2023年9月30日、10月1日、さまざまな業界の一流デザイナーが集結し、叡智や想いを共有する日本最大級のデザインカンファレンス「Designship 2023」が開催されました。
「Designship 2023」には、合計約80セッションに総勢100名超の現役デザイナーが参加。電通デジタルからは3人が登壇しました。本稿では、その3つのセッションの内容をダイジェストでお届けします。
やる気をデザインできる職種はまだか
Collaboration Areaで行われたショートスピーチのセッションに、電通デジタルBIRDでサービスデザイナーを務める松本勇輝が登壇しました。
クライアント企業の新規プロダクト/サービスの開発に関わる中で、松本は「やる気をデザインするにはどうすればいいのか?」という課題意識を持って業務に臨んでいるといいます。「新規事業/プロダクトのデザインで一番大事なのは、プロジェクトメンバー全員のやる気。当たり前ですが、どんな手法やワークプランで取り組むかの前に、どういう気持ちで仕事に臨むか、それが何より重要で問題です。」
新規事業や新規プロダクト開発は、まだこの世の中に存在しないものを生み出していく、心身ともにハードな仕事です。松本は「マインドセットを強く持っておかないと、いろいろなことに負けてしまう。今はまだ、モチベーションのコントロールは個人の努力に委ねられています。これらに他者が関与して一人ひとりの志やコミットメントを高め、チームビルディングからプロジェクトを強くしていく仕組みが必要で、それをデザインする手法や職種が出てきてほしい」と力強く語りました。
新規事業プロジェクトでサービスデザイナーが果たすべき役割
Collaboration Areaで行われたパネルディスカッション「新規事業/サービスの構想におけるデザイン」に、電通デジタルBIRDのサービスデザイナー 佐々木星児がパネラーとして登壇。杉山弥優氏(株式会社助太刀)、吉岡陽香里氏(株式会社ビットキー)、阿部洋平氏(株式会社リブセンス)とともに、新規事業におけるデザインの重要性に焦点を当て、成功を収めるためのデザインの役割について議論しました。モデレーターは中根なつは氏(株式会社マネーフォワード)が務めました。
1つ目のテーマである「新規事業の立ち上げにおけるデザイナーの役割」に関して、佐々木は、参加メンバー全員に共通認識を持ってもらうことを挙げました。「プロジェクト参加者全員に共通認識を持ってもらうために、さまざまな工夫や段取り、調整を行うこと。それはサービスデザイナーの重要な役割です。例えば、外部のエキスパートをプロジェクトに巻き込み、インタビュー等を通して様々なトレンド情報やキーワードをもらうことは、メンバー内の視座を上げ、目線を合わせる効果があります」
2つ目のテーマである「役割を果たすために行っていることは?」という問いかけに対して、「無責任であること」とあえてアグレッシブな表現を使い、聴衆の関心を引いた佐々木。「プロジェクトが進むと、クライアント企業の社内事情や競合他社の状況、ユーザーの声などにより、リーダーは妥協や修正を迫られます。そうした際、外部のサービスデザイナーの立場から、あえて責任を意識せずに問いを投げかけることで、プロジェクトのビジョンや目的を再確認してもらうことを意図的に行っています。もちろん、本当に無責任というわけではなく、クライアント企業のために全力を尽くすことは大前提です」
開始前から満席となった会場では、熱い議論を交わしたパネラー全員に惜しみない拍手が送られました。
人と社会をインクルーシブする、一つの方法
Designshipは今年から複数の「セッションテーマ」を設けています。その中の1つである「インクルーシブデザイン」の枠で公募スピーカーに応募し、選ばれたのが、電通デジタルでアートディレクター/デザイナーを務める星野沙恵です。メインステージに登壇した星野は、アンコンシャスバイアスに気づき、改善する仕組みをデザインする方法について話しました。
インクルーシブデザインに向き合ったきっかけ
社会全体でDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みが進んでいる近年、アンコンシャスバイアスの存在が問題になっています。アンコシャスバイアスとは、経験から来る無意識の固定観念や先入観、偏見のことです。星野は、あるWeb制作プロジェクトでクライアントとやりとりした際に、アンコンシャスバイアスの存在を意識したと言います。
「アンコシャスバイアスは育った環境や個⼈的な経験、マスメディアの影響により、無意識の発⾔や⾏動に現れるため、頭で知っている・わかっているだけではバイアスを排除できないと気づきました」
デザインの現場で、知らないうちに誰かを排除したり、傷つけたり、取り残したりしないためには、意識的に多くの視点を取り入れ、バイアスを取り除く仕組みの構築が不可欠であると、星野はいいます。「多様な他者の視点をデザインに取り⼊れる仕組みを作りたい。それがインクルーシブデザインに向き合うきっかけでした」
セブン-イレブン・ジャパンとの取り組みで実践した⽅法と仕組み
「多様な視点を取り入れながら、気づく仕組み」をデザインに取り入れるには、どうすればいいのでしょうか。星野は、セブン-イレブン・ジャパンとの取り組みの中で考え、実践した工夫を紹介しました。
星野が参加した取り組みとは、セブン-イレブン・ジャパンのすべてのお客様や従業員が、国籍・年齢・経験年数を問わず、「マニュアルを読まなくても使えるように、店舗のデジタルプロダクトを⼀新する」プロジェクトです。
この目的を実現するには、より多くの視点をデザインに取り込むこと、そしてプロダクトを企画・開発する開発会社、セブン-イレブン・ジャパンの方々にも気づきを共有し、多様な視点をプロダクトに取り入れてもらうことが必要でした。
非言語コミュニケーションによるアプローチ
多様な視点を取り込むために活用したのは、非言語コミュニケーションのアプローチです。例えば、レジ画面のUIでは、ピクトグラム(形から意味を理解できる記号)を意識したアイコンを活用し、
- 離れて見ても認識できるか
- 複数のアイコンが並んだ状態で個々のアイコンを識別しやすいか
- 文字をなくしても意味が伝わるのか
- 見えにくい環境でも伝わるか
などを検討した、と星野は言います。「多くの視点を取り込み、さまざまな利用シーンを検討することで、外国人、高齢者、初心者など、多くの人の理解するハードルを下げ、負担を減らし『伝わる体験』を作ることができました」
個人の殻を破るアプローチ
セブン-イレブンにはさまざまな国籍の人が来店し、また従業員として対応しています。そうした状況で、UIの文字を多言語に翻訳することは果たしてインクルーシブとして最適解なのか、星野は疑問をいだきました。そこで、コンビニエンスストアでアルバイト経験のある中国国籍のチームメンバーに聞いてみたところ、「日本語がある程度使える前提でアルバイトするので、全言語の翻訳は必要ない。また、固有の商品名やサービス名を自動翻訳されると、かえってわかりづらい」という意外な答えが返ってきました。
さらにデータを調べたり、さまざまな人にヒアリングを重ねたりした結果、翻訳ではなく、やさしい⽇本語を使う方が、外国⼈だけでなく、⾼齢者や障害のある⼈にとっても伝わりやすいこともわかってきた、と言います。
「もし彼⼥に聞いていなければ、この観点に気づくことはできませんでした。個人の殻を破り、他の人の意見や経験に進んで耳を傾け、深掘りすることは、自分の視野を広げ、新たな気づきを得るチャンスになりました」
多様な視点から得た気づきを共有するアプローチ
気づきをプロダクトやUIに反映してもらうためには、開発会社やセブン-イレブン・ジャパンの多くの方々へ共有しなくてはなりません。そのためにまず信頼関係を構築するよう心がけた、と星野は語りました。
「課題、進行状況、要望など、具体的な状況をキャッチアップする過程で、相手の状況に理解を示し、オープンなコミュニケーションを行うことで、気づきを共有する前提となる熱い関係を構築できました」
そして、気づきや改善点を共有するときに星野が気をつけたポイント、それは「⼀⽅的にコミュニケーションをしないこと」でした。
「気づきをルール化して一方的に押しつけてはダメ。相互コミュニケーションにより相手の納得感を醸成すれば、実⾏の可能性が上がり、プロダクトに反映してもらいやすくなる。そうすることによって初めて、インクルーシブなプロダクトをユーザーに届けることができます」
インクルーシブデザインは未来への武器になる
インクルーシブデザインの実現には、まだまだ多くのハードルがあります。「誰も取り残されない理想の世界をいきなり目指すことは難しいが、多様な視点を検討の場に取り入れ、課題に対して考え続けていく仕組みができれば、インクルーシブな未来に向かう強力な武器になる」と星野は考えています。「インクルーシブデザインを実践することで、自分の⾒ている世界が広がっていく感覚を覚えました。これからも、『誰かを取り残していないか』という問いを⾃分の中で持ち続けるために、多様な人とデザインする仕組みを考え、実行し続けていきたいと思います」と決意を語り、講演を締めくくりました。
出展ブースでは未来曼荼羅を紹介
PROFILE
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
TAGS
タグ一覧
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO