2023.05.22

新規事業のシードを形にする実現力とは?飲むミストサプリメント「IN MIST」企画担当者に聞いた

2023年4月、「Makuake」に上市された「飲むミストサプリメント IN MIST」が、目標金額を1日でクリアし、サポーターの数を増やし続けています[1]

本記事では、「IN MIST」の事業責任者であるゼロワンブースター 長田知也氏と、「IN MIST」の発案者として、商品化まで伴走し続けた元電通デジタル、現電通コンサルティング 八木薫郎氏に、商品化までの道のりについて、電通デジタルBIRD 勝谷さや香が聞きました。

※役職や肩書は記事公開時点のものです。

プライベートでオープンイノベーションコンペに応募した企画が原型

勝谷 : 「Makuake」の目標金額、一瞬で達成していましたね! あまりの反響にビックリしたのですが、最初に「IN MIST」はどのような商品か、簡単にご説明いただけますか?

長田 : 「IN MIST」は、ミスト(霧状)形態のサプリメントです。エアゾール缶に液体のサプリメントを封入してあり、ノズルを通して口腔内に噴射することで、手軽に必要な栄養を摂取できるという商品です。

勝谷 : ミスト状のサプリは初めて見ました。すごく画期的ですね。

長田 : 当初は、新しい飲料体験を提供するという部分にフォーカスして、飲料をミスト化して飲むためのガジェットを開発していました。ただ、途中でコンセプトを変更して、手軽に摂取できるサプリとして開発する方向に舵を切り、今に至ります。

Zoom

勝谷 : 「IN MIST」の企画から販売開始までの経緯を順番に教えてください。

八木 : 「IN MIST」の原型は、2019年にサントリー食品インターナショナルが「Wemake」上で公募していたオープンイノベーションコンペに、私が個人的に応募したアイデアです[2]

当時、私は電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門に所属していました。企画や新しいプロダクトを考えるのが好きで、会社の仕事とは別に企画アイデアをアウトプットできる場を探していました。

社外コンペに応募したのは、自分のアイデアへの世の中からのフィードバックが欲しかったからです。うまくいけば自分のアイデアが商品として世に出せるかもしれないという期待もありました。

このときのテーマは「未来のわたしたちに届けたい これまでにない"飲む"体験」で、「既存の飲料や既存の容器を使わないもの、既存の飲む体験を超えるもの」という条件で企画を募っていました。

そこで、飲料という物性的な部分を固定しつつ、それ以外の価値や体験を変えてみるアイデア発想をずっと繰り返していました。そのうちに、シャワーの気持ちよさを飲料に取り入れたら新しい価値が生まれおもしろそうだと思いミストを連想し、「ミストシャワー飲料」という名前で、企画とプロダクトの3D設計データを提出しました。

勝谷 : 最初はサプリというコンセプトではなかったんですね。

八木 : はい。コロナ禍でリモートワークが主流になり、忙しい人は毎日朝から晩まで打ち合わせの予定がぎっちり入っていて、トイレに行く暇もないみたいな状態になることも多いかと思います。だからこそ、一瞬でリフレッシュできる「何か」があったらきっと喜ばれるだろうな、と思ったのが最初に考えたインサイトでした。

1次スクリーニングの段階で、メンターの長田さんが「ミストシャワー飲料」のアイデアをすごく気に入ってくださって、そこから2人でブラッシュアップしていく中で「1秒気分転換」というコンセプトが出て、最終的にグランプリを受賞することができました。

電通コンサルティング 八木 薫郎氏

自分のペインがきっかけになり、コンセプトを転換

勝谷 : 応募総数440件から勝ち抜いたアイデアであるにもかかわらず、結局商品化には至りませんでした。それはなぜだったんでしょうか?

八木 : グランプリをとった後、長田さんが所属されていた部署と、当時私がいた電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門で一緒に、商品化に向けて1年ほど活動していました。ただ、その後、長田さんが異動されてしまい、さらにコロナ禍で密なコミュニケーションがとりづらくなってしまったことで、いったん活動を縮小せざるを得なくなりました。

ただ、私も長田さんもあきらめが悪いタイプで、それぞれ水面下で活動していました。私は、電通のサントリー担当営業の方に協力していただきながら、許可をもらってサントリーさん社内のいろいろな部署にプロトタイプと企画書を持っていってプレゼン行脚をしながら、改良を進めていました。

長田 : 私は、企画とは無縁の部署に異動になったのですが、「ミストシャワー飲料」のアイデアを形にする機会をうかがっていました。そんな中、2021年9月に「FRONTIER DOJO(フロンティア道場)」という社内ベンチャー企画が立ち上がった際に、以前に八木さんと作り上げたコンセプトで応募したんです。

勝谷 : 1次選考通過時点では、まだ飲料というコンセプトでした。最終的に、飲料からサプリに軸を変えたのはなぜですか。

長田 : 「FRONTIER DOJO」では、プレゼンに挑みながらビジネスアイデアや事業プランをブラッシュアップしていきます。その過程でどうしても新しい飲料体験という切り口だけでは突破できない壁がありました。そこで目をつけたのがサプリという新たな切り口でした。

きっかけは、私自身のサプリに関するペインです。サプリは1日数回に分けて飲んだ方が効率がいいということは知っていたのですが、1日数回飲むのは面倒だったし、錠剤だと毎回水を用意するのも面倒、飲み続けるモチベーションを維持するのがしんどいなと思っていました。そんなとき、ミストシャワー飲料をサプリ化すれば、今私が感じているペインが一気に解消されるなと気づいたんです。それが2023年1月のことでした。

株式会社ゼロワンブースター ビジネスディベロップメントマネージャー 長田 知也氏

アイデアのポテンシャルを信じ、何度も挑戦し続けた

勝谷 : 私も以前からクライアントの新規事業や新規サービス創出を支援してきた中で、アイデアや企画案を出したものの、プロジェクトが途中で頓挫してしまうケースを経験したことがあります。また、はじめの着想は良くても、具体的なサービスに落とす過程でフィジビリティの壁にぶつかったり、ピボットを繰り返してメンバーが疲弊してしまうこともあります。今回おふたりが何度も壁を乗り越えて、行動し続けられた原動力は何だったのでしょうか?  

長田 : 「ミスト」というアイデアに大きな可能性を感じました。明確にゴールが設定できる商品ではないけれど、だからこそ逆にいろいろな価値を取り込めると思いました。

たとえば、水を採らずに口中が潤う、カロリーをとらずにおいしいジュースが飲める。これらは今までにない価値です。ミストを具現化した商品を作れば、深く刺さる人が出てくるはずだと思ったんです。

勝谷 : ユーザーニーズも踏まえてずっと考え続けた中で、「ミスト」というシーズに結びついたのがおもしろいですね。

長田 : ニーズ発想よりシーズ発想の方が、アイデアが飛躍しやすいんです。本当に新しいことやるときには、シーズ発想の方がいいと思っています。シーズ発想だと、アイデアから今はまだ存在しない価値を作り出す流れとなります。その方が真の潜在ニーズを捉えやすいと、私自身は思っています。

八木 : 私のスタイルでもあるのですが、電通グループのコンサルタントはアイデアを飛ばすのが得意です。もちろんデザインリサーチなどの手法でニーズを探索し、そこを起点にアイデアを発想することも多いですが、その場合も、「電通未来曼荼羅2023」のようなツールも使いながら、未来思考でアイデアの規模や練度を高めたりしています。

電通デジタルBIRD 勝谷 さや香

新規事業で商品化を実現させる難しさ

勝谷 : 大企業の中で新規事業を進めるには、社内を説得し、理解を得ることも大きな難関です。事業に取り組むパーパスに立ち返ったり、低コストかつスピーディーにMVPをつくってお客様のダイレクトな反応を集めたり、毎回さまざまな工夫をしながら社内突破を試みています。「IN MIST」が商品化に漕ぎつけるまでに、どのようなハードルがありましたか?

長田 : 2019年の公開コンペでは高評価だった「1秒気分転換」というコンセプトですが、事業部にはその価値が十分に伝わらず、説得しきれませんでした。まだアイデア段階の状態にもかかわらず、「モノはちゃんと作れるの?本当に売れるの?」という疑問に明確に答えなくてはならない。そこは非常に大きな壁がありました。

勝谷 : 現在のコンセプトで最終プレゼンを突破できた一番の理由は何でしょうか? 

長田 : ミストという新しいアイデアに、サプリメントというベネフィットを掛け合わせることで、自分自身も欲しい、そして多くの人に新しい価値を届けることができると確信できる商品に仕上げることができました。だからこそ、情熱をもって社長を説得できたのではないかと思います。

「FRONTIER DOJO」の最終プレゼンに通った後は、ゼロワンブースターに出向して事業化に全力を注げる立場になりました。次は「売れた」という実績を積みたいですね。


受発注の関係を超え、事業を推進するパートナーとして期待

勝谷 : お2人の役割分担はどんな感じだったんでしょうか。

長田 : 私は設計・製造・流通などモノづくりに関する領域を受け持っています。コンセプトやデザイン、EC、クラウドファンディングなど、マーケティング領域は八木さんにおまかせしました。「IN MIST」という商品名も八木さんの案で即決でした。

勝谷 : 「Makuake」での販売した後の予定を教えてください。

長田 : ECで販売します。事業検証の期間である今年中に、どれぐらいリピートしてくれる人がいるか。それが最大の評価ポイントですので、まずは初回購入者、次にリピート購入者を増やすことに力を入れていきます。

八木 : 世の中にまだない新しいプロダクトを実際に購入するのは、とても勇気のいる行動だと思っています。今回その一歩を踏み出してくれた方々の勇気に応え、そしてみなさんの声に真摯に向き合いながら、前に進んでいきたいです。

勝谷 : 今後、電通グループにはどんなことを期待していますか。

長田 : 八木さんは、クライアントとコンサルタントという関係を超え、一緒に取り組む仲間として、これまでずっと伴走してくれました。電通グループに期待するのもまさにこれで、発注者と受注者という間柄ではなく、事業を一緒に進めてくれるパートナーとしての役割を、今後も担ってもらいたいと思っています。

八木 : 新規事業立ち上げやスタートアップ的な営みは、否定されることの連続なんです。新しいものを見た時に、人ってどうしても否定的な感覚になってしまう。自信があるアイデアでも、否定の声に相対し続けるのは大変ですが、いかに自分たちがこのプロダクトを愛していて、多くの人に価値を届けられると信じているかが大事だと思っています。ひとことで言いかえると、情熱という言葉なのかもしれません。

先ほど、長田さんに「クライアントとコンサルタントという関係を超え、一緒に取り組む仲間として」といっていただきましたが、それは最大の褒め言葉です。今後も、新しいことを始めようとする方々と一緒に、新規事業の種作りからゴールまで、道中楽しみながら一緒に歩いていく、そんな取り組みをしていきたいと思っています。

勝谷 : 今年1月に新設された電通デジタルBIRDのコア領域は、0から1を生み出す新規事業創造で、目下たくさんのプロジェクトが走っており、先日も新たな映像サービスがローンチしました。本日のお話を聞いて、事業に対して商品化・自走化まで誠意をもって伴走することをますます大切にしていきたいと、気持ちを新たにしました。


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