ChatGPTに代表される生成AI技術の実用化が進み、今後、あらゆる顧客接点がデジタルでカバーされることが予測されます。重要な顧客接点であるコンタクトセンターに、どのように生成AIを採り入れていけばいいのでしょうか。AIの導入によるコンタクトセンターの変化、新しい顧客体験HDX(Humanized Digital Experience)について株式会社JALカード 代表取締役社長 西畑智博氏、株式会社プロシード 代表取締役社長 根本直樹氏、電通デジタル 執行役員 安田裕美子・山本覚が解説します。
※本記事は、2023年7月に開催されたセミナーを採録し、編集したものです。
※役職や肩書は記事公開時点のものです。
JALカードが取り組む、コンタクトセンター改革を基点としたDX
西畑:JALカードでは、「データ・ビジネス・カンパニー」として事業の持続的成長を実現するために、「人財」と「DX推進」への投資を推進し、デジタルと優良な顧客基盤を活用した事業領域の拡大を目指しています。その基盤となるのが、顧客接点のコアであるコンタクトセンターの改革です。
2016年にはCOPC®(Customer Operations Performance Center)規格の認証を取得し、以降8年連続で取得しています。COPC認証とは、コンタクトセンターのパフォーマンス向上を目的に策定されている品質規格です。
JALカードでは、COPC規格に則り、7つの顧客接点(アシステッド・チャネル)を運用しています。7つとは、チャットボット、FAQ、会員専用ログイン(My JALCARD)、IVR(自動音声受付)、有人チャット、コール、メールです。現在、JALグループ全体で、AIをどのように導入していくべきか検討するプロジェクトチームが立ち上がっており、JAL専用のAIを作成し、それを活用しながらグループ各社が独自の施策を行うという枠組みができています。JALカードも、この枠組みの中で何をするか、プロジェクト化を検討しています。
「データ・ビジネス・カンパニー」を目指すJALカードは、社長直下にデータ戦略室を新設し、データアソシエイト施策を行っています。
データドリブン経営とは仕事の民主化です。ファクトであるデータに基づいた言葉の重さは、若手も、中堅も、シニアも、みんな同等であり、あらゆる社員がその意識に基づいて仕事をすることが大事です。今後は、その意識を、「プロジェクトマーケティング」(全社的プロジェクトの意義や価値を社内・関連会社全てに周知させるためのコミュニケーション戦略、マーケティング活動)の思想に基づいて、さらに全社的に巻き込んでいきたいと思っています。
DXで大事なのは、DよりX、すなわちトランスフォーメーションを担う人財です。そうした人財をいかにして会社内のさまざまな層に作っていくかが、今後のDX推進のキーワードだと考えています。
コンタクトセンターのデジタルシフトの進め方
根本:オムニチャネルは優れたCXを実現する重要な手段の一つですが、複数にまたがる部署で高いCX品質を維持するには、様々な課題があります。それらの課題の解決には生成AIが有効です。オムニチャネル環境において、生成AIはカスタマーサポートの様々な領域で貢献することが期待できます。
ただし、生成AIを導入する際には、新しい情報、更新された情報を、スピーディにAIが学習できるようにするためのナレッジマネジメントの高度化が前提となるので、その点には注意が必要です。
コンタクトセンターのデジタルシフトが進むと、機能的価値ではなく、情緒的価値を提供する役割としての期待が従来よりも増していくことが予測されます。すなわち、商品を売る、不具合をサポートするといった役割ではなく、他社との差別化、ファンを増やす、継続利用を増やすといった役割といえます。
それに伴い、コンタクトセンターの従業員の仕事の内容も変わってきます。オペレーターはコンシェルジュに、FAQ担当者は生成AI育成者に、品質担当はCX担当に変わり、それぞれが主体的に考えて動くことが求められます。
一方、コンタクトセンターの役割の変化を推し進めていくためには、従業員のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態)を重視し、働きがいを感じるという人を相対的に増やしていくことが必要です。
デジタルシフトの過渡期である現在は、難易度が高い問い合わせの比率が増え、オペレーターへの負担が以前よりも高くなってきています。コンタクトセンターのデジタルシフトは、ウェルビーイングの視点に基づき、オペレーターの負担を軽減するための生成AI導入はどうあるべきかも検討したうえで進めていくべきだと考えています。
オムニチャネル型の顧客体験は、HDXへ進化する
安田:デジタルシフトの進行により、顧客体験は、オムニチャネル型から「HDX(Humanized Digital Experience)」へ進化していくと、電通デジタルでは予測しています。
HDXが目指すのは、温かく人間的な応対の偏在化と、人の価値の最大化で、生成AIはそれを実現するための重要な手段です。
HDXが実現した世界では、顧客接点のあらゆるシーンをデジタルがカバーし、そこに人とAIを軸にした温かい人の応対が溶け込みます。
HDXには、3段階の進化ステージがあります。現在は、【ステージ1】から【ステージ2】への移行期で、生成AIをどのように活用していくべきかを検討する段階です。
生成AIの導入で、コンタクトセンターはどう変わるのか?
山本:まず、従来型チャットボットと比較しながら、生成AIの特長を4つの視点から紹介します。
①違い
従来型チャットボットは、FAQのデータベースを検索し、ヒットした文言をそのまま出力しますが、生成AIは、複数の参照データを組み合わせ、最適な回答を生成します。これが大きな違いです。
②得意なこと
従来型チャットボットは、単純な質問への応対が得意です。生成AIは、複雑な質問への回答や、ユーザー別の回答が得意です。
③出力精度
出力精度とは、質問の意図にどれぐらいマッチした回答ができるかを指します。従来型チャットボットは予め決められた出力を行うので、一見精度が高いと感じられます。しかし、そもそも入力を理解する精度が低いため、結果としてユーザーの意図に即していないことを話し、全体としては精度が低くなる傾向があります。
一方、生成AIは非常に柔軟に入力を理解することができ、質問に最も合う形で出力できるため、適切な命令をしておけば、圧倒的に精度の高い回答が期待できます。
④コスト
従来型チャットボットは、FAQの作成に膨大な時間がかかります。ただし、運用時は検索するだけなので、ランニングコストはそれほどかかりません。
生成AIは、既存のデータベースや資料を流用できるので、初期コストはあまりかかりませんが、ランニングコストが高く、コンシューマー向けに提供するのは難しいのが現状です。ただし、近い将来、GoogleやMetaの生成AIが普及し、低価格化やオープンソース化が進むことで、かなり低コストで使えるようになると予想されます。
コンタクトセンターにおける活用用途
コンタクトセンターでHDXの「【ステップ2】AIによる人の補完」を実現するには、以下のような活用用途が考えられます。
- 問い合わせを受けて、担当(AI/オペレーター)を割り振る
- 問い合わせに自動応対する
- オペレーターへ問い合わせをエスカレーションしつつ、回答をサポートする
- 問い合わせ内容を分析し、オペレーターの教育カリキュラムの作成を支援する
- オペレーターに対話型トレーニングを実施する
AIによる顧客体験で、マーケティングファネルも変化する
安田:HDXの【ステージ3】の段階になると、顧客体験だけでなく、マーケティングファネルの中身も変わっていきます。
これまでは、フェーズ(注意・関心・検索・購買・利用・共有・継続)に応じて様々な顧客接点があり、その全てでコンタクトセンターが対応してきました。
AIの導入・活用が進むと、「対話型広告」「AIによる買い物代行サービス」「パーソナルエージェント機能」といった新たな顧客接点が登場し、それに伴い、広告自体がユーザーと対話する「相談」や、購入後の使い心地をレビューする「報告」という、新しいフェーズが出てくるのではないかと予測されます。
AIは「従来の体系を代替して高度化」するだけでなく、「これまでなかった体験」を提供することで、新しい顧客体験を生み出していくと考えられます。現在、すでに「AIによる買い物アシスタント」や、「AIによる悩み相談サービス」といったサービスが展開されています。メンタルヘルスの分野では、AIのインターフェースを活用することで、ユーザーとこれまでになかった新しい関係性が築ける可能性があります。
電通デジタルの取り組み
安田:電通デジタルでは、【ステージ2】と【ステージ3】において、様々なチャレンジに取り組んでいます。
HDXの一般化に向けても様々な準備を進めており、すでにいくつかの企業様と共に、新しい体験の提供も行っています。
HDXの実現の端緒は企業の成長にあります。テクノロジー導入、生成AIの活用について、電通デジタルは、社内のプロフェッショナル人材の知見を生かしながら支援させていただきます。よりよいCX構築のために、ぜひ我々を活用してください。
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