2023.04.21

デザインとテクノロジー

エンジニアリング主導のイノベーションによる新しい顧客体験

顧客体験への要求水準が急速に高まっている今日、テクノロジーは新たな体験を創り出す原動力になっています。IT先進国ウクライナに本社を置くグローバル・テクノロジー企業ELEKS社のオレグ・スルサーチュク氏とマクシム・キット氏が、デザインとテクノロジーの関係について解説します。ファシリテーターは、電通デジタル 田中扶美子です。

※本記事は、2022年12月に開催されたウェビナーを採録し、翻訳・編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。

顧客体験(CX)が技術トレンドを牽引する

田中扶美子: 『人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。』

これは当社のパーパスであり、さまざまな解釈ができるかと思いますが、一プランナーとして特に強く意識しているのは"人の心を動かし"という部分です。

クライアントの伝えたい想いが、お客様へしっかりと伝わるような「顧客体験」へと落とし込まれているのか?という視点の重要性を日々感じています。

また、そうした「顧客体験」の実現のために、当社では国内外を問わず優れたパートナー企業と連携することでケイパビリティを高めています。

本日は、そうしたパートナー企業の一つであり、すぐれたDXデザイン手法・最新テクノロジーのコンサルテーションと開発力を持つELEKES社(本社、ウクライナ)からゲストスピーカーを招いて、エンジニアリング主導のイノベーションによる新しい顧客体験をテーマにお話ししていきたいと思います。

CXトランスフォーメーション部門
CX戦略プランニング事業部
田中 扶美子
アメリカ、中国でブランディング〜マーケティング業務に従事。グローバルで培った豊富な経験を生かし、ターゲットの真のニーズをとらえたCX改善でデジタルマーケティング戦略を推進。

オレグ・スルサーチュク氏(以下、オレグ) : テクノロジーと顧客体験デザインの密接な関係性について、例として、スマートフォンを作り上げる工程でのデザインの役割に着目して考えてみましょう。

デザイナーはまずそのスマートフォンの持つオペレーションシステム機能をベースに、ユーザーインタフェースやソフトウェアアーキテクチャを考えます。それから、スマートフォンの物理的な要素に関する仕様や規格を考えますが、このステージでは、ユーザーにとって使い心地が良い体験とはどういうものかなど、人間工学も関わります。

使い心地が良い体験とは、例えば、動作がスムーズでレスポンスが速かったり、エラーが起きないのでストレスフリーなどもありますから、それらを叶えるために必要なチップセットなどの技術要件が決まります。さらに、「プロ用カメラと同じような動画や写真が撮れるように」とか、「プロ用機材のように録音できるように」などの特徴も考慮し、物理的なデバイス(スマートフォン)を設計します。

このように、ユーザーにとってより良い体験を目指すのがデジタルデバイスのデザインの役割で、そのデザイン(より良い体験)を可能にするためにテクノロジーを発展させることもあります。

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デジタルファーストの考え方が必要になっている

オレグ : 顧客体験はブランドロイヤルティに大きな影響を与えます。コロナ禍によって、購買行動のかなりの部分がデジタルに移行したため、「高速で楽しいデジタル上での購買体験」の必要性は増しています。

現在、ビッグデータの活用はビジネス成功の指標として非常に重要です。なぜなら昨今の生活者は自らのデータを企業に提供することで、享受できる体験が豊かになるということを理解してきているためです。実際に、セールスフォースの調査では57%の人がパーソナライズされた体験を享受するために、個人情報を提供しても良いと考えていると報告されています[1]。 今後数年間、より良いサービス提供のためのビッグデータ分析は、ビジネスにおける重要な戦略となるでしょう。

さらに、スマートフォンが普及し、さまざまなメッセージングアプリで、人々はいつでも簡単に商品やサービスにアクセスできます。この傾向は今後も進み、後退することはないでしょう。つまり、モバイルメッセージングをいかに使いこなせるかが、次世代を生き抜く鍵ということです。

コミュニケーションチャネルについては、AIも重要なものの1つです。少し前まで、顧客は自分のやりたいことをスムーズに行える自動化を求めていました。しかし今は、予測して教えてくれるような技術を求めていて、AIを活用したチャットボットは、顧客満足度を向上させる優れたツールとしての地位を確立しています。

人々の生活の多くの部分がデジタルに転換し、思考法もデジタルになっています。企業はそれに対応しなければなりません。

ELEKS Chicago, USA
グローバルヘッド・オブ・プロダクトデザイン
オレグ・スルサーチュク
EU、米国、および英国で、国際的な受賞歴のあるデザインチームを率いる。約20年のデザイン経験があり、ニールセン・ノーマン・グループの講師、認定デザインマネージャー。


メタバースという新しいリアル

マクシム・キット氏(以下、マクシム) : 現在、リアル世界とバーチャル世界の線引きがどんどん曖昧になっています。近年、次世代のインターネットとして注目を集めているのは、メタバースです。

技術的には、集合的な仮想共有空間であり、デバイスに依存せず、単一のベンダーが所有するものでもありません。そして、デジタル通貨と非代替トークン(NFT)によって独立した仮想経済が可能です。

ガートナーは、「2026年までに、25%の人が1日あたり少なくとも1時間をメタバースで過ごすようになる」と予測しています[2]。顧客体験の次の戦場はメタバースです。そこで顧客中心のコミュニケーションに成功する企業が勝者となります。まだ着手していないのであれば、開発を始めてください。

ELEKS Ltd. Liviv, Ukraine
ヘッド・オブ・エンジニアリング・マネジメントオフィス
ソリューション・アーキテクト
マクシム・キット
ソフトウェア開発において15年以上の実務経験を有する。スマートフォンやデスクトップアプリケーションのPoCから負荷の高い分散型マルチテナントシステムまで、さまざまな規模のプロジェクトを多数手がける。


体験のデザインには、初期段階からエンジニアの参加が重要

オレグ : ELEKSにおける体験のデザイン方法について紹介します。

デザインというカテゴリーで3つのメインエリアの内の1つ目がサービスデザイン&CX(カスタマージャーニー全体の体験を作り、行動科学に基づいて改善していく)、2つ目がビジネスデザイン/ビジネスプロセスデザイン(市場での優位性を高める)、そして3つ目がプロダクトデザインです。

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プロダクトデザインでは、まずリサーチを行い、定性/定量的な方法でユーザーニーズなどを理解します。そこからアイデア出しをして、製品コンセプトやPoC(Proof of Concept:概念実証)を定義します。その後、プロトタイプをユーザーにテストしてもらい、使いやすさなどを検証します。

プロダクトデザインでは、以下の3点を検証する必要があります。

  • 顧客が気に入るか(顧客体験)
  • 収益が見込めるか(ビジネス)
  • 技術的に実現可能か(テクノロジー)

このため、デザインのできるだけ早い段階からソフトウェアアーキテクトなど技術側のメンバーが参加することが必要です。ELEKSでは、サービス担当やビジネス分析の担当だけでなく、すべての関係者が集まってワークショップを行いますが、そのときは自分がどの部署かということは忘れて、全員がプロダクトのデザイナーなのだと考えてワークショップに取り組みます。

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マクシム : デザインの段階でエンジニアにとってもっとも重要なことは、品質特性を把握することです。

品質特性とは、まずシステム動作要件、これには機能要件と非機能要件があります。「ここにボタンが必要だ」というのは機能要件、「このボタンの反応時間は100ミリ秒以下でなければいけない」などは非機能要件です。その他に、スケーラビリティやアクセシビリティなど、「-ility」という言葉が使われる特性もあります。

すべての品質特性が、測定可能でなければなりません。デザインフェーズでこれらをしっかり把握することが、その後の技術的な実現可能性につながります。

品質特性は顧客体験に大きく影響します。例えば、アプリケーションが思いどおり動かず、動作が遅い、思ったところにボタンがない、母国語で書かれていないというのは、ユーザーにフラストレーション(ネガティブな顧客体験)を意図せず与えてしまいます。

アプリケーションをデザインするときには、ユーザーがそれをどのように使うのか(どの国で、どんなときに、どういう目的でなど)詳細にリサーチして深く理解し、目的に沿って調整しなければなりません。ELEKSではQuality attributes workshopを実施して、品質特性を洗い出して優先順位をつけたり、利用シナリオを検討しながら将来的なロードマップを決めます。

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テクノロジーと顧客体験が、世界のあらゆるイノベーションの原動力になる

オレグ : 新しいプロダクトの発想は、顧客体験、ビジネス、テクノロジーのシナジーから生まれます。

ELEKSが提供するデザイン手法は、例えばデザイン戦略として、リサーチを実施して顧客理解の基礎となる顧客モデルを作ります。これを基にプロトタイプを作ってユーザビリティテストを実施し、収益性を検証し、ソフトウェアアーキテクチャなど技術面の方向性や品質特性を決めます。

また、ELEKSでは、携わるすべてのプロダクトデザインは、顧客中心、技術的に実現可能、データドリブンである、高い専門性に基づき設計されている、持続可能性やアクセシビリティに優れている、インクルーシブである、といったさまざまな要素が必要だと考えています。

そのためには、データサイエンスを駆使した顧客理解が必要です。ELEKSはヨーロッパ最大のデータサイエンティストのオフィスを持っており、強みになっています。しっかりと顧客を理解し、テクノロジーがデザインに寄り添うことにより、お客様にとって価値あるプロダクトを作ることができる。そのように考えています。

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脚注

1. ^ "Customers Are Willing to Swap More Data for Personalized Marketing". Salesforce.(2016年11月4日). オリジナルの2016年11月8日時点におけるアーカイブ。2023年4月7日閲覧。

2. ^ "Gartner Predicts 25% of People Will Spend At Least One Hour Per Day in the Metaverse by 2026". Gartner.(2022年2月7日)2023年3月13日閲覧。

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