2024.02.13

『日曜日の初耳学』プロデューサーに聞いた 新規企画の始め方、人の巻き込み方

異文化に学ぶサービスデザインの実践知

テレビ番組の企画・制作で培われた経験やノウハウは、新規事業開発やサービスイノベーションにも役立つのではないか。そのような仮説のもと、本記事では『日曜日の初耳学』など多くのヒット番組を手がけてきた毎日放送プロデューサー 中村卓也氏に、仕事で心がけていることを伺いました。インタビュアーはトランスフォーメーション部門で新規事業/サービス開発に携わる服部嶺です。

※役職や肩書は記事公開時点のものです。

SNSの反応から世の中のニーズを探り、反応を糧にする

服部:番組の企画でより多くの読者の心を捉えるために、中村さんはどのような点を重視していますか?

中村:私が現在担当している『日曜日の初耳学(以下『初耳学』)』を例にお話しします。

人気コーナーである「インタビュアー林修」で重要なのは、企画内容はもちろんですが、ゲストである「現代のカリスマ」のキャスティングです。私が意識していることは2つあります。

1つは「我々が世の中に伝えたいと思う人か」、もう1つは「いま時代が求めている人か」。この2つのバランスをとることが、とても大事です。

前者が強くなると、オリジナリティが高まる反面、幅広い視聴者の獲得が難しくなる。後者が強くなると、新規の視聴者を獲得できますが、コアなファンの離脱を招くおそれがある。これまで担当してきたどの組でも、このバランスには非常に心を砕いてきました。

服部:世の中のニーズはどのように把握していますか?

中村:視聴率をベースにしつつも、最近は主にSNSでの反応を参考にしています。SNSは番組への反応がとにかく早い。放送中から、良い感想も辛辣な感想もどんどん投稿されます。ただ、思ったより反応が薄いこともすぐに分かってしまうのがつらいところです(笑)。

服部:反応が薄いのと辛辣な感想、どちらがつらいですか?

中村:反応が薄い方がつらいです。批判的なコメントにはもちろんダメージを受けますが、今後の参考になるものに関しては、反省会で俎上に上げることもあります。いい感想も悪い感想も総合して企画の糧にしていくことが、良い番組づくりにつながると信じています。

中村卓也氏

2004年に株式会社毎日放送に入社。報道記者を経て、「情熱大陸」のディテクターから同プロデューサーを歴任。2022年からは「日曜日の初耳学」のプロデューサーを担当。

服部:中村さんがプロデューサーとして、企画の可否を判断するとき、どこに着目しますか?

中村:取材対象への愛が深く、事前リサーチが十分に行われた企画書には、熱を感じますね。その上で、設定したテーマが世の中のニーズと合っているか、「人に伝える意識」があるかを考えて判断します。

服部:やはり「熱」は大事ですよね。

中村:そうですね。テレビは「ながら視聴」が多いので、制作側が熱を込めないと視聴者の関心を引くことができません。初耳学のコーナー「インタビュアー林修」の場合は、林先生の熱をどう引き出すかも大切なポイントです。

林先生が興味を持ち、のめり込んで、がっぷり四つで組めるようなキャスティングと切り口を提示することで、林先生の熱を引き出そうと努力しています。熱を持った林先生は、言葉が鋭いですし、やりとりの面白さが際立つんです。

もう一つ大事なポイントは共感性です。共感できる人からの言葉は、すんなり心に入ってきます。視聴者には、林先生が引き出した素敵な発言を、良い形で受け取ってもらいたいと思っているので、共感してもらえる工夫は特に強く意識していますね。


調子のいいときこそ、新しいことをやるべき

服部:番組の企画では、未来への目利きも必要になるのではないかと思いますが、意識していますか?

中村:若者に今バズっているモノ、コトに関しては、やはり意識はしています。

「インタビュアー林修」で世間のニーズを意識したキャスティングというのは、例えば好感度ランキングで上位に来るような人、つまり全世代にまんべんなく刺さる人ということです。しかし、それだけでは視聴者層が広がらない。だから私は、特定の層、特に若年層だけに圧倒的に刺さるキャスティングの回を絶対に作ります。未来につながる可能性が出てくるからです。

服部:若者を意識することは、本当にとても大事なことですよね。企業で言えば、定番商品や既存事業だけでは持続的な発展は望めない、ということに通じるものがあります。若いターゲットを取り込まないと、お客様は高齢化していなくなってしまいますから。

中村:そう思います。以前、私が担当する『TVerで学ぶ!最強の時間割』で、テレビ朝日の加地倫三エグゼクティブプロデューサーにヒットの秘訣や仕事術を伺ったことがあります。特に共感したのが、「調子のいいときこそ、新しいことをやるべきだ」という発言です。

数字が下がっているときに行うチャレンジは、失敗を恐れて、たいてい真のチャレンジになっていない。調子がいいときこそチャレンジするべきだとつくづく思いますね。それが将来シフトチェンジが求められるようになった際、重要なシードとなります。

服部嶺(電通デジタル トランスフォーメーション部門 新規事業/サービス開発ユニット)


徹底的なリサーチが、今の成果にも、次の成果にもつながる

服部:企画を進めるにあたり、どのような準備をして、実現可能性を高めていますか?新規事業の立ち上げの際にも事前準備はとても大事なので、ぜひお伺いしたいです。

中村:まずは徹底的なリサーチを行います。たとえば「インタビュアー林修」のゲストが俳優さんであれば、出演作をすべてチェックし、当時の評判まで調べます。著書があれば全部読みます。ここまでが最低限のリサーチで、それを踏まえて掘り下げるテーマを決めて、より深くリサーチしていきます。

林先生も事前準備をしっかり行うタイプで、過去の作品、著作すべてに目を通してから収録に臨んでくださいます。

ゲストの方は、「こんなことまで調べてきたの?」と驚いて、自分のことをよく分かってくれている、という嬉しさや安心感につながり、出て良かったと思ってもらえることが多いんです。

おかげで最近は、以前に出演したゲストの方のつながりで、あまりメディアに登場しない方のキャスティングが実現しています。丁寧にリサーチをして、構成をしっかり作り込んでおくことが、次のいい成果にもつながっているとつくづく実感します。

服部:「徹底的なリサーチが今の成果にも、次の成果にもつながる」という点は、我々の業務に通じる話だと思いました。新規事業創出に際して、「半歩先の未来理解」というステップがありますが、これがまさに中村さんがおっしゃる徹底的なリサーチと重なります。未来の変化を認識し、自社資産を見直すことで、半歩先のチャンス、すなわち新規事業の種を見つけていきます。現状理解も含めた詳細な準備が最終的な成果につながる、そして徹底できたことが今だけではなく将来のプロジェクトにもつながることは、我々も同じなのだとつくづく思います。


タブーを越えて、できるだけ多くの人の協力を得る

服部:中村さんは普段、どのようなことを意識しながら新規企画の立ち上げを行っているのでしょうか?

中村:新しいことを始めるときに私が一番大切にしているのは、スピードです。速ければ速いほど良いと思っています。何か思いついたら、すぐに企画書を書いて、予算や体制の目処が立っていなくても手を挙げます。それが習慣になるようにずっとやってきました。

ただ、速さ重視の姿勢は、慎重さを否定する姿勢とも受け取られかねません。だから同時に謙虚な振る舞いとしつこさも同じくらい大事にしています。1回で通るわけではありません。丁寧に資料を用意して何度もプレゼンしていると、そのうちチャンスがやってきて、「やってみるか?」と言ってもらえることがあるんです。

服部:周囲を巻き込んでいくためには、ロジックで説得するのか、共感してもらって進めていくのか、どちらがいいのでしょうか?

中村:新しいことを始めるときに、反対する人間をロジックで説得しても、いいことはひとつもありません。成功したときは喜んでもらえないし、失敗したときは叩かれる。「成功するか失敗するか、自分もよく分からないけど、まずは1回やってみませんか?」というテンションで、できるだけ多くの人の協力を得ながら進めていく方がいいと思います。

あと、部署の垣根を意識しないことは大切かもしれません。私はいろいろな部署の人に「こういう企画がやりたい」という話をします。以前に、どうしても通したい企画があって、なかなか通らなくて難儀していたときに、別の部署の人が応援してくれたことがあり、コミュニケーションの大切さを実感しました。

もうひとつ、タブーをあまり意識しないようにしています。テレビ業界では、基本的に他局の映像は使わないという不文律があります。しかし今の時代、テレビ局の敵は他のテレビ局じゃないと思うんです。「インタビュアー林修」でゲストの過去映像を使うときは、自局以外の映像もどんどん使っています。いろいろな映像を観ていただいて、「やっぱりテレビって面白い」と思ってほしい。テレビ業界全体でそういう機運を醸成していく方が絶対にいいと思うんですよね。

服部:非常に共感できるお話です。今おっしゃったコラボの話も、時代に即した取り組みだなと感じました。我々電通グループでは、B2B2S(Business to Business to Society)企業として、価値創造に取り組んでいます。それは、経済的価値と同時に社会的価値も生み出すということです。これからの事業開発には、「顧客のために」「社会のために」という視点が絶対に必要で、そのためにコンソーシアムを作って取り組んでいくというのは一般的な流れになるだろうと我々は考えています。今回は参考になるお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。


日曜日の初耳学

いま知っておくべき話題のトレンドを林先生と一緒に優しく掘り下げ、日曜の夜をちょっと元気にするバラエティー番組。時代のカリスマたちとの対談コーナー「インタビュアー林修」や、トレンドワードを林先生と一緒に紐解く「初耳トレンディ」などをお送りする。  

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