2023.03.03

Future UX

社会課題起点の共助・共創が重要になるこれからの時代。社会のペイン(課題)を解決することに徹底的に向き合う本質的なUX変革について、最新の海外UX事例を交えながら、株式会社ビービット 執行役員/CCO 藤井保文氏と電通デジタル 小浪宏信が考察します。

※本記事は、2022年12月に開催されたウェビナーを採録し、編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。

なぜUXがますます重要視されてきているのか?

小浪 : 近年、UXの重要性がますます高まっています。藤井さんはお仕事をされている中で、そのようなことを感じることはありますか?

藤井 : 大企業の経営層の方が「企業が追いかけるべきはUX」とおっしゃったり、国のデジタル化の中でも、UXが語られるシーンが増えてきたりしています。

小浪 : そうですね。UXのご相談を受けるときのお相手として、経営層の方とお話しする機会が増えています。

藤井 : 以前はマーケティング部署が多かったのですが、最近は経営層以外にも本当にさまざまな部署の方まで広まっているという実感はあります。

小浪 : 横にも広がっているというのは、確かにありますね。まずはUXの重要性が高まっている背景を、経済・人口動態・技術の観点から読み解いてみます。

経済的な側面では、マーケットが成熟し、製品・サービスがコモディティ化しています。生活者は「モノ」より「コト」の消費を重視するようになり、企業もそれに対応する戦略をとるように変化しています。

人口動態を見ると、少子高齢化により人口減少時代に入りました。生活者の母数が減り、新規顧客の獲得コストが上がってきています。企業はLTV(顧客生涯価値)を重視し、新規顧客獲得よりも、既存顧客である生活者とより良い「関係」をより長く継続していくように変化しています。

技術的側面では、スマートフォンやIoTなど、デジタル技術の発展により、多様なデータが蓄積されるようになっています。生活者は、自分が求めているものが提供されることが当然という価値観の変容が起きてきています。

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こうした変化により、生活者をより理解し、相互作用を通じながら関係性を作り上げることが求められ、デジタル技術を活用したUX構築の重要性が増していると考えられます。

電通デジタル BIRD部門 部門長
小浪 宏信

SIerに入社後、電通イーマーケティングワン(現・電通デジタル)の立ち上げメンバーとして参画。顧客体験設計を中心とした企業の変革コンサルティング業務等に従事。2023年から、社会課題解決型の新規事業開発を支援する電通デジタルBIRDの部門長に就任。

藤井 : 「モノ」より「コト」というお話がありました。「コト」に関しては、自分ができなかったことを可能にしてくれるような体験に価値が感じられ始めていて、それこそがFUTURE UXだと思っています。

小浪 : いいですね、FUTURE UXにつながりました。このような背景もあり、UXはやはり重要になってきているというのが、われわれの実感です。UXという言葉のスコープ(対象範囲)については、どのように捉えられていますか?

藤井 : UXの重要性の高まりと共に、UXのスコープ(対象範囲)も徐々に広がってきています。かつての「製品やアプリの体験」という範囲から、サービスやライフスタイル、生活、のような時間軸を持った体験になり、さらに行政サービスもUXのスコープと捉えることができます。

株式会社ビービット 執行役員CCO(Chief Communication Officer) 兼 東アジア営業責任者
藤井 保文

上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)は累計22万部。最新作『ジャーニーシフト』では、東南アジアのOMO、地方創生、Web3など最新事例を紐解き、アフターデジタル以降の「提供価値」の変質について解説している。    


社会課題起点のサービス発想とUX

小浪 : 世界規模でコロナ禍が続き、さまざまな社会課題が山積しています。そうした中、企業が社会課題にどう向き合い、取り組んでいるかを、生活者が注目し始めています。世界各国で、社会課題の解決を目指した企業やサービスの事例をご紹介いただけますか?

藤井 : 私がここ数年注目しているのは東南アジアです。さまざまな企業やサービスで、社会課題(ペイン)を解決し、社会を良くするためにデジタルがどう使えるのか、よく考えられていると感じています。

インドネシアに「Gojek」という国民的アプリがあります。バイクタクシーの配車から急速にサービス内容を拡大し、現在では、フードデリバリーや買い物代行、荷物の手配といったことから、決済までカバーするスーパーアプリに成長しています。

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©beBit,Inc

インドネシアは交通渋滞が慢性化していて、車だとちょっとした移動に大変時間がかかります。そうした状況で、Gojekのバイクタクシーのドライバーに何でも頼めることで、多くの人が一日に何度も使うサービスになっています。

このGojekは、社会課題という観点からすると、ドライバーに対するサービスが非常に豊かであるというところがポイントです。

Gojekは、ドライバーに対する金融支援と福利厚生のサービスがとてもしっかりしています。ドライバーになると銀行口座を持つことができ、さらに保険や融資、収入保障など、ファイナンシャルアドバイザーのような役割をGojekが果たしてくれます。これにより、稼ぎたい人たちが頑張れるようになったというのが、大きいポイントとしてあります。

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さらにドライバー向けだけではなく、小売店やレストランといったお店の経営者の仕入れや収支管理、保険、融資も提供しています。

小浪 : ユーザーの利便性を核として、関係する人たちの生活まで視野に入れ、社会課題を解決し、社会の基盤を支えている、まさにFuture UXを具現化しているという感じがしました。

日本においては、DX人材の不足が社会課題の一つとなっています。この社会課題解決の取り組みとして、2022年、電通デジタルとビービットが中心となり、UXインテリジェンス協会を立ち上げました。

また2022年、早稲田大学、大阪大学、神戸大学で「顧客起点のデジタルトランスフォーメーション」というテーマで、全15回の寄附講義を実施しました。

われわれ電通デジタルのメンバーが講師になったり、日頃お付き合いさせていただいている企業の方にもご登壇いただいたりということも行いました。私が行った講義はUXがテーマだったのですが、学生の皆さまからは、今後UXがなぜ重要になるか、必要になるか理解できたという感想をいただきました。

事業として提供しているソリューションやサービス以外にも、社会課題解決という観点から社会に価値を提供できる企業でありたいというのが、関係者全員の思いだったと思います。

藤井 : 学生の皆さんも、身近な日常の話からUXの重要性を理解できるので、「生活者としてこうなるといい」と実感するでしょうし、すごく良い体験ですね。


Web3時代に求められるUX

小浪 : 最近は、さまざまな分野でWeb3が話題になっています。Web3に関するキーワードを構造化したのが以下の図です。Web3時代に求められるUXは、どのように変化していくと考えていますか?

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藤井 : 2022年の大型休暇はどこにも外出せず、NFT合宿と称して、いろいろ買ってみたり、始めてみたりしてみました。

見えてきたのは「意味性の革命」です。世の中の物事は、意味レイヤーと便利レイヤーで構成されています。

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©beBit,Inc

先ほどのGojekの例は、「便利レイヤー」の話です。不便を便利にするというのは指標が合理的で、誰でも共通で理解ができます。インドネシア以外の国でも、便利レイヤーのイノベーションにより、社会課題が解決される事例が相次いでいます。

 

これに対し、欧米や日本を含む先進諸国では市場が成熟していて、インフラが固定化しており、便利レイヤーのイノベーションが起こりにくい状況であることを考慮すると、Web3時代は「意味レイヤー」が重要になってくると思います。

意味レイヤーでは、「自分らしい」「好き」のような、指標が共通しないものが対象となります。誰にでも分かりやすい共通の指標がなく、価値観や思想で分かれるため、価値を感じることに参加し、さらに参加していることに対し価値を感じるという、意味レイヤーの進化がWeb3の世界で起きていることだと、私としては理解しています。

ただ所有するだけではなく、所有する人たちが自ずと集まり、集まる場に参加できることで価値が生まれてくるというのは、今までにないような新しい動きなのではないかと思っています。

Web3の特性を「ブロックチェーンによる分散化と履歴」「デジタルアセットの所有可能化」とすると、UXでは、特権・インセンティブ・文脈の3つの観点から、顧客との関係性作りの手段がより柔軟になり、「自分らしさと特権」を作りやすくなっていると言えます。

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小浪 : ありがとうございます。ただ所有するだけではなく、参加によって価値が生まれてくるというのは、今までにない新しい世界観や動きです。こういった世界観が主流になる時代にUXはどうあるべきか、今後はDXの中でも考えていく必要が出てくると思います。


企業に求められる企業変革と人材育成

小浪 : Future UXを具現化するためのDXの本質は、蓄積したデータをユーザーの体験に還元することです。UXの更新を続けることで、ユーザーは継続的に利用する。この好循環の構築が今、企業には求められています。

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この好循環を作るには、顧客体験の変革を起点として、企業全体を変革していく「CXトランスフォーメーション」が必要です。

CXトランスフォーメーションを担うUX/デジタル組織には、3つのコミットメントが求められます。

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1つ目は、ビジネスインパクトにコミットすること。2つ目は、利用者の体験にコミットすること。3つ目は、プロジェクトの実現性にコミットすること。この3つのコミットメントが大事です。

具体的な職種を挙げると、ビジネスプランナー、ストラテジックプランナー、サービスデザイナー、UXデザイナー、データサイエンティスト、システムエンジニア、こうしたメンバーがワンチームになってプロジェクトに当たれるような体制が必要です。

こうした体制を作るためにはどういう人材が必要なのか。DXの活動領域において、どれか1つの軸で高い専門性を持っていること。他領域の専門家をリスペクトして、柔軟に協働できること。領域を越境して専門領域を拡張できること。電通デジタルではこうしたことを意識しながら、人材育成を図っています。

藤井 : どのような業界も、他の領域との連携が重視されています。領域を越境することや、他領域の専門家と協力することは、今求められていることとしてとても重要です。この3点をクリアできれば、とても良い環境になると思います。


最後に

藤井 : これからはUXを作る人が、面白い未来を切り拓くコアになっていく時代です。UXの力を信じて、一緒に良い世の中を作っていけるといいなと思っています。

小浪 : これからの時代、さまざまな業務や状況において、ユーザーに向き合い、UXを向上させ、価値を提供するスキルやマインドセットは、一部の専門家だけでなく、すべてのビジネスパーソンに求められるものと考えています。

UXに興味・関心を持っている方々には、ぜひ私たちと一緒に、日本や世界をもっと元気にしていくような取り組みを引っ張っていただきたいと思っています。

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