2020.04.09

グロースハック用分析ツールAmplitudeは何がすごいのか?

電通グロースハックプロジェクト代表・上野雅博とAmplitude米田匡克氏に聞く12の質問

2019年12月、電通デジタルと電通の横断プロジェクト「電通グロースハックプロジェクト」は、Amplitude, Incのグロースハック向けユーザー行動分析ツール「Amplitude(アンプリチュード)」について、スタートアップ支援プランの提供を開始しました。

Microsoft、Twitter、Dropbox、PayPal、Under Armourをはじめとした、グローバル企業12,000社以上が利用する分析ツールAmplitudeとは、どのようなツールなのか? どのような点がすごいのか? 電通グロースハックプロジェクト代表の上野雅博とAmplitude, Japan Country Manager の米田匡克氏に一問一答形式で聞きました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

グロースコンサルティング事業部
グロースハックグループ
グループマネージャー

上野 雅博

Amplitude, Inc.
Japan Country Manager

米田 匡克

Q1:Amplitudeとは、どのような分析ツールなのか?

上野 : 私は「グロースハック用ユーザー行動分析ツール」という言い方で紹介しています。具体的には、「行動ペルソナとマジックナンバーを最速で抽出できるツール」です。

最大の特徴は、一般的なアナリティクスツールのようなセッション軸ではなく、ユーザー軸による詳細なユーザー行動分析が、誰でも容易に行えるところです。

米田Amplitudeを導入すると、企業が持つあらゆるデータ、例えば、

  • Webデータ
  • アプリのサービスデータ
  • 1stパーティーデータ
  • POSデータ
  • 位置情報
  • CSVで保存されたローカルデータ
  • Big Queryなどのデータウェアハウス

を統合し、アプリ、Web、オフラインといったマルチチャネルでのユーザー行動を分析できます。分析したデータはチャートで可視化され、チームメンバーで共有できます。

米田匡克氏(Amplitude, Inc.)

Q2:「行動ペルソナ」とは何か?

上野行動ペルソナとは、デモグラフィックデータに基づく属性(年齢、性別、職業、年収、家族構成、居住地域など)だけではなく、アプリやWebの中の行動によって定義されるペルソナのことです。

音楽ストリーミング再生アプリを例にとると、「平日の通勤時間にダウンロードコンテンツを聴く」「休日の夜に大量にダウンロードする」といったユーザーの一連の行動を、計測イベントの集合体として1つのクラスタとして描けるセグメントが、行動ペルソナです。

上野雅博(電通デジタル)

Q3:「マジックナンバー」とは何か?

上野 : マジックナンバーとは、ユーザーが「特定のアクションを規定回数以上行う」とサービスの継続率や収益などの重要指標が飛躍的に向上する数字のことです。例えばよくあるのが、企業のマーケティング活動において継続率を重要指標として考えている場合に、継続率の高いユーザー同士の行動を比較して分析を行い、継続率の高いユーザーに共通するアクション、つまりイベント情報を定量化した指標として考えます。

米田 : マジックナンバーの有名な例では、Facebookの「登録して10日以内に7人以上と友達になった新規ユーザーは、エンゲージメントが高いユーザーになる」や、Slackの「チーム内で2000メッセージを交換したユーザーのうち、93%はSlackの使用を継続する」、Twitterの「30人以上をフォローしたユーザーは活発なユーザーになる」などがあります(出典:Yevgeniy Brikman, Hello, Startup: A Programmer's Guide to Building Products, Technologies, and Teams(O'Reilly Media, Inc., 2015), p.149.)。

いずれも、継続率の高いユーザーを行動分析することで導き出された定量的な指標です。このケースでは、マジックナンバーをKPIとした施策を打つことで、既存ユーザーの継続率が大きくアップしたとされています。

Amplitudeでは【Compass】チャートから、マジックナンバーを簡単に求めることができます(Q6参照)。

【Compass】は、Amplitudeの目玉機能の1つです。継続ユーザーがアプリケーションを使用した最初の数日間にどのイベントを実行したかを分析し、そのイベントと継続率の相関関係を数値で算出します。


Q4:「行動軸によるユーザー行動分析」とは具体的にどんなイメージなのか?

米田 : 「行動軸によるユーザー行動分析」はAmplitudeの最大の特徴です。

例えば、20代女性の「A」というシンガーソングライターのファン層を推定してみることにしましょう。

デモグラフィックによるセグメントの場合、おそらくファン層は、「20代」「女性」「独身」という属性に決め打ちされると思います。しかし、現実に即して考えれば、彼女のファンが20代独身女性だけとは考えにくい。それ以外のファンを取りこぼしてしまうわけです。

そこでクローズアップされるのが、行動軸による分析です。例えば、ファンならば、彼女の曲を一般的なユーザーよりも多く聴いているはずだという仮説が立てられます。その仮説をもとにデータ分析することで、例えば、「彼女の曲を平均よりも多い1日5回以上聴いているユーザー」という行動ペルソナが導き出されます。

すなわち、Amplitudeが導き出したファン層とは、「彼女の曲を1日5回以上聴いているユーザー」となります。

こうした行動ペルソナができたのであれば、「Aさんの曲を1日5回以上聴いているユーザー」をコホートでセグメント化し、聴取前後にどのような行動をしているのか、ほかに誰の曲を聞いているのかなどをAmplitudeで分析することでそのAさんファンユーザーを増やすための施策へとつなげます。

なお、Amplitudeでは、行動ペルソナは、【Personas】チャートから、搭載したAIによって自動で生成されます。

【Personas】はNMF(非負値行列因子分解)を用いてペルソナのクラスタリング分析を行う機能です。クラスタ対象ユーザーと、クラスタ数、クラスタ条件を設定するだけで、ペルソナのパターンが自動生成され、同時にもっともリテンション率の高いクラスタが数秒で判明します。

Amplitudeの【Personas】チャート。もっともリテンション率の高いクラスタが数秒で判明する
Zoom

Q5:Amplitudeが他の分析用ツールと大きく違うポイントは?

米田 : 比較対象となるのは、アナリティクスツールやBIツールかと思います。

Amplitudeの大きな魅力は、まず1つは、セッションに頼らないユーザー行動分析を行うことで、他のアナリティクスツールより正確なユーザー分析を大量かつスピーディーに行えること。もう1つが、管理画面のみでほぼ分析が完結するため、スムーズにグロースのためのPDCAがチームで回せることです。

例えば、マーケターが課題を発見したとしても、BIツールの場合、クエリエンジニアに依頼してドリルダウンしながら原因究明するスタイルであれば、課題発見から原因究明までのスパンは短くても数日かかります。しかし、Amplitudeであれば、その時間はわずか数秒です。この速度感が、グロースハックにおいては、非常に大事なことだと思います。

上野 : 私からは、アナリティクスツールとの比較から、Amplitudeの特にすごいポイントを3つ挙げたいと思います。

①コホート機能の柔軟性
②イベントの相関関係を出すことに特化していること
③充実したリテンション(継続利用)分析機能

①に関して、コホートとは共通項を持ったユーザー群を指します。コホート分析は特にデジタルアナリストにはおなじみの分析方法の1つですが、Amplitudeでは、チャート画面で分析したい範囲をクリックするだけでセグメント化できる。事前に管理画面でポチポチとセグメントを設定しなくてよいのです。例えば、アナリティクスツールで複雑なセグメント設定がチャートから一瞬で抜き出せる、と言えばアナリストの方はこのすごさはわかっていただけると思います。

②は、例えば、「CVした/していない」「特定ファネルを通った/通っていない」「定着/休眠」などのセグメントパターンを比較しながら、特定のイベントに寄与するイベントは何かを一瞬で算出してくれます。CVしたユーザーはCV至るまでに何をする傾向にあるのか、あるいはCVしなかったユーザーはどこで躓いたのか、が計測イベントから導き出されるのです。③で言及している分析と組み合わせることで、統計的有意を持った状態でマジックナンバーを算出することができます。

③は、特定のセグメントを切り出せるなど、とにかく豊富なリテンション(継続利用)を計測する機能です。リテンション定義自体も細かく3種類あります。「N-Day Retention」では丁度「その日」に戻ってきたユーザーでのリテンション、「Unbounded Retention」では「その日以降」に戻ってきたユーザーでのリテンション、「Bracket Retention」では「3~6日以内」「7~10日以内」など特定の期間を区切ったリテンション分析があり、痒いところに手が届く状態になっています。それだけではなく、Amplitudeの【Lifecycle】チャートを使うと、リテンションのインターバルを設定すれば、ユーザーの状態を「新規/定着/休眠/復帰」に分類した状態で、一瞬で描画させることができます。おそらく、既存のアナリティクスツールでここまで見られるものはないはずです。

また、ユーザーのセッションIDや顧客IDごとにユーザーの行動を追うこともできるので、マクロ・ミクロの両輪で、リテンション分析が可能なのも、大きなポイントです。

Amplitudeの【Lifecycle】チャート。ユーザーの定着状態を、期間ごとに新規(緑)、定着(薄緑)、復帰(青)、休眠(赤)で表示する
Zoom

Q6:マジックナンバーは、どれくらい簡単に抽出できるのか?

米田 : Amplitudeでは【Compass】チャートを使うことで、高速でマジックナンバーを算出することができます。CVを設定して実行するだけで、数秒で算出されます。

算出されたマジックナンバーは、AIによるリテンション予測も実施しており、チャートから該当する期間をクリックするだけで、その詳細を確認できます。また、【Retention Analysis】チャートから、効果検証を行うこともできます。

一連の流れは、下記動画をご覧ください(再生時間2:28)。


Q7:Amplitudeはどういうビジネスモデルに活用できるか?

上野 : 以下の2つの条件に合致するビジネスモデルで、特に活用していただけるのではないかと考えています。

1つは、プロダクトライフサイクルが比較的短い製品やサービスを扱うビジネスモデル。もう1つは、CV後も継続的にタッチポイントがあり、継続利用数を向上させることが目的であるビジネスモデルです。

例えば、ECサービスのような頻繁に購入してもらうことによって売り上げを得ているようなビジネスモデルや、サブスクリプションのような月額課金のビジネスモデルが挙げられます。海外ではB2BのSaaS系サービスでも多く導入されているようです。


Q8:Amplitudeは、どのような課題を抱える企業に適しているか?

上野 : 以下の2つの課題をお持ちの企業に、特に好反応をいただいています。

①自社で保有するデータがあり過ぎて、分析しきれずに困っている
②スタートアップの初期段階

①は特に大手企業に多いお悩みで、サイロ化されたデータを統合したのはいいけど、さてどうやって分析するかとなったときに、Amplitudeをご検討いただくケースが多いです。SQL技能がなくても誰でも使いこなせることができ、気軽に分析結果や考察を共有できるところに好感をお持ちいただいています。Amplitude内でSQLも叩けるので、データ整備さえされていれば基本的に見られない分析データはないのではないでしょうか。

②は、2パターンあって、1つはアプリに広告SDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)などを導入する段階、もう1つはPMF(Product Market Fit:自社のプロダクトやサービスが、顧客を満足させ、適切なマーケットに適合している状態)を本格的に推進する段階でご検討いただくスタートアップが多いです。前者の場合はこれからツール分析選定をするフェーズ、後者の場合は、投資家も注目しているリテンション率を簡単に算出することができる点に興味を持っていただいています。


Q9:なぜ電通デジタルはAmplitudeに着目したのか?

上野 : 私自身、5年以上のアナリスト経験がありますが、米田さんからご紹介いただいて使ってみたところ、初めて見るタイプのツールだと思いました。また、これは日本のグロースハック市場を変えられると感じました。

当時すでに、電通グロースハックプロジェクト(以下、GHPJ)を立ち上げていましたが、North Star Metricの計測や、ユーザー軸で行動分析ができるようなツールがなくて困っていた頃でもありました。既存のアナリティクスツールを無理やり使うことで凌ぐこともできますが、それがアナリストたちに過度の負担を負わせていたのは事実です。

データ統合、スピーディーな分析と共有。グロースに必要なものがすべて揃っているAmplitudeを活用することでアナリストたちの負担を解消し、グロースに関わる人すべての働き方改革につなげることができると思いました。


Q10:Amplitude導入に関して、電通デジタルはどのような役割を担っているのか?

米田 : Amplitudeは、日本での営業活動を始めて10か月ほどですが、日本オフィスは今のところ私1人ということもあって、まずは継続的にサポートできる枠組みを作ってから、プロモーションを行おうと考えていました。ようやくその準備が整ったところです。

どの企業でも、デモをご覧いただくと、とてもいい評価をいただくのですが、その際に必ず出てくるのが、「うちの会社で使いこなせるかな」という不安や疑問です。

お客さまはさまざまな要望を持っています。例えば、導入支援から始まって、導入後に自社データをAmplitudeで使えるようしたい、自分たちで運用できるまで教育してほしい、さらには、自分たちである程度運用するけれども、場合によっては運用支援もしてほしい、などです。

その際には、グロース戦略、オフライン含めたデジタルの獲得施策や、UI/UX改善など分析した後の施策実施に幅広いスキルセットが求められますし、エグゼキューションまで見られるマンパワーが必要になるので、そういったことが全部対応可能な電通デジタルさんとは、これからもぜひ、一緒にがんばっていきたいと思っています。

上野 : ありがとうございます。電通デジタルは、ありとあらゆるデジタルテクノロジーを駆使して、戦略から実行のループをワンストップで提供しマーケティング目標を達成するところに、一番の強みを持っています。あらゆるデータを統合し、スピーディー分析実行可能なAmplitudeは、われわれと非常に相性がよいと確信しています。

米田 : Amplitudeは、全世界で12,000社以上の導入実績を持っており、グロースハックを行っているグローバル企業にも数多くご利用いただいています。われわれは施策の実行から効果の検証までの一連の流れ(いわゆるPDCA)を「学習」と言っていますが、海外企業の中には、年間1500回以上学習する企業もいます。1日にすると5回以上です。

一般的な日本企業の場合、A/Bテストを実施するだけでも各種調整が大量に発生し、1か月に1回しか学習できないというケースも珍しくないと聞きます。

これからのデジタルマーケティングは、どれだけこの「学習」回数を増やすかが、大きなカギです。そのための速さを突き詰めるために、ぜひAmplitudeを活用してほしいですし、日本にグロースハックを定着させるための一助となれたらいいと思っています。


Q11:Amplitudeを無料で試用することはできるか?

上野 : はい、できます。2パターンありまして、1つは、公式サイト(英語)で公開しているフリープランをお使いいただく方法。一部機能が制限されていて、コホート機能も使えませんが、名前、メールアドレス、電話番号を登録するだけで、誰でも使えます。

もう1つが、2019年末から始まった「スタートアップ支援プラン」の一環で、

  • 設立2年以内
  • 累計資金調達額5億円以内
  • 社員数20人以下

という3つの条件を満たしたスタートアップ限定ではありますが、1年間、無償でツールを提供(年間300万円以上)します。

電通デジタル経由でお申し込みいただくと、実装のお手伝いや、電通グロースハックプロジェクトによるデータ活用に関するコンサルティングなども、スタートアップ価格でご提供させていただきます。

Amplitudeの導入については、Amplitudeの認定資格「Insight Experts」を日本で初めて取得した私上野のほか、GHPJの同資格取得者2名が中心となって実装を担当します。

料金や使用可能ユーザー数、サポートの有無などを詳しく知りたい場合も、電通デジタルにお問い合わせいただければと思います。

米田 : デモ画面を直接見たいという企業もいらっしゃいますが、そういったご依頼があれば電通グロースハックプロジェクトの皆さんと一緒にお伺いしますので、ぜひ、どんどんお問い合わせいただきたいです。

少し前にも、とあるスタートアップのCTOに見ていただいたところ、即日導入が決まりました。実際に見るとAmplitudeとグロースハックの相性の良さがすぐにわかると思います。


Q12:Amplitudeを活用することで、特にスタートアップや若い企業にとって、どんなメリットがあるか?

上野 : 私が所属する電通グロースハックプロジェクト(GHPJ)は、特にITやデジタルの力で社会課題を解決していくようなスタートアップを中心に支援している活動チームです。

スタートアップというのは、とにかく、いろいろな局面で投資家からプレッシャーを受けるものです。なかでも、PMFは必ず聞かれるトピックです。ただ、PMFは唯一の正解があるものではないので、投資家が納得するようなロジックを作るのは、案外難しいものです。人材もお金も乏しいスタートアップであれば、なおさらだと思います。

その際、Amplitudeの分析データは、投資家への説得力を補強する下支えとなってくれるはずです。また、PMFの達成が早いほど今後のリソース配分やサービス戦略も固めやすく、より大きな成長への原動力にもなります。そのためにも、ぜひ早期にAmplitudeのキャンペーンに応募して使ってほしいですし、われわれGHPJもAmplitudeのコンサルティングなど多方面でお手伝いさせていただきたいと思っています。

2020年5月11日、「CNET Japan」にて、 上野と米田氏のインタビュー記事「電通デジタルが挑む"企業のグロースハック支援"--Amplitude連携の想い」が掲載されました。
https://japan.cnet.com/article/35153548/

※Amplitudeにおける個人情報の取り扱いについて
Amplitude, Inc.は、送信されたお客さまのデータを第三者と共有することはありません。
Amplitudeは、責任共有モデルに基づいて運営されています。Amplitudeは、クラウド環境のセキュリティを管理していますが、クラウドにおけるセキュリティはお客さまの責任となります。お客さまのセキュリティに関するリスクをゼロにするために、EPHI(Electronic Protected Health Information:保護されるべき電子医療情報)、PCI(Payment Card Industry:クレジットカード情報)、PII(Personally Identifiable Information:個人を特定できる情報)などの機密データは、Amplitudeに送信しないことが強く推奨されています。Amplitudeの強力な機能は、これらのデータがなくとも、すべてお使いいただけます。詳しく知りたい方は、上野、または米田様にお問い合わせください。

出典:Data Security & Privacy - Amplitude

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