2019.05.21

PDCAからの脱却、マーケターに今後求められる「BMLサイクル」とは

顧客体験(カスタマーエクスペリエンス:CX)の向上が企業の業績に深く関係することが実証され、顧客視点での改革に取り組む企業が増えています。企業にとって、テクノロジーやマーケティング基盤をどのように整備したら良いでしょうか。顧客体験の最新動向に触れた上で、通信販売大手のFELISSIMO(フェリシモ)の先進事例などを紹介いたします。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

CX向上の実現に必要なのは「PDCAサイクル」ではない

弊社CAO(Chief Analytics Officer)清水 誠は「カスタマーエクスペリエンスデー in 大阪」に登壇し、「事業の『効果』『効率』から『顧客の理解と体験』へのシフトがカギ」だと言及いたしました。

米国ではCX最適化の具体的な成果が出てきており、たとえば、家電量販店BEST BUYは、7年前に経営危機に陥り、そこから顧客志向でビジネス改革に着手。「価格見直しや、サービスの充実に取り組み、業績のV字回復に成功した」といいます。

CXは業績に直結する経営課題であり、単なる現場の効率改善ではありません。米国の事例から言えるのは、CXの改革に着手し成果を挙げた企業は「上場企業のトップが相応のコストを投下して進めても、約7年はかかっているというのです。

さらにそもそもCXとは、何事においても「顧客」を最優先させる、という経営理念や哲学のことであり、トップから現場まで全員に浸透している必要があるものです。また、ベンダーが提案するツールを導入するだけで実現できるものでもありません。これらが、「CXは経営課題」と言われるゆえんなのです。

データ活用のアプローチも従来のPDCAサイクルから転換させる必要があり、それが「BMLサイクル」です。

よくあるWebサイトのレポートは、PVや直帰率は、「過去の実績を表す指標は“企業視点”であり、事実ベースの行動データのみが可視化されたものだです。これに対し、これからの“顧客視点”のレポートはWebサイトの「入口」と「出口」だけでなく、「このページを閲覧した人はその後、どのように行動したかまで捉え、気持ちの変化を見る」必要があるのです。

顧客と自社の双方にとって理想的な体験を提供するために、顧客理解とCXの実現を目的としたプロセスを構築する必要があり、そのためにツールやデータを活用することが重要なのです。


回転ずし屋と高級すし屋、どちらが良い“顧客体験”を提供する?

続いて、フェリシモ Webプロモーション CRMグループリーダーの西本宗平氏が登壇し、事業会社の観点からデジタル時代の顧客体験と今後の成長戦略を語りました。

フェリシモは設立55期目、カタログ通販、ECを中心としたダイレクトマーケティングを手がける会社です。サブスクリプションモデルである、毎月1回の「定期お届け」が特徴で、ファッション、雑貨、インナー、食品などオリジナル商品が9割を占めています。

西本氏は「1皿100円の回転ずし屋と高級すし屋では、どちらが良い“顧客体験”を提供しているか」と、会場に問いかけました。

この答えは「人(顧客)と状況による」。たとえば、子ども連れであれば、リーズナブルな価格やエンターテイメント性を提供する回転ずし屋の方が喜ばれるでしょう。一方、企業接待などで利用する場合は、すしそのものの品質や、すし屋としての価値が高い高級すし屋が選ばれるはずだといいます。

西本氏は「利便性やお得さを追求することだけが“顧客体験”ではない」と指摘します。昨今の顧客体験ブームでは、即日配送や顧客対応、接客など「皆が同じサービスレベルを目指しているように見える」が、顧客が自社に対して何を求めているのか、「まずは自社に必要とされる顧客体験を定義すること」が必要です。

巨大プラットフォーマーが志向する顧客体験が、必ずしも自社にとっての“正解”ではありません。

フェリシモでは、「そもそもECで提供している顧客体験は、あまり良いものではないのではないか」という仮説から、デジタルチャネルで提供する顧客体験を根本から見直すことにしています。

「グローバルに比べ、日本のEC化率は低いのが現状です。その一因となっているのが、ECの煩わしいUIだと思います。そこで、私たちは、デジタルの『常識』を捨て、基本的な体験から設計しなおすという視点の切り替えが必要だと考えました」(西本氏)

たとえば、SNSのアカウントと連携したソーシャルログイン機能や、Web接客、チャットなどによる利用ガイドの案内、ワンクリックでの購入手続き完了や、非現金決済の選択肢など「まずは店頭でのお買い物と同じように、欲しいと手にとったときにストレスなく買えるEC」の実現を進めています。


フェリシモが紙の「カタログ」を重視する理由

フェリシモは今後の取り組みとして、自社のチャネルのどの部分が優れているか「チャネル特性の捉え直し」に取り組んでおり、そのために「フォッグ式消費者行動モデル」などのフレームワークを利用しているといいます。

これは、人の「行動(Behavior)」を、「十分なモチベーション(Motivation)」「行動するための能力(Ability)」「行動を起こすトリガー(Trigger)」の3つの要素に分解し、行動を起こすための公式を「B=MAT」で表すモデルです。

たとえば、フェリシモでは、チャネルとして「カタログ」も重視しています。これは同社の顧客アンケートでは「あなたの買い物気分が盛り上がる情報源を教えてください」との問いに対し「カタログと答えたお客さまは、Webの2倍ほど多かった」から、つまり動機を高めるチャネルとしては最適だからだそうです。

消費行動の観点から考えると、カタログなどの紙媒体は、購入という行為につなげる力(実行能力)はほかのチャネルに比べて低いといえます。しかしこれは「ほかのブランドにとっても同じことがいえるため、ほかのブランドに浮気しにくい」ということにもなります。また、紙媒体は手元に残り続けることから、購入のトリガーとなりやすいのです。

西本氏は「こうした特性を踏まえて、施策を考える必要があるが、施策を考える際にはモチベーションの部分を大切にしている」と説明し、「チャネル特性をフラットに評価し、施策(打ち手)のヒントを見つけることが成功のカギになる」と総括しました。


ECでのCX向上に欠かせない「次世代プラットフォーム」

最後に、プラットフォームソリューション部 テクニカルディレクターの鈴木大介が登壇し、ECプラットフォームに求められるポイントを解説しました。

今日、コマース分野におけるCXデザインはますます重要になっています。ある調査によれば、約89%の消費者が複数のデジタルチャネルを利用し、約59%が「自分の好きなチャネルから情報を得られないと不満を感じる」と回答しています。また、約52%の消費者が「一人ひとりに合わせたコミュニケーションが提供されないとブランドを変更する」と回答しています。

そこで重要になるポイントとして、鈴木は「CXデザイン」「プラットフォーム」の2点を挙げ、特に、プラットフォームについて紹介するのが、昨年よりAdobe Experience Cloudに加わったECプラットフォーム「Magento Commerce(以下Magento)」です。

Magentoは、「Magento Commerce」「Magento Order Management」「ビジネスインテリジェンス」の3つのポートフォリオを擁し、機能面のカスタマイズをそれほど必要とせず、顧客に豊富なコマース体験をワンストップで提供する機能がそろっています。


特に、CX向上に役立つ機能として、鈴木氏は以下の4つを紹介しました。

1つ目はコンテンツ管理機能の「ページビルダー」です。これは、開発者や外部の制作会社などのサポートなしに、簡単に思い通りのコンテンツ作成を可能にする機能で、制作会社に依頼するリードタイムが不要になり、すぐにアイデアを形にできるようになります。

2つ目は、ステージング&プレビュー機能の「ステージングダッシュボード」です。これは、Webサイトでコンテンツの横断的なプレビューを可能にするもので、キャンペーンなどの際に、セールのカテゴリー追加、LP制作、バナー制作、クーポン配信、セグメント設定などさまざまな作業が発生するが、それらを一連の顧客体験としてチェック、プレビューすることが可能になります。

3つ目は、パーソナライゼーション機能の「カスタマーセグメンツ」です。これは、ゲスト、会員に関わらない詳細なセグメンテーションにより、さまざまなパーソナライゼーションを可能にする機能です。

そして、4つ目が、商品展示管理機能の「ビジュアルマーチャンダイザー」です。カテゴリーへの商品の登録や並び替えも、Magentoなら容易に行うことができます。

将来的には、MagentoとAdobe Experience Cloudを組み合わせることで、よりハイレベルな顧客体験を提供できるようになります。たとえば、CMSであるAEM(Adobe Experience Manager)とのシームレスな連携により、AEMで管理しているコンテンツを、Webやモバイルアプリ、デジタルサイネージやチャットボットといったさまざまなチャネルで素早く展開可能になります。

また、AdobeのAIである「Adobe Sensei」を用いた機能もあります。「スマートレイアウト」という機能は、AIによるページレイアウトの自動生成機能で、特定のセグメントに対して、おすすめのレイアウトをAIが判断し、自動生成してくれるものです。

さらに、AIによる画像認識技術を用いて、検索キーワードがわからなくても写真から商品検索が可能になる機能などもあり、Adobe Senseiの技術とMagentoと連携させることで、より高度なパーソナライゼーションや、新しい購買プロセスの提供が可能になるのです。

アイソバー(現 電通デジタル)は、全世界に約1200名を超えるコマーススペシャリストを擁し、Magentoの認定資格保有者も150名以上と万全のサポート体制を敷いています。また、グローバルで50を超える導入実績を持っています。ECにおける顧客体験最適化を考える企業は、ぜひ、気軽に相談してください。

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