2023.02.03

AI/データ分析の分野で活躍する女性エンジニアによるパネルディスカッション Google Cloud Women in MLイベントレポート

データのビジネス活用において、女性の目線がますます重要になる中、女性のデータサイエンティスト、ML(機械学習)エンジニアのさらなる活躍が期待されています。
2022年11月、MLの分野で活躍する女性をフィーチャーする「Google Cloud Women in ML」が開催されました。[1]
最初に行われた「AI/データ分析の分野で活躍する女性エンジニアによるパネルディスカッション」[2]に、Google LLC 浦田純子氏、株式会社インテージ 曲沼宏美氏、株式会社ソウゾウ 野上和加奈氏、株式会社ブレインパッド 栗原理央氏、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 葛木美紀氏(ファシリテーター)とともに、電通デジタル 福島ゆかりが登壇しました。
女性エンジニアという立場から、キャリア、ワークライフバランス、データ分析、MLプロジェクトを進めるコツなどについて語り合いました(本記事はセッションの内容を採録し、編集したものです)。

エンジニアというキャリアを選んだ理由

葛木 : まずは、皆さんがどのような経緯で今のキャリアに就かれたのか、お聞かせください。

浦田 : データサイエンスが人気になった頃、データサイエンティストになりたいと思い、独学で学習を始めたのがきっかけです。しかし、データサイエンスの勉強は無味乾燥で、あまり楽しくなくて。それよりもエンジニアリングや、AIや、開発がしたかったんです。いろいろ調べているうちに、MLエンジニアリングという新しい分野を知って、これだと思い、MLエンジニアになりました。現在は、カリフォルニア州ベイエリアに住んで、Google CloudのAIソリューションであるVertex AI[3]の開発をしています。

曲沼 : 私は大学で心理学を専攻し、非言語コミュニケーション行動の分析に取り組んでいたので、分析の仕事に就きたいと考えていました。はじめは統計処理のツールなどを使って分析していましたが、世の中の流れが変わってエンジニアリングが必要になり、泣きながらエンジニアリングを覚えた末にエンジニアとして就職し、今に至ります。現在は、DX部で社内のパネルのデータ分析や、受託のデータ分析システム構築などをしています。

野上 : もともとモノ作りが好きだったので、大学では工学部電気電子工学科を専攻しました。ただ、実際に入ってみると、電気の勉強をしてモノを作る道のりが長すぎてちょっとつまらないなと思っていたところ、情報系の研究室が目に入りました。こちらの方が1人でもおもしろいものがたくさん作れると分かり、この研究室に進んだことが、エンジニアになったきっかけです。今は、ソウゾウというメルカリのグループ会社で、MLエンジニアとして、レコメンデーションのシステム構築やMLOpsを中心に手がけています。

福島 : 私は文系の出身です。ホスピタリティを学びたいと思い、キャリアのスタートは、サービス業であるホテルのホールスタッフでした。あるとき、「仕事がマニュアル化されているので、ひょっとしたらお客様の動きを数値化できるのではないか」と気づいて、その仕組みを作れる人になりたいと思ったのが、IT業界に転向したきっかけです。現在は、データやMLを使って、より確度の高いオーディエンスデータを作る仕事をしています。

栗原 : 私は高校生の頃から化学が好きで、大学は工学部生命化学科でした。授業でも研究でも、データ分析やMLには関わりがなかったのですが、友人に誘われて、学生が参加できるデータ分析コンペに誘われて参加したのがきっかけで、この業界を知りました。この世界もおもしろそうだなと思った経験が、現在のキャリアにつながっています。普段は、受託分析の会社で、深層学習を使った画像処理や自然言語処理、需要予測など幅広くプロジェクトを行っています。


MLの知識を勉強する方法

葛木 : 皆さんがどのようにしてMLエンジニアリングの知識や経験を身につけられたか、勉強の仕方を伺いたいと思います。

浦田 : MLエンジニアリングは新しい分野で、技術の進化が早いので、そもそも本が少ないし、あったとしても情報が古いんです。とにかく最新の情報が欲しいので、研究者が書いた論文や、専門サイトの記事を読んで勉強しています。

曲沼 : 最初の頃は、社内に同じような仕事をしている人がいなかったので、社外の勉強会に参加していました。今は論文を読むことが多いですし、論文の輪読会を開催することもあります。あとは、社内チャットの専門チャンネルで情報交換や議論をしています。最近はオンライン学習サービスも活用しています。

野上 : 本や論文を読むのはあまり得意ではなく、手を動かして学びたい派でした。ゼロから自作する系の本を買って、実際にプログラムを作って学んできました。

福島 : 勉強を始めるまでの過程を工夫しています。GCPUG[4]や、bq_sushi[5]などのコミュニティに参加することで、勉強意欲を高めたり、勉強の方法を教わったりしました。そこで知った本などを参考に、手を動かして勉強していくという流れで学んでいます。

ただ、正直なところ、本読んだだけで、すべてを網羅的に覚えることは不可能だと思っています。今一番おもしろいと思っていることから学ぶことで、その後は、コミュニケーションしながら実地で覚えていくという形で、開発に活かせるようになりました。

栗原 : 新卒入社後に、本格的にMLや統計の勉強を始めたので、とにかく社内の先輩や同期に聞きまくったり、社内の勉強会に参加したりして勉強してきました。入社2年目ごろまでは、社外の勉強会にも積極的に出ていました。

福島ゆかり(電通デジタル)

ワークライフバランスのとり方

葛木 : エンジニアは比較的ワークライフバランスをとりやすい職業です。とはいえ、女性には、妊娠、出産、子育てというライフイベントがあります。そのあたり、どういうふうにクリアされていますか?

浦田 : 日本の女性のワークライフバランス問題は、非常に深刻だと思っています。私は10年前まで日本で働いていて、ワークライフバランスを実践する困難さを強く実感していました。もともとアメリカの大学を卒業していたこともあり、将来のことを考えてアメリカへ移住しました。現在は5歳の子どもがいますが、日本のような保育園問題もないですし、私も夫も17時に仕事を終えて帰宅するので、夫婦で子育ても生活も楽しめています。

曲沼 : 趣味など、自分がやりたいことを無理やりにでも作って、その時間を絶対に確保するようにしています。

野上 : 富山県に住んでいて、在宅メインで働いています。会社のオフィスは六本木ですが、それでも問題なく働けるのが、エンジニアの良いところだと思います。まだ子どもはいませんが、今住んでいる地域は保育園問題もないので、あまり心配していません。

福島 : IT業界に転職した当時はオンプレミスが主流で、徹夜で働くのは当たり前。本当にバランスが悪かったです。現職では、クラウドの登場とリモートワークの普及もあり、すごくバランスがとりやすくなりました。

栗原 : 私は1歳半の子どもがいます。今まで最新情報のキャッチアップにあてていた時間がとれなくなって、インプット量が減っています。その時間をどのように捻出していくか、苦戦しているところです。


データ分析やMLの仕事をスムーズに進めるコツ

葛木 : ここからは仕事の話を伺います。「データ分析、MLプロジェクトを進めるコツ」を中心に、皆さんが普段、どのようにお仕事をされているかお聞かせください。

栗原 : 普段は主に、受託でデータ分析をしています。お客様の保有データからモデルを作って、評価をして、施策の提案やシステム開発を行うのが一般的なプロジェクトの流れです。

失敗しないために心がけていることとして、プロジェクトの最初から、お客様のステークホルダー全員に参加していただくようにしています。

プロジェクトマネージャー、プロジェクトオーナー、モデルを使う業務側のメンバー、情シス担当者など、関係者全員をプロジェクトの開始時に引き合わせて、プロジェクトの目的やアウトプットを摺り合わせています。

福島 : 私もほとんど同じですが、データの分析を回す手前で、PoC(実証)を丁寧に行っています。

データはとても正直です。いきなり分析をすると、お客様にとって残念な結果が出てしまうことがあります。一方で、お客様は”いい結果”を求めています。そうした期待値のギャップを調整するために、合意をとってPoCを実施します。

期待した結果が出なかったときは、具体的な解決策を提案できますし、お客様にもMLでできること、できないことを実感していただけます。

また、プロジェクトの始まりがデジタル広告や、GAのアクセス解析からになることも多く、メンバー全員がデータ分析やMLに詳しいわけではありません。そこで、同じ知識でプロジェクトを一緒に進められるよう、知識の共有や理解の土台作りに丁寧に時間を割くようにしています。

野上 : PoCを行い、早く実物を見せることが大事だという点は、私も同感です。いきなり本格的なモデル作りに時間をかけるのではなく、ルールベースでいいから、簡単なモデルを作って見せてあげると、進めやすくなると強く思います。

曲沼 : ゴールとプロセスの設計を最初にきちんとすることも大事です。ビジネス的に何を実現できればいいのか、そのためには誰が何を担当し、どのような手順で進め、どのタイミングで意思決定を行うのかを、きちんと定めておく必要があります。

プロジェクトは、われわれだけではなく、お客様にやっていただかなくてはいけないこともたくさんあります。成功させるために、メンバー全員が一丸となれる体制を組むことが大切かなと思います。

(左から)葛木氏、浦田氏、曲沼氏、野上氏、福島、栗原氏

葛木 : 私はいつもデータの前処理に苦労しています。工夫しているポイントがあれば教えてください。

曲沼 : 受け取ったデータも仕様書も「正しくない」という前提で、仕事を始めるようにしています。仕様書が間違っていることもあれば、更新されていないために結果的に正しくない状態になっている、ということもあります。ですので、データチェックのプロセスは、いい意味で人を信用せず、自分の目でしっかりと行うように、手間と時間をかけています。

栗原 : 意識しているのは、「そのデータに詳しい人が誰なのか」をなるべく早く知ることです。そしてなるべく早く、その方とデータに関する情報をやりとりできる環境を作ってもらいます。問題が生じたときに、それがデータ起因なのか、ドメイン特有の問題なのかを早く特定して対応し、不要な工数が生じないようにしています。


プロジェクト管理とコミュニケーション

栗原 : プロジェクトの管理、メンバーのタスク管理、進行チェックをしながら、並行して自分でもモデルを作る場合、どのようにリソース配分、時間配分をされていますか? 

曲沼 : 直接話した方が早く済むことも多いので、毎日30分程度、定例ミーティングを行い、スケジュール、マネジメント、悩み事はそこで解決しています。それ以外の時間を自分用にまとめて確保することで、自分が手を動かす作業は集中して行うようにしています。

葛木 : チームメンバーとのコミュニケーションは、どれぐらいの頻度でとっていますか?

福島 : 稼働期は週2回、お客様のミーティングの前後にミーティングを行っています。リーダーがすべてをチェックするフローだと、リーダーがボトルネックになってプロジェクトの進行が止まってしまうので、専任担当者とチェッカーを1組にして、それぞれから報告もらうというやり方をしています。そのうえで、何か不測の事態が起こればすぐにテレカンで対処します。

野上 : 私は毎日2回、ミーティングをしています。始業時にその日のタスクを共有し、就業時にタスクの進捗を共有します。外のチームとは、毎週定例でミーティングを設定しておいて、話題がなければスキップというスタイルです

葛木 : 今回は皆さんの仕事への取り組みのお話を伺って、女性だけでなく、男性の方にも参考になるお話ばかりだったと思います。ありがとうございました。


脚注

1. ^ Google Cloud Women in ML(外部サイト)

2. ^ "AI/データ分析の分野で活躍する女性エンジニアによるパネルディスカッション". Google Cloud Women in ML

3. ^ Vertex AI. Google Cloud(外部サイト)

4. ^ GCPUG(外部サイト)

5. ^ bq_sushi(外部サイト)

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