Advertising Week Asia 2022で行われたトークセッション「クリエイティビティの現在地」[1]に、電通デジタル 執行役員/CX Creative Studio 共同代表 田中信哉がファシリテーターとして登壇しました。
いまだにオフライン/オンライン、ブランディング/コマースといった二項対立の議論が残る現代のクリエイティブ。そうした旧来の価値観を一掃し、いま持たなければならないクリエイティブの本質的なスタンスとは何か。CX Creative Studio共同代表 並河進氏、(つづく)Co-Founder/クリエイティブ・ディレクター/映像プランナー 田辺俊彦氏を迎え、現在のクリエイティブが抱える課題を取り上げながら、今求められているクリエイティブについて語り合いました。
クリエイティブに残存する二項対立
今回のセッションで、なぜ「クリエイティビティの現在地」というテーマを選んだのか。その理由を田中は、「マス/デジタル」「オンライン/オフライン」「コマース/ブランディング」「パーパス/短期KPI」などのような、クリエイティブ領域に根強く残る二項対立にあると述べ、「これまで生活者に響くことを考え抜いてきた3人で掘り下げてみたい」と切り出しました。
田辺氏は、クリエイティブの現場でそうした安易な二項対立が幅をきかせており、かつ派閥争いのような状況を呈していることに、ある種の不満を感じていると言います。
「企業の本質的な目的は、ユーザーに長く愛され、社会に求められる存在になること。二項対立はその目的を阻害するものであり、ブランド、ひいては企業のためにならない」(田辺氏)
AI(人工知能)は対立する二項を融合させることができるか
並河氏とともにCX Creative Studioという横断組織を運営している田中は、二項対立を融合したクリエイティブはどうすれば目指せるか、デジタル広告とクリエイティブを区別せずに考えられないか、ということをテーマに取り組んでいると簡単に活動を紹介しました。
並河氏は、2017年、電通デジタルにデジタルとクリエイティブの融合をテーマにした社内横断組織ACRC(アドバンストクリエイティブセンター)を設立。そのときの経緯に触れながら、こうした相反する二項が混じり合う状況こそ、実は、新しいクリエイティブが生まれる場所なのだと言います。設立5年目になるACRCでは新しいタイプのクリエイターも出てきているとも話し、実際にそうした場として機能しつつある現状に言及しました。
AIの進化が著しい今、デジタルマーケティングは大きな転換点を迎えています。その背景には、AIの活用により、ピンポイントで真にLTVが高いユーザーを見つけて、コミュニケーションすることができるようになりつつある状況がある、と並河氏は見ています。
「今までデジタルマーケティングで常識とされていた、データを基にセグメント化し、それを基にターゲティングしていくマーケティングは、とても粗いやり方ではないか」(並河氏)
同時に、AIが学習によってLTVが高いと予測されるユーザーを見つけ出すことと、クリエイターがコミュニケーションの対象とするユーザーを想定する「勘」は、近いところにあるのではないかとも思うようになったと、並河氏は続けます。そうした実感から「最終的にはこの二項は対立ではなく、融合していくのではないかと強く感じている」と、クリエイティブの未来への展望を示しました。
クリエイターの仕事は「つくる」だけではない
田辺氏が「二項対立を解消するのは、人間の複雑性を認めていくことなのではないか」という見方を示すと、これに並河氏も同意。デジタルマーケティングというのは人間を類型化する試みだが、これからのマーケティングは、人間の複雑さを織り込んで見立てていくことが大事だと話し、むしろ、デジタルマーケティングとクリエイターの見立てにズレがあったら、それこそが新しいクリエイティブを生み出すきっかけになるはずだと言います。
そもそも、クリエイターというのは、クリエイティブを「つくる」だけではなく、「見つけ出し」「捉える」能力も有しているものではないかと、並河氏は指摘。現在は、仕組み的に「クリエイター=つくる人」というイメージが固定化されているし、クリエイター自身もそう思っている人が多いが、本当はそうではないと言います。
並河氏は「素晴らしいクリエイターは『捉える力』が強い。実は、そこにこそ、クリエイターの大きな価値があると思う」と話し、クリエイターの守備範囲を周囲も、クリエイター自身も、もっと幅広く柔軟に考えるべきだと提案しました。
田中は、「表層的に人を粗い目で見ていることへの限界が来ていて、人の心を置き去りしていたということに気づき始めている時期なのではないか」という見方を示しました。
クリエイターには「センサー」の役割も求められている
クリエイターの役割という話の流れで、田辺氏があるブランドと「センサーとして契約」しているという話題が出ました。田中がかつて田辺氏と「クリエイターはクライアントにとってのセンサーであるべき」と議論したエピソードを紹介し、それを受けて並河氏も持論を展開します。
「センサーとは、まさに人を捉えること、時代を捉えること、あるいは少し先のこと、これから起きていく、でもまだみんなは言語化できていない、可視化できていないことを捉えることだ」(並河氏)
田辺氏は、「センサーは非常に緊張感のある肩書きだ」と述べ、その役割を果たすためには、アナログ体験とデジタル体験、その両方を総合判断して戦略を立てていく必要があるとして、「それこそが今一番新しいマーケティングだとも思う」と語りました。
対立する二項を融合させるのはクリエイティブ・ディレクターの役割
田中は、デジタルマーケティングとクリエイティブの融合の重要性は理解しつつも、しかし組織が大きくなればなるほどこの二項は混じりにくくなりがちである、という見方を示しました。
それに対し並河氏は、もともとは共通言語もなかった二者が歩み寄ることが大事だとして、その間を取り持つのが、クリエイティブ・ディレクターの役割ではないか、といいます。田辺氏も、サイエンスとカルチャーの接合は、おそらくこれから最も求められる役割になるのではないかと話しました。
最後に田中が、2019年のAdvertising Week Asiaで故・岡康道氏(TUGBOAT)と登壇したセッション「進むために。立ち止まって考える、クリエーティビティの今」の内容に触れ、今回のセッションで出てきた議論は、当時語られた内容に非常に共通していると振り返りました。
当時のセッションで岡氏が「クリエイターが持つ暗黙知をもっと表に出して、信じていいのでは」と語ったと紹介。今回のセッションで語られた、AIの学習成果がクリエイターの勘に近いという話や、クリエイターがセンサーとしての役割を求められているという話は、まさに岡氏のいう暗黙知と同一線上にある話だと感じたと感想を述べました。田中は、そうした岡氏の想いも引き継ぎながら、あらゆる二項の融合に取り組み、クリエイティブの発展に取り組んでいきたいと述べ、セッションを締めくくりました。
脚注
1."「クリエイティビティの現在地/人の心を動かすために、誰が、どこで、何をするか」". Advertising Week Asia.(2022年6月2日)2022年6月13日閲覧。
2."進むために。立ち止まって考える、クリエーティビティの今。ウェブ電通報.(2019年7月11日)2022年6月13日閲覧。
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