近年、マーケティングやブランディングの世界では、産学が連携して新たな考え方を模索したり、学生の発想を企業活動に取り入れる例が増えています。電通アイソバー(現 電通デジタル)でも、今日のマーケティングで大きな影響力を持つZ世代である学生との連携を深める一方、学生たちに「クライアントワークの現場で用いられているマーケティングやブランディングのフレームワークを実践する機会」を提供する取り組みを始めました。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
産業能率大学 小々馬ゼミ×電通アイソバー(現 電通デジタル)共同研究プログラムについて
今回、共同研究プログラムを実施することになったのは、産業能率大学経営学部マーケティング学科の小々馬ゼミ。同ゼミでは、「マーケティングとブランディング」を専門領域として研究実践するチームとして、企業実務者との協同研究により「未来が幸せな社会になるために、マーケティングはいかに進化すべきか」を探求しています。
そんな同ゼミと実施するDAY1からDAY4までの共同研究プログラムでは、冒頭、「デジタルを創造的に活用して企業のブランド、そしてビジネス、さらには人々の生活を変革していく」という電通アイソバー(現 電通デジタル)のミッションを示したあと、「私たちのカスタマーエクスペリエンスデザインが目指すものは、『ブランドと一人ひとりの顧客が永く繋がり続けるための “特別な関係性”を生み出す』ということです」という「We are the CX Design Firm.」の基本の考え方を紹介するところから始まりました。
次いで、本プログラムの狙いである「仮説構築力」と「課題発見力」の重要性について以下のように解説しました。
電通アイソバー(現 電通デジタル)が考える仮説構築力・課題発見力とは?
● 仮説構築力
Core Idea Tracing〜戦略立案において最も重要なのは、 企画の骨組みをつくるための「仮説」思考。「仮の答え」を持ちながら、検証を繰り返し精度を上げる思考法でスピーディに。
● 課題発見力
Insight process〜仮説思考を支えるコアスキルとなる、「インサイト」を導くプロセス。ヒト・社会・ビジネスを取り巻く 「本質的な課題」とは何かを多面的に捉える。
上記を踏まえ、プログラムは、徹底的に商いが儲かるかを突き詰めるプランニングメソッドであるコアアイデア発想とは何か? また、人の“気持ち・行動“の変化を促す刺激の核となるアイデア(コアアイデア)とはどういうものか? ということを自分たちで議論しながら明らかにし、実際にプランニングしてみることで「仮説構築力」を高め、今後のゼミでの学習や将来マーケターとして活躍する上でのきっかけを掴んでもらえるような内容で構成しています。
全4回の共同プログラムを通してコアアイデアを理解することが重要であるとした理由は、「すべての生活者は、多種多様なタッチポイントでのカスタマーエクスペリエンスを通じてブランドと繋がりを持っているため、一貫性を保つためにあらゆるタッチポイントに共通するアイデア(コアアイデア)が必要である」、という発想にちなんでいます。
そして、このことは、優れたCX(カスタマーエクスペリエンス)はいつも2つの矢印でできていて、クリエイティビティとアイデアが得意とする「心を動かす Motivation」と、テクノロジーとデータが「ゴールまでの障壁をなくす Frictionless」がCXをドライブさせるのだ、という電通アイソバー(現 電通デジタル)が常に訴え、クライアントワークでも根本として説いている考え方にも繋がっています。
「Core Idea Framework」をもとに、実践
座学はDAY1の開始からおよそ20分まで。さっそく「過去事例を基にしたトライアルセッション」が始まりました。
まず、テレビCMやウェブ動画、キャンペーンやOOH(屋外広告)、企業コラボレーションなど、様々な種類のお題をピックアップして、電通アイソバー(現 電通デジタル)が普段活用している「Core Idea Framework」というシートに沿って、効果やゴールの設定、現状とギャップ、インサイトやコアアイディア、コミュニケーション方針について示したサンプルを解説しつつ、どのような流れでこのワークフレームを活用するのかを解説。
続いて、学生たちに「Iceland Promoted “TO LET IT OUT”」というアイスランドのキャンペーンを題材に、実際に「Core Idea Framework」のシートに自分なりの考えを書き込んでいくという課題に挑戦してもらいました。
課題に取り組むにあたり、本プログラムを担当した電通アイソバー(現 電通デジタル)のCXストラテジー本部 本部⻑ 潮崎美穂や、同部部長でありクリエイティブ ストラテジストでもある岩崎文美、同じくシニア ストラテジストである田巻萌衣らは、注意点として、
「大前提として、『Core Idea Framework』をどう書くかの正解はありません。みなさん一人ひとりの自由な考えをベースに色々な想像や仮説を巡らせてみてください! 検索すると色々な記事で取り上げられていますが、先入観が植え付けられてしまうのでなるべく調べずに、与えられた情報だけで取り組んでみましょう。ここまで解説した内容を振り返りながら書いてみて、次回のセッションで他のメンバーにシェアしやすいようになるべくシンプルな言葉でまとめてみてください」と、アドバイスしました。
目の付けどころや今っぽいサービス提案に驚かされる発表も!
前述で示した課題の発表では、小々馬ゼミの学生たちの答えや発想に電通アイソバー(現 電通デジタル)のメンバーが驚かされる場面も多々ありました。
例えば、ブラウザに向かって叫ぶとアイスランドの山奥に設置されたスピーカーから叫び声が再生され、その様子が動画で送られてくるという「Iceland Promoted “TO LET IT OUT”」
のキャンペーンの仕組みについて、「エコーや音量調整ができたり、画面越しに自分の声が大自然に響いている様子をVRで見られるようになればいいのでは?」といったサービス拡充のアイディアや、「おもしろい取り組みなので、あとで編集するなどしてCM動画にするのはどうか?」といった発想は、デジタルネイティブであるZ世代ならではの考えだと言えるでしょう。
また、同キャンペーンがストレスフルな状況が続くコロナ禍で行なわれている点に触れ、「本当は思いっきり何かをしたいけれどできない、集まりたいけど集まれない、といったもどかしさを解消してくれるのがこのサービスだと思う。アイスランドの認知向上だけでなく、QOLの向上もかなうのでは?」との仮説を立て、コアアイディアを深く探るような意見もあり、インサイトの着眼点に驚かされる場面もありました。
一方、「誰の目線で『Core Idea Framework』を考えたらいいのか? それによって出てくるアウトプットが異なるので苦労した。ゴールと現状とギャップについては企業目線で考え、インサイトとコアアイディア、コミュニケーション方針は企業目線で考えた」との感想も。
これについて岩崎は、「その気付きと、最終的にひとつのアウトプットに収められたことは素晴らしい!」とし、自社でもそうした「誰の目線で考えるか?」に意識を向けながら「Core Idea Framework」を進めていると述べました。
核心をつく質問や学習と実践を楽しむ意見も
DAY2では上記で触れた課題のグループ発表のほか、
「『Core Idea Framework』のシートを埋める際、誰の目線で考えるか? 他のグループの意見を聞き、違いを知ることがおもしろかった」
「ゴール設定はユーザー、企業ごとに異なるものでもいいのか?」
「ゴールを決めてからインサイトを考えるのか? インサイトを考えてからゴールを決めるのか?」
など、自由な感想や核心をつく質問も寄せられました。
その中でも学生たちからの指摘でハッとさせられたのは、「インサイトの定義とは何か? いいインサイトとは具体的にどんなものか?」という質問です。
インサイトとは? いいインサイトを見つけるために大切なポイントとは?
マーケティングをはじめ、ビジネスで多用される「インサイト」。しかし、明確に定義したり、他の言葉に言い換えるのが難しいと感じる方は多いことでしょう。
岩崎は、「インサイトについて事前に社内の様々な部署のメンバーにインタビューを実施したが、その結果、人によってそれぞれ認識のズレがあることが分かった」とし、その意見を踏まえて導いたインサイトの3つの解釈を示しました。
ひとつ目の解釈は、行動の裏にある心理や新たなファクト、という考え方です。オモテが言語化できている行動であるとするなら、裏は言語化できていないモヤモヤや無意識の意識であり、これがインサイトではないか、というものです。
また、様々な文脈(構成要素)を明らかにし、どう欲求が現れているのかを発見することもインサイトのひとつの解釈法だと言えるでしょう。これは、知識・背景・文脈を理解した上で想定されるもの、あるいは、生活者のwhyを明らかにし、人の欲求や行動がどう向かうのかを理解することだ、とも言い表せます。加えて、「みんなが知らずのうちに飲み込んでいた不満や欲求、いつの間にか諦めていることを再起動させるスイッチ」という解釈も挙げられるでしょう。
このようなインサイトの3つの解釈を紹介した後、岩崎は、「解釈はそれぞれ少しずつ差があるが、大切なのは、いいインサイトの共通点を見出すこと」とし、「絶対に外してはいけない条件、つまり、本質を探ること。そして、インサイトにつながる要素は様々で、答えも1つではないと理解して様々な観点から考えること。この2つが重要だ」と述べました。
そして、「今後インサイトについて考える時には、どの切り口からインサイトを見つけ出すべきか、複数の切り口を意識してみること。各切り口について、仮説を基に検証すること。最も強いインサイトを選定すること。この3つを意識しておいてほしい」としました。
このように「インサイト」を深掘りした講義について、学生たちからは、「授業でインサイトという言葉はよく出ていたが、今回のワークショップでより本質を理解できたと思う」との反応が! 学生たちにとって日頃とは違った学びの刺激となったようで、電通アイソバー(現 電通デジタル)の講師陣にとっても大きな気付きのひと時になりました。
プログラムは残りあと2回。最終課題のオリエンテーションやプレゼンテーションなど、実際にクライアントワークで行なっていることを体験してもらうことになっています。
その様子や、プログラムを通じて気づいた「Z世代のマーケティング・ブランディングの見方」についてもご紹介する予定です。どうぞご期待ください。
小々馬 敦 Atsushi Kogoma
産業能率大学 経営学部 教授
同 大学院 総合マネジメント研究科 教授
グローバルアドエージェンシーを経て、ブランド・コンサルティング企業に転籍。インターブランドジャパン、電通グループのプロフェット(ストラテジー)代表、フューチャーブランドの代表取締役社長を歴任。企業の無形資産価値の増大を目的とする企業ブランディング・企業変革・企業広報など経営戦略を支援。 2012年より現職。産学協同研究活動では、Z世代の価値観と消費行動の観察から次世代マーケティングのあるべき姿を洞察。マーケティング実務家とZ世代が”未来の A Better World”を世代を超えて対話し描く機会として, 公益社団法人 日本マーケティング協会との共催で「ミライ・マーケティング研究会」を主宰。
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