コロナ禍で世の中のデジタル化が急加速し、オンラインショッピング利用が好調な伸びを見せるなど、消費者の価値観や購買行動も大きく変化を遂げる中、従来のリアル店舗は生き残ることができるのか。
株式会社電通デジタルのCXトランスフォーメーション部門リテールエクスペリエンス グループ/マネージャー、前田良樹氏にリアル店舗生き残りの条件について聞いた。
※この記事は「日経クロストレンドSpecial」2022年9月16日掲載記事より転載。
リアル店舗を取り巻く現状
コロナ禍でオンラインショッピングやオンラインコミュニケーションの普及が進むなど、消費者の購買行動は大きく変化している。コロナ禍によるリアル店舗の苦戦が伝えられており、その理由の1つとして前田氏は、消費者の意識・行動の変化を挙げる。
「まず消費の意識としては、衝動買いや贅沢品の購入意向が減少し、サステナブルで身の丈にあった消費が強まっています。消費のスタイルも、自由に店舗を歩き回って購入する形から、まずネットで調べてオンラインで購入を済ませる形に変わりました。さらに消費の目的は社会的、外向き、個人の豊かさや快適さを求めるようになっています」
だがリアル店舗が苦戦している状況は、コロナ禍ばかりが元凶というわけではないと前田氏は指摘する。「リアル店舗を取り巻く状況は、元々、人件費の高騰や国内需要の伸び悩み、人手不足、eコマースの攻勢などにさらされていたところに、コロナ禍でますます拍車がかかった」というのが実態なのだ。それでもリアル店舗には進化が見られるという。前田氏が進化の方向性として挙げているのが、「省人化・無人化」、「小型化」、「個室化」の3つだ。
株式会社電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門
CX/UXデザイン事業部
リテールエクスペリエンスグループ
グループマネージャー
前田 良樹 氏
コロナ禍でのリアル店舗の進化
まず省人化・無人化とは、人件費高騰、人手不足、さらには密による感染リスク軽減を背景に、少しでも人を減らしたいという経営側の意識の表れだ。小型化は、来店客の減少に伴って、店舗スペースの無駄を排除するために小型化の傾向が見られる。そして個室化は、感染リスクを避けるために他人と空間を分けたいという顧客ニーズを背景に、「ひとり〇〇」、「個室〇〇」といったビジネスが広がりを見せている。
こうした傾向が端的に表れている事例として前田氏が挙げたのは、ある靴店。それも2、3畳程度しかないボックス型の無人店舗だ。「靴を脱いで、指定された台の上に裸足で乗ると、目の前の姿見のような大画面に映る自分の足は、AR(拡張現実)で靴を履いているように見えます。こうやってバーチャルに試着ができるのです」。台がセンサーも兼ねていて、3Dで足のサイズや形状を計測できるため、靴と合うかどうかも判断できるという。画面上のQRコードをスマートフォンで読み取れば、同店のオンラインショップにつながり、そこで決済を済ませる仕組みだ。「実はこの店舗には、靴も在庫もありません。バーチャル試着と3D計測だけの店舗で、ここで購入を決めた客を同店のオンラインショップに誘導する形態です」
消費者に、コロナ禍収束後の行動を尋ねると、また店に行きたいとの意向が半数近くに上るという。「来店意向を示した消費者の間には、実物を見たい、他の商品と比較したい、店の世界観や雰囲気を楽しみたい、さまざまな商品と出会いたい、店員におすすめを聞きたいといった声があります。ここに、リアル店舗生き残りのヒントがあると言えます」
店舗の価値を改めて考える
「リアル店舗には3つの価値があります。1つ目は五感への訴求です。オンラインは視覚と聴覚だけに訴えますが、リアル店舗は五感すべてに訴えかける。例えば、家具購入の場合、オンラインでは画面上でサイズやデザインを見る限り良さそうだと思ったとしても、実際の店舗で見てみると、思ったよりも圧迫感があると気付いたりします。つまり、オンラインで得られるのは情報、リアル店舗では体験なのです」(前田氏)
2つ目の価値は、思いがけない出会い。購買には、欲しいものが明確で、最初からそれを購入するつもりで買い物をする「計画購買」と、何が欲しいのか曖昧な状態の「非計画購買」があるが、「前者であれば、オンライン購入の相性がいいが、後者の場合、店内を歩き回り、手にとって見ながら、何かを見つけることに買い物の楽しさがあります。これはリアル店舗の魅力」と前田氏。
前田氏が挙げる3つ目の価値は、人と人との対面コミュニケーションだ。「リアル店舗には店員がいる。専門知識があり、購入決断の後押しをしてくれるなど、実物を見て直接会話をしながら購入できるのは大きな価値です。商品の種類にもよりますが、アパレル、金融、携帯電話、車、保険、不動産など、それなりの価格で、購入決断にある程度の知識が必要なものは、店員の専門知識や後押しが必要。これが店舗の価値につながります」
店舗が生き残る3つの生存条件
前田氏によれば、リアル店舗が生き残るための条件は3つある。
生存条件1は、今挙げたリアル店舗の3つの価値を理解し、生活者が求めている店舗体験をつくること。その端的な例が「b8ta」などの「発見と体験ができる店」だ。また、マルイも体験が中心で、“売らない店”づくりに力を入れているという。実際、先に挙げた靴店の例でいえば、あの小さな実店舗での体験があるのとないのとでは、購買意欲はまるで違ってくるはずだ。
生存条件の2つ目は、従業員体験(EX)を最大限に高めることだ。「顧客体験(CX)がスポットライトを浴びがちですが、実は事業者が顧客に物を売る場合、その間に必ず従業員・店員が存在します。その従業員がいい体験をできないままでは、顧客にいい体験をもたらすことはできません。従業員のエンゲージメントが高いと、それに連動して顧客満足度も上がることはさまざまな調査で明らかになっています」
生存条件の3つ目は、循環型経済を土台にしたサステナブルな店舗であることだ。サステナブル経営の先進国であるオランダには、スーパーから廃棄直前の食材を入手して一流料理人が調理しているレストランがあるという。食材を安価に仕入れることができ、結果的に料理の価格も下げられる。スーパーもゴミを減量でき、フードロスの解消にもつながる。また、ある銀行の店舗は、別の建物で使われていた資材が再利用されており、天井の防音・断熱材には、大量の使用済みジーンズやペットボトルを細かく刻んだものが使われているという。資材はすべてデータベース化されており、将来、店を壊す際には、1つひとつの資材の再利用まで検討できるようになっている。
「このようにオランダでは、サステナブルが単なる流行りではなく、生活者レベルで根付いていて、ビジネスとしても成功につながっています。日本でも2030年を達成年度としたSDGsの取り組みが重要性を増していき、循環型経済の概念が浸透していけば、サステナブルは消費者が企業・店舗を選ぶときの基準になる」と前田氏。実際、調査では「SDGsに取り組む企業を応援したい」とか「SDGs関連商品・サービスを購入・利用したい」といった回答が半数近くを占め、サステナブルへの機運は高まっているという。
最後に前田氏は、次のように締めくくった。
「あるベンチャーキャピタルの経営者が、『インターネットのおかげでニューヨークにあるものを何でも買えるようになった。けれどニューヨークで買い物をするような体験はネットに望めない』と言ったそうです。リアル店舗の意味がこの言葉に凝縮されています。ぜひこのニューヨークという部分を自分の店の名前に入れ替えてみてください。顧客が同じような思いを抱いてくれるでしょうか。そういう店をめざすこと、それがリアル店舗生き残りにつながるのです」
だからこそ電通デジタルは、AIによって最適化だけを進めるのではなく、セレンディピティを広げる方向にも力を注ぐ。
その先には、人を幸せにするクリエイティブがAIと共にもたらされる世界が、確かに見えている。
「本記事は日経BPの許可により「日経クロストレンドSpecial」2022年9月16日公開に掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP」
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