多くのデータが収集できるようになった昨今、マーケティングにデータを活用することの重要性は周知の事実です。必要なデータをすべて収集し、さまざまなツールを駆使してPDCAを回せば大きな改善効果を得られるでしょう。
しかし、実際には多くの企業・サービスが、さまざまな制約の中で改善活動をしているのではないでしょうか。例えば、立ち上げたばかりのサービスではデータ量の担保が難しいでしょうし、予算や既存システムとの兼ね合いで新規ツールの導入障壁が高い企業もあるでしょう。
今回は、分析基盤ゼロ・豊富なデータ量も見込めない新規サービスにおいて、さまざまな制約の中で分析基盤を構築し、収集したデータをフル活用してCVRが1.5倍に改善した事例をご紹介します。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
サービスインから3カ月、コンバージョン数が目標に達しない
今回の記事で紹介する事例は、BtoBプラットフォームのWebサイトです。このサイトに登録した企業は、さまざまな条件で案件を検索して、企業間のやり取りをプラットフォーム上で進めることができます。
サービス | BtoBプラットフォーム |
---|---|
CV | 登録完了・案件登録、案件検索、申込、成約 |
その他の特徴 | 流入数が少ない(5,000流入/月未満) 新規の分析ツールは導入に時間がかかる |
サービス立ち上げから3カ月の時点で、登録企業数は1,000社を超えましたが、成約件数は目標に達していないという状況で、CROコンサルティングの依頼を受けました。
CROを進めるうえでの課題と方針
依頼を受けた時点で分析ツールは導入していなかったため、サイト内行動データが取得できておらず、どこに問題があるのか、どこから改善に着手すべきかわからない状態でした。
また、分析基盤を構築したとしても、BtoBプラットフォームというビジネスモデルの特性上、分析対象となるデータ量が少なく、改善示唆が出しにくい、という懸念がありました。そうした課題を考慮し、今回は以下のような分析設計を行いました。施策の主な目的は「登録企業数の増加」および「登録企業の活性化」です。
- 分析基盤を整備する
- サイト内行動を定量分析する
- 定性調査(デプスインタビュー)で補完する
- ユーザーの利用実態と利用背景を明らかにする
- 改善施策を実施する(登録企業数の増加、登録企業の活性化)
クライアントからは「早めに分析結果を確認したい」という要望があったため、検証・稟議に時間のかかるユーザー行動分析ツールの導入は見送ることとし、Googleアナリティクスとヒートマップツールのみを導入しました。
定量分析については、Googleアナリティクスでセッション単位での行動分析、ヒットマップツールでページ単位での行動分析を行いました。またユーザー単位での行動分析は、Googleアナリティクスの「ユーザーエクスプローラー」機能を活用して行うこととしました。
定性調査については、そもそもユーザーがどのような背景からこのサービスを活用しているのかなどをヒアリングしてニーズやインサイトを探る「課題発見型」の活用をしたいという側面があったため、複数ある定性分析手法の中からデプスインタビューを用い、定量データ分析の結果の読み解きにも活用いたしました。
デプスインタビューは、登録企業を規模(大/小)と活用ニーズ(発注/受注)で4象限に分け、各象限から1社ずつ、休眠(登録後何も行動を起こしていない)ユーザーから1社、計5企業に対して各1回、60分程度のインタビューを実践しました。選定企業は各象限内で特徴的ではない一般的な企業にすることで、n=1の意見が特殊な回答にならないよう留意しました。
登録企業の活性化:分析と施策立案
本CRO事例の目的は「登録企業数の増加」および「登録企業の活性化」でしたが、今回の記事では「登録企業の活性化」の観点に絞ってお話しします。
「登録企業の活性化」は、大きく以下の3つのCV(会員登録後に行ってもらいたい行動)に分解できます。
- 案件登録
- 案件検索
- 登録案件への申込
※成約の成否は外的要因が大きいためスコープ外
まず、「案件登録側」の行動をファネルに落とし込んで数値を確認したのが以下の図です。
「サービスTOP」から「案件登録」へ遷移したユーザーが13.8%、そこから「案件登録確認」に遷移したユーザーが28.7%。「案件登録」に到達したユーザーのうち、7割以上が入力途中で離脱していることが判明しました。
本サービスの特性上、「案件登録」で入力する情報が多いため、登録完了率は低いと想定していましたが、「サービスTOP」の目立つ場所に「案件登録」へ導線があるにもかかわらず、遷移率がここまで低いことは想定外でした。さらに細かな情報を確認したところ、
- そもそも会員登録したユーザーの62%はその後一度も再来訪していない
- 案件登録は、会員登録直後(訪問1回目)に行わないとなかなか登録してくれなくなる
ということが明らかになりました。
次に、「案件検索/申込側」の行動をファネルに落とし込んで数値を確認したのが以下の図です。
数段階あるページ遷移のうち、
- そもそも会員登録したユーザーの62%「案件閲覧」から「案件詳細」への遷移率(55.6%)
- 「案件詳細」から「申込」への遷移率(32.0%)
に着目しました。
さらに「案件閲覧」「案件詳細」ページのヒートマップを確認すると、ページ内では以下のような行動をとっていることがわかりました。
また、ページ遷移行動を線で確認したところ、「案件一覧」→「案件詳細」→「案件一覧」...という行動が非常に多いことも特徴的な動きとして確認できました。
サイト内行動分析とデプスインタビュー結果を合わせてわかったこと
サイト内行動分析の結果から重要視すべきポイントを抽出し、併せて実施していたデプスインタビュー(定性調査)の意見と照らし合わせてまとめると、以下のようなことが明らかになってきました。
- 会員登録企業の中にはモチベーションが低い企業も多い
- 登録した人と実際に業務上で利用する人が違う
- 「案件一覧」→「案件詳細」の反復行動は、使い勝手の悪さと「案件一覧」の情報の少なさに起因している
上記以外にもサイト内外のデータを多角的に調査・分析して、最終的に以下を課題と定義し、これらの課題に対応する改善施策を20件程度立案しました。主な施策は以下のとおりです。
- 案件検索/申込側ユーザーが、申し込みたい案件を⾒つけやすいように、「案件一覧」ページのUIを改善する
- 会員登録をしたユーザーに「案件登録」を促すためのフォロー施策
- 会員登録をしたユーザーを再訪させるコミュニケーション設計(サイト外施策)
分析結果からの施策推進
施策の優先度ですが、施策で増加すると見込まれるCV数と、実装難易度を考慮して、「サービスTOP」「案件一覧」「案件詳細」に、以下の施策を実装することが決まりました。
サービスTOP
- 登録案件への情報追加(閲覧数・申込数・お気に入り数など)
案件一覧
- 各案件への情報追加(画像・閲覧数・申込数・新着フラグなど)
- お気に入り機能の追加
案件詳細
- 掲載情報の整理、デザイン調整
- お気に入り機能の追加
これらの施策はプロトタイプを作成してユーザーテストを重ねながら慎重に実装内容を検討しました。
CVR改善だけに留まらない成果
各種指標が大幅改善、最大で148%のCVR改善も
今回実装した改善施策により、案件登録CVR(コンバージョン率)は1.5倍に増加、申込CVRは1.4倍に増加と、実装直後から大きな改善が見られました。
「案件一覧」「案件詳細」ページともに、デザイン変更により、ページ下部まで閲覧されるようになり、以前に比べて多くの登録案件の確認行動が見られるようになりました。
一方で、会員登録ユーザーの直帰率や、「案件一覧」から「案件詳細」への遷移率が悪化しましたが、ヒートマップデータを確認する限り、使い勝手の悪さに起因するページの行き来がなくなったことが理由だと判断でき、想定の範囲内の数値変動でした。
データが共通言語になり関係者間での協議がスムーズに
これまでは改善施策の優先度が定量的に判断できない状態だったため、担当者がヒアリングした登録企業からの不満点を都度実装しておりましたが、今回の分析で各CVフローにおける遷移率や改善インパクトが可視化されたことにより、改善施策の優先度を協議できる環境を作り上げることができました。
また、今回の分析から登録企業の利用ユーザー像やサービスのあるべき姿、現状のサイト状況についても明確になったため、共通認識を持ってサービスの改善に取り組むことができるようになりました。
営業戦略への示唆
定量データとデプスインタビューの分析結果から、登録企業の活性率が低い要因として、Webサイト側だけではなくサービスのプロモーション方法にも課題があることが判明しました。今回の分析結果はサイト内だけではなく、「本サービスは、企業の中でも調達部門などの特定の部門の担当者にリーチする必要がある」「会員登録した直後のタイミングで、案件登録までやってもらうようアウトバウンドでアプローチを行うとその後の活性化につながる」といった営業方法にまで示唆を広げることができました。
制約が多いWebサイトでも、CROの改善施策は推進できる
「分析ツールが導入できないから」「Webサイトを立ち上げたばかりでデータ量が少ないから」という理由で改善活動を後回しにしていないでしょうか。
導入できるツールに制限があったり、データ量が少なかったりする場合でも、今回紹介した事例のように定量データと定性データを併用すれば、十分に改善を推進することができます。
とはいえ、制約が多い状況下で、分析設計からPDCAサイクルの定着まで実施するとなると、難易度は高くなります。費用対効果が高く、効果的な施策を行うためには専門家の力が必要です。電通デジタルのCROグループでは、サイト内/外、定量/定性を問わずユーザーの行動データを分析し、改善施策に落とし込むことによってCVRの改善をサポートしています。
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