パラアスリート・川嶋悠太選手がアクセシビリティテスターに。UXを変える協創モデルの始動
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電通デジタルの【チーム】
ウェブアクセシビリティは「配慮」や「対応項目」として語られがちですが、本来はユーザー体験そのものを見直す取り組みです。この取り組みに、視覚障害のある当社所属のゴールボール選手・川嶋悠太がアクセシビリティテスターとしてウェブサイト検証に参加。ウェブアクセシビリティチームと共生社会推進グループが連携し、当事者の視点を事業の中に取り込む新たな「協創モデル」が動き始めました。本記事では、その背景と取り組みの狙い、そして企業活動に生まれつつある変化について聞きました。
※ 2026年3月時点での所属・役職です
目次
ウェブアクセシビリティ推進 × 共生社会づくりの取り組みが出会った背景
――はじめに、山﨑さんが所属する共生社会推進グループについて、主な業務を教えてください。
山﨑:障害者採用に関する活動や運用、入社後の相談対応が主な業務となります。また、当社の障害者採用には3つのコースがあり、そのうち「チャレンジコース」で採用された社員は「わくサポ」というチームに所属して就労しており、このチームの運営・支援も、共生社会推進グループが担っています。
加えて、パラアスリートは当社のパーパスを体現する存在と位置づけ、2018年から採用を開始。現在は17人が所属しており、アスリートとしての活動をサポートしています。
――今回実施した、ウェブアクセシビリティチームとの共創プロジェクトとは、どういうものですか?
千葉:ウェブアクセシビリティチームが作成しているマニュアルに対して、障害当事者の視点からレビューを行う取り組みです。電通デジタルに所属するパラアスリートにも参加してもらい、今回は視覚障害のある川嶋悠太さんにアクセシビリティテスターとして、レビューをお願いしました。
山﨑:川嶋さんは、パラリンピック正式種目である「ゴールボール」の選手で、現在は日本ゴールボール協会(JGBA)の強化指定選手として、国内・海外での合宿や練習に精力的に取り組んでいます。
このプロジェクトの背景には、所属するパラアスリートのことを、できるだけ多くの社員に知ってもらいたいという思いがあります。電通デジタルのパラアスリートは競技に専念しているため、社員と接点を持つ機会がほとんどありません。そこで、事業に関わる形で交流の場をつくりたいと以前から考えていました。
――ウェブアクセシビリティチームは、普段はどのような活動をしているのでしょうか?
千葉:デジタル領域におけるダイバーシティの実現を目指し、2023年に立ち上がりました。現在は「企業サイトのウェブアクセシビリティ向上のための改善」として、企業に対しさまざまな支援を行っています。
具体的には、ウェブサイトのアクセシビリティ診断、ユーザビリティテスト、改善のためのコンサルティング、大規模リニューアルの支援に加え、社内向けワークショップの企画・運営などです。
また社内やグループ会社に向けては、ウェブアクセシビリティに関する理解を促進するために、障害の当事者をお招きして困りごとや利用体験を直接伺う勉強会を定期的に開催しており、その企画・運営も我々が行っています。
山﨑:千葉さんのチームに声を掛けたのは、実は千葉さんが出演している記事を読んだのがきっかけです。私は2025年6月に電通デジタルへ入社しましたが、入社前に企業研究として情報収集をしていた際、ウェブアクセシビリティ勉強会の記事を見つけ、チームの存在を知りました。そこで入社後すぐに千葉さんへ連絡し、いろいろと相談させていただいた、という経緯があります。
千葉:電通デジタルにパラアスリートが所属していること自体は知っていましたが、競技活動が中心で、事業に関わる機会は少ないと思っていました。山﨑さんからお話を伺い、「それならぜひ一緒にやりましょう」となりました。これまでも外部の当事者の方と取り組みを行ってきましたが、社内のメンバーと一緒に進められるのはとても意義があります。そこで、まずは私たちのウェブアクセシビリティ業務と親和性の高い川嶋さんをアサインいただき、現在開発中のアクセシビリティ実装支援キット(仮称)を実際にレビューしてもらいました。
リアルな体験から生まれた新しい視点
――共創プロジェクトのオファーを受けて、どう感じましたか?
川嶋:電通デジタルのパラアスリートのうち、視覚障害があるのは私だけです。そのため、視覚障害ユーザーの代表のような立場になるという意識は少なからずありました。
今回は、千葉さんのチームが作成したアクセシビリティ実装支援キット(仮称)を、音声読み上げを使いながら操作できるかどうかをレビューしました。普段はユーザーとしてウェブサイトを利用する側なので、制作の裏側を知ることができ、とても興味深い経験でした。
また、視覚障害といっても、先天性か後天性か、見え方の程度などによって状況は大きく異なります。私は後天性の視覚障害なので、先天盲の方の話を聞くなど、これまでとは違う視点を持てたことも大きな学びでした。こうした経験は今後の活動にも必ず生きてくると思うので、機会があれば積極的に協力したいと考えています。
千葉:私たちも制作の過程で同じ読み上げツールを使ってテストしていますが、何か見落としがないかは常に気にしていますし、実際に当事者としてもっとこうしてほしい、この方がより理解しやすいなど要望を知りたいと思っています。川嶋さんに実際に検証していただいたことで、私たちだけでは気づけなかった細かな課題を洗い出すことができ、率直な感想もいただけて非常に勉強になりました。
電通デジタル所属のパラアスリートだから生み出せる価値
――今回の共創プロジェクトの意義をどのように捉えていますか?
山﨑:パラアスリートにとって、オフィスに足を運び社員と関わることは、多くの刺激になると思いますし、引退後のキャリアを考えるきっかけにもなるのではないかと感じています。また社員にとっても、パラアスリートと直接関わることで障害への理解を深める機会になります。
電通デジタルには、パラアスリートだけでなく、オフィスワークに従事している障害のある社員も多数います。それぞれの特性を踏まえながら、多様な人が関わり合い、能力を発揮できる環境をつくることは、会社にとって大きな価値であり財産になっていくはずです。
――共創プロジェクトの今後について、どう考えていますか?
千葉:今後は、企業サイトのユーザビリティテストなど、様々な場面で川嶋さんに関わっていただけたらと思っています。アクセシビリティに関心のある企業でも、当事者が実際にウェブを操作する様子を見たことがある担当者は意外と多くありません。なぜアクセシビリティ確保が必要なのかを理解してもらうためにも、実際の利用体験を見ていただく場をつくりたいと考えています。
川嶋さんが加わることで、私たちの活動の可能性は大きく広がると感じています。チームとしても、すでにウェブアクセシビリティチームの一員のような存在で、「アクセシビリティテスター」という肩書きを用意しました。
山﨑:そう言っていただけてとても嬉しいです。川嶋さんがイベントなどで今回の取り組みを話したところ、ほかのパラアスリートからも関心の声が上がり、「参加してみたい」という人も出てきました。今後は、他のメンバーも関われる機会を模索していきたいと思います。
多くの障害のある方は、日常の困りごとを周囲に伝えることをためらいがちです。しかし、それを共有することで新しい可能性が生まれるかもしれません。私はそれこそが多様性の価値であり強さだと思っていますし、デジタルの領域には特にその可能性があると感じています。