2023.03.07

人の心を動かすサービスデザイン

社会課題をコミュニティで解決する事業開発支援プロジェクトを通して

深いユーザーインサイトから提供価値、コンセプト、理想の体験フローを導き出すプランナーは、どのようにプロジェクトを進めているのか? 社会課題をコミュニティで解決する「デジタルコモンズ実証プロジェクト」リーダーであるBIPROGY鬼武辰憲氏を迎え、CX(顧客体験)戦略からUX設計まで、一連の体験を設計するプランニング事例を紹介します。

※本記事は、2022年12月に開催されたウェビナーを採録し、編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。

デジタルコモンズ実証プロジェクトとは?

鬼武辰憲氏(以下、鬼武) : 「デジタルコモンズ」とは、デジタル時代の新たなコミュニティのことです。デジタルを活用して、共有材に新たな付加価値を創出することで、「社会的価値」と「経済的価値」を両立させ、社会課題の解決を目指す。これが基本的な考え方です。

このデジタルコモンズ実証プロジェクトの第1弾が「働く女性のためのデジタルサードプレイス構想」(サービス名:Marble+)です。

Marble+は、働く女性の不定愁訴(何となく体調が悪い自覚症状があるものの、検査をしても原因となる病気がわからない状態)や、ライフステージに関連する「悩み」をデジタルコミュニティで解決することで、女性の生産性や働きやすさを向上させるサービスです。

女性の課題や悩みは、複合的であり潜在的です。解決には、他のライフイベント(キャリアや子育てなど)も関係していますし、「周囲(上司や部下、男性や女性)の理解/認識や会社制度(生きづらさ)」も解決対象となります。

この課題を、今までのコミュニティの概念とは一線を画した新たなコミュニティである「デジタルコモンズ」によって解決する取り組みが、今回のプロジェクトです。

このプロジェクトを成功させるために必要なことは、CXにおけるユーザー深掘り行動洞察を原則としたサービスデザイン、すなわち「人の心を動かすサービスデザイン」ではないかと考え、電通デジタルにご協力をお願いしました。

BIPROGY株式会社
経営企画部PRJ準備室 室長
鬼武 辰憲 氏

新事業開発に長年従事。さまざまな新規事業(投資/M&A/ゼロイチ)を複数企業で経験。NRI、ORIX、2社のスタートアップ経営者を経て、現職(旧・日本ユニシス)。


クライアントの心を動かす

電通デジタル 岩崎文美(以下、岩崎) : 構想フェーズは、大きく4つのパートに分かれています。これを約3カ月でご支援させていただきました。

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電通デジタルは今回のプロジェクトに途中から参加させていただきました。我々の「ファーストアクション」は、クライアントの議論内容を2時間のインプットで共有するところからのスタートです。

BIRD部門 クリエイティブプランニング第2事業部
事業部長
岩崎 文美

2001年に電通へ入社。クリエイティブストラテジストとして電通アイソバーへ出向後、2021年より電通デジタルに参画。得意領域はCXビジョン発想のブランディングや顧客体験設計など。

お話を聞き、率直に自分もターゲットの一人として「とても意義深いサービスだ」と思った一方で、ちょっとした違和感とモヤモヤが晴れず、その迷いをシェアするところから始め、まず初期仮説をご提示しました。鬼武さんはこれを受け取って、どのように感じられましたか?

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鬼武 : 「このチームの皆さんは、本気で考えてくれている」「生活者の目線に立ち、課題を自分ごと化し、戦略的にしっかり考えてくれている」と感じ、きっとうまくいくと確信しました。

岩崎 : まずクライアントの心が動かないと、心を動かすサービスは作れません。今回のプロジェクトでは、クライアントに初期仮説を具体的にご提案することで、私たちの仕事スタイルや強みを分かりやすくお伝えできたと思っています。

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リアルなユーザーの顔が思い浮かぶまで考え抜く

電通デジタル 安東咲(以下、安東) : フェーズ1はサービス戦略仮説のプランニングです。プランニングするときは、「1次情報に触れる」ということを大事にしています。

更年期に関しては、経験のある方を探してインタビューしました。更年期症状について語ること自体がタブー視されている現実があると知り、私自身知らないことが多く、かなりショックを受けました。これに関して、もう一人のプランナーで男性の青木さんはいかがですか? 

BIRD部門 クリエイティブプランニング第2事業部 バリュークリエイショングループ
安東 咲

広告クリエイティブ設計、サイト・アプリのUI設計、SNS戦略、キャンペーン設計などを経験。電通デジタルでは、CX、UXのアプローチからサービス開発などに従事。

電通デジタル 青木大地(以下、青木) : どこまで自分ごと化できるのか正直不安でした。1次情報をしっかり知っておこうと思い、社内でデプスインタビューを行い、一人ひとりの深層心理や本音を探りました。

PMSや更年期は、人によって症状の度合いはさまざま。身体的な不調もあれば、心理的な不調もあり、なかなか原因を特定するのが難しいものだと肌で感じることができました。

また、インサイトの確からしさを確認するために、検索キーワードによる傾向分析や、簡易アンケートを実施しました。

CXトランスフォーメーション部門
CX戦略プランニング第2事業部
青木 大地

ディレクターやUXデザイナーとして、Webやアプリ、映像、パンフ、空間など多岐にわたり経験。2021年より電通デジタルに参画。CX戦略からUX設計まで幅広く従事。
※所属は2022年12月時点。

岩崎 : 電通デジタルでは、ターゲットユーザーの解像度を上げていくために、以下のようなコンセプトシートを用意し、精緻化していきます。

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ただし、これをすべて埋めたことでフォーカスできた気分になってしまうのは、陥りがちな落とし穴です。

あれもこれもしてくれるサービスには誰も惹かれません。「私のために」何をしてくれるのかを考え抜いてこそ、骨のあるコンセプトになります。

そのために必要なのは、どういうサービスにしていくのかを絞り込み、そぎ落としていく作業です。強い価値が浮き彫りになるまで何度もディスカッションし、たどり着いたコンセプト(第1段階)がこちらです。

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鬼武 : このコンセプトによって、私自身が、カスタマー目線でありありとストーリーを語れるようになりましたし、なぜこの新規事業を手がけるのか、その理由を明確に意識できました。

岩崎 : 心を動かすサービスを作るには、リアルなユーザーの顔が思い浮かび、「この人に使ってもらいたい」と思えるまで解像度を上げ、突き詰めることが大事だと、痛感しました。

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「作って壊す」を繰り返す

岩崎 : 続いて、フェーズ2のサービス体験設計フェーズです。サービス戦略仮説と体験設計は何度か往復しました。

青木 : コンセプトがサービスになったとき、ユーザーにとってどのような体験になるのかを、ストーリーボードと画面イメージを使って検討しました。こうしたツールを使い、コア価値の議論や磨き込みを行いました。

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安東 : さまざまな専門性を持つメンバーが、会議室でホワイトボードを囲んで、体験設計、コンセプト調整、画面イメージ修正を何度も行い、領域を横断しながら、「叩いて壊す」「壊しては作る」を繰り返しました。

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ミニマムなメンバーで抽象と具体を行き来し、ある程度形が見えた段階で、鬼武さんたちクライアントに入っていただきました。これにより、サービス体験設計を短期間で進めることができました。

鬼武 : プロダクトを生き物にするには触感と観察が重要です。重要なことは、心理的安全性が担保されていること。誰もがその時、思ったことを言えるかどうか。全員が自分の意見を言いつつも、押し付けも迎合もない意見交換で、Best of Breed(最善の組み合わせ)的に進められました。

岩崎 : チーム全員で「作って壊す」を繰り返した3カ月でした。本当に伝えたい価値は何なのか、どの体験を優先すべきなのか。本質を浮き彫りにし、心を動かすサービスを具体化するには、立ち位置と役割を柔軟に変えながら、多様な目線で「作って壊す」「壊しては作る」を繰り返すことが大事です。

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Phase3:顧客体験の受容性検証と改善

岩崎 : 最後のフェーズは、検証と改善のプロセスです。フェーズ1とフェーズ2を経て、可能性のあるコンセプトが2つ残りました。2方向のコンセプト・体験をもとに、実際のユーザーを集めた受容性調査のインタビューで反応を見てブラッシュアップポイントを探りました。

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青木 : 「働く女性の共感ファクトリー」「みんなのカラダコンパス」のどちらが受け入れられるのか。本質的なニーズはどこにあるのか。コンセプトフロー、ストーリーボード、画面イメージをユーザーに見てもらいながら、どのシーンが刺さったのかをインタビューしました。

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世の中に存在しないサービスだからこそ、コアとなる価値を見極めるプロセスが大事です。さまざまな反応や発言をじっくりと観察・考察することで、サービスの顔つきや受け入れられる体験の具体性が高まり、解像度を高めることができました。

安東 : 「何をするか」は大事ですが、「何をしないか」がもっと大事だと感じました。個人のマインドごとに、コミュニティ内での「心地よさ」は異なります。受容性調査から得られたファクトをもとに、参加レベルが異なるさまざまなコミュニティが存在し、選択できるような設計を検討することにしました。

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鬼武 : 社会課題は一人ひとりの日常の中に個別の課題の集積として存在しています。個々人の心の中にある潜在性に触れて、初めて解決できるものです。隠れた本音をいかに捉えていくか、社会課題を扱うサービスでは、ここがもっとも重要な点です。

岩崎 : 世の中にないものだからこそ、具体的な体験・検証を通じて、ユーザーの「隠れた気持ち」に寄り添うこと。その潜在性を見つけることが、心を動かすサービスを作るためには必要です。受容性検証では、否定的な声もたくさん出ますが、それこそが収穫であり、改善すべきポイントであると捉え、チューニングを進めています。

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今後のプロジェクトの展望について

鬼武 : 2022年中に3回の実証実験を行いました。2023年度に事業化するというのが目下の展望です。

このプロジェクトのポイントは「人の心を動かす」ということです。1回目の実証実験に疑心暗鬼で参加していたユーザーの方が、2回目、3回目と参加していただくにつれて、思考と行動に明らかな変容が起こったのを目の当たりにしました。

事業化を着実に進めて、ユーザーの皆さまに喜んでいただけるようなサービスを目指したいと思っています。

安東 : 私たちも、今回のプロジェクトでは非常に多くのことを学びました。ここで得た学びをプランニングのプロセスとしてフレームワーク化できないか、検討しています。


電通デジタルが目指すこと

岩崎 : 今回は、心を動かすサービスを作るために、私たちが普段どのようなスタンスで、どのようなことを考えて仕事をしているか、プロセスに分解してお伝えしました。

世の中にまだ存在しないサービスを作ろうとするときに一番重要なのは、ユーザーの心を持続的に動かし続けられるCX(顧客体験)を描くことであり、もちろん持続可能なビジネスとして成立させなければなりません。両面を見ていく必要があります。

鬼武さんをはじめとした皆様と一体感のあるチームで、このようなプロジェクトをご支援できたことは、私たちにとっても大きな学びがありました。

これからも引き続き、生活者・社会・クライアントにとって、より良い体験を作るプロジェクトを増やしていきたいと考えています。

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