高校教師からAIの世界へ。異色のキャリアを強みに、ビジネスとエンジニアリングを越境する|滝創一朗
- AIエンジニア
インタビュー
※2026年10月時点の内容です
「歴史教師AIを作る」。教師時代から始まっていたAIへの挑戦
キャリアのスタートは、高校教師でした。世界史を中心に3年半ほど教えていました。
もともと歴史学を専攻していて、アカデミアの道に進むことも考えていました。一方で、コンピュータサイエンスにも強い興味があり、教師をしながら個人的に学んでいました。教師として最後に受け持った生徒たちには、「自分の代わりに授業をしてくれる歴史教師AIを作る!」と宣言したこともあります(笑)。結局、教師をしている間に完成させることはできませんでしたが、当時から今につながる関心を持っていたのだと思います。
転機になったのが2022年です。当時はまだ「生成AI」という言葉が今ほど一般的ではありませんでしたが、GPTや画像生成モデルなど新しい技術が次々と登場していました。それらを追いかける中で、「これは絶対に世の中を変える。AI業界に行くなら今しかない」と感じ、研究開発系のスタートアップへ転職しました。
スタートアップでは3年間、法人営業を起点にAI関連のプロジェクトに携わりました。自社の技術とクライアントの要件をどう結びつけるか。その経験を通じて、技術への理解と、それをビジネスにどう適用するかという二つの視点を身につけていきました。
AIをビジネスに実装できる環境を求めて、電通デジタルへ
電通デジタルへの入社を決めた大きな理由は、取り組んでいるプロジェクトそのものに興味を持ったからです。
特に惹かれたのが「People Model」※1でした。大規模な定量調査データをLLM(大規模言語モデル)に学習させ、仮想空間上に生活者を再現していく取り組みです。もともと私自身、デジタルツインのような考え方に強い関心がありました。自分の興味と、会社が目指す方向性が合致したことは大きな決め手です。
もう一つ可能性を感じたのが、「マーケティング×AI」という領域です。AI技術そのものが進化しても、実際のビジネスで価値を生むには「特定の領域へどう適用するか」が問われます。マーケティングはあらゆる企業活動の根幹に関わるからこそ、AIとの掛け合わせには大きな可能性を感じました。
広告の“効き方”を、AIで予測する
現在は、AIを活用したシミュレーションのプロジェクトを主に担当しています。その一つが、広告を出稿する前に効果を予測するモデルの開発です。
広告には、企画のストーリーや背景、出演するタレントの影響力など、単純な数値だけでは捉えにくい要素があります。そうした定性的な情報も含め、「この企画ならどのくらい認知されそうか」「購入意向がどの程度変化しそうか」をAIで予測しようとしています。
具体的には、過去の調査データと広告クリエイティブの情報を学習データとして加工し、LLMを追加学習させます。企画を入力すると予測値が出て、その結果を基に制作チームが企画を修正。再びモデルに入力し、より効果が期待できる案を探ります。最終的には人が企画を選び、実際に広告として世の中に出す。その後の実測値と予測値を照らし合わせ、さらにモデルを改善していきます。研究開発と実際の広告制作を行き来しながら精度を高められることに、面白さを感じています。
エンジニアリングのど真ん中にまで挑める面白さ
入社して一番大きかったのは、「想像以上にエンジニアリングまでできる」という嬉しいギャップです。
もともとは、クライアントの要望や仕様を整理し、実装チームにつなぐプロジェクトマネジメント寄りの役割を想定していました。ところが、入社してからはエンジニアと一緒に開発を進め、自分自身でLLMの学習実験を回すなどエンジニアリングまで携わることができ、良い意味で期待を裏切られました。ビジネス側としてプロジェクトに参加するだけではなく、自分自身もエンジニアリングに手を伸ばせる。これは大きな経験になっています。
入社から1年を振り返ると、広がりの大きかった1年でした。マーケティングのプロフェッショナルと働き、それまで触れたことのなかった手法や考え方を学ぶ一方、前職では担っていなかった研究開発レイヤーの実験や検証まで自ら行うようになりました。マーケティングとAI、ビジネスとエンジニアリング。その両方に仕事の幅を広げられたことが、この1年間での一番大きな変化だと思います。今では、クライアントの課題を捉えながらAIモデルの実験や開発にも手を動かす。そんな両方の役割を担えることが、自分の強みになっています。
難解な技術をわかりやすく翻訳し、課題解決へ引き寄せる
AI技術は複雑です。モデルの内部構造の話になれば、専門的な知識や数式も必要になります。私が得意なのは、それを構造化して、かみ砕いて説明することです。「内部ではこういうことが起きている。だから、この現象が起きる」と整理して伝えることで、チームの意思決定やクライアントの理解を支援する。そこには教師時代の経験が生きています。
このアプローチの根底にあるのが、教師時代に培った3つの力です。一つ目は、対話を通じて本質的な課題を捉え、打ち手を考える力。二つ目は、膨大な情報を短時間でインプットし、授業としてアウトプットする力。三つ目は、複雑な情報を構造的に整理して、人に伝える力です。
「この技術を使いたい」という技術起点の提案ではなく、「それが本当にクライアントの課題解決につながるのか」という視点を持った提案ができることが、自分の強みだと思っています。
環境を待つのではなく、まず自分で「1」を作る
今後は、研究開発のレイヤーでさらに力を磨いていきたいと思っています。高度なAI技術の開発には、電通デジタルとしてもまだ伸びしろがあります。そこを伸ばしていくことが会社の競争力にもつながるはずです。
これからAIやデジタル領域に挑戦したい人には、過去のキャリアにとらわれず可能性を広げてほしいと思います。ただ同時に、本当にやりたいことがあるなら「手取り足取り教えてもらう」のを待つのではなく、まず自分で小さくでも「1」を作ってほしい。私自身も、教師をしながら手探りでAIを学ぶところから始まりました。興味のあることを調べ、学び、試してみる。自分で最初の一歩を踏み出せる人ほど、電通デジタルでは活躍できると思います。
※1: 大規模調査データや専門人財の知見をもとに、人の行動や価値観、意識を構造的に捉える電通グループ独自のAIモデル
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