DXの本質は、継続的な事業成長に向け、自らが変わり続けていくこと――。DXによる組織変革を実現する国内企業に電通デジタルがインタビューをし、成功のカギを探る「変革文化を生み出す日本流DX」。第2回は、日本初の銀行勘定系システムのクラウド移行を実現するなど先進的な取り組みで注目を集める北國フィナンシャルホールディングスの杖村修司代表取締役に、電通デジタル執行役員の安田裕美子氏が迫った。
「日経ビジネス電子版Special」(2023年3月13日公開)に掲載された広告を転載
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営業モデルの転換に向け、強靭なコスト体質改善に取り組む
電通デジタル・安田裕美子(以下、安田):当社は様々な企業のDX推進の支援をする中で、「DX成功企業を教えてほしい」という相談がよくあるのですが、企業全体での取り組み事例は国内でも多くなく、海外の事例ばかりになることにもどかしさを感じていました。そんな中で御社を知ったときは「日本にもこんな会社があるのか!」と驚愕しました。御社はDXという言葉が生まれるかなり前から改革に取り組まれており、日本で初めて銀行勘定系システムをパブリッククラウドに移行するなど、数多くの先進的な取り組みを推進されていますが、そもそもの取り組みの起点は何だったのでしょうか。
北國フィナンシャルホールディングス・杖村修司氏(以下、杖村):「真の顧客本位の経営を行わなければ、永続的に生き残ることはできない」。そんなトップの強い危機感から、営業のあり方をはじめとする全社変革プロジェクトが立ち上がったのは23年前の2000年にさかのぼります。
預貸業務を中心に量や件数を追求する旧来のビジネスモデルでは早晩、経営が立ち行かなくなる。また、プロジェクト開始前に行った顧客アンケートを通じて「お客様本位の業務運営」を掲げながら、目指す姿と現場の実態に大きな乖離があることも明らかになりました。
変革に向け、“待ったなし”の議論が進められる中、量から質への転換を図り、顧客を起点とする付加価値の高い課題解決サービスに軸を置くべく、私がチームリーダーの命を受け施策の検討を進めていきました。
その第1段階として取り組んだのが、コスト体質の改善です。経営の根幹に関わる営業戦略をいきなり大転換することは、現場に混乱を引き起こすリスクがあり、営業を変える上で必要な人材およびIT投資の費用を捻出することが大前提となります。
まずは店舗施策の見直しと戦略的なコスト削減を進め、1997年のピーク時、155あった店舗の統廃合を進め、全店舗フルバンキング体制からエリア営業体制へ順次移行する方針を打ち出しました。
まずは人材やIT投資に向けたコスト体質改善から始め、顧客本位の経営を目指したビジネス変革を進めました
安田:店舗の統廃合は、昨今はどの金融機関でも着手されていますが、2000年代初頭では先進的な取り組みで、社内外の反響、反対も大きかったのではないでしょうか。
杖村:変化には必ず痛みが伴い、一定の反対の声が挙がるものです。大事なのは、経営層が目指すべき姿をしっかり指し示し、覚悟を持ってやり抜くこと。前向きのメッセージを発信することも重要です。コスト削減は未来型営業へ向かうための第一歩であることを伝え、生産性向上による社員1人当たりの給与アップを目指すロードマップも併せて提示し取り組みを進めました。
戦略的コスト削減では、地元の取引先企業からの調達コストについても聖域視せず、継続的に対話をしながら適正価格を実現していきました。その結果、2000年度、約350億円だった経費が、2020年度で約290億円まで減少し、今後数年内には約250億円までの削減を想定しています。
一連の取り組みは私を含め当時30代の若手チームメンバーで進め、外部の視点も取り入れながら議論を進めていったことも大きかったと思います。
真の顧客起点企業へ。事業変革を断行
安田:第1段階のコスト体質改善に続き、第2段階の営業戦略の変革に着手する上で、従来の営業スタイルで成功体験を積み重ねてきた社員の意識を変えるのはハードルの高いチャレンジだったのではないでしょうか。
杖村:旧来のビジネスモデルにおけるお客様の立ち位置は、上意下達の営業目標で統制される銀行組織の下にありました。そうではなく、お客様を最上位に、顧客起点の営業スタイルへと転換していくために行ったのが2015年の「営業目標廃止」です。
当初、「営業ノルマ廃止」といった言葉だけがメディアで独り歩きしてしまったのですが、目標数値の達成ありきではなく、カスタマーセントリックで考え、お客様に真のバリューを提供していくという目指す営業のあり方に向けた戦略ストーリーの第一歩でした。
営業のスタイルも「お願い営業」と言われるプッシュ型から、お客様が抱える課題を共有し、解決を支援する「課題解決型営業」に変革しました。この取り組みを継続することが、お客様の持続的成長につながると考え、地元企業を中心にコンサルティング、アドバイザー業務を始めて10年近くがたちました。
安田:御社のお客様においても、既存の事業が根付き、成功体験を擁す企業を変えていくのは、とても難しい作業だと思います。そこまでの実績を上げるに至った理由はどこにあるのでしょうか。
変わり続けることが成長の原動力。改めて継続の尊さを実感します
杖村:シンプルなようですが、まずはお客様の業務を深く理解し、しっかりと関係性を構築する。そして、お客様の課題に寄り添い、どうしたらお客様のビジネスの付加価値を高めることができるかを、伴走しながら一緒に考えていくところから入っていきました。
また、こちらからの「お願い営業」に対し、「いざというときに融資をしてもらえるよう営業目標の達成に協力する」「業務外でもお付き合いを深め、良好な関係を築くことが大事」といった、お客様の銀行に対する従来のマインドセットを変えていくことも重視し、取り組みを進めていきました。
世の中には、企業理念などに「顧客主義」を掲げながら、「現場はきれいごとでは回らない」とばかりに旧来の営業スタイルが横行しているケースもいまだ散見されます。短期的な数値目標の達成ではなく、事業の持続的成長を実現していく上では、理念や戦略と現場を一致させることが何より大事だと考えています。
安田:電通デジタルも、創立して約6年の若い会社ということもあり、かつ常に新しいことに挑戦し続ける会社なので、そのためには会社の目指す姿と、現場の業務のアラインが非常に重要になってきます。
杖村:そうですね。当社でもとくに若い社員ほど、仕事を通じて社会や顧客の課題解決に貢献することを重視し、情熱と真剣さを持って取り組んでいますね。現在、当社には「営業」と名の付く部署は存在しませんが、もし、今、昔の営業ノルマを復活させたら、ほぼ全社員が反対するのではないでしょうか。
変革の成功の決め手は「対話」と「インテグリティ」にある
安田:地域に根差す銀行として、個々のお客様の課題解決だけでなく、地域社会全体のDX「地域デジタル化」も推進されています。目指す姿や具体的な取り組みについて教えてください。
杖村:今やすべての企業にとって、ROE向上とESGやSDGsへの配慮を両立した経営の実践は、企業と社会の持続的成長を担保する上で当然のミッションとなっています。加えて当社では北陸地域を日本の「キャッシュレス・デジタル先進地域」へ導き、生産性向上によって生まれた資源を新たな価値サービス創出につなげる地域活性化を目指しています。デジタルバンキングの強化や店舗統廃合に加え、店外ATM削減も進め、コスト削減効果を地域デジタル化への投資に還元しています。
豊富な観光資源をはじめ、北陸地域が擁する潜在的な成長力は高い。地域の総合会社として顧客起点でパートナー企業とも協業して知恵を出し合い、特徴あるQuality Regionの実現と発展への貢献を目指しています。
こうしたビジョンを浸透させ、目指す姿を実現していく上で、2つのキーワードが肝要だと考えています。1つ目が「対話」です。「すべては対話から始まる」とよく言っているのですが、イノベーションを生み出すのは、コミュニケーションとコラボレーションの掛け算にほかならない。スタートアップ企業などとの協業も価値観をしっかり擦り合わせた上で、積極的に進めています。
対話型の議論を重視する企業文化を浸透させるためには、役員が率先してフラットにコミュニケーションを取ることが大事だと考えています。現在の新本店ビルの業務フロアはすべてオープンフロア構造となっており、役員が自室から出て各フロアを縦横に行き来し、会話をする光景が日常的に見られます。
また、毎週、1600字程度のトップメッセージを社内コミュニケーションツールのMicrosoft Teamsを通じて発信し、社員は自由にレスポンスができるようにしています。
価値観は多様で、相手の考えも千差万別ですので、場合によっては折り合えそうにないこともあるでしょう。それでも、「可能な限り議論を尽くす」という覚悟で、リアル、オンライン問わず、手を替え、品を替え、トップ自らが思いを伝え続けていくことが大事だと考えています。
2つ目が「インテグリティ」(integrity)。誠実、高潔などの概念を意味する言葉で、近年では組織のリーダーやマネジメントに求められる最も重要な資質とされています。変革を実現する上で必須となるマインドセットのリセットを行う上でも、全社員がインテグリティを持って臨むことが必須だと捉えています。
また、変化の激しい時代にあって変革に挑むには、新たな知見と既存の知識のアップデートも欠かせません。自ら考える力、思考力を養うための継続的なリカレント教育、リスキリングへの投資、自己研鑽の推奨を重視し、経営陣、マネジメント層こそが率先して学ぶ文化を根付かせるべく、公募型で誰もが学べる場を広く提供しています。
こうした取り組みを続けていくことで、北陸地方だけでなく、この30年間で停滞してしまった日本という国の再浮上にも貢献できるよう、さらなる変革に挑んでまいります。
安田:杖村社長からは強い意志、Willを感じますし、社全体にそのWillが伝播し息づいているのを本日は痛感しました。御社のように強い意志を持って変革に挑むお客様をしっかりと支援していけるよう、自らも学びを深めていきたいと思います。勇気が出るお話をありがとうございました。
電通デジタル's EYE
欧州でチャレンジャーバンクと言われるデジタルバンクの躍進、シンガポールのDBS銀行といったグローバルな金融企業のDXの取り組みが先行する中、北國フィナンシャルホールディングスは実に本質的な企業のパーパス(存在意義)を問い直す取り組みを起点に変革を長期的に継続し続けている稀有な存在ではないでしょうか。「社会の役に立ちたいということを、青臭いと言われても言い続ける。リーダーこそが本気で考えているかというのが重要」とおっしゃったのが非常に印象的でした。私自身、偶然にも石川県出身なのですが、こういう企業が地元をリードしているというのはとても頼もしくうれしく、私も一助にならなければと思いを新たにしました。(安田)
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