2023.03.06

ヤングプロフェッショナルのUXキャリア開発

UXの仕事とは何なのか? UXのプロとして生きていくとは、UXでキャリアを刻むとはどういうことなのか? 現場の第一線で活躍する、ヤングプロフェッショナル世代のUXデザイナーが「UXに出会い歩んできた自身のキャリア」「電通デジタルのUXチームでの働き方」「これからのUXのキャリア」といったテーマについて意見を交わしました。ファシリテーターは、「やさしいビジネススクール」学長 中川功一氏です。

※本記事は、2022年12月に開催されたウェビナーを採録し、編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。

UXに関わる仕事とは

中川 : 最初に私から、UXとは本質的に何なのかという話をします。これは何に見えますか?

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: 猫だと思います。

: 猫にしか見えません。

鈴木 : 人気の猫型ロボットキャラクターじゃないでしょうか。

中川 : 客観的に見れば、2つの三角形と楕円(だえん)に過ぎないこれらの図形が、特定の配置を取ったときに、意義を持ち、価値を持ち、人によっていろいろなモノに見えるようになります。単なる記号の羅列を、意味をもつものとして解釈可能にする仕事、それがUXだと思います。

どのような素晴らしいプロダクトやサービスであっても、そのままポンと生活者に提示するだけでは、その価値は伝わりません。上手に情報を整理し、取捨選択し、メッセージやデザインに落とし込むことを通じて、はじめて生活者に理解可能なものとなり、価値が生まれます。これが私なりに考えたUXの仕事です。

UXというのは、デザインやアートである一方で、サイエンスでもあり、エンジニアリングでもあります。Science、Engineering、Design、Art、この4つの頭文字をとって、SEDA(シーダ)と呼びます[1]。機能や形式を一つの形に収め込むものがScienceとEngineering、情動的な側面を一つの形に収め込むのがDesignとArtです。

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UXには、これらの要素のコラボレーションが必要です。必然的に複数の専門家のチームワークとなります。チームであるということは、マネジメントが必要になってきます。これからのUXには、SEDA人材+マネジメントの力が必要になってくると、私は考えています。

やさしいビジネススクール  学長
中川功一氏

経営学者、YouTuber、経済学博士(東京大学)。
「アカデミーの力を社会に」をモットーに、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」で、日本のビジネス教育のDXを目指す。


いままでのUXキャリア

中川 : ここから皆さんのキャリアについて伺います。最初に鈴木さん、これまでのキャリアを教えていただけますか?

CXトランスフォーメーション部門 CX/UXデザイン 第2事業部
鈴木健史

UXコンサルタント/UXデザイナー 
2019年新卒入社後は戦略・コンセプト立案、UXリサーチ、WS設計、UI・インタラクション設計など、UX領域を幅広く担当。 
Google UX Design プロフェッショナル認定 
スクラムプロダクトオーナー認定

鈴木 : 大学では、マーケティング、哲学、アート、身体論など、リベラルアーツを学びました。「人のココロを動かしたい」という想いから、電通デジタルに入社し、UXの世界に足を踏み入れました。

1年目は、調査、情報設計のスキルを磨き、大手通信会社や金融会社の案件を担当しました。2年目は自主的にGoogle UX Designプロフェッショナル認定を取得しました。これによって、UX全体を俯瞰して見られるようになり、自主的に動けるようになってきたという実感があります。

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中川 : UXの仕事というのは、やはり調査の部分がけっこうありますか?

鈴木 : そうですね。実際のユーザーは何を考えているのかを調査し、深掘りしていき、そこから課題や筋道を立てていくというのが、UXの起点です。

中川 : 「こういうデザインがいいだろう」と感覚で作るのではなく、エビデンスに基づいた仕事が必要になってくるということですね。

鈴木 : はい、そうです。

中川 : 今はどのような仕事をしているのですか?

鈴木 : 2022年から、アジャイル型でのサービス開発において、リードUXコンサルタントを務めています。クライアント巻き込み型で、デザイン思考を取り入れながら、さまざまなサービスを改善しています。

中川 : UXを作っていく上で、なぜアジャイル型開発が有効なのでしょうか?

鈴木 : 長期にわたるプロジェクトだと、作り始めと完成時では、技術や社会環境が変わっているかもしれません。今ある技術や価値観をベースにしてウォーターフォール型で作ると、未来のユーザーに対してプロダクトが価値を持たないかもしれません。段階的にプロダクトや作り方をアップデートしていけるのが、アジャイル型を採用するメリットかなとは思います。

中川 : ありがとうございます。次に劉さんのこれまでのキャリアについて伺えますか?

BIRD部門 ビジネスクリエイション事業部
劉亦天

教育事業会社、NPO、外資マーケリサーチを経て、2021年4月に入社。サービスコンセプト策定、UXデザイン、プロダクトマネジメントなど、構想から実行まで幅広く支援中。

: 私は、教育事業会社、教育系NPO、外資系マーケティングリサーチ会社を経て、電通デジタルに入社しました。前職の3社では、マーケティングリサーチによるインサイトの発掘を行っていましたが、UXを全く意識していませんでした。電通デジタル入社後に、これまでの経験がUXの仕事にもつながることに気づきました。

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中川 : インサイトや定量的な情報から、どういうふうに具体的なUXに落とし込んでいくのでしょうか? また、ユーザー起点であると同時に、ビジネスとしても成り立つ必要があります。こういった点について、劉さんの観点からお考えはありますでしょうか?

: この問いは自分がすごく悩んできた、共感できる問いです。ユーザー視点は大事ですが、お客様が言ったことが必ずしも正解とは限りません。また、未来はどうなるか、誰にも見えません。ユーザー視点をベースにしながら、ビジネス視点、社会視点、未来視点を組み合わせ、どういうUXが必要なのかを考えながらバランスをとって進めています。

中川 : ありがとうございます。続いて、馬さんのこれまでのキャリアについて伺えますか?

BIRD部門 クリエイティブプランニング第1事業部
馬問津

美術大学業後、2020年新卒入社。
顧客体験とクリエイティビティを起点とし、サービスのアイディエーションからUX、UIまで、一気通貫でデザインを担当する。

: 私は、2016年に美大に入りました。インターフェースを学んだのは、統合的にデザインを学ぶ学科の一つの授業がきっかけでした。その後、在学中にベンチャー企業で長期インターンとして働いているときに、自分が課題としていたことは、専門用語で「ペルソナ」「カスタマージャーニー」と呼ぶのだということを当時のプロダクトマネジャーから教えてもらい、UXに興味を持ちました。

電通デジタルに入社して、CXクリエイティブ事業部に配属されました。自分にとっては、本当に夢のような仕事でしたが、一方で、自分が見た目のデザインのスキルしか持っておらず、知識の土台が足りていないことを痛感しました。

案件と案件外の自己研鑽で Google UX Design認定や、UXインテリジェンス協会のUX検定など、その他の資格もたくさん取得し、UXの知識の土台を作っていく過程で、UXだけでなく、ソーシャルグッドやインクルーシブデザインにも興味を持ち始めました。会社の中でもグループを作って、インクルーシブデザインを探求していこうと取り組んでいます。

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中川 : 入社した当時、どういう部分が足りないと思ったのでしょうか?

: 私の仕事では、クリエイティブのアイデアをたくさん考えます。アイデアはいくらでも考えられるのですが、どのアイデアが良いのかを評価する軸が分かりませんでした。その基準を求めて、UXの一番ベーシックなところからがむしゃらに学び始めたという感じです。

中川 : 良い形を作ることはできるけれども、それがなぜ良いのかを理屈でちゃんと分かっている必要がある、その知識がこの仕事では土台になってくるのですか?

: クリエイティブの仕事は、自信を持って「これが良い」というのが大事。その自信がなかったのは、土台が足りなかったということです。人間工学のような学術的な勉強と並行して、どういうアプリがあるのか、どういうサービスがあるのか、世の中のモノをいっぱい見て、どういうフローで作っているのか頭の中でトレースするという練習がすごく大事だと思い、この3年間ずっとやってきました。


電通デジタルのUXチームでの働き方

中川 : 冒頭で、UXの仕事は必然的にチームワークになると述べました。電通デジタルのUXチームでの働き方について、皆さんの経験ベースでお聞かせください。

: 私はUXデザイナーとしてアサインされ、プロダクトマネジャーや実装寄りの方と一緒にチームを組むことが多いです。チームを円滑に運営するために、プロダクトマネジメントのタスクを担うこともあります。

: チームの組み合わせは大事です。私は構想から実行まで、横断的にやりたいタイプですが、人によっては専門をもっと深めていきたい人もいます。チーム編成の際には各人がそれぞれの上司(マネジャー)に自分の意向を伝え、編成に反映させてもらいます。

鈴木 : 私はこれまで、主にUX/UIや戦略のチームで働いてきました。戦略を考えて、情報設計まで担当することが多いです。そこがメインチームではありますが、開発やデザインのチームとも会話して、横断的に見られるようにはしています。

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中川 : 思いが強いからこそ、クライアント企業の担当者と意見が衝突することもあると思います。そのようなときはどうしていますか?

鈴木 : 今のプロジェクトではワークショップが多いので、そこでUXチームだけではなく、開発チームやデザインチームも交えて率直に意見を交換し、優先順位を決めます。その結果、相対的に良いアイデアが自然に浮上してくる感じです。かなりフラットに、みんなで一緒に作っていこうという風潮があります。

中川 : 客観的な基準を作り、評価の手順や方法を整えることがポイントということですね。ありがとうございます。


これからのUXキャリア

中川 : 最後に、これから皆さんがUXでどのようなキャリアを描かれるのか、お話を伺えますか?

鈴木 : UXを通して、“well-being”の状態を社会に実装していきたいです。UXは人のためにあるものですが、その先に社会があり、さらには地球、宇宙があります。そこまで考えていくようなUXであるといいなと思います。

: ビジネス・生活者・社会の三者が笑顔になれるようなUXとサービスを増やしていきたいです。お互いジレンマを乗り越えられるような関係にしていきたいと思います。

馬 : 新しい手法で新しい価値をつくり、新しいイノベーションを起こし、社会に良い影響を与えるUXデザイン、ソーシャルグッドを目指すサービスを創出していきたいと思っています。

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中川 : 今日はすごく志の素晴らしい若手に会えて、私も魂が洗われたような気分です。UXは、生活者、企業、社会まで見据えた形で働けるすごく良い仕事なのではないかと改めて思いました。

このセッションを通じて、UXというキャリアを歩んで行くにあたり、何か参考になるものが得られたら嬉しく思います。


脚注

1. ^ SEDAモデルは、消費財において、機能的価値と意味的価値の統合的価値を考えるための枠組み。大阪大学の延岡健太郎教授が提唱している。

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