2022.06.30
顧客体験変革の新基準、「社会的不満の解決」から新しいコンセプトを構築
「今よりずっとあなたを自由にする、新しい三菱冷蔵庫。」という家事シェアの視点も盛り込んだ三菱冷蔵庫の新CMが注目を集めている。コロナ禍にあって生活者の消費行動、製品選択の基準価値が大きく変わる中、いかにリブランディングに向けたプロジェクトを推進したのか。三菱電機の冷蔵庫チームとサポートを実践した電通デジタルとの取り組みを紹介していく。
CX変革において求められる「3C+S」の視点とは
2022年より放送されている三菱冷蔵庫のテレビCMでは、働く女性の心を軽やかに解放してくれるような内容が印象的です。その基となった中期的なブランドコンセプト策定に取り組まれた経緯、当時の課題感について教えてください。
三菱電機・神保恒祐氏(以下、神保): 当社の冷蔵庫は、「おいしさと使いやすさ」という価値を提供することで、人々の生活をよりスマートに、便利にすることを目指し付加価値向上に取り組んできました。
次のフルモデルチェンジを2022年に控えた2020年に部門縦断のワーキンググループを立ち上げたのですが、価値観が大きく変容する時代にあって、次の成長を実現していくには「変えてはいけないこと」と、時代に合わせて「変えていくべきこと」を整理し、明確なコンセプトを構築する必要があるという気づきを得たのが起点となりました。
技術力として「ラクに・ムダなく・おいしく(保存できる)」をコアバリューに、家事分担や暮らしのあり方も多様化する中、三菱冷蔵庫の価値提供はどうあるべきか。それをメーカー視点での機能性重視の価値提案ではなく、顧客および社会的視点を持って発信していくには、メンバー全員が同じ方向を見て進むためのブランドコンセプトを再定義する必要がある。そこで専門的知見をいただきながら作業を推進すべく、2021年4月より電通デジタルにサポートを依頼しました。
三菱電機・横尾広明氏(以下、横尾): お客様にとって価値あるものを追求するのは当然ながら、自社のリソースだけでは情報も限られ、技術を起点に考えがちな問題もあります。変化のスピードも加速化し、従来のやり方では即刻通用しなくなる。開発者として漠然とした不安を抱えていたところでチームに参加しました。客観的視点をいただける味方として、電通デジタルがジョインしてくださるのは非常に心強かったですね。
電通デジタルとしては、ご依頼をどう捉えられましたか。
電通デジタル・田川絵理(以下、田川): 当社でも、多くの企業・ブランドの価値再定義から変革コンセプトの策定、顧客体験の向上を起点としたDX(デジタルトランスフォーメーション)のお取り組みを支援させていただいています。ご相談いただくケースとして少なくないのが、縦割り組織の弊害から本質的なゴールを見据えた議論がおろそかになってしまったり、テクノロジー先行でDX自体が目的化してしまったという課題に直面し、プロジェクトを立て直したいというご要望です。
その点では、三菱電機様からは当初より「部署の垣根を超え、チームみんなが納得感のあるブランドコンセプトを作りたい」というご要望があり、横連携の強化をより重視したプロジェクトのプロセスデザインをご提示するところから支援させていただきました。
電通デジタル・廣田明子(以下、廣田): 中長期的なブランドコンセプトは、DX、顧客体験変革のフックにつながる重要なもの。そこで納得解を得ていくには、関与する社内メンバーの声を吸い上げ、一丸となって議論、合意を積み上げていくプロセスが肝要です。そこで、お客様のニーズのリサーチはもとより、全員が想いを発散でき、当社がファシリテーターとして意見を集約していくワークショップのアプローチをご提案しました。
ワークショップ形式で社会的不満を踏まえた「仮説」を構築
具体的には、どのように進められたのでしょうか。
廣田: プロジェクトは大きく3つのステップで進行。①既存調査を踏まえたブランドコンセプトの一次仮説開発、②仮説の検証、③ブランドコンセプトの精緻化です。三菱電機の冷蔵庫チームの皆様のうち総勢約20名のプロジェクトメンバーの方々を3つのチームに分け、意見を出し合いながら取り組んでいきました。
その一次仮説を組み立てる上で、活用したのが当社の顧客体験変革の戦略構築を支援する専門チームが開発した社会的不満探索支援ツール「Social Pain Compass(ソーシャルペインコンパス。以下SPC)」です。
大前提として顧客体験変革においては、従来の「3C(顧客、競合、自社)」に「S(社会)」への配慮を加えた「3C+S」の視点、自社・生活者・社会の"三方良し"の実現が欠かせない時代となっています。当社が2020年に実施した調査でも、実に7割超の生活者が「社会や人々の暮らしの課題を解決しようとする姿勢の有無が、今後のブランド/製品選択の基準になってくると思う」と回答しています。
その観点から開発したSPCは、Twitter上のソーシャルビッグデータを土台に、生活者が抱える社会的不満を分析。「地球・自然」「社会」「人生」「暮らし」の4つの方位の中で、さらに15個のSocial Pain探査テーマを設定し、ソーシャルリスニング分析を行った上で、200個超の「Social Pain Keyword」を抽出。一つひとつのキーワードに対し、"ペインの概況""社会での解消に向けた動き"までをまとめた、企業が向き合うべき社会的不満の方角を指し示す羅針盤(コンパス)になるものです。
今回のプロジェクトでは、三菱冷蔵庫に関係するテーマ「家庭」における、"家庭内ジェンダー不平等"や"孤育て"といった膨大なペインを、まさに滝行のようにインプットさせていただき、それらの情報を基にワークショップ形式で仮説を組み立てていきました。最終的には、"人々を、家事におけるジェンダー不平等・ジェンダーバイアスからもっと自由にしていく"という、社会的な価値をブランドに組み込めたことは、大きな実りだと考えています。
部署の枠を超えたワークショップで意見を出し合い、納得感あるアウトプットを出していく上で、工夫された点について教えてください。
廣田: 意見や想いをしっかり出し合いながらも、皆が同じ目標に向かって考え、形にしていくためには、緻密なワークショッププログラム設計と当日のファシリテーターの役割が重要です。例えば、書き込み式のワークシートを作成し、事前に「ブランドに込めたい想いの発散」「三菱冷蔵庫の提供すべき価値仮説の発散」といった宿題を提出していただき、チームごとの議論につなげるなど独自のフレームワーク開発にも工夫を重ねました。
また、事前に提出いただいた宿題の内容を踏まえ、電通デジタルの支援メンバー内ではワークショップ前日に、当日の流れを想定したランスルーを長時間行い、三菱電機の冷蔵庫チームの皆様が抱く想いの共通項をチェック。また、意見集約時に拠りどころとしてリマインドすべき生活者のニーズなどを入念に確認し合い、当日に挑んでいました。
横尾: 副次的産物としては、ブランドコンセプトを策定する上でメンバー全員の本音、意見を知ることができたのも、今後の具体的な落とし込み作業につながる大きな収穫でした。
神保: どのチームやどの意見が良い、悪いではなく、ボトムアップで個々の想いを融合し合うようなリードをしていただき、目的の一つであった横連携の強化につながったことも大きなポイントと捉えています。
社会課題への姿勢がステークホルダーの求心力をも左右
新たなブランドコンセプトは「自由」がキーワードになっています。そこに込めた想いをお聞かせください。
神保: 従来、仕事に家事にと頑張る人々の生活を賢くスマートにすることに注力してきましたが、ソーシャルペインのインプットなどから見えてきたのは「頑張れる日もあれば頑張れない日もある」「家族に手伝ってほしくてもそれを素直に言えない自分に嫌悪してしまう」といったリアルな実態でした。
ならば、頑張ることを前提としない価値提供として「家事は頑張らなくてはいけない」といったレッテルを取り払い、もっと自由で軽やかに暮らせるよう、支えられる冷蔵庫でありたい。「自由」にはそんな想いを込めています。
横尾: ブランドターゲット像として設定している、つい1人で何もかも背負いがちな「頑張りゆるめ下手ママ」にも思い入れがあります。お客様像がクリアになったところで、そういう方たちの支えになるようなものを作らねばならないと決意を新たにしています。
神保: 当社の企業理念にも「活力とゆとりある社会の実現に貢献」とあります。「ゆとりある」とあえて入れているのは、持続可能社会・多様性・ワークライフバランスなどの今日的意味を含む「ゆとり」ある社会を実現したいという想いが込められています。三菱冷蔵庫もそのような価値を提供し続けていきたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
神保: ブランドコンセプトに続き、ブランドフィロソフィーとして「三菱冷蔵庫が叶える10の自由」を策定しました。「食材管理の自由」といった機能性に加え、「頑張る・頑張らない等、家事への向き合い方の自由」といったペイン解消につながる要素も盛り込んだもので、お客様や流通の方に向けても丁寧に発信していきたいですね。
社内においてもブランドコンセプト浸透を進め、具体的な顧客体験変革につなげていく取り組みも加速化していきたいと考えています。
横尾: ブランドコンセプトの一環として、三菱冷蔵庫として「Don't(するべきではないこと)」も策定したのですが、その観点から技術先行での過剰機能・複雑な機能を排除し、お客様の生活に合わせ、あえてローテクノロジーやそれらの組み合わせを選択していく。開発手法のアップデートを進める上で、そうした発想の転換も浸透させていきたいと思います。
廣田: 2022年3月に実施した大企業社員300名を対象とする当社調査では、「社員としてモチベーションが高まる自社の変革ビジョンに必要な要素とは?」という問いに対して、約9割が「社会課題解決に取り組むことによる"社会的価値の所有"」と回答しています。
社会的価値は社員のモチベーション向上、全ステークホルダーにとっての求心力にもなります。今後、協業を進めていく上での重要なポイントになり得る点からも、その重要性を当社としても発信していきたいですね。
田川: 社会的価値の追求は、自社の社会的な存在意義を改めて問い直すことですが、関わる社員自身の存在意義を再認識することでもあると捉えています。顧客、社会の課題に向き合って策定したコンセプトは、社外への認知はもちろんのこと、具体的な機能や商品・サービスに落とし込んでこそ真価を発揮するものです。なので、社員一人ひとりが誇りと自覚を持って変革に取り組み、組織間連携によるシナジーを創出できるよう、当社では各企業のカルチャーや環境に応じて、プロジェクトの進め方にも工夫を凝らし伴走しています。
構想を構想で終わらせずその具現化に向けて、三菱電機様はじめ、今後も多くの企業の顧客体験変革を一気通貫で支援させていただきたいと思います。
本記事は日経BPの許可により「日経ビジネス電子版Special」2022年6月21日公開に掲載された広告から抜粋したものです。
禁無断転載©日経BP
PROFILE
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
TAGS
タグ一覧
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO