2024.01.18

みんなの体験をここちよく進化させる「インクルーシブデザイン」の力

世界の企業で採用されている「インクルーシブデザイン」について、「みんなのピクト」制作秘話や北欧諸国の事例、デジタルの取り組みを紹介します。

※本記事は、2023年11月2日に開催されたセミナーの内容を採録し、再構成したものです。 
※所属・肩書は2023年11月時点の情報です。

インクルーシブデザインとは

星野 :「インクルーシブデザイン」に関して、よく聞かれるのは、ユニバーサルデザインとの違いです。どちらも基本的には、目指しているものは同じです。

ユニバーサルデザインは、最初から可能な限りの想定をしてデザインする考え方です。対して、インクルーシブデザインは、メインストリームから排除されてきた人々に耳を傾け、デザインのプロセスに当事者の視点を取り入れていく考え方です。

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インクルーシブデザインの有名な事例としては、多様な肌の色に対応したバンドエイド®があります。

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最近の例では、多様なジェンダーに配慮したiPhoneの絵文字もそうです。

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もう1つ紹介したいのが、インクルーシブデザインのカーブカット効果です。カーブカット効果とは、手の力が弱いとか、手が使えないといった特定の問題で困っている人のニーズに応えることで、社会のより多くの人たちに役立つことです。これによりイノベーションを起こせる点が、インクルーシブデザインの強みだと思っています。

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続いて、グラフィックデザイナー・田代浩史さんに、「みんなのピクト」の開発プロセスを紹介していただきます。


「みんなのピクト」はどのように開発されたのか

田代 :「みんなのピクト」は、食品表示法で指定されたアレルギー食材である特定原材料7品目と、それに準ずるもの21品目のピクトグラム(形から意味を理解できる記号)です。シンプルでありながら、それぞれの違いがわかりやすいように意識してデザインしています。

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田代デザインスタジオ代表 グラフィックデザイン・ユニバーサルデザイン   田代浩史氏
1984年東京芸術大学デザイン科卒業、(株)電通入社。クリエイティブ局、アートディレクター、クリエイティブディレクターとして多くのクライアントの広告キャンペーンを担当。2011年メンタル不調の経験から電通ダイバーシティ・ラボの活動に参加しUDフォント「みんなの文字」「みんなのピクト」を開発。見やすさをテーマにしたユニバーサルデザインの分野をライフシフト後も探求中。

アレルギー患者には子供が多いこと、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を鑑みて外国人旅行者の増加が見込まれること、食品表示法の大きな改正があり食品メーカーにも需要があるのでは等、ユニバーサルデザインによる言葉に頼らないコミュニケーションの開発として自主的なプロジェクトをスタートしました。

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消費者庁食品表示課資料より(2012 年)

最初にどのようなピクトグラムがわかりやすいのか仮説を立てました。次にプロトタイプ作成、ユーザーテスト実施、評価・改善という流れを4回ほど繰り返し、完成度を高めました。最後にパフォーマンステストを経て、認証を受けて完成という流れでした。全体を通して、人間中心設計プロセスで行いました。

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「みんなのピクト」は、劣化に強いピクトグラムにしたいと考えました。食品パッケージは、必ずしも見やすい環境で手にとるわけではありません。視覚、環境、印刷状態など、いろいろな状態で見えにくくなる劣化があっても、見やすいものを作っていくというコンセプトを掲げました。

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4回ほど行ったユーザーテストの狙いは2つありました。1つは「図案の妥当性」、もう1つは「ぼかし・縮小状態での視認性」です。のべ1000人以上にテストを実施しました。

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「みんなのピクト」は、最終的にUCDA認証審議会で審査され、「見やすいデザイン」として認証されました。

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制作フェーズで一番難しかったことは、28品目の図案を作ることでした。中でもゼラチンの図案化は特に大変でした。また、グラフィックデザイナーとしては、今までと違うものを作りたいという自分のクリエイティブ野心との葛藤があったかもしれないと、今振り返ると思います。

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私は、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインという用語をあまり使い分けていませんが、「みんなのピクト」を作る過程において、当事者の話を聞いたり、使用状況を想像したりしながら、普通の広告クリエイティブ制作作業と同じく、きちんと使われるものを作っていきたいという思いを常に持ち続けていました。

結果として、「みんなのピクト」は、IAUD国際デザイン2020で銀賞を受賞し、現在は無償提供しています。消費者庁の訪日外国人向け食品表示制度でも使用されていて、グラフィックデザイナーとして大変嬉しく感じています。

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デジタル世界でのインクルーシブについて

星野 : デジタル世界でのインクルーシブデザインとして、身近なものではiPhoneがあります。年齢、人種、性別、身体状況などに合わせて設定を変えられます。もともとインクルーシブにする想定でプロダクトが作られていた点が大きな特徴です。

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また、Googleが本を出しているように、インクルーシブデザインは、海外では主流になりつつあります。ビジネス面でのインパクトが大きい点も注目されている理由です。

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出典:アニー・ジャン=バティスト (著)、 百合田香織 (翻訳)「 Google流 ダイバーシティ&インクルージョン インクルーシブな製品開発のための方法と実践」( BugNewsNetwork 、2021年9月)


電通デジタルのインクルーシブデザイン

星野 : 電通デジタルのインクルーシブデザインチームには、デザインやサービス設計の経験があるメンバーがいるため、構想から実装まで、一気通貫で支援しています。

ポイントは、問題定義と問題解決の各フェーズで、検証とアイディエーションを入れていく点です。リードユーザー(高齢者、障がい者、外国人など、課題を見つけてくれる役割の人)と一緒に取り組みたいと考えています。

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インクルーシブデザインには、様々なアウトプットが考えられます。例えば、AIやWeb3の分野にインクルーシブ視点を入れたり、店舗やメタバース空間、HRにも活かせたりすると思っています。

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セブン-イレブン・ジャパンのプロジェクト

星野 : インクルーシブデザインの事例として、セブン-イレブン・ジャパンのプロジェクトを紹介します。

このプロジェクトは、セブン-イレブンのすべてのお客様や従業員が、国籍・年齢・経験年数を問わず、「マニュアルを読まなくても使えるように、店舗のデジタルプロダクトを⼀新する」というものです。

1つ目のアプローチは、非言語コミュニケーションです。レジ画面のUIでピクトグラムを意識したアイコンを活用しました。

2つ目のアプローチは、多言語対応です。実際に接客するときに多言語で対応するのか、という問題が浮上し、調べたところ、在住外国人の方が理解できる言語は、日本語が62%、英語が44%、中国語は30%で、実は日本語が一番通じることがわかりました。ここからリサーチを重ね、「やさしい日本語」にたどり着きました。インクルーシブな視点でチェックしていくことで、こうした新しい手法を選定できる可能性があります。


アンコンシャスバイアスとジェンダー表現

星野 : もう1つの事例を紹介します。私がある子ども用のWebサイトを作成した際、男女の子どものイラストを作成しました。

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クライアント企業にそのイラストを提案したところ、「髪型や服装が偏っている」という指摘があり、結果、イラストから人物を外すという結果になりました。私はこれを機に、アンコンシャスバイアスについて改めて学びました。

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ジェンダー表現は、人によりイメージするものが違うので、特に難しい問題です。この経験から、私たちはジェンダーに対する表現に関して、ガイドラインを作成しました。

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これは、制作者が性別による役割分担のイメージを与えないようにすると同時に、クライアント企業との共通認識を持つためという意味合いがあります。指針から外れた表現を制限するのではなく、よりクリエイティブに発想していくために使っていきたいと考えています。


世界のインクルーシブデザイン

田代 : 先日、デザインのことを勉強するために北欧に行ってきました。北欧はダイバーシティ、人権、福祉の先進地域です。インクルーシブデザインの参考として、様々な施設の写真を紹介します。

まず気づいたのは、アクセシビリティが徹底されていることです。公共施設では、障害者・高齢者・ベビーカーの方に、移動・情報に関するアクセシビリティを確保することが当たり前となっています。

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下図はデンマークとノルウェーの街の景観です。景観を壊さないように、アクセシビリティが確保されています。

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下図は、スウェーデンの信号とノルウェーの空港です。公共のサインは見やすいことが前提ですが、色の使い方や状況の表現がうまくて、とても楽しくなりデザインの可能性を感じました。

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星野 : インクルーシブデザインがすごく自然に、街や建築物に溶け込んでいると感じました。特別目立つようにではなく、共存している感じが、人々の心理的にも影響するのではないでしょうか。デザインの美しさや感覚の研ぎ澄まされている感じが、すごく良いと思いました。


インクルーシブデザインの4つのポイント

星野 : インクルーシブデザインに関して、私たちが大切にしているポイントは、アクセシブル、公平性、倫理感、使いやすさです。

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電通デジタルのインクルーシブデザインチームの特徴は、3つあります。まず、企業の課題と社会課題、どちらかに振るのではなく、適切に捉えたアプローチを行うこと。次に、多様性の課題に対して、ビジネス的な観点とクリエイティブで解決し、同時にイノベーションも考えること。それから、デザインの知見を生かして、構想だけでなく、市場へのアウトプットまで伴走することです。

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インクルーシブデザインに関心を持たれた方は、お問い合わせをいただけたら非常に嬉しく思います。

インクルーシブ視点の新規プロダクト開発を支援する「インクルーシブデザインソリューション」を提供開始
-リードユーザーと一貫した共創で、新たなイノベーションを創発-
https://www.dentsudigital.co.jp/news/release/services/2023-1214-000127

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