2020.09.18

ファストファッションのアジリティ(機動性)こそ小売業が生き残る道

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)以前、「小売業の死」を予測するニュースが世界中で飛び交っていました。コロナが襲来した今、その死期が早まったとすら主張する記事も見受けられます。それにもかかわらず、この激変期を耐え、勢いを失わなかった小売業者がいるのはなぜでしょうか。答えは、アジリティ(機動性)にあります。

最もアジリティの高い小売業者といえば、ファストファッション業界の企業です。変化し続ける顧客のニーズに対応する商品を迅速に提供する、というのがファストファッション業界の特徴です。スウェーデンのH&M、日本のGUやユニクロが代表的なブランドでしょう。ユニクロは、コロナの初期においてマスクの製造販売を始め、業界のアジリティを示す先例となりました。小売業者は、アジリティの源泉となるファストファッション業界の原則を、時間をかけながら分析し、将来に備えてレジリエンス(復元力)を獲得する必要があります。

レジリエンスを獲得するために、まず検討していただきたいのは、試作です。ファストファッション業界では、少量の試作品から販売を始めます。うまくいけば規模を拡大し、うまくいかなければ試作品の生産を中断するのです。言い換えれば、顧客のデータ分析をもとに初期仮説を立て、その後、試作品を期間限定商品として販売するのです。その商品が好評であれば、生産を続けます。ファストファッション業界では、この原則を製品ラインアップに用いていますが、他の状況下でも適用することができますし、そうすべきでしょう。例えば、催事場や駅、商業施設の空きスペースを利用したポップアップストアは、長期の賃貸借契約や場所にしばられず、カーブサイド・ピックアップや配送オプションサービスなどを、試すことができます。つまり、最も重要なのは、まず顧客が必要とするもの、欲しがるものを察知し、あまり手間のかからない方法、かつ高リターンにつながるチャンスを特定することです。

次に検討すべきことは、インフラストラクチャです。ファストファッション事業にはアジリティがあります。多くの場合、サプライチェーンが垂直に統合されているため、そのインフラストラクチャによって迅速に新商品の開発に取り掛かることができるのです。ここでは、既存のインフラストラクチャが新しいタスクを実行するだけの適応力を備えていることが、カギとなります。デジタル面では、ヘッドレス・コマースがこの方法を使って運用されています。ヘッドレスの技術スタックを導入した小売業者は、APIを結合することで、新しい技術パートナーと迅速に連携し、先ほど紹介したカーブサイド・ピックアップや配送サービスなどの新サービスを提供することができます。Isobarはこのアプローチを利用したサービス(Adobe、Oracle、Salesforceとの提携)で、ブランド・企業がコマース・ソリューションを最短45日で導入できるように支援いたします。

最後に、顧客エンゲージメントです。ファストファッション業界は常に新しいものを提供することで、既存顧客にとって魅力的な存在であり続けるという戦略をとっています。というのも、既存顧客との関係を維持するよりも、新しい顧客を獲得するには5倍のコストがかかると言われているからです。言い換えれば、ファストファッション業界は、新商品を提供するサイクルを設定し、新作への期待感を高めることで、既存顧客をつなぎとめています。その戦略の中核となるのは、顧客が新しさを求めて「次」を待ち望む定期的なサイクルを設定し、広告を打つことです。スローファッションブランドで東京都内にある店舗は、そうした期待を高めるために、定期的に目新しさを感じさせるようなサービスの提供を心掛けています。例えば、とある店舗のコンセプトは、1冊の本を売ることです。この「1冊の本を売る書店」は、毎週1冊の本を取り上げて、その内容に合わせた小規模な展覧会を開催しています。米国の百貨店Macy’sが取り入れたのは、「ストーリー」と呼ぶ店舗内店舗です。Macy’sの試みは、数週間ごとに店舗内の一部を利用し、地域で販売されている商品にまつわる裏話を顧客に伝えることです。米国の百貨店Showfieldsでは、情勢(コロナ状況下)に見合うにサービスの提供を開始しました。それは、毎週異なるアーティストやインフルエンサーによる商品の「ライブ企画・展示」の開催です。つまり、ファストファッションの強みを活用し、これまで紹介した事例から生き残るすべを身につけるためには、企業・ブランドは、ストーリーテリングとキュレーションに焦点を当て、既存顧客の興味を引くようなサービスを常に試すことが不可欠です。

ファストファッション業界に向けられる批判の矢は、短期的な視野で事業を展開し、将来への負の影響を過小評価している側面にあります。一方、「アジリティ=短期的な視野」である必要はないのです。つまり、アジリティは、迅速に試行し、新たな方向へと針路を変えることを可能し、長期的持続可能なサービスを構築するツールであるべきではないでしょうか。

顧客データを利用しながらトレンドを察知することができ、それを事業の意思決定に反映することができる小売業者こそが、この困難な時代を生き抜くことができるブランド・企業ではないでしょうか。電通アイソバー(現 電通デジタル)は、コマース戦略のスペシャリストであり、日本国内外の小売業者が新しい時代に向けて事業改革するためのサポートを行ってきました。貴社が早急に組織のアジリティを高めるために今、何ができるか、私たちにご相談ください。

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