コロナ禍でニューノーマルに突入している2021年、私たちの生活に大きな変化が生じています。企業においての身近な変化としては、在宅ワークが広がり、オンラインミーティングが一般化したことでしょう。今まで当たり前だと思ってきた通勤や出張、会議室への集合や商談先への訪問など、移動にどれだけの時間がかかっていたのかと気づかされ、オンラインによる利便性や業務の効率化を再認識する「きっかけ」にもなりました。また、対面してコミュニケーションを取ることの大切さや、対面しないとわからない表情やしぐさ、伝達や理解の速さなど、今まで当たり前に行ってきたリアルであることのメリットも鮮明になりました。
店舗を主体として接客販売する小売りビジネスにおいても、2020年はコロナの影響で困難な1年となり、店舗から離反する顧客を繋ぎ留め、関係性の構築を図り、急速にデジタル化する社会環境の変化への対応を余儀なくされています。現在店舗が置かれている状況では、デジタル化して顧客の利便性を高める範囲を拡大しながら、リアルでないと提供できない体験にフォーカスしてオフラインの価値を再定義する必要があります。「心を動かす体験提供」というオフラインの要素を活かして、各業界、各企業独自の店舗価値を創出し、「オンラインの利便性」とクロスした新たな体験提供が求められています。
現在生じている社会環境の変化
店舗主体の小売りビジネスにおけるコロナ禍以前から続いている変化と、コロナ禍以降に始まった変化でまとめると以下のようになります。
●コロナ禍以前から続く社会環境の変化
・商品力による差別化が難しくなり、体験に価値が見出される「モノ消費からコト消費」へと移行
・サブスクリプションやシェアリングエコノミーなどインターネットを介したサービスが流行し、「生活者の価値観や行動」に変化
●コロナ禍以降に生じた、生活者の価値観や行動の変化
・今まで利用が少なかった高齢者層もeコマースの利用が進み、ECが例年以上に伸張
・今まで顧客との最大のタッチポイントだった店舗の利用減少により、企業(ブランド)と顧客との繫がりや信頼関係の維持が困難に
このように、コロナ以前、以後に生じた、これらの「社会環境の変化」や「生活者の価値観や行動の変化」によって、これまで店舗で提供してきたお買い物体験のデジタル化が急務となり、併せてデジタル化によって生じる新たな店舗価値の創造も求められています。企業はこのようなビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタルを活用して新たな体験を提供することで顧客の共感を得るとともに、ビジネスを変革して競争上の優位性を確立するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められています。
DXを取り巻く環境
DXを取り巻く環境を見てみると、日本は世界と比較してDXが遅れていると言われています。なぜ、日本ではDXが遅れているのでしょうか?それは、以下のようなDX推進を阻む日本企業特有の障壁が存在するからです。
1.経営陣のDX推進への誤ったコミット
2.サイロ化された組織間の対立やKPI、評価制度の未整備
3.社内のデジタル人材の不足
4.現在使用している複雑化したシステムとDXソリューションとのデータ連携の不備
一つずつ見ていきたいと思います。
1.経営層のDX推進への誤ったコミット
DX推進部署やチームを作っただけでDXを進めることが出来ると勘違いしている企業も多いのではないでしょうか?DXを推進する部署やチームが作られたとしても、その部署やチームに権限委譲が行われなければ、大きな売上を構成する既存ビジネスとのコンフリクトで現状が優先され、スムーズに進まない傾向があります。また、そのような部署間の軋轢や従業員のモチベーション、企業文化などクリアしなければならない様々なハードルが待ち構えています。これを現場に一任して解決するのは不可能で、経営陣が強力な後ろ盾となったり、全社事として宣言したりするなど、企業全体としてDXに取り組む姿勢が必要となってきます。これにより従業員はこの課題を理解し、DX推進の部署が他部門の協力を得ながら進めることが出来るようになります。
2.サイロ化された組織間の対立やKPI、評価制度の未整備
DXを進めるには様々な部署が関わります。店舗スタッフや運営部門、マーケティングやEC,システム、物流といった多くのステークホルダーに関わる施策となる為、1.のような部署間の相互理解と協力体制は重要な要素になります。また、DXはオンラインとオフラインを融合する新たなビジネスモデルとなるので、既存の評価制度で対応できない場合があります。例えば、各従業員は現在所属している部門の目標設定によって評価されますが、その目標設定にDXにおける貢献の設定が無い場合、積極的な参加が見込めません。よって、DXを全社事として進めるとともに、併せて評価する仕組みを整える事も重要になります。
3.社内のデジタル人材の不足
適した人材を社内から抜擢するか外部から採用するか、いずれにしても障壁があります。社内から抜擢する場合、DXにはテクノロジーやバックエンド側のシステムの仕様など様々な知見が必要となる為、すべての範囲を網羅的に理解するには、ある程度の育成期間が必要になります。また、外部から採用する場合は、それらの知見があったとしても既存のビジネス構造の本旨を理解しているかという点で時間を要する事になります。もし理解しないままDXに着手すると、既存ビジネスの変革をおこなう際に本来の強みを損なったり、方向性を間違ったりする可能性があります。
4.現在使用している複雑化したシステムとDXソリューションとのデータ連携の不備
DXを進めるための近年のソリューションは最新の技術をベースにしているので、API連携など容易に出来る仕様がありますが、既存のシステムはそれらの連携を想定していない場合が多く、システム間のデータ連携がスムーズに出来ない場合があります。また仮にできたとしても、直接コアビジネスを動かしている基幹システムに繋げると、トラブルが生じた際にコアビジネスに影響が及ぶというリスクもあり、サブシステムのような中継する役割のプラットフォームが必要になる場合もあります。CDPのようなプラットフォームを既に構築していれば、連携はスムーズですが、無い場合はそのプラットフォーム構築も視野に入れる必要があります。
日本のDX推進を阻む障壁の背景
店舗での販売がコアビジネスだったため、過去から今までの成功体験にしばられたり、ビジネスプロセスとしてデジタル人材やシステム投資の必要性を予測出来なかったりして、DXに取り組んでこなかった(遅れた)という背景があります。多店舗展開戦略で売上を拡大してきたビジネスモデルでは、店舗の契約期間やオペレーション費用が足かせとなり、なかなかデジタルへの投資が出来ずにデジタル化が進んでいない企業もあるかと思います。また投資を進めてきた企業においても、自社のECサイトを持つことが主流となってきた現在、オンラインツーオフライン(O2O)やオムニチャネルによって店舗とデジタルをシームレスに繋げる取り組みが進行する中で、コロナ禍が生じたことも要因でしょう。デジタル化をさらに進めるオンラインとオフラインを融合する考え方OMO(Online Merged with Offline)を取り入れる必要性が生じ、予定していたシステム改修やデジタル戦略に影響を受けた企業もあるかと思います。社会環境の変化でデジタル化の必要性を認識はするものの、自分ゴト(企業ゴト)として準備が進んでいないところへコロナ禍で加速したデジタル化の波が押し寄せてきた形になり、それを進めるだけの体制が整っていないというのが現状かと思います。また、デジタルを進めてきた企業においても、数年前の戦略が早くも最適では無くなり、新たな方針を立てる必要性に迫られているのではないでしょうか。
DXを進めるには何から始めればいいか?
「DX」と一言でいっても、この単語が表す範囲は広く、そのイメージは人によって異なるかもしれません。まずはDXの種類について知る必要があります。DXには「守りのDX」と「攻めのDX」と2つの方向性が存在します。
「守りのDX」:デジタイゼーション、「攻めのDX」:デジタライゼーション と分けることができます。デジタイゼーションは、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)のような業務の自動化や効率化により省人化を図るなどコスト削減を目的として行われます。一方、デジタライゼーションは、ビジネスプロセス全体をデジタル化することで新たな価値を創造し提供することを意味します。また、デジタライゼーションをさらに進めるデジタルトランスフォーメーションは、デジタライゼーションの結果としてビジネス変革を起こし、企業の取り組みを超えて社会全体までにリーチすることです。企業の課題感やデジタル浸透度によって着手するフェーズは異なりますが、顧客との関係性の維持や新たなインターネットサービスの台頭で優位性を脅かされている現在の社会環境の変化を鑑みると、顧客と最前線で交わる「攻めのDX」に着手する必要があるのではないでしょうか?
「攻めのDX」である「店舗DX」とは?
店舗を主体としたビジネスを行っている企業において、いまだ店舗の顧客管理やお得意様へのDMなどのアプローチは店長に委ね、顧客の名前や以前の購入商品をスタッフの記憶を頼りに接客するような属人的な運用を行っている企業も多いのではないでしょうか?
「社会環境の変化」や「生活者の価値観や行動の変化」という大きな変化が生じている中で、このようなアナログな手法では競争相手に太刀打ちできない状況になりつつあります。顧客のデジタルリテラシーは上昇し、現代のサービスでは、「自ら自分の状況を説明しなくても企業側は自分の事を知ってくれている、その手段が今の時代にはある」という高いレベルのサービスを求めるようになってきています。企業側は、個々の店舗スタッフによる属人的なサービス提供ではなく、スタッフ全員がこの欲求に対応できるように、データを用いて接客するようなデジタル武装が必要になってきています。店舗における顧客の購買行動は、雑誌やインスタグラムで興味を持ち、最寄りの店舗に足を運んで商品に触って確認し、接客を受け、情報を収集し、試して、商品の価値に納得することで購入を決断します。この一連の流れは、商品の「視覚、嗅覚、触覚など五感で確認する」「情報を収集する」「話を聞いて納得する(課題が解決する)」「お勧めされて購買意欲が高まる」「実際に試して体験する」というフローに分解できます。このフローの全てをデジタル化する事は難しいのですが、「五感で確認する」「実際に試す」以外はデジタル化できるのではないでしょうか?
このように購買行動の一部をデジタル化することで、店舗の役割は、より「体験する場所」に特化するような、「店舗が提供する価値を再定義」することが求められます。それにより、「わざわざ店舗へ行く価値」を創出できるかどうかが問われています。店舗DXの目的は、ソリューションを導入する事ではなく、このように「デジタルを通じていつでもどこでも、より便利に利用できる店舗体験を提供し、リアル店舗の新たな価値を見出す」ことにあります。さらにはそれが店舗ビジネスの変革にも繋がります。
また、店舗DXでは「人」が介在するDXとして、従業員の活躍が成否を左右します。「店舗体験をデジタル化する」ことは、店舗スタッフやコールセンターなどの従業員のデジタル化によって今まで1店舗でしか発揮できなかった質の高いコミュニケーション能力を、デジタルの力でより多くの顧客へ届けることを可能にします。いわば、「従業員のDX」と言っても過言ではありません。よって、店舗DXでは従業員をデジタル化するソリューションと併せて、従業員の貢献度を数値化し評価できる仕組みを構築する必要があります。これによって、現在分断されているオンラインとオフラインの強みが融合され、新たな店舗体験を提供する礎となります。従業員のモチベーションが上がることでさらに高いパフォーマンスを発揮することが期待され、オンラインを介して「この人から買いたい」というファンを創出するスター販売員の誕生や、今まで提供できなかったきめ細やかなアフターフォローやカスタマーファーストの企業姿勢により、顧客との関係性を高めることも可能になります。店舗DXを推進することは、いわばオンラインとオフラインを融合するOMO(Online Merged with Offline)を推進する重要な施策となり得ます。
企業がDXを推進するプロセス
社内リソースのスキルを鑑みずにいきなり個別ソリューションの導入を検討しがちですが、それではDXがスムーズに進まない可能性があります。なぜなら、DXを進めるプロセスとしては、どのような体験を顧客に提供するか?という体験設計を作成したのち、それを基にDX全体のグランドデザインを構築する必要があるからです。それが無ければゴールが曖昧になり、その費用対効果に一喜一憂し、効果が期待するレベルに達しない場合、DX推進が停滞してしまうおそれがあります。また、グランドデザインがないとDXの全体像が見えないので、見たい指標は何なのか?どのデータを連携するのか?次に何をするのか?が定まらず、余計な時間がかかるプロセスを踏む可能性が高くなります。
限られたリソースを最大限投入するには、DXのグランドデザインを作成し、スタッフの育成も考慮しながら、ソリューションの導入フェーズを計画し、顧客のライフタイムバリュー(LTV)の計測や体験提供のためのデータプラットフォーム、顧客の記録を一目で把握するダッシュボードの構築など、「DXを推進する目的として店舗体験のゴール」を決めておく必要があります。店舗ビジネスを主体とする企業にとって、このようなコアビジネスではない領域を自社内の従業員で賄うにはハードルが高く時間を要します。社会環境の変化が急速に進む中、DX推進はスピードを求められる施策でもあります。
このようなDX推進における企業の様々なハードルやタスクを鑑みると、これらの専門知識を持った外部のDXパートナーと組むことも手段として有効であると考えます。
企業によっては外部と組むということにアレルギーがあるかと思いますが、前述の通り、デジタル文化が浸透していない企業にとって自前で完遂できるほどDXは容易ではありません。DX支援パートナーと組むとデジタル領域の牽引役はパートナーとなり、自社では人材の育成や組織、仕組みづくりに注力するなど役割を分担して同時に進めることが可能になります。目先のソリューションだけに捉われるのではなく、DXの全体設計や目的とする顧客体験を共に考え伴走支援するDXパートナーと組むことは、DXを進めるうえで成否をわける重要な要素になってくるのではないでしょうか。
電通アイソバー(現 電通デジタル)のアプローチ
電通アイソバー(現 電通デジタル)では、これらの課題を解決するべく、店舗DXを推進するうえで必要なプロセスである、理想の店舗体験設計、それを体現するクリエイティブなソリューション開発や導入、店舗体験を実現するためのデータプラットフォーム構築やデータ活用、また、運用の伴走支援から次フェーズの遂行までワンストップで企業のDX推進を支援する「OneTempo」サービスを開始致しました。
電通アイソバー(現 電通デジタル)の「OneTempo」のアプローチは、顧客の様々なデータを蓄積し、顧客への深い理解をもとに、最適な場所やタイミングで、パーソナライズされ最適化された情報やコミュニケーションを提供し、快適でシームレスなお買い物体験を提供します。
これにより、今までフリクションが生じていたお買い物が、オンラインでもオフラインでもデジタルによって快適な体験へと様変わりします。またデジタルによる新たな顧客体験を創造するとき「デジタルをどのように活用するか?」という体験設計が必要となります。顧客体験設計を構築するにはアイデアとクリエイティビティが必要であり、デジタル人材が不足している店舗販売をコアビジネスとする企業ではこの体験設計が高いハードルとなっています。このDXの起点となる体験設計から支援することでDXがスムーズに動き出します。「OneTempo」は、DXを始める「きっかけ」になると考えています。電通アイソバー(現 電通デジタル)では、得意としている体験設計とクリエイティビティを活かして、今の社会環境の変化に柔軟に対応する確かなソリューションを開発することで、デジタルによる新たな店舗価値を見出し、顧客との繫がりや顧客からの共感を得るビジネス変革を実現する企業のデジタルトランスフォーメーションを支援いたします。
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