2022.04.21
トランスフォーメーション時代の新しい価値創造
コロナ禍で変化する顧客ニーズに応えきれていない企業が多い中、どのようにして顧客基点のコミュニケーションは可能となるのか。デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の西野弘氏と電通デジタルの安田裕美子氏の対談を通して、日本企業の現状分析から具体的な取り組み、今後の展望について紹介。これからの日本企業や社会のあり方を探る。
「顧客」のニーズに応えられていない日本企業の現状
デジタルトランスフォーメーション(DX)を基点としたビジネス変革の重要性が叫ばれていますが、日本企業のDX推進の現状についてどうお考えですか。
電通デジタル・安田裕美子(以下、安田): コロナ禍を契機に生活者の価値観や行動の変化が進み、DXが経営アジェンダ化しているのは間違いありませんが、企業はそのニーズに十分応えられていないのが現状です。電通デジタルで実施した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」の結果でも、コロナ禍でDXの重要度が高まったと考える企業が65.1%を占める一方、変化する顧客の期待に応えられていないと感じている企業は39.2%にも上っており、"焦り"や"ジレンマ"が感じ取れます。
DBIC・西野弘氏(以下、西野): 顧客ニーズに応えられていないというのは、顧客基点のコミュニケーションができる時代になったにもかかわらず、社内業務の電子化やIT化だけがDXだと勘違いして、本質がつかみきれていない企業が多いからではないでしょうか。私はこれまで、コールセンターの改善にも取り組んできましたが、リアルなお客様、「個」の顧客の声が聞けるコールセンターが日本では経営層にあまり重視されないのも、顧客基点がつかめない要因の一つだと感じています。顧客第一と言いながら、顧客の声が唯一聞けるコールセンターに毎年行かれる経営幹部は何人いるでしょうか。
安田:以前のように、歴史あるブランドだから、価格が安いからといった理由ではなく、社会の困りごとやニーズに対して臨機応変に対応する企業が選ばれる傾向は、近年さらに高まっています。西野さんのおっしゃるように顧客基点のコミュニケーションはますます重要になると、私たちも考えています。
変化する顧客のニーズに応えられていない企業が、その課題を乗り越えるにはどうすればいいのでしょうか。
安田: デジタル化そのものだけに着目するのではなく、デジタル化された世界の中で、お客様が何に価値を感じるのかをしっかりつかむ必要があります。実は先ほどのデジタルトランスフォーメーション調査の結果で、もう1つ重要な示唆があり、「顧客の期待に応えられている」と回答した企業ほど、DXへの取り組みが進んでいます。DXがすべてではないのですが、やはりDXは顧客の期待に応える前提の力だと思っています。
西野:DXは、顧客との関係も自社の意思決定や行動様式もひっくるめて、今までのものを作り替えましょうということなので、その調査結果には納得ですね。今、世界は破壊的企業(デジタルディスラプター)の脅威にさらされていますが、彼らが強いのは社会的価値をつくろうとしているからです。顧客というのは生活者ですよね。これからのビジネスでは、企業人ではなく一人の生活者として、経営層から一社員まで自分の企業がどのように社会的価値を創造していくかを考えていく必要があると強く思います。
既存事業の高度化と新規事業の創出を両輪で推進
企業のDXの現状と課題を踏まえて、DBICと電通デジタルではそれぞれどのような取り組みをされているのか教えてください。DBICではNPO法人として人材育成に注力されていますね。
西野:実は、私たちも設立当初は顧客基点ではなく、テクノロジーやスタートアップとのコラボレーションなどのプログラムに注力していました。けれども、進めていくうちに、結局「変革」の要は人だというところにたどり着いたんです。企業に長く属している人は、いわば鍵のかかった状態/鎖につながれた状態になってしまう。これではイノベーションなど起こせません。そこで、DBICでは、アンロック、アンチェーン、トランスフォームを促すための人材育成と組織変革プログラムを通してDXを推進しています。とくに重要なのはトランスパーソナル、つまり自己認知をできるような人材を見つけ出し、育成するという取り組みを実施しています。現在、電通デジタルも含め大手企業30社に加盟していただき、30代の方々から経営層まで多様なプログラムを実施していますが、DX人材というとテクノロジー教育が多い中、本質的な変革人材育成プログラムをしている稀有な組織だと自負しています。
安田:顧客主導の時代になって、企業全体をつくり変えないといけない中、高い視座で日本のリーダーや変革を志す人材に着目しているDBICから学ぶことは少なくありません。さらに着目するだけでなく、実践されている点が素晴らしいですね。
一方、電通デジタルの取り組みとしては、2022年1月に「トランスフォーメーション領域」を新設し、企業に対して既存事業と新規事業の「両利き経営」を提唱されています。これはどのような意味があるのでしょうか。
安田:当社で提唱している「両利き経営」というのは、端的に言えば既存事業の高度化と新規事業の創出を両輪で推進することです。先ほど西野さんからコールセンターの話が出ましたが、デジタルの時代というのは、まさに顧客資産価値が重要です。ここを高めるために、スタートアップはイノベーションを強みに新たな市場を創っていくという手段を取るわけですが、既存企業は既に存在する顧客に強みがあるのです。ただし、顧客と双方向で向き合っている企業は少ない。そこで、顧客とオンラインも活用してしっかりと関係を構築しつつ、顧客が半歩先に望むことを想像しながら新たな事業開発を行い、企業が持つアセットを地続きで伸ばしていきましょうというのが、両利き経営の意義です。
西野:両利き経営というのは、今後必要な「変革」やデジタルディスラプターに対抗する上でも重要な視点ですね。顧客資産価値の向上の成否が勝負を分けるわけですから、大手企業はすでにある蓄積をいかに有機的に結びつけて、新しい価値を生み出すか。これからのビジネスは、ここが決め手になっていくと考えています。
顧客基点のイノベーションのために学び直しが必要
企業のDX推進に対して、今後どのような取り組みをされていくのか、事例も含めて展望をお聞かせください。
安田:電通デジタル全体として、「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」という新しいパーパスを策定しました。これを踏まえて、クライアントやあらゆるステークホルダーとの共創が今後の大きなテーマになってくると思います。実際に動いている例を挙げると、当社とアサヒビールとで合弁会社「スマドリ株式会社」を設立し、お酒に対する向き合い方という切り口で多様性を推進する「スマートドリンキング®」の取り組みを進めています。また、ビービットをはじめとする複数社とも「一般社団法人UXインテリジェンス協会」を昨年立ち上げ、善いUXであふれる社会の実現にさらに邁進しています。
西野:これからの日本で変革とイノベーションを起こすには、テクノロジー、ビジネスモデル、顧客価値、そしてマネジメントのオペレーションシステム、この4つの融合が必須になると私は思います。いわゆるSI企業はこのうちのテクノロジーしかカバーできていないところが多いですが、電通デジタルなら顧客基点で要のビジネス設計とデジタル技術の融合ができる。未来のコミュニケーションと顧客価値創造を担っていただけるよう期待しています。
続いて、DBICでは今後の展望をいかがお考えでしょうか。
西野:ラーニングトランスフォーメーション(LX)こそDBICが果たすべきミッションだと考えています。本当の顧客基点でイノベーティブな行動を起こすには、従来型の企業研修モデルではなく、自己認知をして新しい思考や手法も学び、生活者としての感覚を取り戻し、変革とイノベーションを起こすリーダーを育成できる新しい学び直しの場としくみが必要です。そのために、最新テクノロジーを活用し、DBICに加盟いただいているメンバー企業だけでなく、多くの企業や未来の子どもたちと共に学べる「共育」が実現できるLXハブの構築構想を進めているところです。
安田:NPOという第三者的な立場だからこそ見える部分もあると思うので、ぜひLXハブの取り組みを通じて、日本企業の学び直しをけん引していただけることに期待しています。
最後に、今後の日本企業のDXという観点でメッセージをお願いします。
西野:DXというのは、ルネサンスや産業革命と同等レベル以上の変革だと認識しています。日本には技術力やおもてなしの心といった良い面がたくさんありますが、それを未来モデルに進化できていない現実があります。今後良い点を進化させて、その価値を世界に向けて発信するためにもデジタルは必要です。私は昭和の人間ですが、3年後がちょうど昭和100年の節目ということもあり、昭和を終わらせ、真の令和の変革を推進することでDBICの取り組みを通じて、次の時代への橋渡しをしたいと思っています。
安田:世界に向けた価値の発信というお話がありましたが、生活者が求める面白いもの、新しいことを「仕掛け」て世の中に出していくということは、電通デジタルのルーツとしてもそもそも得手な領域です。電通デジタルもできてまだ6年弱。スタートアップ魂で、どんどん新しいことをクライアントやあらゆるステークホルダーを巻き込んで取り組んでいきたいですね。
本記事は日経BPの許可により「日経ビジネス電子版Special」2022年4月13日公開に掲載された広告から抜粋したものです。
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