2024.05.20

電通デジタルコマースニュース

第3回 コマース事業のデータ活用を牽引する「データスチュワード」の役割と存在価値

電通デジタルでは、2024年1月から世の中のコマースニュースをお届けするウェビナー「電通デジタルコマースニュース」を開催しています。第3回の本記事では、ソリューションディレクターの髙田拓之とテクニカルプロジェクトマネージャーの内田和寛が、開催したウェビナーの内容を振り返りながらお届けします。今回のテーマは、コマース業界のトピックとデータステュワードについてです。

2024年3月のコマーストピックス
ECの満足度は「送料の安さ」「商品の豊富さ」「配送スピード」 

髙田:まずは2024年3月で取り上げられたコマース業界トピックスの一部をお伝えします。

アートトレーディング社が全国の男女20代~90代の合計1000人に実施したアンケート調査 [注1]  によると、満足度の高いECサイトの特徴トップ3は「送料無料」「商品数が多い」「注文から到着までが早い」という結果になりました。意外なことに、梱包や問い合わせ対応が丁寧など運営側で行う対応はあまり重要視されない傾向でした。

また、物流2024年問題に伴うECサイトの影響について、「これだけは許せない・何とかしてほしい」と感じることは、「送料が高くなること」「送料無料が撤廃されること」「不在時に再配達料がかかる」という結果でした。

ECサイトの運営側からしてみると何とも厳しい声ではありますが、消費者のAmazon/楽天利用が拡大している背景もあると感じます。今や「物流を制すもの=ECを制す」という図式となっており、消費者に対して物流コストがかかることをもっと啓蒙していかないと、自社EC事業側にとっては決して小さくない利益へのインパクトが重くのしかかることになるのを危惧します。


EC担当の課題は「集客」「カスタマイズ性」「モール店の維持負担」

ジャクスタポジション社が行ったECサイトの運営者約1000人への実態調査 [注2]  では、ECサイトの運営目的は「売上の向上」「新規ユーザーの獲得」が上位を占めました。また、ECサイトを運営している際の課題は「カスタマイズの自由度がなく、やむを得ずサービス提供側仕様に合わせている」こと、困っていることは「集客がうまく行っていない」「リピーター獲得に繋げられていない」「多様な決済方法に対応できず顧客ニーズを満たせていない」などが挙げられました。

また、Amazonや楽天といったモール店に対する課題としては、「出店に際しての運営維持費の負担」「自社商品が見つけにくい」などが上位を占めました。

「集客」「リピーター」における課題は売上にも直結する課題となるため、その課題解決の施策が重要です。

「カスタマイズ」については、本当にユーザー(消費者)が求めていることかどうかを検証し、その上でカバーできていないサービスをカスタマイズすることをお勧めします。「仕様に合わせる」ことがグローバルでは当たり前となっており、何でもカスタマイズをすれば良いという考えは日本独特です。本当にカスタマイズすることがユーザーにとって「買いやすいサイト」になるのか、ぜひユーザー目線でご検討ください。


3.3兆円強のネット広告市場

今やテレビや雑誌、ラジオ、新聞等のメディア広告よりも割合が多くなったインターネット広告費は「日本の広告費」の45.5%ほどを占めるようになりました [注3]

2023年は前年7.8%増の3兆3330億円となり、インターネット広告の制作費、物販系ECプラットフォーム広告費(いわゆるAmazonや楽天内の広告)を除くと、8.3%増の2兆6870億円となっています。また、その内の87.4%は運用型広告で、SNS広告の割合も昨年よりも微増しており、24年も昨年同様の増加が見込まれています。


コマース事業のデータ活用を牽引する「データスチュワード」の役割と存在価値

内田:ここからはコマース事業のデータ活用を牽引する「データスチュワード」 について解説します。

近年、ビジネスにおいてデータ活用の重要性がますます高まっています。データは貴重な資源として捉えられ、「新しい石油」と言われるほどです。

コマース事業は、複雑な業務フローと多様なシステムが特徴です。顧客オーダーから商品発送、決済処理までのプロセスは多岐にわたり、さまざまな業務が同時に展開されます。大量のデータが生成され、複数のシステムによって管理・処理されるため、データの一元管理や整合性の確保が課題となっています。コマース事業においては、業務フローとシステムの複雑さを理解し、適切なデータマネジメントの実践が求められています。データの適切な管理と活用は企業の競争力向上や持続可能な成長につながるため、「データスチュワード」という役割が重要視されています。

それでは、データスチュワードがどのようにコマース事業に貢献し、データ活用の成功を支えるのかをご紹介します。

「データスチュワード」とは?

データスチュワードとは、データマネジメントの専門家であり、組織内でデータの管理・保護、品質向上、活用促進などを担当します。アメリカを拠点とする非営利団体であるDAMAが発行している「DMBOK」(Data Management Body of Knowledge)では、データスチュワードが以下のように定義されています。

「データスチュワードは、他社を代表して組織にとって最善の利益のために資産を管理し、企業のデータを高品質で効果的に利用できるようにするために全社の視点を持つことが求められる」

コマース事業におけるデータ活用の課題

まず、コマース事業におけるデータ活用の課題を見ていきましょう。売上データを例に取ると、「注文日を基準とした売上」と「出荷日を基準とした売上」という2つの異なるデータが存在します。広告の効果を分析する際には、「注文日を基準とした売上」データを使用し、会社の業績分析には「出荷日(会計の計上日)を基準とした売上」データが必要です。

コマース事業のデータマネジメントには、売上データや在庫情報が異なるシステムで管理され、データ形式や規則が統一されていないケースがあります。データの信頼性や一貫性を欠いたまま活用することは、ビジネス上リスクを生むことにつながりかねません。そのため、データの整合性と統合性を確保することは、データ活用の質を向上させるために不可欠な要素となります。

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データスチュワードの役割

データスチュワードの役割は大きく3点あります。

1)データ資産の管理

データマネジメントとデータガバナンスの観点から、データスチュワードは組織内のデータ資産を適切に管理し、保護する責任を担います。特に、メタデータの活用は重要です。これにより、データの意味や関係性を詳細に把握し、データ資産を効果的に管理することが可能となります。

例えば、先ほど例にあげた「売上」データでは、基準日が「注文日」なのか「出荷日」なのか、また消費税は「税抜き」なのか「税込み」で算出されているかなどをメタデータで明確にすることで、データの定義や整合性を保つことができます。

2)データ品質の向上

次に挙げるのは、「データ品質の向上」という役割です。
コマース事業において、データの品質は顧客サービスや意思決定の質に直接影響を与えます。データ活用においてよく使われる“Garbage In, Garbage Out”という言葉が表すように、データ品質がデータ活用の成果に直結すると言っても過言ではありません。

ECサイト運営に携わる中で、下記のような問題に直面することはないでしょうか?

  • 商品担当者がセール時に異なる商品番号を使用しているため、同一商品として正確に分析できない。
  • ECの出荷システムが社販や備品も含めて出荷するため、出荷件数を正確に把握できない。
  • モールECでの上位表示のために自社ECと異なる商品名を使用しているため、グルーピングして分析できない。

これらの問題がノイズデータを増やし、分析の精度を低下させる可能性があります。データ品質の向上は、データ生成システムから改善することが肝要です。現場の作業者、データエンジニア、そしてデータスチュワードが連携して、作業フローとシステムの見直し、ノイズデータのクレンジング、データ品質管理のプロセス導入など、対策を講じることが必要です。

3)データ活用の促進

最近、企業のデータ活用を促進する際に「データの民主化」が注目されています。このアプローチでは、データの専門家でない人でもデータを活用できるようにすることが重要です。特にコマース事業では、データ活用が組織全体の意思決定や業務改善に直結する重要なテーマとなっています。

データスチュワードは以下のような活動を行います。

  • データ活用の促進を目指す取り組み:データ可視化ツールを活用することで、売上データなどをダッシュボードで視覚的に表現し、チーム全体が情報を迅速に把握できるようサポートします。
  • データ教育プログラムの実施:非データ専門家に対して定期的な教育プログラムを提供し、データ活用の重要性を理解させます。効果的なデータ分析を行うための基本的なスキルを習得させることで、意思決定の質を向上させます。
  • データ活用啓発活動の展開:データ活用の啓発活動を通じて、各部門のメンバーがデータを活用する際のベストプラクティスや成功事例を共有し、組織全体でデータ駆動の文化を育成します。
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上記のような取り組みの結果、データの民主化が実現されると組織全体でデータ文化が浸透し、全社員がデータを活用できるようになります。商品開発チームは購買データを活用して新商品を開発したり、マーケティング部門は顧客の行動データを元に効果的なプロモーション戦略を組み立てたりすることができます。在庫管理やサプライチェーンにおいても、リアルタイムのデータ分析を通じてより効率的な運営が可能となり、組織全体が速やかかつ正確な意思決定を行い、顧客満足度の向上や業務の効率化を実現できるでしょう。

コマース事業は、複雑な業務フローと多様なシステムが組み合わさる特徴を持ちます。データの管理においては、意味や由来を明確にし、データの定義や整合性を確保することが不可欠です。現場の作業者とデータエンジニアが協力し、改善方法を考え実装することで、データの品質向上に取り組んでいます。

さらに、データの民主化を目指すためには、ユーザー向けのデータ活用教育を推進することが重要です。データを活用するための知識やスキルを広く組織内に浸透させることで、データの価値を最大化し、コマース事業の成長と競争力の強化に繋げることが期待されています。データの民主化とデータ活用教育によって、組織全体がデータ駆動型の組織へと進化し、持続的な成功を実現する糸口が見出せるでしょう。

コマースのトピック情報やECのデータ活用について、皆さまの業務に少しでもお役立ていただければ幸いです。


コマースウェビナー開催中

日々コマース事業に勤しむ皆さまに、最新のコマースニュースをお届けしていきます。

  • お昼のちょっとしたブレイクタイムに
  • 会社内での話のネタに
  • お客様との会話に

ご活用いただけたら幸いです。

ぜひご視聴ください。 

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脚注(出典)

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