていきたいと考えています。

 鈴木：具体的な事例の2つ目が「業種別データクリーンルーム勉強会」です。これは、「データクリーンルーム WEEK」で提供した基礎知識を土台に、特定の業種ごとの成功事例や、導入を進めていくうえでのノウハウなどを提供することが目的です。この勉強会はいわゆる「分析ソリューション」としての紹介ではなく、フロントの方やプランナーの方をお呼びして、データクリーンルームの課題感や実施までのリアルな声、つまりマーケットインをフックとした勉強会となっています。隔月程度で実施し、毎回100人前後が出席して満足感もかなり高い状況です。

仲井：「ナレッジ戦略」では、より多くの電通グループメンバーに「横断的に・マーケットイン視点で」データクリーンルームに関するノウハウを蓄積・共有してもらうことが大きな目的になっています。

具体的には、これまでは各データクリーンルームの開発を担当する部署がそれぞれ事例記録を作ってきましたが、今回KAKERUではデータクリーンルーム横断というフォーマットで事例集約を行っています。また、この事例集約はすべて「現場における課題」ベースでカテゴリー化されており、現場が抱えている課題に合わせて何ができるか、という形に言語変換しながらコンテンツ化して、より多くの人が活用できるコンテンツとして定期的なアップデートを繰り返しながら情報発信しています。 毎月数百人が閲覧する、人気のコンテンツとなっています。また、最新の事例をもとにした、ソリューションパッケージを開発しリリース後すぐに多くの反響をいただいている状況です。

――どのような課題を抱えている企業にデータクリーンルームを活用してほしいと考えていますか？

平川：あらゆる企業において、広告管理画面の数値をもとにしたレポートと同じように、データクリーンルームで分析することを当たり前の世界にしたいと考えています。各データクリーンルームを横断して分析できるソリューションの提供自体は、電通グループ以外にも出てくると思いますが、これまでのデータアナリストの経験値、横断分析のロジック、業務ツール、深掘りして分析するためのデータの優位性に加え、TOBIRASの開発を進めています。また、専門的なデータを持っているデータパートナーとのデータ活用を次々と進めており、最先端の分析環境を構築し、競合優位性を維持していくことに努めています。

鈴木：データクリーンルームは、企業の事業成長の要となり得るすばらしいソリューションです。その良さを広めるには、データクリーンルームソリューションの開発や広告主への提供と同じぐらいの熱量で、電通グループ内での浸透も「データクリーンルームを当たり前に」するためには大事だと考えています。これを現場主導で立ち上げたことと、電通グループ全体を対象に活動していることは、「One Dentsu」の思想にもつながっていければいいなと考えています。

また、このプロジェクトはまだまだ進化を続けようと思っており、今のグロース戦略・ナレッジ戦略はもちろん、「横断×マーケットイン」をベースにした分析ソリューション開発などにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

仲井：これまで試行錯誤して広告運用を行ってきましたが、もっと他のデータも活用して、広告の精度と成果を高めたいとお考えであれば、ぜひデータクリーンルームの活用を検討していただきたいです。非常に自由度の高い分析が可能ですので、分析や施策のアイデアからご相談いただければ、我々が具体的な分析や施策に落とし込みます。お気軽にお声がけください。