デジタルコンテンツの運用・管理に難しさを感じる企業や担当者が増えています。 この背景のひとつには、Webだけではなくアプリ、スマートウォッチなどマルチチャネルの運用や、顧客ごとに最適な情報を提供する洗練されたパーソナライズの実現など、顧客体験(CX)マネジメントがより高度化していることが挙げられるでしょう。 また、近年の海外市場への積極参入に伴い、海外のステークホルダーへの情報開示を国内と同じレベルで行う必要があるという状況もあります。 こうした変化に伴い、自社ブランドを保つためにコンテンツの権利管理を厳格に行なう“ブランドガバナンス”の強化により力を入れる必要も出てきました。 企業が統一されたブランド体験を提供し、管理し続けるためには、ブランドマーケティングとデジタルマーケティングとを融合し、市場における自社ブランドの持続的な維持・成長・計測と広告戦略におけるリード獲得、ナーチャリングまでを横断的に可能にするプラットフォームを戦略的に選ぶことが成功への条件だと言えます。
電通アイソバー(現 電通デジタル)は、企業が抱えるこのような課題に対し、マルチソリューションの提案や海外との連携、イージスグループのベストプラクティスの共有などにも取り組んでいます。
ここでは、日々の取り組みのなかで得た知見から、EコマースにおけるCX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性とそれをどう設計すればいいのか?というテーマで、電通アイソバー(現 電通デジタル)の足立比呂が、アクイア日本法人との共催セミナーで語った内容をご紹介します。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
そもそもCX(カスタマーエクスペリエンス)とは何か?
顧客体験(価値)とも言われる「CX」は、この数年で特に耳にするようになった言葉ですが、実際は2017年ごろからすでに使われ始めていました。「考え方自体は新しいものではないが、ここ数年のデジタルマーケティングには欠かせない言葉になってきた」と、足立は振り返ります。
では、顧客体験とは具体的にどういったことを指すのでしょうか?
足立は、「商品やサービスを購入する過程、利用する過程、その後のサポートの過程における経験的な価値、つまり、商品やサービスそのものではなく、経験から得られる感動や満足度などの感覚的な価値が顧客体験として定義されている」とし、象徴的な5つの言葉を挙げました。
では、前述のような顧客体験(価値)やCXの議論が盛り上がりを見せている理由はどこにあるのでしょうか。
足立は、「マスでのコミュニケーションが主とされていた2000年代前半までは、『いいものをつくって、かっこいいコピーを打てば売れる』というように、商品が圧倒的な価値を持っていた。当時は、全員が同じ方向に向かって、同じ生活を目指していたからだ」と総括したのち、次のように現状を整理しました。
「いまは、デジタルメディアやデバイスの発展によって状況が変化している。テレビCMなどからの受動的な情報との接点だけでなく、スマートフォンやSNS等の普及により、ユーザーによる情報の取捨選択や、 情報の発信が可能になり、ユーザー同士のコミュニケーションが活発化したことによって、能動的な情報の収集と発信ができるようになってきた。
つまり、同じ方向を向いて同じ価値を求めていたマスの時代から、ユーザーを一人ひとり把握してコミュニケーションしていくことが求められる時代になり、ものの価値だけではなく、そこにいかに付加価値としての体験を提供できるかが重要になった」。
この時代において顧客が最終的に受け取るのは、商品やサービスのような物理的な価値だけではなく、「期待を超える経験」といった感情的な価値も含む、と考えられます。そのため、提供する製品やサービスにより良い体験を付加すれば、顧客の体験価値は上がる、と言えます。逆に、そうでなければ物理的な価値すらも毀損するおそれがあると想像できるでしょう。
では、企業は一人ひとりのユーザーをきちんと把握できているのでしょうか? アクイア社がグローバルで行なった調査によると、「ブランドが顧客を“個客”として捉えていると感じるか?」との質問に対し、79%のマーケターが、そして消費者の68% が「そうは思わない(No)」と回答したとあります。
マーケターですら「顧客を個客として把握できていない」と感じている点は、示唆に富むものだと言えます。
●参考【日本語資料】顧客体験のギャップを埋める顧客体験トレンド報告書2019
CXへの期待値とのギャップ
先出の調査について、さらに詳しく見てみましょう。ブランドに対する消費者の声は今後の施策検討に役立つはずです。
これらのことから、「企業やブランドにとって、CXの戦略や顧客体験の設計は最重要課題と言える」と、足立は提言します。
中国KFCの事例から見るCX戦略とその実現
では、CXの実践について、どのような取り組みが挙げられるのでしょうか? 足立は、電通アイソバー(現 電通デジタル)も所属するイージスグループの事例を紹介しました。
ケンタッキーフライドチキン(KFC)@中国の事例
中国において、KFCは最も支持されているファーストフード店です。国内には5,000店以上が展開されており、昨今では、同じく支持されているSNS「ウィチャット」を活用した実験的な取り組みが話題となっています。
ちなみに、KFCでは、過去にも様々なテクノロジーを活用した顧客体験の提供に取り組んでおり、そのひとつが、ユーザーが用いる方言でのコミュニケーションです。
中国では、同じ中国語と言ってもまるで別の言語かと思うほど多様な方言が用いられています。その方言で店員とコミュニケーションできるよう、中国検索エンジンの最大手「バイドゥ」と共同でソリューションを開発・展開しています。この取り組みにより、来店客は店員やひいてはブランドに親近感を抱きながら商品購入や食事を楽しむことができるようになると想像できます。
では、日本ではどのような取り組みが考えられるのでしょうか?
企業やブランドがCX戦略を実行するにはどうすればいいか、足立はまず日々マーケティングの現場で感じる問題点を洗い出しました。
こうした課題を乗り越え、CX戦略を策定して顧客体験を描くなら、デジタルトランスフォーメーションだけでなく、いまある組織構造を一旦壊して再定義する必要があるかもしれません。
経営層によるリーダーシップ、適正な人材の確保、そして、組織・プロセスの整備、戦略の構築など、デジタルトランスフォーメーションを実現・推進するための横断的な組織の構築が必要になるということです。
これらを最適な状況にした上で、CXにドライブをかけるなら、重要なのは「パーソナライゼーション」だと考えられます。顧客を個客と捉えるために検討が必要な点は「4つのR」で示すことができます。
これらを達成するためには、データの収集と分析、スマートコンテンツ、カスタマージャーニーや一貫性のあるコミュニケーション 、顧客ロイヤルティの管理といったことに取り組み、顧客体験を向上させていく必要があります。
アクイアのCTOであるDries Buytaert 氏も、同社が行なったカンファレンスのなかで、「私たちのゴールはデジタル体験の提供をより容易にすること。より良いデジタル体験を提供していくには3つのチャレンジがある」として、以下の3点を挙げ、「複雑化するチャネルを横断的に自動化することを目指し、コンテンツ制作や管理を一元化したり、 データを統合して“個”を特定し、安全かつ確実でスケールを持った配信を行なう必要がある」と述べていました。
また、今回の共催セミナーを企画したアクイアジャパン合同会社 リージョナルパートナーマネージャーの小坂慎吾氏も、実店舗やwebサイトなど360度のタッチポイントでの顧客行動が全て把握できれば、「不要な広告予算を投下することもないし、たとえば『webでの購入傾向が強い人が来店したことがわかれば、それに合った接客を店舗で行ない、良いCXをもたらすこともできるかもしれない。また、クロスセルができるように施策を展開することもできるだろう」とし、「顧客情報を統合することはユーザーのCX向上だけでなく、企業にとってもチャンスが増える」としました。
だからこそ、縦割りの部門ごとにサイロ化されたデータなどを共有してパーソナライゼーションを洗練させることで、会社として一貫性のあるメッセージを伝えていく努力が必要なのです。
CXデザインファームとして
最後に足立は、電通アイソバー(現 電通デジタル)は企業のこれからのCX戦略をどうサポートしていくのかについて、「顧客一人ひとりとブランドが繋がり続けるためのCXを今後も目指す」とし、ひとりの顧客に従来のマーケティングモデルに加え「デジタルでしかできないこと」を組み合わせることで、 包括的な個客マーケティングを実現していく、と強調しました。その上で、「以下の3つの要素を統合することでCXは実現できる」としました。
電通アイソバー(現 電通デジタル)では、データ分析、ビジネス戦略、CX/UXデザイン、プラットフォーム構築、購買後のエンゲージメント強化まで、各分野のスペシャリストを束ねたチームが、ブランド認知から購買にいたる消費体験を統合的にサポートしてきました。
たとえばプラットフォームの選定については、アクイアをはじめさまざまな企業とパートナーシップを組むことで、データの持ち方、コンテンツ、細分化されたコミュニケーションなどを、単独のプラットフォームだけでなく、組み合わせで連携させて活用するといった提案を行なうことで、企業ごとの個別課題に対応できるように体制を整えています。
アクイア日本法人について
最先端のオープンソースWebコンテンツ管理システム(CMS)「Drupal」を基盤に、Acquia CloudやAcquia Cloud Site Factoryなどのソリューションを束ねる「Acquia Digital Experience Platform」を提供。企業のITやマーケティング、コマースチームが顧客の需要を満たすコンテンツとアプリケーションを継続的に提供する機会を支えている。電通アイソバー(現 電通デジタル)とは、2018年11月にパートナーシップを締結。2019年、日本法人設立を機に、さらにパートナーシップを強化している。
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