2021.01.15

Z世代はどんなインサイトからコアアイディアを導き社会の課題解決を提案するのか?〜産業能率大学 小々馬ゼミ×電通アイソバー(現 電通デジタル)共同研究プログラム レポートvol.3

”We are the CX Design Firm."をビジョンに掲げ、顧客の「心を動かすこと(Motivation)」とコミュニケーションの「障壁をなくすこと(Frictionless)」の両軸で顧客体験(CX)を設計し、クライアント企業と共に上質な体験を提供し続けている電通アイソバー(現 電通デジタル)。 そんな私たちのマーケティングやブランディングのフレームワークを学生たちに体験してもらい、「仮説構築力と課題発見力」を身につけてもらうことを目的に始まったのが、産業能率大学 小々馬ゼミと電通アイソバー(現 電通デジタル)が共同研究プログラムです。

 

共同研究プログラムの内容や学生たちのワークショップの様子はこちら

● Z世代はインサイトやコアアイデアをどう見る?現役CXストラテジストがサポートして学ぶプランニングメソッド 〜産業能率大学 小々馬ゼミ×電通アイソバー(現 電通デジタル)共同研究プログラム レポートvol.1

●Z世代には企業のインサイトやコアアイデアはこう見えている!〜産業能率大学 小々馬ゼミ×電通アイソバー(現 電通デジタル)共同研究プログラム レポートvol.2

最終回では、学生たちに「あなたの身近にある解決したい課題」というテーマを示し、各グループで取り上げる課題を自由に設定し、それを取り上げた理由や課題を取り巻く背景の分析、解決策を導くインサイトとコアアイディアの整理のほか、解決するために必要なコミュニケーション方針をもとに具体的な施策案まで落とし込んでプレゼンテーションをしてもらいました。

プレゼンテーション大会に先立ち、“評価委員”のひとりである電通アイソバー(現 電通デジタル)取締役 田中伸哉は、「世の中の課題を解決するのに『こうあったらいいのに』という強い想いが社会人になっても大事だ。柔らかい頭と合わせてそのことにこだわってほしい。
ここまでのワークショップを通じ、電通アイソバー(現 電通デジタル)の多様なメンバーや仕事の一端も感じてもらえたと思う。難しさと楽しさの両面がある仕事だが、最終回であるこのプレゼンテーション大会で、その醍醐味を少しでも知ってくれたらと思う」と、将来の仕事観にも触れながら挨拶を行ないました。

また、各グループの発表後にひと言講評を行なった CXストラテジー本部 部長 ジェネッサ カーダーも、「今日はマーケティング業界に関心のある人にとっていい機会になると思うし、もし質問などがあれば気軽に伝えてほしい。これまで、様々なグローバル企業のクライアントと取引をしてきたが、そんな中で文化的な違いはとても大きなポイントになっていた。これまでのワークショップで『仮説構築力と課題発見力』を養うフレームワークを学んだと思うが、その経験は日常生活や社会人になっても役立つはずなので、ぜひ経験を生かして今後も活用し続けてほしい」と、学生らを激励しました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

UX本部 / UXアーキテクツ部
CXストラテジー本部
本部長

潮崎 美穂

CXトランスフォーメーション部門 CX戦略プランニング第2事業部
ディレクター

岩崎 文美

CXストラテジー本部 / CXストラテジー2部
ストラテジープランニングディレクター

田巻 萌衣

 

サステナブルネイティブなZ世代の課題感はどんなもの?

さて、いよいよプレゼンテーションです。終了後には、今回のプログラムの講師陣でもあり現役ストラテジストでもある電通アイソバー(現 電通デジタル)のメンバーたちによる講評のほか、“豪華賞品”も用意されているとあって、教室には程よい緊張感が広がりました。

1グループ6分の持ち時間で発表される内容は、

  • 着眼点のおもしろさ、インサイト(世の中、顧客、企業)
  • コアアイディアがちゃんとあるのか?
  • 具体的な施策に結びつくようになっているか?
  • 構成力、印象、魅力

以上の4つの観点で評価されることになりました。

グループ2の発表:「気が付いたら賞味期限が切れてしまう」現象について

最初に手を挙げたグループ2は、「誰だって食事をせずに生きていくことはできず、毎日何かしらの食材あるいは商品を購入あるいはその他の方法で手に入れている。しかし、その中には、賞味期限が過ぎて食べられなくなってしまうものも…。自己管理の能力に優れた人ならば、賞味期限が切れる前に食材を使いきれるのかもしれないが、使い切れない人の方が多いのではないか? では、すべての人が賞味期限内に食材を使いきれるようにするためにどうすればいいのか?」というテーマを設定。次のシートをもとに発表を行ないました。

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このグループ2のプレゼンテーションについて、電通アイソバー(現 電通デジタル)のジェネッサは、
「米国は世界第2位のフードロス国と言われており、私も米国で仕事をしていた頃、同じようなフードロスの課題を解決する案件を手掛けたことがある。
そうした経験を踏まえて発表内容を聞いていたが、まずこのテーマについて深くリサーチしていると感じた。コミュニケーション方針としてソーシャルメディアを活用するといった踏み込んだプランまで考えられていることも素晴らしい。コアアイディアである『食べ物を適切に保存し、使い切ることを自分ゴト化してもらう』という考え方もシンプルだ。
SDGsへの取り組みが注目されている今、目の付け所が良いと思う。一方で、どんな食品が使い切れない食材なのか? どういう食品が気づいたら賞味期限が切れている状態なのか? といったことを明確に定義するとより良いと感じた」と寸評しました。

グループ3の発表:「結婚式やお葬式など、誰もが経験することを学べるように」

続いて手を挙げたグループ3は、「大の仲良しだったおばあちゃんとの最期のお別れ。それが人生初のお葬式への列席でもあった。葬儀ではいろんな作法があると思ったので、『どうやったらいいの?』と親に尋ねると…、『前のひとのマネをしなさい』とひと言。しかし、いざ前の人の動作を見て真似ようと思っても、よく見えないという事態に…」というエピソードを紹介し、「結婚式やお葬式など、誰もが経験する大事なセレモニーについて、作法やマナーを学ぶ機会を」というテーマを打ち出しました。

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このグループ3のプレゼンテーションについても、電通アイソバー(現 電通デジタル)のジェネッサは、次のようにコメントしました。

「私も日本で冠婚葬祭の席に参加したことがないので知りたいと思っていた。コミュニケーション方針も非常にユニークだ。『大人だから知っていて当然…だけど本当は知らない』というインサイトもとても良かった。
また、『知らないと恥ずかしい』というネガティブなところから『学んでいこう』と考えるポジティブ転換ができているところが素晴らしく、受け手側の抵抗感がなくなると感じた。
同様の例として、米国では、金融機関が『金融リテラシーを学んだりお金の相談をする機会を創出するために、コーヒーショップの経営を始めた』という例がある。このグループはプレゼンスキルが高く、どんなバックグラウンドを持った人がしゃべっているのか伝わりやすく、聞き入りやすいストーリー展開だったと思う。調査やソーシャルリスニングも行われており、構成が素晴らしかった」。

グループ5の発表:「失敗せず手軽にトレンドやファッションを楽しみたい」

続いて登壇したのは、グループ5。昨今のコロナ禍も相まって、洋服やファッションアイテムを通販で購入する機会が増えた中で、「モデルさんがかわいいからつい衝動買いしたり、サイズ違いなどで返品しようと思ってもメンドウだ」という実体験から、「失敗せず手軽にトレンドやファッションを楽しむために」というテーマを選定しました。

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この発表に電通アイソバー(現 電通デジタル)メンバーらは、「おもしろいし、ビジネスの詳細まで語られているのは素晴らしい! 実際の商品やサービスまで考えられてもいる。コロナ禍によってこうしたeコマースに関する話題には注目が集まっているが、ターゲットの調査までなされている点は本格的だ」と、驚く場面もありました。

グループ4の発表:「ファッションとメークの垣根がなくなってトータルコーディネートができるように」

グループ5と同様にeコマース体験に着目したのがグループ4です。
メンバーは、「ファッションアイテムを購入する場所がバラバラで、アイテムごとにしかチェックできない」という購買体験を改善するには? というテーマを設定しました。

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このプレゼンテーションについても、「大学生がファッションに対して『メンドウ』と考える意識があったことに少し驚いた。売り場の発想を変えるところやデータ活用の話もイマドキだと思った」と、電通アイソバー(現 電通デジタル)のメンバーたち。

また、メークと洋服をペアにする発想とそれをもとに考えたビジネス展開について、「新しいeコマースのプラットフォーム企業ならこのビジネス展開のアイディアに乗ってくるのではないか? すぐにでも実現できそうな気がする」との意見も挙がりました。
一方、プレゼンテーションについては、「質問を投げかけるところから始まるので、『なぜいまその質問をされているのだろう?』と考え、そこから一気に引き込まれた」と評価する声もありました。

グループ6の発表:「中高生がメイクをすることの偏見をなくしたい」

続いてのプレゼンテーションはグループ6。メンバーのひとりの、「高校まではメーク禁止と校則で言われていたにも関わらず、社会人になったらメークするのが常識、と言われるのは納得できない。それなら中高生の時にTPOに合わせたメークを学ぶ場を作ってほしい!」という発言がきっかけでテーマが決まったと言います。

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このプレゼンテーションについて、ジェネッサは、「偏見がある、という事実から、ソリューションの展開まで一貫したストーリーができていて良かった。企業にとって若い人たちの意見を集めることは難しい場合も多いけれど、一方で、企業と近づきファンになってくれたらその後は長く付き合う可能性が高いので、こうした機会があれば本当に貴重な接点ができるのだと思う。アプリ開発のアイディアまであってしっかりと作り込んでいる内容だった」と講評しました。

グループ1の発表:「スマートなキャッシュレス決済を実現するプロジェクト“C”」

いよいよプレゼンテーション大会も大詰め。最後の発表となったグループ1も、「バイト先でもキャッシュレス決済の対応が始まったけれど、お客様も店側も、『どのペイを使うか?』少し悩んでしまうことが少なくない」というメンバーのひとりの実体験からテーマを設定したと言います。

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このプレゼンテーションにジェネッサは、「おそらく私が初めての利用者になると思う!」と大いに評価した上で、「日本には決済アプリがたくさんあるという点から、課題が自分ゴト化しやすく整理されている。インサイトやソリューションの目の付け所も素晴らしい! 顧客だけでなく、エコシステム全体を捉えているので、すぐにでもプロジェクトが進められそうだ」とコメントしました。

現役ストラテジストを前にプレゼンテーションした学生からの感想は?

全グループの発表が終了すると、教室内はホッとした雰囲気に。改めて、最終課題に向き合った感想が次のように聞かれました。

● 新型コロナウイルスの影響で起こった社会課題や身の回りの小さな課題などを解決したいと思った。今回使った「Core idea Strategy Planning」のフレームワークに当てはめると現状を把握したり、整理しやすくなると感じた。
● コアアイディアについてグループで議論していると、だんだん別の話になっていくことがあった。とにかく、発表までたどり着けて良かった。
● 最終課題について、「まずは世の中へのグチを言ってみよう」というところから始めた。テーマが見つかって課題を進める中で、「こんな感じで課題解決できるんだ」という気持ちが生まれた。
● 世の中の課題や不満を見つけるところから始めたけれど、考えていく中で「やっぱり自分たちは幸せだな」と感じた。
● 普段、世の中に不満を感じる機会はそれほど多くないけれど、ほかのグループの発表を聞いていると「共感する!」というものがいくつもあった。

これに対し、電通アイソバー(現 電通デジタル)の講師陣たちは「企業はそうした意見を求めている!」とし、自分たちの感覚にこだわって考えることの大切さをアドバイスしました。

一方、共同研究プログラムを展開する小々馬ゼミとしても、このような企業と学生らのダイアログ(対話)は積極的に推進していきたいことだ、とのこと。

小々馬教授は、「ゼミ生たちは社会を変える実装力はないけれど、マーケターや企業に伝えるべきことはたくさん持っている。対話によって実務に携わるひとにゼミ生たちが抱えている課題感や発想に触れてもらうことで発見があるはずだ。また、本人たちも『あれ、これって当たり前のことじゃないんだ』と気づくきっかけをもらい、深く考えるきっかけになると思う」と、今回の共同研究プログラムの成果について触れました。

また、「例えば、Instagramが流行っていることは学生にとっては当たり前のことで、深く考える機会もないだろう。しかし、ゼミでは常に『その事柄の背景を考えるように』と伝えている。そうして、大人からすると『なぜだろう?』ということを話せるように準備しておけば、対話の中で新しいアイディアが生まれたりすることもあるだろう。今回の共同研究プログラムに限らず、企業と学生らによるコワークの可能性を育てていきたい」としました。

 

プレゼンテーション大会の総評

憩を挟んで、いよいよプレゼンテーション大会の結果が発表されることに。

まず、これまでのワークショップを振り返り、「『Core idea Strategy Planning』にそってインサイトを掘り、コアアイディアを決め、コミュニケーション方針をプレゼンテーションをするのが電通アイソバー(現 電通デジタル)の仕事のひとつ。その一端について、プレゼンテーション大会を通じて楽しんでもらえたなら嬉しい。日常のちょっとした違和感や疑問などから企画を考える、という流れが身についてくれたなら今回の共同研究プログラムは成功だ」と、電通アイソバー(現 電通デジタル)講師陣たち。

続けて、最もユニークで洗練されたプレゼンテーションを行なったグループ1とそのプランに対し、「そのまま企業に提案できるレベルの内容だった!」と全員一致で高評価だったことを伝え、最優秀賞を贈りました。

また、社会の偏見に着目してプレゼンテーションに臨んだグループ6には、「着眼点だけでなく発表内容すべてが素晴らしかった。大学生だからこそ見えてくる課題で、それこそが社会課題を解決する第一歩だ」といった評価とともに優秀賞を。そして、「プレゼンテーションが素晴らしく、最初の“つかみ”が重要だ、ということを改めて思い知らされた。ストーリーの流れも美しく、『大学生がそんな着眼点を!』という驚きもあった」と、講師ら自身の学びにもなった発表を行なったグループ3に特別賞を贈りました。

最後に小々馬教授は、市場経済でお金を介した価値交換が行なわれる時代から、その行為によって社会課題も解決するよう求められる時代になりつつある点に触れ、今回のプレゼンテーションがこれからのマーケターにとって必要な視点になる、との見通しを語りました。

また、「マーケティング理論やプレゼンテーションスキルは就職したあとにも最新のものを身につける努力をし続けなくてはならない。むしろ大学生の間には、こうした機会を通じて、人間性や学びの姿勢、倫理観などをきちんと身につけたり、世代の違う人と対話する経験やそうした人に自分の考え方を伝える力を養ってほしい」と話していらっしゃいました。

もちろん、このような貴重な機会によって、電通アイソバー(現 電通デジタル)としても学ぶことは非常に多くありました。今後もこのような学生やアカデミックな世界との交流などを通じ、その経験も踏まえ、”We are the CX Design Firm."として「ブランドと一人ひとりの顧客が永く繋がり続けるための“特別な関係性”」を実現する上質な顧客体験を提供していきます。

小々馬  敦   Atsushi Kogoma

産業能率大学 経営学部 教授
同 大学院    総合マネジメント研究科 教授
グローバルアドエージェンシーを経て、ブランド・コンサルティング企業に転籍。インターブランドジャパン、電通グループのプロフェット(ストラテジー)代表、フューチャーブランドの代表取締役社長を歴任。企業の無形資産価値の増大を目的とする企業ブランディング・企業変革・企業広報など経営戦略を支援。 2012年より現職。産学協同研究活動では、Z世代の価値観と消費行動の観察から次世代マーケティングのあるべき姿を洞察。マーケティング実務家とZ世代が”未来の A Better World”を世代を超えて対話し描く機会として, 公益社団法人 日本マーケティング協会との共催で「ミライ・マーケティング研究会」を主宰。

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