National Retail Federation(全米小売業協会)が主催する世界最大規模のリテールカンファレンス 「NRF 2023 Retail’s Big Show」(2023年1月15~17日、Javits Center、ニューヨーク)に電通デジタルメンバーが参加しました。同メンバーは併せて、ニューヨークで注目を集めている30店舗を視察。本記事では、参加メンバーのひとりである西湧太に、アメリカのリテール業界の最新トレンド、今後の日本のリテール業界の展望について話を聞きました。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。
世界75カ国以上から、35,000人以上が参加
――NRFとはどのようなイベントですか?
西 : National Retail Federation(全米小売業協会)が主催する、世界最大規模の小売業界に関する年次展示会です。コロナ禍の影響で2021年はオンライン、2022年は規模を縮小しての開催でしたが、今年は3年ぶりに例年どおりの規模でオフライン開催されました。世界75カ国以上から、35,000人以上が参加しています。
さまざまな見所がありますが、目玉となるのは大きく2つ。1つが最新のリテールテクノロジーの展示。もう1つが、ウォルマートやホールフーズのような大手小売企業CEOや役員によるセッションです。特に後者は、近い将来のリテール業界の展望が語られるため、非常に注目を集めます。
――今回、電通デジタルがNRFに参加した理由は?
西 : 小売業界はダイナミックな変革の最中です。生活者の意識や購買行動の変化を捉え、最適な一手を打つために、最新トレンドのインプットは重要です。このイベントで情報を収集し、クライアント企業にお伝えすることが、もっとも大きな狙いでした。
今回は、NRFだけでなく、ニューヨークのフラッグシップ店舗を30店舗ほど視察しました。今後、それらをまとめてレポート化していく予定です。そのレポートはNRFで得た最新情報とニューヨーク最前線を軸とし、今後の日本のリテール業界のトレンドを展望する内容になっています。詳細は今後発表するレポートにてお伝えいたします。
従業員体験を高めるテクノロジーやセッションが印象的だった
――NRFに参加した感想をお聞かせください。
西 : 決済を簡単にするといった顧客体験を洗練させるためのテクノロジーに加え、従業員の作業や負担を軽減するなど、従業員体験を豊かにするためのテクノロジーもたくさん展示されていたのが、非常に印象的でした。
店舗内を巡回して在庫確認をするロボット、従業員が簡単にカスタマイズできるデジタルサイネージなど、顧客だけでなくリテールに関わる人すべての体験を豊かにするという明確な目的を持って作られたテクノロジーが目立っていたように思います。
――印象に残ったセッションはありますか?
西 : 「NRFはテクノロジーの祭典」だとイメージしていたので、デジタル活用をテーマにしたセッションが中心になるのかなと思っていましたが、「人」にフォーカスしたセッションが多かった印象です。従業員体験をいかに高めるかをテーマにしたセッションのほか、企業文化やサステナビリティ、人権、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)に関するセッションが目立ちました。
その背景として考えられるのは、前年2022年という年の手詰まり感です。コロナ禍による影響はいまだ収束せず、ウクライナ侵攻による心理的・経済的な不安感の増大、世界的なインフレによる物価の急上昇、そうした事態が人手不足に拍車をかけています。
今年のNRFのキーテーマは「Breakthrough(突破)」ですが、閉塞感を突破する手段として、多くの企業が「従業員を大切にする」という部分にフォーカスしたのだと思います。
NRFと米国視察から見えてきた5つのトレンド
――NRFへの参加と米国視察を踏まえたトレンドを教えてください。
西 : NRFとニューヨークのフラッグシップ店舗約30店の視察から見えてきたトレンドを5つにまとめました。
①サステナビリティ意識を背景にリセールプラットフォーマーの活況
NRFのセッションで頻繁に出てきたのが「サステナビリティ」という言葉です。もはや、環境や持続可能な社会に配慮した経営というのは当たり前のことで、世界はもう次の段階に向かっているということを強く感じました。
個人的に印象深かったのは、ホールフーズのCEOであるJason Buechel氏のセッションです[1]。「ローカル」を軸にしたサステナビリティへの取り組みを紹介していましたが、決して理想主義ではなく明確なプロセスに基づいて実施されています。後日、店舗も訪問しましたが、そうした理念がきちんと店頭にも反映されていることに、強く感銘を受けました。
また注目すべきはサステナビリティを背景に成長が加速しているリセール市場です。特に「リセールプラットフォーマー」の伸びが大きいです。ここでは従来のリサイクルショップよりも、米国大手高級百貨店の姉妹店舗であるSack’s OFF 5thやミレニアル世代向けファッションサブクスのRent the Runwayなどの業態が中古品市場に参入していたり、パートナーシップを組んだりする動きが加速しています。さらにREFLAUNTという新しい形のプラットホームなどのRaaS(RetailではなくResale as a Service)が登場しました。これは従来、中古品が一度市場に出回ってしまうと、一次市場と呼ばれる百貨店やブランドは関与できなかったのですが、それを可能にするプラットフォームです。
②テクノロジーを起点としたデジタルコンテンツが実用フェーズへ
メタバースについて、Z世代やミレニアル世代へ向けた「若い世代のためのツールは虚構」だと語られていたこともNRFで印象に残りました。ただ「若い世代」だからではなく、彼らのがどのような考え方や価値観をもっているのかを捉えて体験を作っていくことが重要だということです。
ところで、テクノロジーのバズワードであるNFTが一般的な形で流行するかどうかは未知数ですが、ハイブランドに限れば、NFTの積極活用が目立っていました。やはりNFTが持つ代替不可能性の担保というテクノロジーとの相性がいいということに尽きるのだと思います。ただし、メタバースやNFTで直接的に売上を立てるのは難しく、顧客のエンゲージメントやイベントの位置づけが主というのが現状です。2023年はそういった実証・検証を繰り返し、自社にとっての顧客や親和性、目標達成のためにどのように自社のアセットを利活用できるのかなどを見極める一年だと考えられます。
③大手を中心に店舗DX の実装は一段落し、生活者レベルまで広く浸透
ニューヨークでは、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)がスーパー以外の業態にまで普及しています。現在は各サービスが使いやすさでしのぎを削り、アプリを介したパーソナライズを推し進めている段階です。これらはエンドレスアイル[2]という考え方が起点となっていますが、2021年から徐々に浸透し、2023年それは当たり前の世界になっています。顧客との接点を「拡充」するとともに、「接点の間をつなぐ」「最適な接点を選択してもらう」といった「線」から「面」の運営がKey Success Factorになっています。その実現に向けて、多様な接点をスムーズに運営する従業員体験や業務の最適化が焦点となっています。NRFのさまざまなセッションで、企業文化や従業員体験の重要性が語られていましたが、この背景があるのだと考えています。購買体験の洗練化は、日本も同じ流れをたどると想定されますが、こういった線・面への動きについても考えることが重要です。
④店舗は 、顧客エンゲージメントの場として"ならではの価値"を深く追求
実店舗を「ブランドに関わるさまざまな体験ができる場」として進化させる流れが顕在化しています。ただし「体験」といってもさまざまな切り口が存在します。今後公開するレポートでは、体験型店舗の事例として、いずれも5番街にある「The LEGO Store Fifth Avenue」「American Girl Place New York」「Nike House Of Innovation 000」の店舗に触れながら、さまざまな切り口から取り組みを紹介する予定です。効率型店舗としては、無人コンビニで知られる「Amazon Go」も取り上げる予定です。
⑤D2Cブランドが"世界観"を体験する場としてリアルを強化し接点を拡大
オンラインやSNSと親和性の高いD2Cブランドですが、リアル店舗によって接点を拡大しています。ブランドの世界観を表現した、思わず目を引くような店舗が特徴的でした。業界としての大きな動きはミレニアル世代に支持されるコスメブランド「Glossier」のフラグシップ店舗の拡大や小売チャネルへの展開です。これらの展望についても今後のレポートで触れていきます。
とはいえ、NRFで語られたことはあくまでアメリカ市場を前提にした話であり、すべてが日本市場にとっての最適解というわけではありません。レポートではアメリカの最新情報を紹介すると同時に、それを踏まえて個々の事例ごとに日本企業が取り入れるべきエッセンスを紹介していければと思います。
「米国リテール業界の5つのトレンドと示唆」資料ダウンロード
脚注
1. ^ "Nourishing people and the planet: A conversation with Whole Foods Market CEO Jason Buechel". NRF 2023: Retail’s Big Show.(2023年1月16日)2023年2月8日閲覧。
2. ^ オムニチャネル化のための取り組みの一種で、実店舗に商品が無くてもECから商品を注文でき、自宅や店舗へ配送するサービスのこと。
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