2022.11.01

産学連携の取り組みにより日本のDX人材を創造・育成する

企業の最新事例に学ぶDX活用の理論と実践

#DX

国を挙げてのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進が思うように進まない理由の一つに、人材の不足が挙げられる。そこで電通デジタルは、DX人材の創造・育成を目的とした実践的なDX講義を東西3大学で開設。大阪大学でも、全15回の講義が大好評のうちに終了した。その取り組みの意義と成果について、教授陣と共に振り返る。

「日経ビジネス電子版Special」(2022年9月14日公開)に掲載された広告を転載

DX人材育成の鍵は大学にあり。産学連携で講義を開講

——大阪大学の経済学研究科・経済学部における教育の方針と課題、また実社会で必要とされるDXの学習環境について教えてください。

大阪大学・開本浩矢教授(以下、開本) 経済学は数学をベースとしており、文系というより理系に近い学問。ですから数学的な思考や統計は必修授業としてやっているのですが、一方で、その知識が実社会でどう活用されるのかを体感する機会がない、というのが課題としてありました。

大阪大学・ウィラワン ドニ ダハナ教授(以下、ドニ) DXについては、戦略的な観点ではなく、断片的な知識として学生たちは会得していると思います。例えば、私の授業でも、オンラインショップで集められたデータを実際に触って、分析をして、マーケティング課題を探るといったことはやっていますが、あくまでも部分的な概念でしかない。より実務的、体系的にDXを教えるというのは大学教育では難しく、カリキュラムも存在していませんでした。

開本 そうした中、電通デジタルからご提案いただいたのが、今回のDX講義です。大学ではいったん構築したカリキュラムを変更できないのに対し、DXは日進月歩の世界。そのスピード感のギャップを埋めるものとして、最先端の実務事例を踏まえたDX講義の実施は、大阪大学にとっても渡りに船でした。本日全15回の講義を終えたところですが、最後まで学生たちの食いつきは非常に良く、その潜在需要の大きさに改めて驚いています。

ドニ DX講義では具体的な事例を基に授業が展開されていくので、抽象的な理解だけで終わらないんですね。だから学生たちも熱心に参加する。経済学部だけでなく、他学部からも受講希望者が殺到したほどです。

開本 浩矢教授
大阪大学大学院経済学研究科長 経済学部長 大阪大学 教授
1991年大阪大学経済学部卒業、93年神戸大学大学院で経営学修士、2006年経営学博士。95年神戸商科大学(現兵庫県立大学)助手、講師を経て、07年同大学経営学部教授。経営学部長・経営学研究科長等を歴任し、17年に名誉教授、大阪大学大学院経済学研究科教授に就任。22年より現職。

ウィラワン ドニ ダハナ教授
大阪大学 経済学研究科 教授
1976年インドネシア・ジャカルタに生まれる。2006年東北大学大学院経済学研究科博士課程修了。06年大阪大学大学院経済学研究科講師、14年准教授、18年教授就任。経営学博士。専門はマーケティングと消費者行動。共著に『マーケティングの統計分析』(朝倉書店)。

——企業のDX支援を推進する立場の電通デジタルが、こうした産学連携の取り組みを始めた理由をお聞かせください。

電通デジタル・髙山隼佑氏(以下、髙山) 新卒採用の面接官をしていると、学生さんたちからマーケティングや経済学という話は出てきますが、なかなかDXという言葉が出てこない。世の中全体が大きく変化し、これから企業も変わっていく必要がある中、それをけん引していく若者たちが少ないことは大きな社会課題だと感じていました。そこで、学生のうちからDXへの理解を促すことで、将来の人材創出に寄与し、日本社会の活性化につなげたいという想いから、今回の取り組みを実施しました。


企業の現場担当者自らがDXの最前線をレクチャー

——DX講義を通じて学生の皆さんに伝えたかったこと、講義内容へのこだわりについてお聞かせください。

髙山 DXを理論ではなく、より現場に近い状況で体感してもらうために、クライアント企業やパートナー企業の方々にご登壇いただきました。それも最前線でDXに取り組んでおられるご担当者にリアルな事例をお話しいただくことで、DX創出の考え方や実践方法を紹介。さらに現場と理論の隙間をフォローする形で電通デジタルによる講義を挟み、学生さんたちの理解を深めてもらえるような構成を心がけました。大阪大学ではその組み合わせがうまくはまり、理想的な講義ができたと思います。

電通デジタル・有川昂佑氏(以下、有川) DX社会の真っただ中を「当たり前」として過ごしているデジタルネイティブ世代やZ世代である学生さんたちの経験や感じていることは、生活者視点でのDXを実現するために間違いなく生きるので、今のうちからDXに触れ、理解を進めておくのはとても重要なことだと思います。15回目の講義では、私も大学OBとして登壇し、DXに対する考えやキャリアの進め方、学生のうちにやっておくことは何か、といったお話をさせていただきました。私のように学生さんと年齢の近いメンバーが参加することで、これから社会に出る学生さんたちへの橋渡し役になれたのではないかと考えています。

髙山 隼佑
株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 部門長補佐
2007年電通デジタルの前身、電通イーマーケティングワン入社。12~15年電通へ営業兼デジタル担当として出向。20年より現職。幅広いデジタルマーケティング領域の経験を基にDX/CX組織の立ち上げ支援、マーケティング戦略、アジャイルによる施策の実施、検証等を行う。

有川 昂佑
株式会社電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 CX/UXデザイン事業部 リテールエクスペリエンスグループ
2020年大阪大学人間科学部卒業後、電通デジタル入社。リテール領域を基点とした成長戦略・顧客戦略の設計に従事。サービスデザインのためのリサーチから顧客体験設計までを行う。本DX講義においては、事務局メンバーとして大阪大学の講義プロジェクトを担当。

——先生方や学生さんたちの反応はいかがでしたか。

開本 一般に、企業による講義には社会貢献やPRを目的とした側面もあり、学生にしてみれば、「つまらないけれど、楽勝科目」だったりするんです。でも今回のDX講義は、様々な企業のDX事例がビジネスや社会の課題解決にどう活用されているかを体感できる、非常にコミットメントの高い内容。毎回レポート課題もあるなど、単位取得のハードルも高い授業だったにもかかわらず、受講者数が全然減らなかったんですね。「面白い」「ためになる」という声も非常に多く、文句なしの人気講義でした。「なるほど、こういう授業をやれば学生も付いてくるんだ」と気づかされるなど、我々にとっても学びの多い体験となりました。

ドニ 多くの事例を通じて、DXが単なるデジタル化ではなく、問題解決を導くデジタル技術の戦略的応用であるということが、学生たちにも十分伝わったと思います。ここで学んだことは、これから経済学部で受講する他の授業への興味や理解の促進にも必ずつながっていくものと確信しています。

髙山 ありがとうございます。実は登壇いただいたクライアント企業からの反響もすごく大きくて、「また大学で授業をしたい」というお声をいただいています。企業にとっても学生さんと直に話せる機会はとても貴重ですし、我々としてもクライアント企業と一緒に意義ある取り組みをできたのはとても誇らしいことです。まさに三方良しのプロジェクトであったと周りから言われています。


DXには理論も実践も大切。産学連携で学びを深めていく

——今回の取り組みを通じて得られたことは何ですか。

髙山 DX講義は大阪大学だけでなく、他の大学でも実施しているため、それぞれの大学生が何を考え、何を知りたいのかといったペルソナを若手社員中心に作成してもらい、登壇者にインプットしたうえで講義に臨みました。中でも注意したのは、言葉選び。学生さんにも伝わるよう言葉を探っていく過程で、DXに対する自分自身の理解もさらに深めていくことができました。それは他の登壇者も感じていたようで、DXの本質を見直すきっかけにもなりました。同時に、20代にも伝わる話し方、万人に伝わる言葉遣いというものを、学生さんたちから学ばせてもらった気がします。

有川 今回のプロジェクトには、私を含め多くの若手社員が参加しています。DX講義は学生さんを対象に実施しているものですが、実は私たち自身がDXとは何かを改めて学び直す絶好の機会でもありました。また、普段は直接仕事をする機会があまりない役員とも一緒に学生向けの施策を考えていくことは、役員の若手育成・人材育成に対する考え方を生の声で聞く大変貴重な経験となりました。この経験は今後の仕事にもきっと役立つはずなので、来年以降の新人社員にもぜひ引き継いでいきたいと思います。

開本 産学連携でやることによって、企業の最先端事例が学べたというのは大きな成果。こうした企業との取り組みをさらに進めていくためにも、大学側もよりオープンかつフレキシブルな体制を整えていく必要があります。今回はありがたいことに電通デジタルのお声がけでスタートしましたが、今後はこちらから積極的に協力をお願いしていきたいですね。また、学生を介したネットワークだけでなく、我々の研究分野における電通デジタルとの連携にも、大きな可能性を感じました。

ドニ 私たちが決まったカリキュラムの中で授業を行っている間も、社会は絶え間なく変わり続けています。そうした変化を学びに反映させるためにも、社会や企業の今を届けることのできるDX講義のような存在は重要。本来のカリキュラムと併せて、学習の相乗効果を図れると考えています。学生たちの好奇心を刺激し、学ぶ意欲を高める上でも、産学連携の試みには今後も期待しています。

15回目の講義では、電通デジタルの役員と共に大阪大学OBOGの若手社員が登壇。学生たちの質問に答える形で、DX領域におけるキャリアの創り方や電通デジタルで働く意義などについて語った。教える側も教わる側も共に学べる貴重な体験ができたという

——DX人材の育成や産学連携の取り組みに向けた、今後の展望についてお聞かせください。 

髙山 私たちはDXの現場で仕事をしているので、それなりの実践やナレッジを蓄積しているつもりですが、これをもっと理論化することでさらなる成長を図りたいと考えています。現場の肌感覚だけでやっていくには限界があるからです。その点、大学の先生方は成功のための理論をしっかり研究されているので、私たちはそれを学び、仕事に生かして社会に還元していく必要があります。そして、その事例をアカデミアに提供し、フィードバックを重ねることで、また新しい研究や取り組みも生まれるはずです。それは人材育成においても大切なことで、若手はもちろん、私たちも常に学び続けていかなければなりません。こうして互いに学び合いながら産学連携を進めていくことで、より多くのDX人材を創出し、日本社会の活性化に貢献していきたいです。

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