2019.06.04

更なるCX向上に向けて 〜マーケティング部門と製品部門の連携から考える次世代のコンテンツ管理〜

最良のCXを顧客にもたらすことは、営業活動や経営計画を考える上でも非常に重要であり、実際にどうやってそれを実現するのか。Frame MakerとAdobe Experience Managerを連携することにより、重要な情報ドキュメント等の管理・コンテンツ制作から、レイアウト調整など実際のユーザーのタッチポイントまで、テクニカルコンテンツとマーケティングコンテンツがカスタマーのニーズに合わせて一元的に統合管理が可能となる点についてわかりやすくご紹介。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

様々な情報がインターネット上で収集できるようになって以来、BtoBあるいはBtoC製品の購入にあたって、購入しようとする見込み顧客たちは事前に情報収集を行なうようになっています。このような変化を受け、企業側はこれまで以上に積極的に情報発信をする必要に迫られています。

情報発信の場も、紙媒体やWebサイトだけでなく、モバイルアプリやAR・VR、デジタルサイネージほか、様々な形態が活用されるようになり、Time To Marketとも言われるように、市場へ普及させるまでのスピードがますます企業に求められるようになってきました。そのため、「いかに自社の顧客の興味や関心度合いにフィットしたタッチポイント(顧客接点)を選択し、素早く効果的な情報発信を行なっていくか?」という、これまでマーケティング部門やPR部門が中心に向き合ってきた課題を、ものづくりやサービスに携わる製品企画や製造部門、コールセンターなどの協力を得ながら、より全社的なテーマとして位置づけ直す必要があります。

こうした環境の変化を踏まえて、マーケティングとセールスの垣根を超えたシームレスなコミュニケーション施策を考えるべきか?この問いに対し、アドビCEOのShantanu Narayen氏は、「人は製品ではなく体験を購入する」という考え方を核に据えることが大切だ、と指摘しています。 つまり、企業にとって「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験。以下、CX)をデザインすることの重要性が増している」ということです。

CXとは、非常に広く深い概念ですが、たとえば、見込み顧客が製品やサービスを認知し、比較検討した上で購買すること、さらには、一度購買した製品やサービスのリピーターとなって、あらためて購買することなど、ひとりひとりの顧客が生活のなかで接するあらゆるタッチポイントで体験する長期の事柄、と言い表せるでしょう。TVやWeb上の広告などによって製品やサービスを認知すること、それを深掘りして情報収集を行なうこと、カスタマーサービスへの問い合わせも含めて得られた体験や印象等もCXとなります。

そのような過程で、顧客と企業がより良い関係性を構築していくよう考えることが、今日のマーケティングからセールスに渡る施策検討には不可欠です。

6月4日に東京で、同7日に京都で開催された「Adobe テクニカルコミュニケーション ユーザーミーティング」に登壇したAdobeのPrincipal Product Marketing ManagerであるSaibal Bhattacharjee氏は、「今日、見込み顧客は、Web上のコンテンツや広告ほか、すべてを通じて素晴らしいCXを求めている。最良のCXを顧客にもたらすことは、営業活動や経営計画を考える上でも非常に重要である」と指摘しました。

では、実際にどうやってそれを実現するのか? 同イベントに登壇した電通アイソバー(現 電通デジタル)ソリューション アーキテクトの平博介の発表内容を交えて、お伝えします。


最良のCXをデザインするために 〜あるウェアラブルカメラ・カムコーダーメーカーの事例〜

前出のSaibal Bhattacharjee氏によると、現在成功を収めている企業は、ほぼ例外なくCXの重要性を認識し、複数のチャネルとプラットフォームにわたるカスタマージャーニーを設計し、ブランドインタラクションを刷新していると発表しました。その一例として挙げられたのは、あるウェアラブルカメラ・カムコーダメーカーの事例です。

「製品がもたらす価値は大変素晴らしいものであるにも関わらず、Web上で公開されていた取り扱い方などを解説するテクニカルドキュメントは通り一遍で読みづらいものだった」と、Webサイトに以前公開されていたコンテンツを評するSaibal氏。
しかし、同社ではこれを一新。製品ユーザーやWebサイトの来訪者がどのような情報を求めているのかを行動分析し、精緻なカスタマージャーニーを設計したそうです。これを活用しながら、テクニカルコンテンツと製品の世界観などを伝えるマーケティングコンテンツのトーン&マナーを統一化。視覚的要素やアクセシビリティなどに一貫性を持たせた最良のコンテンツをダイナミックに表現するようになりました。

このように、見込み顧客が購入前に体験するエクスペリエンスと、購入後に顧客となって体験するエクスペリエンスをインタラクティブにすることで、同社は、自然な流れでマーケティングオートメーションから、ロイヤルティプログラムを構築し、クロスセルやアップセルの獲得に繋がっていったそうです。

Saibal Bhattacharjee氏は、「顧客の反応と行動を分析した情報に基づき、Adobeのソリューションを用いたドキュメント管理のもと、彼らはこれを実現している」とし、次のように述べました。

「マーケティングコンテンツとテクニカルコンテンツはこれまで別々に管理されることがほとんどだった。これは、同じ企業であっても担当している部署が異なるためだ。だが、そこには、情報を受取る側の人々にとってそれが最良のやり方か? という視点が欠けていたと言える。 確かに、これまではそれでも良かったかもしれない。だが、これからは部署を超え、あらゆるコンテンツが融合した形で発信できるようにしておかなければ顧客が離れてしまうだろう」

タッチポイントが増え、情報量も増加する今日。いかにコンテンツを管理するか?

一般的に、デジタル領域において企業からの主な情報発信の場とされているのは、コーポレートサイトあるいは製品・サービスサイトでしょう。 しかし、先述の通り、モバイルサイトや音声のデバイス、ARやVRといったチャネルが普及し、デジタルサイネージのような大規模な仕掛けが出てきたことで、自然と顧客とのタッチポイントが増えてきています。加えて、Webコンテンツの特性上、それらは長く蓄積されるため、企業が管理すべき情報が右肩上がりに増えているものです。

こうしたことから、新たに「コンテンツをどのように適切に管理するか?」という課題が浮上してきています。企業のなかで管理されているデータの多くは、ワードやパワーポイント、PDF、エクセル、画像、動画など、「非構造化データ」と呼ばれる不定形なデータ形式で管理されているのが現状です。製品部門が担う、新製品の構想から正式なリリース、アップグレードの生産サイクル、また、マーケティング部門が担う、キャンペーンやプロモーションの開始から終了までに頻繁に起こるバージョン管理対応や修正漏れ等の防止策などは、正しく行なわれなければ思わぬインシデントやガバナンス不足による信頼の低下になる恐れも想定されることでしょう。最近では、検索での優位性や、AIやビックデータ活用を考慮すると、管理に限界がある「非構造化データ」ではなく、データベース上で「行」と「列」で管理することができる、「構造化データ」の重要性が見直されています。

国内外のクライアントのデジタルマーケティングをサポートする電通アイソバー(現 電通デジタル)の平は、「Adobe Experience Manager(AEM)を、従来のWebサイトのコンテンツ管理だけでなく、モバイルアプリなどさまざまなタッチポイントのコンテンツ管理にどのように役立てていくか?が、目下の課題となっています」と、現状の問題意識を明らかにしました。


Adobe Experience Manager(AEM)とは? 〜コンテンツ管理の課題と、その解決〜

Adobe Experience Manager(AEM)は、コンテンツ管理の課題に対応できるように、特にデジタルアセット管理の面で優れており、バージョン管理やメタデータという情報を付与することで、コンテンツやデータを構造的に保管できるようになります。また、HTMLやCSSなどのコーディングの知識をもたないスタッフでも、コンポーネントと呼ばれるパーツを利用することで、比較的簡単にページの作成から公開までを行うことができ、ブランドの一貫性を保つことができます。 2019年にリリースされた最新バージョンでは、人工知能(AI)とクラウドの拡張性、デバイスの種類を問わずパーソナライズ化されたコンテンツの出し分けを行うことが可能となっていました。コスト面においても、Webサイトの制作部分にかかる外注費用を抑えることができ、内製化に切り替えることで、企業のスタッフが、より鮮度の高いコンテンツを配信することができるといった、相乗的な効果も多く報告されています。

これまでAEMの導入を採用した企業は、こうしたキャンペーンプロモーションや商品情報、プレスリリースやCSR、IR情報といった、企業のありとあらゆるWebコンテンツをAEMで一元管理することで、まず部門部署を超えた情報共有を行い、それぞれの作業効率を高め、生産性向上にも寄与してきました。

同じデザインテンプレートであらゆるコンテンツが管理できれば、Web上のあらゆるコンテンツについて、社内のデザインレギュレーションを逸脱したり、コンテンツ制作の外注先から情報漏えいが起こったり、といったさまざまなリスクを回避し、ガバナンス強化に繋げてきました。

そうした意味で、Adobe Experience Managerは、企業にとって理想的な環境を構築することが可能になるソリューションだと言えるでしょう。

しかし一方で、従来のコンテンツ管理システム(CMS)という考え方から、AEMにさまざまなマーケティング機能が増え、ひとつのシステム上で多くの部門部署が関わるようになり、Webサイトだけでないさまざまなタッチポイントのコンテンツを管理するようになってきたことで、どのような業務フローを組み立てるか、どのように業務分担していくか、という部分は整理をしていかなければなりません。

「実際に、弊社がサポートしているお客さまでも、AEM導入時はWeb運用のご担当者が少人数でアクセスをしていましたが、少しずつユーザーの数が増え100名以上のユーザーが利用するシステムに成長していくケースがありました。Webサイトの運用では、コンテンツの原稿をつくる部門と、レイアウトを調整する部門を分業する、コンテンツオーナー制度が採用されていることが多くあります。AEMの利点を享受できるレイアウトの調整を担う方々は、比較的企業に少ないため最初はスモールでスタートするケースが多いものの、その後、Webコンテンツの元になる情報をお持ちである、製造やサービス部門にいらっしゃる方々が、少しずつアクセスしはじめることで、システムが拡大していくケースが挙げられます。従来は、マーケティング部門向けに、公開用のWebコンテンツを管理するためのAEMという見方が一般的でしたが、製品の生産プロセスを含めて考慮する必要がでてきたように思います。」と、平は指摘します。

では、そうした現場の課題をどう整理し、組織体制を構築していくか?  1案を、社内の情報を配信可能なコンテンツにし、マーケティングに役立つコンテンツに調整していく、というプロセスをなぞって考えてみましょう。

大量のドキュメントを扱う企業の製品部門では、製品やサービスの取り扱い説明書の原稿を作成する段階で、アドビが提供するFrame Makerを利用している場合があります。日本では、ヤマハや全日本空輸などでも使用されています。マーケティング部門は、製品部門がFrame Makerで作成したコンテンツをPDFなどの形式にエクスポートして、Web用に利用しているケースがあることがわかりました。

「Frame MakerとAEMとをコネクトさせる(もしくは、XML Documentation for Adobe Experience Managerを活用する)ことで、マーケティング部門や広報・PR部門の担当者はAEMの方にアクセスして、レイアウトの調整などを行なってマーケティングに役立つコンテンツに仕立てていく、というやり方が考えられると感じています」とし、
「より簡単に表現するなら、FrameMakerで作成をした原稿をAEMで校正してレイアウト調整していく、というワークフローを、2つのシステムを使い分けて実現する、ということです。この体制であれば、製品のライフサイクルに合わせてバージョンアップされる新しいカタログや終売情報等もケアしながら、マーケティング部門はマーケティング戦略のライフサイクルを回すことができるはずです」と、平は提案します。

このように部署ごとにアクセスするシステムを分ければ、下の図のようにワークフローがシンプルかつきれいに整理されることでしょう。

FrameMakerからXMLファイルをエクスポートするところまでをFrameMakerを活用している製品・サービス部門の担当者が行ない、さまざまなチャネルに公開する業務に関してはマーケティングや広報・PR部門が担当する、というふうに作業を明確に分けることができれば、導入後に想定される業務上の混乱も最小限に留めることができると考えられます。

平は、「弊社では、Frame Makerで準備したコンテンツをAEMからWeb上に配信する機能に加え、どのように他のチャネルにも配信できるか、を考え、AEMからAmazon AlexaにJSON形式でコンテンツを書き出して、AR・VRに配信する、といった取り組みを進めているところです」と、複数の配信先に最適な形式でアウトプットする試みについてご紹介しました。

このように一連の業務を連携して行うことで、企業が配信するコンテンツを正しく素早くターゲットとしている顧客に届けることができるようになります。また、データを構造化して管理することで、ガバナンスが保てるだけでなく、データ解析が行いやすくなり、テクニカルドキュメントのコンテンツに対するアクセス数やインプレッションを製品・サービス部門にも還元することができ、マーケティングデータが、ものづくりの更なる改善にも繋がります。


電通アイソバー(現 電通デジタル)が考えるCXの重要性

電通アイソバー(現 電通デジタル)では、360度、オンラインとオフラインを横断し複雑化するタッチポイントで、それぞれの媒介を通じてどのようなことを伝え、どのように感じてもらうのか役割を明確にし、マーケティングゴールを達成するためのサービスを提供しています。

その中で重要視している点について、平は「見込み顧客と実際に触れ合うタッチポイント、そしてバックオフィスを担うプラットフォームをどのように連携させて施策を検討していくか?が成功の鍵になると考えています。特に、プラットフォームでは、マーケティング施策が見込み顧客にとって役立つよう機能しているかを確かめ、見込み顧客に合ったタッチポイントか、見せる形式は正しいか、について仮説に基づいて展開し、データを取得。さらに検証し、必要に応じて改善や修正を行なっていくよう全体観を見据えることが不可欠です」と解説しました。

こうした取り組みをスムーズに行なううえでも、Adobe FrameMakerとXML Documentation for Adobe Experience Managerの組み合わせは、より早く正確に、求められている情報の配信を可能にし、ビジネスに貢献することでしょう。

「会社の財産である製品・サービス担当者が作った取り扱い説明書などの本当に重要な情報が、最終的にWebサイト等のタッチポイントに公開されること、つまりコンテンツを一元管理できる環境を作ることができる、というところが、FrameMakerとAEMを利用するメリットなのだと考えています」と、平は締めくくりました。

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