2020.07.15

CX Design Conference 2020 “顧客と向き合う”企業戦略~体験だけが価値になる時代、心を動かすクリエイティビティとテクノロジー~

今日、顧客は商品やサービスの購入時だけでなく、購入前から使用後、次の購入に至るまでのプロセス全体を通して提供される全ての体験を、重要な価値として認識するようになっています。この変化に対し、企業側は、「体験」が価値になる時代においての顧客体験を、マーケティング等の一部門が担うのではなく、企業全体の戦略として捉える必要が出てきています。 では、顧客の価値基準が「体験」中心へと変わった今、企業はいかにして上質な体験を提供すればいいのでしょうか? 電通アイソバー(現 電通デジタル)では、その答えこそ「CXデザイン」だと考えています。 CXデザインとは、企業戦略の実現に向けて、まず顧客と向き合い、顧客の「心を動かすこと」と「障壁をなくすこと」の両軸で体験を設計する一連のプロセスを指します。 近年、企業はテクノロジーの活用により「障壁をなくすこと」は以前に比べて格段に洗練させてきました。しかし、そのことでむしろ、他社との差別化ポイントが見出せないようになっている、との問題意識を持つ担当者が増えていると聞きます。 そうした状況を打開するには、顧客の心を動かす「自社ならではと言えるクリエイティビティ」にも注力することが不可欠です。そして、テクノロジーとクリエイティビティの融合で唯一無二の体験を生み出し、企業と顧客とのより長い関係性の構築を進めることが、真の競争優位性に繋がると私たちは考えています。 5月25日に開催した「CX Design Conference 2020 “顧客と向き合う”企業戦略~体験だけが価値になる時代、心を動かすクリエイティビティとテクノロジー~」は、今後、企業が取るべき「最高の顧客体験の創出のためにいかにCXデザインを戦略に組み込み、実践するか」について、先進企業の事例を交えて議論を深めました。 本レポートでは、その議論から、示唆に富むトピックをまとめてご紹介します。

コロナ禍で気付かされた「CXデザインの重要性」

元電通アイソバー代表取締役社長(CEO)得丸 英俊は、カンファレンスの開始に際し、「新型コロナウイルスの感染拡大に端を発する社会変化について、CX視点で考えさせられる機会が増えた」と、述べました。

例に挙げたのは、マイナンバーを利用した特別定額給付金の申請フローです。
「実際に申請を試してみると、スマホアプリの画面とwebサイトを行き来する仕様になっており、ストレスを感じた。無事に申請を完了したものの、フローの設計において、改善の余地があると感じた。一方、幅広く浸透した『Zoom』は、ほぼワンクリックで利用できるうえ、フリーミアム形式であるため、利用開始のハードルが極めて低い。そのため、広く普及したのだと考えられる」と説明しました。

続けて、「顧客体験とは、もともと、星付きのホテルや飛行機のビジネスクラスのようなラグジュアリーな空間での体験にいかに特別感をもたらすか、といった文脈で語られていた。しかし、今日はオンラインの普及等によって、顧客体験という考えが一般化し、タッチポイントの充実などをはじめ、幅広い顧客の体験を指すようになってきている。さらに、これが企業の経営戦略と結びつくようにもなってきた。この流れはコロナ禍でさらに加速するだろう。実際に、オンラインの中でも企業がブランディングを模索する例も増えはじめている」と指摘しました。

このような流れに押されて、クリエイティビティを原動力に、CXを起点としたDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業がより増えていくと考えられます。そうした時に企業のCXデザインをサポートするのが電通アイソバー(現 電通デジタル)です。


顧客の心を動かし、障壁をなくすCXデザインとは?

では、オンライン・オフラインいずれの場でも人々の行動が大きく変化した今日、具体的にどのようにCXデザインを進めればいいのでしょうか?
この問いに答えを導く考え方を示したのが、電通アイソバー(現 電通デジタル) 取締役 田中 信哉です。

「いま必要なのは、心を動かし、障壁をなくすCXデザイン」と題したセッションで田中は、「これまでのマーケティング体験は、『仕掛けが見えている状態』だった」と問題提起しました。「その“違和感”をなくし、上手にエスコートするようなCXが、今必要とされている。では、CXとはなにか? と言うと、『目に見える価値だけでなく、目に見えない価値も伝えること』だ」と説明しました。

■電通アイソバー(現 電通デジタル)の事例:株式会社AIRDO

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航空会社AIRDOと電通アイソバー(現 電通デジタル)は、新たな顧客数を増やすために、航空券のチケッティングをすべてLINE上で完結できる仕組みを構築しました。

この取り組みでは、LINEの画面を表示させることでストレスフリーな搭乗ができるのはもちろん、LINEを通して旅の情報をチェックできるようにするなど「楽しい旅をより快適に過ごす仕掛け」が用意されています。これによって、利用者は「飛行機にスムーズに乗りたい」という最大の欲求を満たすことができるだけでなく、航空会社と繋がりを持って旅を気軽に楽しむこともできるようになっています。

■電通アイソバー(現 電通デジタル)事例:ファイザー株式会社 「禁煙手帳」

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「卒煙は難しいこと」という課題に対し、禁煙外来の医師と薬、そして卒煙までの道のりに併走する存在として製薬会社ファイザーと電通アイソバー(現 電通デジタル)が作ったのがLINEのチャットボットです。

禁煙の成功に向けて一緒に歩むチャットボット。それを無機質な存在ではなく、顧客にフレンドリーなキャラクターであり、かつファイザーにとってふさわしいものにするには、コミュニケーションの質や世界観を作り込めるクリエイティビティが欠かせません。

■Isobar Chinaの事例:中国KFC「ポケットストア」

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中国最大のファストフード店であるケンタッキーフライドチキンとIsobar Chinaが展開したのは、中国最大級のSNSであるWeChat上に仮想のフランチャイズ店を誰でも開店できるようにし、そこで購入すると購買者にも仮想フランチャイズ店を作った人にもおトクなクーポンが付与される、という取り組みです。

企業の「ブランディング」と顧客に「買ってもらう」という行為はしばしば相反する場合もありますが、これは双方が両立していると言えるでしょう。

■Isobar Netherlandsの事例:Volkswagen Nederland

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「自動車に乗った子ども達が、外の景色を見ず、タブレットばかり見ているのは由々しき事態だ」と考えたオランダのフォルクスワーゲン。そこで、位置情報に基づいて外の景色とリンクするようなストーリーを配信、窓の外を眺める楽しみを感じてもらう、という取り組みが展開されました。

ここで重要になるのも、どういう世界観でこのクリエイティブを出して行くか? という点です。ストーリーだけでなく、子ども達が目にする画面上に繰り広げられる絵本のようなビジュアル。こうしたものは、高度なクリエイティブ力があってこそ実現可能です


CXデザイン実現のプロセス

前述の4つの事例を通して分かる通り、企業が目指す多様なゴールに対し、CXデザインをひとつの定義にまとめ、それを実践するべく決まった手順を踏むことは難しいことです。しかし、考え方のステップはどのような場面においても応用が可能でしょう。

田中は、「CXデザインを進めるにあたり、課題抽出の視点として、まず『サービス価値は何か? ターゲットは誰か?』を定め、『顧客はどんな行動をするか? 注力する領域はどこか?』について、ジャーニーマップなどを作成したり、そこに表せないものも取り上げながら考えること。その先で『適切なコンテンツが用意されているか?』『使い勝手はどうか? 顧客は目的が達成できているか?』『新たな課題を明らかにし、改善が適切に行われるか?』といったステップを踏んでいく。こうしたことにより、段階的に何をするべきか明らかになっていく」とし、以下の内容を示しました。

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また、同時に指摘されたのが、プロジェクトを実現するため企業内のDXの重要性です。例えば、顧客や商品情報、コンテンツなどを管理するプロダクトや、eコマース事業を円滑に推進するために必要なソリューションのほか、それらを統合的に管理し活用するプラットフォームをどのように設計し、環境を整えるかは、その後のPDCAを回す上でも極めて重要だと言えるでしょう。
電通アイソバー(現 電通デジタル)では、そうした場面でも、顧客目線での戦略策定、トップによる目標の明確化、実務を行なうにあたって必要なメンバーや座組みの構築など、CXデザインを実践するための体制づくりを支援しています。

このように課題が抽出された後は、ストラテジーの策定です。この時、電通アイソバー(現 電通デジタル)が用いるのが、「最良のCXに近づくための4D」です。

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CXデザインを、人を中心にシンプルに捉える

CXデザインの中心はあくまでも顧客です。では、CXデザインによって、企業は顧客にどのような価値を提供できるのでしょうか? 田中は、「CXデザインの要素を単純化すると、2つの矢印で説明できる」とし、人の心を動かす「Motivation」と、障壁をなくす「Frictionless」によって、ブランドを好きになってもらったり、次の行動を起こしてもらったりといったゴールにストレスなく向かうようエスコートしていくことがCXデザインの要点だと解説しました。

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しかし、「Motivation」を担当するクリエイティビティとアイデアの創造が得意な部門と、「Frictionless」を担当するテクノロジーやデータを司る部門は、全く異なるKPIや文化を持っている場合が多く、協力が難しい場面もあるかもしれません。そこで、電通アイソバー(現 電通デジタル)は、共通のCXストラテジーによって両者を融合し、クリエイティビティとアイデアがCXの原動力になり、テクノロジーとデータがCXを動かすことができるようサポートしています。


ブランドの変化から見るCXの未来像

この10〜20年のうちに、ブランディングには大きな変化が訪れました。
例えば20年ほど前まで、高級さやステータスの高さをアピールしてきた高級車メーカーが、この10年では「いかに高度で新しい技術を取り入れているか」を競ってきたのは周知の通りです。そして、それが今日、企業のサービスやプロダクトは、アプリで手配すれば使えるような“手の中に収まるような存在”になり、“所有する”という価値と“移動する”という価値を分けて提供するようになり始めています。

この流れについて田中は、象徴的な例として、フィリップス社を挙げました。
ワシントンD.C.で行なわれた駐車場の照明に関する入札で、フィリップス社は、「10年間光り輝くという価値」を納品する、という提案をしました。旧来であれば、電球や蛍光灯の数やメンテナンス費用を算出した額で入札するわけですが、IoTの技術を使えば、消耗度合いや光量の管理などをセンサーやネットワークで一元管理が可能となり、そうした「価値だけ」のサービスを提供することができるようになった、というわけです。

この変化の先には、「人が望むところでサービスが提供され、そうでないところではサービスをする必要はない」という社会が広がっているかもしれません。コストの無駄や、環境への負荷を下げることのできるこうした取組みは、CXの未来像だと言えるでしょう。


アフターコロナの景色といくつかのアングル

では、将来像をもとにバックキャストしてCXの進化を考えた時、来るべきアフターコロナではどのような世界が広がっているのでしょうか?

田中は、「ここ数ヶ月で、version0だったことが急にversion2になるような変化が起こった。『いつかはそうなるだろう』と思っていたことが急に実現するようなイメージだ。このような時代には、未来を考えていた会社とそうでない会社が、まるで勝者と敗者がふるいにかけられるように分かれていくと見通される」と指摘しました。

そうした中で、特に企業では、テレワークの一般化など社員同士が離れて仕事をすることが当たり前になり、エンゲージメントを保てるかどうか?という課題に直面することになりそうです。同時に社員の側は、自社のナレッジを進んで吸収できるか? を問われることになるでしょう。

これに対し、企業にはインナーブランディングの強化が求められると考えられます。社員全員がみんなで熱量をあげる瞬間を演出したり、そうしたカルチャーを作って当事者意識を持ち続けられるか、方法を模索することになるでしょう。

また、「企業の中で起きたCX(コーポレートトランスフォーメーション)によって、新たなCX(顧客体験)を生み出せるか?」という発想も重要になると言えるでしょう。これは、「自社の課題は他社の課題でもあると理解し、自社の課題を乗り越える上で生じたソリューションを他社に展開することが、新しいビジネスになるかもしれない」という発想を持つことでもあると田中は解説します。


企業とブランドはどうなっていくのか?

最後に、新型コロナウイルスの影響で「リアルな体験の機会」が格段に減った今日、企業にとって最も重要なことは、「顧客にとって第一想起される、あるいはその集団に入れるか、ということだ。それが売り上げや業績を左右することになる」と説明しました。

続けて、「『価値だけ』を提供できるようになった今日、それを理解して、巧みにビジネスに変え、顧客の生活に溶け込めた企業が勝者になる時代がくるだろう。顧客が企業の意図した通りに動くと考えず、いろんな選択肢があるなかで生活動線に溶け込んで『無意識に』選んでもらわなければならない」としました。

そうしたプロダクトやサービスを生み出すにあたって、企業は、「自分たちの価値」を改めて問い直す必要に迫られるかもしれません。これらの問題を解決する上で、CXデザインは最も重要な役割を担うことになるでしょう。


電通アイソバー(現 電通デジタル)が注目するCXデザインの先行事例

同カンファレンスでは、Peach Aviation 株式会社様と株式会社SHIBUYA109エンタテイメント様をお迎えしたトークセッションも行われました。その内容は、たとえ事業内容が違っても、エッセンスを受け取ることで今後のCXデザイン推進に役立つことでしょう。
以下では、トークセッションの要点をまとめてご紹介します。

LCCのPeachが考える『これからの旅のあり方』その展望

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「LCCのPeachが考える『これからの旅のあり方』その展望」と題したセッションで、Peach Aviation株式会社の事業戦略室 事業戦略・CRM推進部 部長 千歳 敬雄氏が紹介したのは、「tabinoco」というプラットフォームでの取り組みです。
「関西空港から一番、飛行機を飛ばしているLCC」という同社が、顧客の声を聞き、そこに企業として溶け込む場として「tabinoco」を立ち上げたきっかけはどういったものでしょうか?

■環境認識を変え、顧客の声を聞かせてもらう場を作る

電通アイソバー(現 電通デジタル) エクスペリエンスデザイン本部 本部長 潮田 健一郎からの、「消費者の情報行動はSNSの刺激が多くなっている。ブランドと生活者の境界線がなくなってきているし、企業はコミュニケーションの方法を変えていかないといけない。Peach Aviation株式会社の『tabinoco』の取り組みは、その先駆けのように感じる。これを実践したきっかけは何だったのか」との投げかけに対し、千歳氏は、次のように述べました。

「これまで、旅行のきっかけは、サービス提供者である企業側が主体的に提案してきた。しかし、いまは生活者が様々な情報を共有し、正誤はともかく、多くの情報をソーシャルから得られる時代になっている。体験談をウェブサイトにアップしたり、それを読んで旅行に行きたい、と感じる人が増えてきている。この顧客の声を聞かせてもらって、自分たちの仮説を確かめながら、その中に企業側も溶け込んでチケット予約をしてもらえるようにするなど、環境認識を変える必要があると考えた」とし、「Peachの顧客やその友人や仲間、家族、旅行産業に関わる人たちほか、あらゆるステークホルダーによって共創される『tabinoco』という空間で情報をインタラクティブに行き来させ、その動きを『目を凝らしてみてみよう』というのが『tabinoco』立ち上げの出発点だった」と千歳氏は振り返りました。

そして、千歳氏は、「そもそもLCCは低運賃によって、航空業界にイノベーションを起こした。『では次は?』と考える中で、自分たちは、顧客と飛行機で移動する以外の接点を持っていないことに気付いた。だったら、旅の前や最中、後にも寄り添っていこう、と考えた。『tabinoco』は、従来のLCCのカスタマージャーニーをより広い視点で考えた結果だと言える」と、自社において同サービスがどのように位置付けられているかについて解説しました。

 

■アフターコロナ・ウィズコロナでの顧客体験を想像する

一方、Peach Aviation株式会社としては、「ワークライフミックスの支援」にも力を入れていきたい、と千歳氏。これは、コロナ禍によって、リモートワークの実践を通して起こるであろう顧客の変化を見据えた考えと言えそうです。

千歳氏は、「ワークライフミックスの支援」について、次のように考えを述べました。

「リモートワークを経験して、私たちは『自宅での仕事』に限界を感じる部分もあった。今後、『明日はどこかで働き、その次は別のどこかで』というふうに、働くところと居宅があるところを行き来するようになったり、そもそも定住しないけれど仕事はきちんとするアドレスホッパーが増えたり、そのまま気に入った場所に移住する、といった、ワークライフミックスが進むとも考えられる。この時にも、移動は欠かせないことだ。その移動をより簡単に実現できるよう支援するのも、私たちの役割だと考えている」。

 

■アフターコロナにおけるコミュニティの役割と価値

最後に千歳氏は、今日の観光業界全体の厳しい状況において「tabinoco」が果たしている役割について、「いますぐに旅行に行くことは無理でも、『行きたい!』という温度感を維持することが大事だと考えている。今後、旅行の楽しみ方も大きく変わるかもしれない。シェアコミュニティについては、コミュニティのクオリティを評価される世界がひらかれると思う。より良い会員サービスを作ることが重要だ」とし、「tabinoco」が、アフターコロナに向けた期待の一翼を担っている点を挙げました。

アフターコロナを考える。SHIBUYA109が目指す顧客体験の在り方

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株式会社SHIBUYA109エンタテイメントのオムニチャネル事業部MDプランニング部長であり、SHIBUYA109 渋谷総支配人でもある澤邊 亮氏は、新しい世代のコマース体験をいかに考えるかを中心に、同社の取り組みを紹介しました。

■「 SHIBUYA109じゃなきゃ!」を提供するSHIBUYA109

セッションの冒頭、得丸より「カリスマ店員やギャルの聖地から大きな変貌を遂げたSHIBUYA109。ビジネスモデルがファッションからエンターテイメントに変化した理由は?」という質問が投げかけられました 。

これに対し澤邊氏は、SHIBUYA109エンターテイメントについて、「私たちは新しい世代の“今”を輝かせ彼らの願いを叶える『Making You SHINE!』をミッションとして掲げ、若い人たちが輝いていけるようなことを事業として考える会社だ。ビジネスモデルは、新しい世代の人々が何を思い、考えているか? 定期的に調査し、それをもとにMDプラン、ブランディング、クロスメディア活用のプランニングなどをしている」と紹介し、実店舗については次のように解説しました。

「2019年からさまざまなリニューアルをしている。『 SHIBUYA109じゃなきゃ!』と思ってもらえるよう、ここでしか体験できないことの提供に取り組んでいる。何を売っているかではなく、ここで過ごすことの楽しみ、ここでの時間を誰かに言いたくなったり、共有したくなるよう、彼らが興味を持つコスメやスイーツなどをクロスさせ、デジタルと融合しながら、場の価値を上げようとしている。お店全体のエンターテイメント化を目指している」。

その上で、ビジネスモデルがアパレルの販売からエンターテイメントの提供に変わった理由について、「昔はファッションが若者の自己表現の方法だったが、いまは趣味趣向が細分化している。自前で売り場を持ち、日本未発表のコスメや限定のスイーツなどのコンテンツを提供してもらうなど、複合的な要素を掛け合わせる場をもうけるなどして、顧客である新しい世代に合わせていかないといけない。そうやってコンテンツをクロスオーバーさせることで、相乗効果でファッションの売り上げも伸びている」としました。

 

■オムニチャネル戦略を考える前に重要なことは「顧客を知ること」

コロナ禍以降、小売業界では特に、オムニチャネルの重要性が議論されるようになっています。これを受けて得丸から、「企業発のオムニチャネル戦略について、『チャネル戦略の議論よりも前に大切にするべきことがある、と指摘されていた。では、まず何を考える必要があると感じているか?』と、質問を投げかけました。

これについて澤邊氏は、「オムニチャネル戦略を否定するものではないが、顧客中心に自社のチャネルをシームレスにつなぐことを実現することがオムニチャネルであるなら、まずは顧客を理解しないと始まらない。しかも、若い世代は1歳違うとまったく異なる価値観や感覚を持っている。例えば、22〜23歳の子に18歳の子のことを聞いても『まったく分からない』と言われるほどだ。だからこそ、リアルな彼らの意見を直接聞くしかないと思っている」と断言。

続けて、「毎月200名ほどの調査をしているが、驚くことがたくさんある。ブランドへのこだわりがなく、好きなブランドがないからサイズ感やテイスト感が分からない、との結果を見た時に、『だから実店舗に行くのか』と気付かされた。そうなると、彼らにとっての実店舗の役割はもちろん、eコマースやSNSの役割も変わってくる。大人たちが考えているオムニチャネルのイメージでは合わないことも想像できる」とし、顧客の声を聞き、それを中心にCXを設計することの重要性を示唆しました。

実際に、SHIBUYA109 lab. では、単にデータを取るのではなく、社員がグループインタビューや来館者へのアンケートのほか、産学連携なども通じて顧客のリアルな声を聞き、それをCXに生かしているとのことです。

 

■DXも顧客を理解しないと始まらない

4月4日から実店舗を休館したSHIBUYA109 渋谷も、ほかの小売業と同様、DX(デジタルトランスフォーメーション)を含めた転換点にあると考えられます。そこで、最後に得丸は、「コロナ禍での影響、特に、実店舗や eコマースなどのオンラインチャネルでの取り組みについての今後の展望は?」と、質問を投げかけました。

澤邊氏はまず、「休館を決めたのは、若い人たちに危機意識を伝えるという意味もあった。TVを見ない層にもSNSで拡散されることで注意喚起ができたと思う。同時に、来館して購買を促したりするのではなく、SNSをファンとのコミュニケーションツールとしてより強化できたし、eコマースをより強化するように舵を切った。閉館の影響でポップアップ店舗の在庫が出たため、そのことをSNSで発信してうまくeコマースに誘導できたのは好例だと思う。一方、もしイベントをリアルとオンラインで展開する撮影スタジオの取り組みが強化できていれば、ライブコマースもできたと感じている」と、2ヶ月あまりの出来事を総括しました。

さらに、今後の戦略について、「これまで、デジタルへの取り組みはやってきていたが、今後は『もう少し先でもいいかな』と考えていたことの優先度が変わると考えている。リアルでの体験価値の差別化は大前提だが、SNSでの接点強化やリアルの体験価値が上がればそのコンテンツがSNSで拡散される可能性も高まるので、こちらもより強化しないといけないだろう」と、見通しました。

上記については、同社による調査でも、「(若い人たちにとっても、何かをやりたい、楽しみたい、という気持ちを満たすには)オンラインだけでは十分ではない。リアルを求める声が増えている」とのこと。これを受け、「今後、リアルの場は、『ここなら安全だよね。しかも楽しいよね』と感じられるか否かで顧客から選別されるようになる。これに応える努力が必要だ」と、澤邊氏。

「リアルの価値が高まる一方、デジタルの重要性も高まったし、DXの強化も重要だ。だが、顧客がどういうことを求めているのかが分からなければ、それに応えられない。SHIBUYA109 lab. で調査しつつ、顧客である彼らの変化をキャッチアップしていかないといけない。DXは大事だが、顧客の声を聞き、リアルの圧倒的な独自性の確保をしながら、eコマースやSNSをシームレスに繋いでいきたい」としました。

2社が実践する、顧客に向き合い顧客とともに体験をより充実させていく良質なCXは、多くの企業にとって大変示唆に富む取り組みだと言えるでしょう。

今回のカンファレンスでも、デジタルテクノロジーの進化に伴い、企業は顧客とより長く深く付き合うことが求められるようになっていることや、自社独自のCXを提供することがいかに重要かが明らかになりました。

電通アイソバー(現 電通デジタル)は、クライアント企業のパートナーとして、最高の顧客体験創出のため、最適なCXデザインをそれぞれの企業につながるステークホルダーとともに取り組んで参ります。

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