ブランドがグローバル展開する際には、国内のプロジェクトとは違う大事なポイントがあります。本記事では、多文化・多言語の体験設計の取り組みや、海外ネットワークとの連携体制について、電通デジタル 中村宗一郎とフォン・アンディが「戦略基盤をグローバルに、体験をローカルに」をキーワードに解説します。
※本記事は、2022年12月に開催されたウェビナーを採録し、翻訳・編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。
電通デジタルにおけるCX戦略とUXの考え方
中村 : 私たちが所属するグローバルビジネス部門は、約40人のチームメンバーで構成され、90%以上が日英バイリンガル、国籍も多様なダイバーシティに溢れた組織です。それぞれが違った職能、文化的背景を持っており、この環境は私たちの強みです。
フォン : 世界の最新トレンドもキャッチしますし、海外の電通グループ企業とも連携します。真のグローバルチームとして、クライアント企業の海外展開のプロジェクトに取り組んでいます。私たちが理想としているのは、ストラテジー、UX、テクノロジーを結合するようなポジションです。
一貫した戦略と地域に合った顧客体験
中村 : 私たちが取り組ませていただいているプロジェクトには、大きく分けて「グローバル」と「リージョナル/ローカル」の2つの要素があります。
端的に、ステークホルダーが複数の地域にまたがるのが、グローバルプロジェクトです。アプローチのポイントは2つあります。
- ブランドコミュニケーションの統一
- 各地域との複数のタッチポイント
一貫したブランドとしてのビジョンや人格を構築し、複数の地域にまたがる中でブランドコミュニケーションのガバナンスをしっかりと持つことが重要です。
一方、1つの地域のステークホルダーとより密接に関わるのが、リージョナル/ローカルプロジェクトです。こちらもポイントは2つあります。
- ブランドコミュニケーションのローカライズ
- 地域に即したCX(顧客体験)
異なるマーケットで一貫したブランディングを行うことは非常に重要ですが、コミュニケーションやCXをローカライズすることで、その地域のユーザーニーズに合ったブランドとして受け入れられるようになります。
個人的には、グローバルプロジェクトでは「ユーザーがどうブランドを見るか・感じるか」を考え、リージョナル/ローカルプロジェクトでは「ユーザーがどうブランドを体験するか」を考えるという違いがあります。重要なことは、地域の実情に合わせて顧客体験を最適化しつつも、統一感のあるブランド構造や効率的な運用を行うガバナンスをブランドとして持つことです。
グローバルビジネス部門 ソリューション事業部
中村 宗一郎
CX戦略立案および顧客体験設計の策定から、クリエイティブを含めた実装・実現まで、ワンストップで担当。外資系企業を中心とした国内外のプロジェクトに従事。
日々の体験の積み重ねがブランドを作る
中村 : 現在のブランドは、伝統的なマーケティングコミュニケーションだけでなく、デジタルのタッチポイントにおけるユーザー/ブランド間の毎日のコミュニケーションの蓄積で成り立っています。以前のグローバル企業の多くは、画一的(one-size-fits-all)なアプローチをしてきました。ただ、現在は積極的に地域の文脈に合わせたコミュニケーションを行おうという傾向が強まっています。
グローバル、そしてローカルを巻き込んだプロジェクトのご相談を世界中からいただく中で、私たちは「戦略基盤をグローバルに、体験をローカルに」を実現することが重要だと考えています。実現にあたり、私たちは3つのことを大切にしています。
①一貫したブランド
ブランドのビジョンを表現するために、ブランド基盤やコアバリューが一貫している必要があります。ローカライズは重要ですが、各市場で異なるブランドビジョンやブランドにそぐわないCXは避けなければなりません。繰り返しにはなりますが、日々の体験の積み重ねがブランドを作るということを強く意識しています。
②文化・環境最適性
グローバルと地域のニーズを橋渡しする必要があります。グローバル戦略を持ちつつも、CX/UXは地域の生活者に刺さるものでなければなりません。
③各マーケットを支援(管理)する仕組み
統一されたブランド構造と、効率的なガバナンス体制(center of operation)を持つことで、包括的なブランド管理をしながら、必要に応じて現地市場のニーズや好みに合わせて最適化することが必要です。
グローバルとリージョンをうまく機能させる方法
中村 : グローバル企業にとって、本社の決定とローカルの決定のバランスを取ることは重要な課題です。
グローバルとリージョンを連携して機能させるため、私たちストラテジーのチームでは、クライアントのステークホルダーとのワークショップを行っています。そこで、グローバルで守るべきビジョンを擦り合わせ、ブランドの現状と未来(ありたき姿)の状態、これからどう変更/発展させたいかを徹底的に話し合います。
また、ビジョンを実現するための体験設計を行うため、調査、消費者テスト、ステークホルダーへのインタビューなど、複数のビジネス分析を行って地域のニーズと要件を理解します。これには大変時間がかかります。また、地域ごとにユーザーインサイトや文化が違うため、戦略を構築する際には、海外の電通グループ企業とのコラボレーションも時に非常に重要となります。
フォン : UXチームでは、まずグローバルで共通するデザインシステム(デザインの体系)を作ります。地域に即してCXを最適化するには、これをガイドラインとして使います。
そしてもう1つ、機能要件を定義します。これをデザインシステムに組み込み、地域によって違いが出ないようにします。
電通グループは、国内約160社、海外約750社の企業で構成されています。さまざまな地域にさまざまな専門性を持った人たちがいて、協力してCXやデザインの課題を解決しています。
中村 : 国際的なネットワークでつながることは、地域の人々のインサイトや文化の違いを理解する上でとても重要です。今年から始めた取り組みの一つに、「文化交流プログラム(Cultural Exchange Program)」があります。世界各地の電通グループ企業からゲストを招き、オンラインで文化やビジネス、パーソナルなことを共有し、お互いを知るためのオンライングループセッションを開催しています。このプログラムを始めた最大の理由は、私たちが「One Dentsu」であり、世界中の国や同僚との関係を強化し、会社全体で対話を行い、将来のプロジェクトのためにより良いコラボレーションを実現したいと常に考えているからです。すでに、米・欧州だけでなく、アジア各国やアフリカからもゲストを招待しています。今後も開催する予定です。
グローバルビジネス部門 ソリューション事業部 ディレクター
フォン・アンディ
10年以上にわたりグローバルデザインエージェンシーでUI/UXとエクスペリエンスデザインのシニアリードを務める。戦略、デザイン、テクノロジーのコラボレーションを常に模索。
自分をアップデートする5つの方法
フォン : グローバルや地域のトレンドを把握し、常に知識を最新の状態に保つために、私たちが自身をどうアップデートしているかを紹介します。
①人から学ぶ/ミートアップイベント
フォン : ミートアップイベントは小規模のミーティングで、仕事の前後の短時間で行われます。参加しやすいし、質問もしやすいので、私はとても気に入っています。
中村 : 独学だと行き詰まってしまうこともありますが、他の人からのインプットによって視点が変わり、新しい発見やアイデアにつながることがあります。
②カンファレンス/オンライン授業
フォン : こちらはもう少し大規模で、分野やトピックが決まっています。これらのイベント(特に対面イベント)は、自身の分野の人たちとネットワークを作る絶好の機会です。いろいろ学べますが、半日から終日と時間をとられるので、参加のハードルは上がります。有料のことも多いです。
③グローバルでの社内共有
フォン : オンライン共有ツールを使用して、社内や海外のグループ企業のさまざまなプロジェクトの資料を見ることができます。もちろん、クライアント限定の情報は共有されませんが、マーケティングフレームワークや仕組み、最新のトレンドなどは共有され、常に新しいインプットを得るのに役立ちます。新しいアイデアやマーケティング手法がストックされているので、いろいろ学びがありますし、自分のプロジェクトに活用することもできます。
④オンライン資料を読む
フォン : オンラインコンテンツを読むのも基本です。オンラインマガジンのようなもので、無料とサブスクリプションがあります。私は、デザインやテクノロジーのトレンドを知る目的で読みます。雑誌を買っても良いですが、オンラインならブックマークしておけば、時間があるときにどこにいても読めます。こういうものは美的側面を楽しむ人もいますが、私はUXがどう機能するかといった、デジタルの技術面の参考にしています。
中村 : 戦略やコミュニケーションを学ぶときも同じです。賞を受賞したプロジェクトやグローバルなトレンドからいろいろとヒントを得ています。
⑤常にインスピレーションを得る
フォン : UXはどこにでもあります。通勤途中にも、5~10個はUXを組み込んだものを見かけるはずです。例えば、電車の運賃を携帯電話で支払う仕組み、自動販売機の仕組み、車道/歩道/自転車用車線といった道路設計、エレベーターの制御など。よく見れば、すべてがUXデザインです。
あるいは、よく使うアプリを友だちに聞いて、自分でインストールしてみることも多いです。いつもの自分から一歩外に出ることも、インスピレーションを得るいい方法です。
中村 : CXについて考えるときには、自分自身が生活者の視点に立つことが重要です。私は、新しいポップアップやイベント、新しい店舗がオープンするたびに、実際にそのブランドを体験するために訪問してみます。ブランドがその取り組みを行う理由を考え、その背後にあるストーリーと戦略を考えるためです。
フォン : デザイナーであれ、ストラテジストであれ、クライアント企業のサービスやプロダクトを体験するのは重要です。「体験」こそがブランドと生活者の接点です。
「戦略基盤をグローバルに、体験をローカルに」
1つのブランドに対して、ユーザーには同じように感じてもらいたいのですが、ローカルレベルで考えると、その地域の実際のユーザーに影響を与えるような体験が必要不可欠です。ユーザーニーズは地域ごとにある程度の違いがあり、それが満たされないとブランドから離れていってしまいます。私たちはそのようなことがないようにプロジェクトを推進することを心がけています。これから海外に進出しようとお考えの際は、ぜひお声がけください。
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