電通デジタルは2022年9月、クリエイティブ発想によるワークショップにより、顧客と良好な関係を築き、新規顧客獲得やファン化を促進させるフレームワーク「PIECEキャンバス」をリリースしました。
本稿では、「PIECEキャンバス」の開発に関わってきた担当者3名に、開発の背景、フレームワークとしての独自性、どのような課題解決に適しているのかなどを聞きました。
パーパスを起点に顧客を幸せにするCXを
──「PIECEキャンバス」とはどのようなサービスですか?
林 : クリエイティブ発想の共創型CXコミュニケーション開発フレームワークです。企業のパーパスと生活者のインサイトから、顧客に響く価値を抽出し、顧客を幸せにするCXコミュニケーション開発につなげます。
──電通デジタルのクリエイティブチームがCXフレームワークを開発した背景、経緯を教えてください。
林 : 「PIECEキャンバス」の開発当時、私たちはクリエイティブチームの中でも広告領域をメインとする組織に所属していました。そういった状況にありながらも、クライアント企業からは「ユーザーをファン化させたい」「LTVの向上施策も実施したい」といった、広告を超えたご要望をいただく機会が増えていて、もはや広告とCXを分けている場合ではないという思いがありました。
そこで、打ち手を広げ、長期的視野に立ってクライアント企業の真の利益に貢献できるものを、「ワンストップで提供できるようにしたい」と考えたことが、「PIECEキャンバス」の開発につながっています。
また一方で、パーパスの重要性が増している現在、部分最適なアプローチではクライアント企業のニーズに完全に対応することはできないという意識もありました。われわれ自身が、CX全体をクライアント企業とともに考えるスタイルに変化することで、より時代にマッチした課題解決策を提供できるのではないかと考えました。
大木 : 実際、私たちの組織自体も広告、非広告領域の垣根を超えたチームになっていますし、時代の要請を強く感じます。
——クリエイティブの人がCX領域まで手掛けるアドバンテージは、どこにあると考えていますか?
大木 : よいクリエイティブは、目の前の生活者の心をつかみ、動かします。その能力を磨いてきたクリエイティブの人間は、CX領域においても、生活者のインサイトを的確に捉える能力を活かし、課題解決につなげられるのではないかと考えています。
石田 : 近年は左脳的な発想に限界を感じた経営者が新しい発想を求めてデザイン思考にアプローチしたりクリエイティブの人間が経営に携わったりと、お互いに近づいて交わっていくケースも増えています。両者が交わり、左脳も右脳も一緒にCXに取り組むことで、生活者にとっていい未来を創れるのではないかとも思うのです。
5つの要素を俯瞰しながら、ワークショップでCXを共創する
——「PIECEキャンバス」の、フレームワークとしての独自性はどこにありますか?
石田 : ワークショップ形式という点は大きな特長です。「もともと多くの人はアウトプットや表現をすることが好き」だと私は思っています。クリエイティブの人間、クライアントの皆様、電通担当者のなどが一堂に会してワークショップを行うことで、「アウトプットは楽しい」「想像や創造は楽しい」という感覚が呼び覚まされ、楽しさが加速し、創造性に富んだアウトプットが次々に湧き出てきます。
「PIECEキャンバス」の後の実行フェーズは楽しいことばかりではないのですが、何があってもアイデアで乗り越えていくマインドセットを作るお手伝いもできるのではないかなと思います。もちろん実行もお手伝いしています。
林 : 「PIECEキャンバス」メンバーは、ビジネスデザイン、コンサルティング、リサーチ、マーケティングなど、クリエイティブの近隣領域の経験・知識を持つメンバーが主体なので、クリエイティブだけに偏らないバランスでワークショップを行えます。
石田 : もう1点、「PIECEキャンバス」は、発想に必要な5つの要素、パーパス、インサイト、エッセンス、コミュニケーション、エクスペリエンスを1枚絵で見られる設計になっているところも、大きな特長です。パーパスだけ、インサイトだけを見ていては、よいCXは作れません。すべての要素を俯瞰しながら考えることで、右脳的な発想が刺激され、ディスカッションを促し、アイデアが自然に収斂していく設計になっているところが、「PIECEキャンバス」の強みだと思います。
大木 : 「PIECEキャンバス」の概念図の中央にあるエッセンス。これは広告でいうビッグアイデア(価値の転換をもたらす新しい切り口)と同義で、CXを作る土台になるコンセプトのことです。
エッセンスは、マーケティングの5W1HだとWhatに相当します。CX全体を動かすアイデアを生の言葉で言語化したもので、キャッチコピーやタグラインとは違います。新しい発想を起こすための一番大事な要素ですが、理詰めで論理的に考えて作れるものでもないところが非常に難しいと言えます。こうした広告ならではの思考プロセスも、ワークショップだからこそ有効に機能すると考えています。
PIECEキャンバス実施の流れ
——「PIECEキャンバス」の具体的な進め方を教えてください。
林 : インタビュー調査とワークショップ、大きく分けて2段階の構成になっています。
インタビュー調査は、生活者インサイトの深耕が主目的です。インサイトに関する仮説を立てながらインタビューフローを作成し、Web会議形式でクライアント企業の担当者にも立ち会っていただきながらインタビューを実施します。その場でラップアップ(最後のまとめ)まで行い、インサイトの芽をストックします。
ワークショップでは、ホワイトボードで共同作業を行いながら、以下の3つのステップを経て、施策のアイディエーションまでを行います。
- 既存施策の俯瞰
現状、どのような施策が行われているかを抽出し、ボード上にマッピングします。これにより、出席者の現状認識を揃えます。 - エッセンスの抽出
パーパスを起点に生活者インサイト捉えたコンセプトを言語化し、アイディエーションのジャンプ台を作ります。 - アイディエーション
CX全体に関わるアイデアをブレスト的にどんどん出していきます。良いと思った案を参加者全員がそれぞれ1枚ずつにまとめ上げ、アイデア集の作成を行うところがゴールです。
日程的な目安ですが、インタビュー調査は、約1カ月かけて対象者を5人抽出し、2日間で各人に対してインタビューを実施します。ワークショップは、連続2日(8時間×2日)が基本です。デジタルホワイトボードサービスを使ってオンラインで実施することも可能ですが、リアル開催の方が強く、濃い体験になるので、できる限りそちらをおすすめしています。
幅広い領域の大きな課題から小さな課題まで、柔軟に対応できるソリューション
——「PIECEキャンバス」は、どのような課題を抱えている企業に有効なのでしょうか?
大木 :「PIECEキャンバス」は、縦横に自在に伸び縮みする、つまり、幅広い領域の大きな課題から小さな課題まで、柔軟に対応できるソリューションだということです。
大きな課題は、経営に関する課題です。「パーパスは策定したが、そこからどのように経営に活用すればいいか悩んでいる」「パーパスを各事業部の具体的な施策に落とし込めず、ファン化などの具体的な成果にもつながっていない」といったものが挙げられます。
小さな課題としては、プロジェクト単位の施策で「第4四半期の顧客体験のファン化の施策ができない」「12月の売り上げを作るための広告施策を考えたい」といったような内容を想定しています。
「PIECEキャンバス」を使っていただければ、どのような課題に対しても、最適なCXを考えることができます。
林 : 受け皿の広いソリューションですが、そもそも「パーパスを機能させたい」という思いで作られたフレームワークです。パーパスを浸透させ、一貫したCXを創出したいとお悩みのクライアント企業に対して、もっとも役立つと考えています。
石田 : 「PIECEキャンバス」を体験することで、自分の業務とパーパスを一貫させる軸が意識できるようになり、それが仕事の手応えや安心感、自信につながります。そういった働く人の意識改革的なことを求めているクライアント企業にも、有効ではないかと思っています。
——すでにセブン銀行様の事例がありますが、どのような反応をいただきましたか?
林 : ご相談いただいた部署では、パーパスと施策の結びつけが実現できていないという課題を抱えていらっしゃいました。「PIECEキャンバス」を実施したことで、パーパスに寄り添った40以上のアイデアを出すことができ、「考えがまとまった」「今後の取り組みの方向性が見えてきた」などの感想をいただいています。
新規顧客の獲得からファン化まで一貫したCX開発に
——最後に、「PIECEキャンバス」に興味がある企業担当者に向けてのメッセージをいただけますか?
林 : CX策定の方法をアップデートできるフレームワークです。パーパスや生活者のインサイトを中心に取り入れながら、新規顧客の獲得からファン化までを一貫して行えるCXコミュニケーションを開発したいとお考えのクライアント企業に、最適なソリューションだと思っています。
大木 : 経営者は、古今東西、悩みの尽きないポジションですが、現在は持続可能性が重視され、収益を上げること以上に、その目的や方法、使い道が厳しく問われています。そうした社会の中に、会社が存在する意義を定義するのがパーパスであり、会社全体にパーパスを浸透させる必要があります。「PIECEキャンバス」は、施策の企画・立案だけでなく、生活者のインサイトとパーパスのつながりを実感できる機会でもあります。その点で、経営層の皆様にも、「PIECEキャンバス」を活用していただけたらと思います。
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