2023.07.12

お客さま1人ひとりを“おもてなし”。ゼロパーティデータからCRMを考え直す(後編)

多くの企業では、お客さまとの間に親密な関係を築き、リピーターやファンを増やすCRM(顧客関係管理)に力を入れています。しかし、なかなか成果が上がらず、「従来のポイントプログラムや会員ランクシステムの効果が薄れている」「もう一度CRMを見直したい」と考える企業も多いのではないでしょうか。

そこで重要となるのが、企業が提供するお客さま体験です。お客さまに喜んでもらえる“おもてなし”を実現するには、お客さま1人ひとりについて深く知る必要があります。そのために重要となるのが、ゼロパーティデータ(Zero Party Data)。

今回はゼロパーティデータの活用提案を行う白髭良に、2回にわたりインタビュー。後編では、ゼロパーティデータの取得方法、ゼロパーティデータを生かす組織づくり、データを活用する上で大切な考え方について聞きました。

ゼロパーティデータからもう一度CRMを考える

Q.前編のお話で、ゼロパーティデータは企業がお客さまをおもてなしするために必要だということが分かりました。逆に言うと、企業が「こういうお客さま体験を提供します」と示すことができないと、お客さまからはデータ提供を拒否されてしまうということでしょうか。

白髭:誰しも、「企業にデータを提供したくない」と思った経験はあると思います。改正個人情報保護法によりデータを取得する際にユーザーの同意が必要になったため、Webサイトを見ていると「Cookie情報を企業に提供しますか?」と同意を求められるようになりました。その際、「拒否する」を選ぶ人も多いのではないでしょうか。

多くのユーザーは、「なぜこの企業にCookie情報を提供しなければならないのか」という理由が分からないと不安に感じるのだと思います。もちろん、プライバシーポリシーを読めば理由が書いてあるかもしれませんが、毎回そこまで細かくチェックする人は多くないでしょう。同意すればどのようなメリットがあるのか分からない上、むしろCookie情報を提供したら不要な広告の配信が増えるのではないかという懸念を抱く人も。そのため、データを取得する際に、それによってどのようなメリットが生まれるのか、どのようなサービスを提供できるのかを分かりやすく伝えることがゼロパーティデータ活用では重要だと思います。

Q.ゼロパーティデータを活用したCRMやロイヤルティマーケティングで、成功事例はありますか?

白髭:海外では事例がありますが、国内ではまだ少ないというのが正直な印象です。その背景には、日本企業の組織の問題があると考えられます。多くの日本企業は、お客さまとのコミュニケーションを専門とするチームを持っていません。1つの企業に10部門あるとしたら、それぞれの部門で売上目標を立て、それぞれの判断でお客さまとコミュニケーションを取っていることが多いのではないでしょうか。お客さまにとってみれば、10部門それぞれからメールや通知が来ることになって煩わしく感じられることもあるかもしれません。それは、おもてなしとは言えないと思います。

そうではなく、1つの部署でお客さまとのコミュニケーションをまとめて管理すれば、1人のお客さまに対して適切なタイミング、適切なチャネルでコミュニケーションが取れるはず。そのためには、組織そのものを見直し、KPIからしっかり設定し直すことが必要なのです。

しかし、「CRMを見直す」と言うのは簡単ですが、やるべきことは非常に多い。組織もKPIもサービスの提供形態も、全て変えなければなりません。その点がネックになり、ロイヤルティマーケティングの国内成功事例がなかなか生まれないのだと思います。

Q.1人のお客さまごとにコミュニケーションを考えるとなると、企業側のアプローチも大きく変わってきそうです。ゼロパーティデータからCRMに取り組むとなれば、そこまで念頭に置かなければ効果がないということですね。

白髭:もちろん、そこまでする必要がない企業もあります。電通デジタルにご相談いただく際も、「ポイントプログラムの効果が薄れているので、よりお客さまの反応が得られて、リピーターが増えるような施策を打ちたい」という入り口でもまったく問題ありません。その場合は、例えば、以前商品・サービスをご購入いただいたお客さまに「前回の情報に基づき、今日はこんなご案内をさせていただきます」というメッセージを届ける施策、あるいはデータに基づいて、お好みに合わせたサービスのご案内メールを送付するといった施策が考えられますね。こうしたシンプルな施策からでも、ゼロパーティデータを使ったCRMは始められると思っています。

電通デジタル 白髭 良

Q.お話を伺っていると、ゼロパーティデータからCRMをもう一度見直すことが大事だと分かりました。白髭さんは、CRMのあるべき形についてどうお考えでしょうか。

白髭:「新しいCRMにトライする」ではなくて、「あらためてCRMをきちんと考え直す」というのが一番大事だと思っています。そもそもCRMは、「Customer Relationship Management」の略語ですよね。つまり、お客さまとの関係性(Relationship)を維持することが大切なんです。にもかかわらず、セールのご案内メールを送るだけで終わってしまっては、もったいない。それではお客さまと良い関係性を築くことはできないのではないかと思います。

その状態が続けば、お客さま側も企業に値引きしか求めなくなります。大切なのは、企業への愛着を育むこと。そういった従来のCRMを考え直す局面に来ているのだと思います。


提供する顧客体験に応じて、収集すべきデータも変わる

Q.ゼロパーティデータは、ユーザーの嗜好性が表れたデータです。例えばアプリだとデータを収集しやすい、こういう形態だと質問に答えてもらいやすいといった傾向はありますか?

白髭:結局のところ、企業がどういうお客さま体験を提供したいかによるので、企業ごとにそれは違います。また、Webサイトかアプリかといった2択でもありません。店舗への来店を促すのであれば、ユーザーの行動データ、位置データを取得する必要があります。ジオフェンシング(携帯端末の位置情報を利用して、空間内に仮想的なフェンスを設け、ユーザーがそのエリアに入ると通知などを送る仕組み)やBluetoothなどデータを収集する方法は多岐にわたるので、やはり提供するお客さま体験次第でデータの取り方も変わってくると思います。

最も重要なのは企業に愛着や信頼を持っていただくことですから、そのお客さまの特徴を捉えたデータでないと取得する意味がありません。売上データからでは得られない情報ですから、そのデータをどこでどうやって取得するのかもきちんと設計する必要があります。

企業が上質な顧客体験を提供するには、お客さまのどんな心理を把握する必要があるのか。そのためには、どんなデータが必要となるのか。それを分かった上で、データを取得するための仕組みを作る。そういった順番で考えていかなければならないと思います。

Q.データから、お客さま1人ひとりの特性を見極めるということでしょうか。

白髭:そうですね。よく「One to Oneマーケティング」(顧客1人ひとりに合わせたマーケティング)と言いますが、One to Oneと言いつつも、結局は他のユーザーの行動・購買データに基づいたお薦め情報を提示するだけというケースもあります。それは同様の属性や趣味嗜好を持つお客さまに購入していただける確率が高かったというだけで、真の意味での「One to One」にはなっていません。

CRMにおいて大切なのは、お客さまについて理解を深めること。1人のお客さまを理解するには、お客さまの合意の下にデータを収集した上で、目的に応じてデータを統合・分析しなければなりません。そのために、ゼロパーティデータをはじめとするさまざまなデータが必要なのだと思います。


今ホットワードとなっているゼロパーティデータですが、ただデータを集めるだけでは何も生まれません。まずは、企業が提供する体験価値をユーザーに示し、ユーザーが納得した上でデータを取得すること。その上で、お客さま1人ひとりに適したタイミングで、最適なメッセージを伝えることが大切です。ゼロパーティデータを軸にCRMを今一度見直し、お客さまとのより良い関係構築を目指してはいかがでしょうか。

CRMを見直す上で大事なのは、お客さまの特徴を捉えたデータを取得することだと、白髭氏は語ります。電通グループでは企業の課題をくみ取り、個社それぞれに適したソリューションを提供しています。改正個人情報保護法施行を受け、データの扱いにお困りの企業・団体の方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

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